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魔法少女★キャンディレッド  作者: ちりあくた
第2章 モモと破滅のシール・ライブ
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第11話 アブナイ交渉!? 訓練はつらいよ

 白鳥レナが魔法少女となった、その直後のことだった。


 シロフのカガヤキにより、彼女たちは本部へとワープし、契約手続きと最低限の事後処理を終えた。その後、本来ならば、新人であるレナも同席するはずの場面で、彼女の姿はなかった。


 ――「少し休ませてやって。あんな映像を見たショックもあるでしょ」。


 アヤメはそう言って、レナを半ば強引に別室待機へと回したのだ。


 結果として、その場に残ったのは二人だけだった。

 管理局所属・魔法少女統括補助マスコットであるシロフ。

 そして、Bランク魔法少女の九条アヤメ。


 管理局本部、第七モニタールームにて。

 薄暗い室内には、無数の監視画面が並び、その全てが「シール・ライブ」関連の解析データを映し出していた。


「……それで? わざわざレナを隔離して、感情論を聞かせたいわけじゃないだろう、アヤメ」


 中央の席で首をかしげながら、シロフが淡々と告げる。

 その視線の先に立つアヤメは、珍しくエナジードリンクを手にしていなかった。


「単刀直入に言うよ。レナは、私が預かる」


「ほう?」


「シール・ライブまでの残り時間。訓練、導線、接触相手――全部、私の管理下に置く」


 シロフは、ほんの一瞬だけ瞬きをした。


「……それは命令かい? 私に『近づくな』と?」


「提案だよ。あんたにとっても合理的な、ね」


 アヤメは一歩、前に出る。


「レナは、精神的に不安定な状態で契約した。親友が『生贄』になってる現場を見せられた直後だ。この状態で表に出せば、判断ミス、過剰行動、指示無視――どれかは必ず起きる」


