第二話 苦行ゲームのような理不尽が俺を襲う
突然の出来事に情報を整理しきれない。そういえば張り付けられた画像に人を襲う魔物がいるって書かれていたな。もし本当にゲームの世界に飛ばされたのならここに突っ立っているのは危険だろう。周りを見渡すと、遠くに城壁に囲まれた街があることがわかる。ここは小高くなっていて街の全体像が見える。中には西洋風の建物が立ち並んでいる、現代日本では見ないな。
「おっと、考えるのは後だ。まずはあの街へ行こう、安全の確保から」
頭は混乱中だが街へと無理やり歩を進める。少し歩いたところで妙な違和感を感じる。最近は年齢や不摂生もあり、家から近くの駅に行くだけでもヒーヒーと呼吸を荒げていたのに全然疲れない。体を調べるとちょっと細身になっていてお肌もつやつやだ、もしかして。近くに小川があり安全を確認して近づき水面で自分の顔を映してみる。
「やはり若返っている」
そこには少年の姿が映し出されていた。年齢は十五歳くらい、少年に転生して異世界に飛ばされたってところか。意外と冷静に分析ができている、すでに衝撃的なことが起きて慣れてしまっているからか若返ったけれどそこまでの驚きはなかった。
「予定通り街へ向かおう」
周囲を警戒しながら街の入り口に到着。ふぅ、安全な場所に来ることができた。街に入ろうと城壁の門へ。門の前には二人の兵士がいてこちらを見ながら何やらひそひそと話をしている。怪しいと思われているのかな。もし話しかけられたら村から出稼ぎに来たという設定で行こうか。覚悟を決め門に入る。
「ご苦労様です」
お、行けたかなと思った瞬間。
「怪しい奴、牢屋にぶち込んでやる」
「え、ちょっ」
「だまらんか!」
槍を突きつけられたため抵抗することもなく早々に手を上げて降参する。縄で縛り上げられ捕獲された。
「来いっ」
強引に引っ張られて街の中へ。おいおい、弁明の余地も与えられずいきなり悪者扱いかよ。どうなってんだこの街は。兵の後についていき城に到着。内部に入って地下を進んでいく俺達一行、そして牢屋に到着。かなりの数の部屋数があり人も多数いる。明かりは蝋燭だけで非常に暗い。ちっ、どこも満員かと愚痴を言いながら一番奥の大部屋まで移動。
「まだ済んじゃいない、準備が出来次第呼ぶからそこで大人しくしておけ」
そう言うと牢の扉を開け、縄をほどいた瞬間俺を中に蹴り飛ばした。あいたた、乱暴な。異世界に飛ばされてからいきなり牢屋へ。トラブルに巻き込まれているのかなコレ。それにしても準備って一体。ここに来てからわからないことだらけだ。
「災難だったな少年」
牢屋の住人がこちらに声をかけてきた。牢屋って当然ながら犯罪者が入っているよな、うわー、関わりたくない。びくつきながら振り返るとそこには筋骨隆々で無精ひげを生やし優しそうな顔の人が座っていた。とても悪人には見えない、周りの人達も同じく。とりあえずまた兵が来るまでは大人しくしておくといいとアドバイスをくれた。こちらも小声でわかりましたと返事をして牢屋の空いている場所に座る。下は石で冷たく硬い、はぁ、泣きたくなるよと大きなため息をつく。しばらく時が経ち俺を呼びに兵が牢屋へ来る。
「ついてこい」
牢から出て城の一室に通される。部屋の中央部には石でできたベッドが置かれている。仰向けになって寝ろと指示があり言われた通りにする。上を見ると鍾乳洞にあるような石が垂れ下がっていた。兵士が装置で上下左右に石を動かしている。
「喜べ、これからお前を人類を超えた存在、超越戦士にする。説明を聞け」
超越戦士は試練を越えることで自分を強化できる特別な人間。試練は苦行ゲームのようなものでクリアすることでレベルが上がり強くなる。そんな怪しい人間になって大丈夫なのだろうか。しかし捕らえられていて身動きが取れない、選択の余地はなしか。
「詳しい話は牢屋の奴に聞け。では儀式を始める。そのまま動くなよ、失敗したらやり直しになるからな」
真上の石に水分が集まりだしている。ある程度集まったところで落下、俺の額のど真ん中に見事命中。瞬間、頭の中で走馬灯のようなものが駆け巡る。その後は特に体調が悪いといったこともない。成功ということで部屋を出てまた牢屋へ向かう。
「強くなった場合は我が国の兵に取り立ててやろう。百日以内に目標を達成できなかった場合は死刑だ。必死に自分を強化するんだな、わーっはっはっは!」
また牢屋に放り込まれる。死にたくはないなぁ、強くなるしかないのか。叫び声をあげて床を叩きたいけど人がいるしやめておこう。
「お疲れ様、超越戦士になったようだな」
「はい」
「その顔は全く状況を理解してないといった様子か。そうでもなければそもそもこの街に入ってこないしな。いいだろう、まずはこの国の現状を話そう」
今から五十日前、この国の王が死に第一王子が王位を引き継いで新しい王となった。これを面白く思わなかった第二王子とその取り巻き達は隙をついてクーデターを起こす。第一王子は捕らえられ塔に幽閉され、兵士達は王子を人質に取られ動けなくなり牢屋へ。国の兵士を私兵と入れ替えてしまう。なるほどこの国の兵士か、道理で悪人ぽくないなとは。さきほどの兵の方がどう見ても人相が悪いのはそういうことか、態度も悪いし。それから実権を握りやりたい放題、悪行の限りを尽くしている。税をつり上げたり、逆らう者は容赦せず仲間は悪さをしても無罪。極めつけはやってくる者達を無理やりさらって超越戦士に仕立て上げ自分のところの兵力に。俺はその網に引っ掛かって今に至るというわけだな。
「食事の時間だ、味わって食え」
食事が運ばれてくる。
「今日はここまでにしよう」
「はい」
「おっと自己紹介がまだだったな。俺はカレサ」
名前か、異世界ならそのまま使っても問題はなさそうか。
「ヒテンです」
「ゆっくり休んでまた明日からな」
パンにチーズに飲み物だけとかなり質素な食事。味も酷い、こいつは参ったな。足を伸ばせないほど狭くて硬く冷たい牢屋の床で就寝。全く疲れが取れなかった。もやもやと晴れない気分もあり体がけだるい。暗い牢屋の中なので昼夜を感じ取れない。食後はカレサさんと昨日の続きから。
「では始めるか。超越戦士の説明をする」
「よろしくお願いします」




