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魔法少女★キャンディレッド  作者: ちりあくた
第2章 モモと破滅のシール・ライブ
12/16

第12話 緊急事態? キューティキュアに気をつけろ!

 そうして時は過ぎ、シール・ライブ前夜。


 魔法少女管理局本部にて。

 本来なら、明日への最終調整と精神統一が行われるはずの場は、不吉な赤色灯と警告音に包まれていた。


「――第2位『セラフィナ』、第3位『不動院明美ふどういんあけみ』。両名、重度の精神汚染による戦闘不能状態につき、明日のシール・ライブの出撃リストから除外されました」


 無機質なスピーカーの声が、重く冷たい地下広場に響き渡った。


 三回の過酷な研修――文字通り、地獄の蓋を覗き込むような五日間――を終え、アヤメと共に帰還したばかりの白鳥レナは、その場で足を止めた。


「精神、汚染……? えっ、え、M4ですよ? 嘘っ……」


 レナの戸惑いはもっともだった。M4の第2位と3位といえば、国内トップの防御力と精神耐性を持つはずの存在だ。それが二人同時に「任務不能」など、天変地異に等しい。


(……ありえない)


 アヤメは焦燥に駆られながら、思考を高速で回転させる。


 まず、上層部――国やスポンサーの連中の仕業ではない。彼らにとってシール・ライブは最大の集金イベントであり、茉昼を「聖女」として売り出すための重要な舞台だ。中核となるM4を、二人も欠けさせるメリットがない。


(なら、シロフか?)


 いや、あの合理的で非情なマスコットも、茉昼を「最高効率の装置」へとランクアップさせたがっている。失敗のリスクを不必要に高めることは、奴の計算に反するはずだ。それに、あいつから約束を破るとは考えがたい。


 そのときアヤメの脳裏には、あの治療室で見た、ピンクのツインテール少女――モモの、底意地の悪い笑みが浮かび上がった。


(……あいつ、茉昼の心を読むような真似をしていた)


 単なる精神操作系のカガヤキだと思っていたが、もしそれだけなら、苛烈なM4の競争を勝ち残れるはずがない。後方支援系の能力なら、Sランクなど夢のまた夢だ。


 あのときは、そんな結論で推理を打ち切っていた。

 思い返せば……格好の反証が、隣で横たわっていたというのに。


 もし、茉昼のように。

 彼女の能力が「精神を操作する」だけでなく、「精神操作の過程で何かしらを得て、爆発的な力に変換する」性質のものだとしたら?


 ……なぜあのとき。

 いや、悔やんでも仕方ない、か。

 考えるべきは動機だ。


 昔、同じ順位に座っていたアヤメには、次々と言葉が浮かんできた。

 かつて、誰かが第4位を指して言ったセリフだ。


 使い捨ての駒。

 数年おきの新陳代謝。

 1位から3位までの「神々」に隠れた、日陰者。


(……「使い捨ての4位で終わってたまるか」ってわけか。あいつ、自分の順位を上げるために……? 何にせよ、2位と3位を喰えるだけの力があるのかも)


 戦慄が走る。

 それが事実なら、明日の戦場は「Sランク怪人」という脅威に加え、内側から食い破ろうとする「魔女」を抱えた地獄になる。星襾が狙われる。そして、その影で濾過装置を担う茉昼、レナは、モモの暴走に真っ先に飲み込まれるだろう。


(……あまりに情報が足りないな。ここじゃ推理ごっこしかできない)


「レナ、行くよ! 作戦室だ!」


「えっ、あ、はいっ!」


 アヤメは、もつれる脚を叱咤するレナを引き連れ、管理局の中枢である作戦室へと駆け込んだ。


 作戦室は、パニック寸前の喧騒に包まれていた。

 無数のホログラムパネルが明滅し、オペレーターたちが怒号に近い声を上げている。


「蜜柑! どうなってるの!」


 アヤメは、端末の前で今にも泣き出しそうな顔をしていた小柄な女性――かつての同僚であり、現在はオペレーション主任を務める、富士川蜜柑ふじかわみかんに詰め寄った。


「あ、アヤメちゃん!? ……ダメなの、急に任務先で二人が……。明日のことは今、必死に代案を……。Aランク魔法少女13人を、可能な限り動員して、外周の防衛を――」


「13人? 足りないでしょ! Sランク相手にAランクを何人並べたって……」


「――それには及ばない」


 氷のような静寂が、作戦室を支配した。

 奥の司令席からゆっくりと立ち上がったのは、管理局の現場総責任者、宗像冴むなかたさえだ。度の強い眼鏡の奥で、感情を削ぎ落とした瞳がアヤメを射抜いた。


「Aランクの彼女たちは、会場外で後方待機。予定通り、Sランク怪人と正面から戦うのは、第1位の星襾と、第4位のモモのみだ」


「……本気ですか!? M4が二人も欠けてるんですよ!」


「補助役としては予定通り、優秀な治癒班……蓮見咲、佐伯ユウリ、五十嵐ジュエルの三名を派遣する。そして……」


 宗像は、アヤメの隣で震えているレナへと視線を移した。


「同じく補助役として、赤木茉昼、および白鳥レナを投入する」


「なっ……」


「既存の計画に狂いはない。星襾一人でも、Sランク怪人を撃破する算段はついている。無論、彼女は『無傷』でなければならない。それに加えて念のため、興業的な見栄えを考慮して、モモたちも出すことにした。それだけだ」


 アヤメは、宗像の落ち着きに言葉を失った。まるで、M4が欠けることも、この布陣になることも、最初から全部知っていたかのような……。


「それにしても」


 宗像は表情を変えないまま、わずかに声のトーンを上げた。


「研修を終えたばかりで、デビュー戦も済ませていない新人――白鳥レナが、すでに補助役のリストに名を連ねているとは。九条の事務処理能力には驚嘆させられるな」


 心臓が跳ねた。

 ハッキングによる登録、シロフとの裏の取引。


 ――見透かされていたのか。


「……アンタ、何を企んでるの」


「企む? 心外だ。私はただ、最高の舞台を整えているだけだ。……『聖女』と『生贄』、『憐れな付き人』。これほど観客を熱狂させる配役はない」


 宗像はそれ以上、アヤメを相手にしなかった。

 作戦室の巨大なモニターには、明日の決戦場となる、海沿いの廃スタジアムの映像が映し出されていた。そこには、すでにあらゆる「澱」が固まり始め、黒い渦を巻いている。


 アヤメは、拳の震えを止めることができなかった。

 レナが隣で、不安げに自分の衣装の裾を握っている。


 助けようとして、裏口から無理やりねじ込んだレナ。

 自分を罰することでしか生きられない茉昼。

 そして、美しき空虚を纏う星襾と、底知れぬ狙いを秘めたモモ。


 管理された狂気が、一気に臨界点へと向かっていく。

 シール・ライブ開幕まで、あと12時間。


 ──もう、このまま行くしかない。

 モモの企みに乗ってやるしかないのか。


 アヤメは、エナジードリンクの空き缶を床に叩きつけた。その乾いた音が、絶望の序曲のように響いた。

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