 シロフは羽一つ動かさず、静かに聞いている。


「新人の暴走は、珍しい話じゃないだろう?」


「そう。でも今回は違う」


 アヤメは例の映像を指差した。

 そこには、血の海で微笑む赤い魔法少女の姿が映っている。


「茉昼は、すでに限界域に入ってる。そこに『不安定な補助役』を近づけて、しかもそれが親友だと知ったら? 現場の制御は一気に崩れるでしょうね」


「……つまり?」


「ライブ本番で事故が起きる。『美談』では誤魔化せない規模になるよ」


 ――沈黙。

 モニターの冷却ファンの音だけが、やけに大きく響いた。


 やがて、シロフは小さく笑う。


「なるほど。君は今、『商品管理』の話をしている」


「そういうこと」


「感情ではなく、損失回避……か」


「シール・ライブが失敗した場合の損失は、新人一人分じゃ済まない。あんたもそこは理解してるはずだ。当然、私もタダじゃ済まないし、ライブの成功は約束するよ」


 数秒の思考の後、シロフは肩をすくめた。


「……いいだろう」


 あっさりと、シロフは頷いた。


「五日間と少し。レナ君は君の管理下だ。ただし――」


 その瞳が、冷たく光る。


「失敗した場合、君の『予備枠』とバックドアは、完全に閉じる。二度と裏から触れないと思え」


「……上等」


「それと」


 シロフは付け加える。


「君がやろうとしているのは単なる『育成』じゃない。『反乱の準備』だ。自覚はあるかい?」


「もちろん」


 アヤメは速やかに背を向けた。


「だから、今だけは勝たせてもらう」


 勢いよく扉が閉まる。

 シロフは、その背中を楽しげに見送った。


「……面白い。だが一つ、忘れてないかな。君も駒だよ、アヤメ」


 彼は小さく翼を揺らした。


 そして、数時間後。


 管理局の旧型訓練施設にて。

 錆びた鉄の匂いが漂う地下広場で、レナは慣れない運動の余波に膝をついていた。アヤメの発する攻撃を、ひたすらに避けて、避けて、避けまくる。それだけだった。


「……はぁ、はぁ……アヤメさん、これ、意味ありますか? 私、早く茉昼のところに……!」


「黙って動きな」


 アヤメは冷たく言い放つ。


「魔法少女になっちゃった以上、今のアンタは茉昼にとって毒だ。突っ込んだところで、モモに小馬鹿にされて、茉昼をこき使うための『釣り餌』にされるのがオチだよ」


 床に、エナジードリンクの空き缶が転がる。

 傍らで、カラスのノワが羽を整えながら、くくっと喉を鳴らした。


「焦るなよお嬢ちゃん。アヤメの指導は、そこらの三流魔法少女が一生かかっても受けられねぇ特別製だぜ」


 レナは歯を食いしばり、カガヤキを解放する。

 足元に伸びた影が、訓練用アンドロイドの影と重なり、ピタリと縫い止めた。


 ――影縫い。

 ここ数時間の訓練で判明した、レナの能力だ。

 数秒間、対象の影をつかみ、動きを完全に封じるだけの力。


「……私の力じゃ、茉昼の傷、一つも代われない……」


 震える声。


「茉昼は、あんなにボロボロなのに……」


 アヤメは、一瞬だけ目を伏せた。


 ――気づけなかった。


 茉昼が、「自分を罰することでしか生きられない」ところまで追い込まれていたことを。……それを「優しさ」だと誤認していた、自分自身を。


「……というか、新人の魔法少女がシール・ライブに参加できるんですか。あの子の強さなら分かるけど、私なんてまだ……」


「私の権力でねじこむ」


「……えっ?」


「いい、レナ。魔法少女には『鮮度』があるの」


 唐突に、アヤメは語り始めた。


「キラメキの最大出力が一番強いのは、十四から十六歳。そこを過ぎれば、管理局は『在庫処分』を始める。私は十六で『ピークアウト』判定された」


「……え……」


「だから、スキャンダルを流されて、負け役を押し付けられた。それで役目終了」


 ノワが口を挟もうとする。


「おい、アヤメ、それ以上は――」


 アヤメはノワのくちばしを掴み、黙らせた。


「M4の一位から三位は固定席。ここ十年は変わってない。あいつらは『不老』か、もっとエグい処置を受けてる。第4位だけが、数年おきに入れ替えられる『生贄の席』なの」


 レナの顔色は徐々に、白く変わっていった。


「シール・ライブのSランク怪人も、自然発生じゃない。あれは、管理局が溜め込んだ『負のキラメキ』……怪人の素を、人工的に処理するイベントなの」


 淡い吐き気が込み上げる。


「ヒーローショーでゴミを燃やして、金を稼ぐ。それがこの業界の正体だよ」


 アヤメはフードを脱いだ。


「二年前、第4位から引きずり下ろされた『白黒仮面モノクローム』……それが私、九条アヤメだ。登録名も変わったし、上からはバラすなって言われてるけどね」


 辺りに静寂が広がる。それは、茉昼にさえ打ち明けていない過去だった。


 アヤメは大きく伸びをしてから、大きく息を吐いた。

 そうして、困惑するレナに向かってニカッと笑った。


「はー、すっきりした……そんで、ここからが計画の話。引退したと思われてる元M4なら、システムの裏口が使える。私の予備枠をハッキングして、アンタを補助役にねじ込むから」


 アヤメは、レナの肩を掴む。


「アンタの影縫いは、茉昼を直接救えない。でも――星襾の足を引っ張ることはできる」


「……足を?」


「……慣用句ね。今回の任務を、茉昼のせいで失敗しかけたように偽装するの。そうすれば、彼女はもうお払い箱よ。魔法少女になんて縛られずに済む」


 アヤメの瞳には、かつてのヒーローの光は宿らなかった。

 それはシステムそのものを呪う、復讐者の火であった。


 ――あくまでシロフとの約束は、シール・ライブの成功だ。

 ――「茉昼を邪魔しない」だなんて言ってない。


 地獄の舞台裏で、もう一つの歯車が、静かに噛み合い始めていた。

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