06.コニャックは愛弟子の危機に気が付く。
「いやあ、さすが俺。効果てきめんだ」
ひと段落というふうに背中を伸ばしたバルサンの足下には、昏倒したネズミたちが転がっている。カフェの床が埋まるほどに押し寄せた彼らに店の客は阿鼻叫喚としたが、人が逃げてネズミの眠った今、店内はすっかりと静かだ。今しがた、コニャックが魔法の空気でネズミたちを踏み付けて動きを止め、バルサンが魔法のガスで昏倒させたところだった。
ネズミをかわしつつ床を踏み、出口へと向かうバルサン。
「お腹を空かせてご来店……ってか?」
「なるほど。一理ありそうだ」
「あん?」
「奴らの食い物は、地下から一掃したんだろう? 他ならぬ君の魔法の力で」
おいおい、と声が上がる。
「それにしたってあんな大群で、異常だろ?」
「匂いに釣られたのさ」
「だとしても、だぜ――」
店を出る。外まで伝ったバルサンの魔法の余波で昏倒したネズミの生垣を越えて、また大群が迫って来ているのを見とめると、コニャックは即座に両手を構え息を吐いた。
「バルサン!」
「あいよ!」
同じ手順で再び蹴散らす。一帯のネズミを無力化したが、さらに通りの向こうから近付いてくるのが見えた。
「コイツは妙だぜ、コニャック」
「何がだ」
「奴らは、明らかに俺たちに向かって来ている。近くの飯屋も無視してだ」
「……! 魔法使いを狙っているのか?」
「たぶん。あるいは」
――魔法の力を放つものを。
「……、ジル!」
彼女が襲われている可能性に勘付いて、コニャックは思わず声を上げた。そして次の瞬間には、さっきの店から机を飛び寄せている。
「オイ! まさか俺一人に」
「すまない、ここは任せた!」
それだけ言って、机の上に乗る。魔法の空気を操ったコニャックは、抗議の声を上げるバルサンを置いてその場を飛び立った。
吐息を混ぜ込み自在に動かせるようにした空気に乗って、全速力で、愛弟子のもとへと向かう。




