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魔法少女★キャンディレッド  作者: ちりあくた
第2章 モモと破滅のシール・ライブ
13/17

第13話 運命のシール・ライブ! 震えだす心と絆

 シール・ライブ開始まで、残り二時間。

 管理局旧型訓練施設、地下広場のエレベーター前にて。


「事態はもう変わってる。アンタがすべきは、星襾の足を引っ張ることでも、茉昼の失敗を装うことでもない。モモに気を付けて。あと……一番大事なのは、アンタの命だから。それを忘れないで」


「アヤメさん、ありがと」


 その言葉と共に、管理局本部の超高速エレベーターが、地下深層から地上へと突き進む。重力に抗う加速の中、沈黙を破ったのは、レナの影から這い出した黒カラス、ノワだった。


 普段なら不遜な軽口を叩くはずの鳥は、今は厳かな神父のように、一本のステッキをレナへと差し出した。


「……持って行きな、お嬢ちゃん」


 レナは無言でそれを受け取る。

 手の中で震えていた指先が、冷たい杖の感触に触れた瞬間、ピタリと止まった。


「……よし」


 小さく、自分を呪うように、あるいは世界を突き放すように毒を吐き、レナはキラメキを解放する。


 それは「変身」という華やかな言葉からは程遠い、侵食のような現象だった。足元から這い上がってきた影の触手が、彼女の制服を、皮膚を、心を、光を吸い込むような「紺青」へと塗り替えていく。


 茉昼の変身が、血によく似た激情の赤なら。

 レナのそれは、全てを闇に沈めて封じ込める、静かな拒絶の紺だ。


 背中には、影を編み込んだような幾重ものリボンが、意思を持つ生き物のように蠢いている。


 そして最後。

 レナの顔を覆ったのは、アヤメを通じて管理局に要望した「紺青の仮面」だった。


(あの子に……茉昼に気負ってほしくないもん。私がレナだって、バレないように)


 エレベーターの鏡に映る自分を見る。そこに、かつての無邪気な白鳥レナの面影はない。仮面の奥で光る瞳は、親友を救うためなら、何だって厭わない色をしていた。


 地上階で、彼女は他の補助役と合流した。

 そこに茉昼の姿はない。

 モモと共に、すでに現場へ向かっているらしかった。


 やがてノワのカガヤキによって、彼女たちは戦場へと転送された。


 ――海沿いの廃スタジアム。

 海風が潮の香りと、これから始まる惨劇の予感を運んでくる。無数の「立ち入り禁止」テープと、重厚な鉄の扉を抜けた先。補助役の待機エリアで、レナはその背中を見つけた。


「……茉昼」


 仮面の下で、思わず名前を呼ぶ。

 だが、その少女は振り返らなかった。


 七日前、教室で隣り合っていた頃の「赤木茉昼」は、もうそこにはいなかった。深紅のドレスを纏った彼女は、ただ立っているだけで周囲の温度を奪うような、冷たい気配を放っている。背筋は不自然なほど直立し、指先一つ動かさない。


 その視線の先には、数人の管理局職員に囲まれ、談笑する星襾の姿があった。純白のドレス、一筋の乱れもない金髪。太陽の光を独占しているかのような笑顔。その「正義」を、茉昼は虚ろな瞳で見つめ続けている。


 レナが数メートルの距離まで近づいても、茉昼の瞳に親友の姿は映らない。かつてはちょっとした冗談で、花が綻ぶように笑っていたあの子。今、その瞳に映っているのは「濾過対象」だけ。


(……もう、星襾さましか見えてないんだ)


 心臓を冷たい手で握り潰されるような孤独。

 それでもレナは、紺青の杖を強く握り直す。


(いいよ。忘れられてても……。壊れる前に、私が止める)


 作戦開始まで、あと数分。


 不意に、茉昼が動いた。

 台本にも、指示にもない行動。操り人形のような歩調で、星襾の背後へ歩み寄る。


「……星襾さん」


 かすれた声だった。

 星襾は優雅に振り返り、周囲の制止を手で制した。完璧な慈愛の微笑みだ。


「どうしたの? 沈黙の聖女さん。緊張しているのかしら」


 茉昼の瞳が、仮面の隙間で小さく揺れた。

 心の底、誰にも見せないように沈めていた、あの日の、あの瓦礫の山での呪いが、泡となって溢れ出してくるようだった。


「……あの日。私の家が、家族が、壊れたあの日……。どうして貴方は、間に合わなかったのに……笑えたんですか?」


 周囲の空気が凍りついた。まだカメラや音声は回っていないことを、星襾は自然と確認していた。それでいて、頬には痙攣一つなかった。そうして、まるで練習したセリフをなぞるかのように、淀みない声で答えた。


「……あのときはごめんなさい。でもね、魔法少女は希望の光なの。どんなに悲しい現場でも、私たちが絶望した顔を見せれば、救えるはずの心も救えなくなってしまう。……それが魔法少女としての務め。私は、そのために戦っているの」


 あまりに正しすぎる言葉。教科書に載るような、完璧な「正解」。

 だがそこには、瓦礫の冷たさも、涙の重さもなかった。


 茉昼は、静かにうつむいた。


 ――埋まることのない溝がある。


 彼女たちが立っているのは、同じ地球の上ですらないのだと、その瞬間に突きつけられた。星襾にとって、茉昼の悲劇は「数ある任務の一つ」に過ぎない。茉昼の献身も「自分を輝かせるための演出」でしかない。


「……そうですか。……務め、ですね」


 茉昼の声から、最後の熱が消えた。

 そうして一歩下がり、深い礼をした。

 彼女はもう、ただの「盾」へと戻っていた。


 その瞬間。

 ――世界の調律が狂った。


 スタジアムの中央、空がガラスのように割れ、そこから「澱」の濁流が溢れ出した。 管理局が溜め込んだ、数年分の負のキラメキ。それを圧縮して作られた、地獄の焼却炉。


 Sランク怪人――通称「カタルシス」。


「――ォォォォォォォォォォォォッ!!」


 空間そのものを震わせる咆哮。その音圧だけで、スタジアムのコンクリートに亀裂が走り、待機していたAランク魔法少女たちが、膝をつき、あるいは嘔吐した。


 ランクD以下の魔法少女なら、存在を認識しただけで精神を病むと言われる、圧倒的な格の違い。レナもまた、胃の奥を掴まれるような感覚に襲われた。だが――アヤメに仕込まれた精神遮断処理が、かろうじて意識を繋ぎ止める。


 その絶望の中で、二人だけが笑っていた。


「ふふ……今年のは手強そうね」


 星襾は、ドレスの裾を摘み、まるで舞踏会に臨むようにステップを踏む。彼女の周囲だけは、清らかな風が吹いているようであった。


 その隣で、第4位のキューティキュア――モモが、ペロペロキャンディをボリリと噛み砕き、獣のように口角を吊り上げた。


「これだよ、これ。この最悪な空気……最高に『エモ』じゃん」


 キューティキュアの瞳には、凶暴な輝きが灯っていた。彼女の視線は、怪人よりもむしろ、背後で立ち尽くす茉昼へと向けられていた。


「ねえ、聖女ちゃん。……しっかり吸い取ってよね。君らが頑張れば頑張るほど、私の『カガヤキ』はもっと、ドロドロに強くなれるんだから」


 作戦開始の合図が鳴り響く。

 ライブ配信では、こんな文言が告げられていた。


『――さあ、勇気と笑顔をその胸に! 私たちの夢を守る、輝ける少女たちの物語が始まります! S.E.A.L. LIVE、スタートです!!!』

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