«第一章 炎(ほのお)と鉄(てつ)の誕生»
> 伝説は語る、鋼鉄の一族のことを。ケル・アナーリアン(鋼の眷属)のことを。その血は鋼の歌を謳い、影は谷全体を覆った者たちのことを。
> だが、全ての英雄は一つの火花から始まる。痛みから。迫り来る闇を前にした母の絶望から。
> これは彼が現れた物語。我が子の。希望、そして…おそらくは鋼鉄の一族の滅びの物語。我はイルダナ。火と恐怖で鍛えられた揺籠の前での、我が告白である。
氷のような風が『永劫の槌』の峰から吹き荒れ、鋼鉄の一族の砦の壁を舐めていた。我は『世界の胎内』の縁に立っていた。そこは、無謀な坑夫たちでさえ呪文を唱えながら降りる裂け目だ。我を駆り立てたのは危険ではなかった。虚無。腹の内で新たな生命の鼓動が打つべき場所に巣食う、重苦しい岩のような空虚感。
*《子無き者…》* その囁きは、ロリック・シャドウウィスパラー(影囁きのロリク)の毒翼の羽音のようで、夢の宮殿でさえ我を追った。夫タラン・サンダーブリンガー(雷鳴を齎す者タラン)――『鋼の評議会』の支柱は黙っていた。だが、嵐雲色の彼の瞳に影を見た。鋼鉄の一族の力は、春の陽の下の雪のように溶けていた。『腐敗低地』の化け物たちは図々しくなる。新たな英雄なくして…*我らは歴史の頁に残る錆に過ぎなくなる。*
古の『碑版の守護者』――その声は油を差されない歯車の軋みのようだった――が『星竜の心臓』のことを思い出させた。『創世時代』に『世界の胎内』に落ちた古代の遺物だ。「原初の火花だ」と、彼は囁いた。「結晶の檻に囚われた天の炎の力。だが荒々しい、イルダナ!手に負えない!」
希望か?狂気か?わからぬ。だが内なる空虚が如何なる理性よりも大声で叫んだ。我は*果たさねばならぬ*。
月――磨かれた銀の冷たい盾が、太古の木々の石化した根の間の道に光を注いだ。『世界の胎内』…ここでは空気が濃厚で、オゾンと大地の血、そして…何か永遠なるものの息吹の匂いがした。そして、それだ。『星竜の心臓』。単なる石ではない。結晶だ。宇宙の虚無のように暗いが、核は脈打つ――眩いばかりの白光の塊だ。それから発せられる熱波が顔を焼いた。
*《生命…》* 『鍛造の息吹』そのものが、ここに囚えられている。心臓が狂ったように鼓動した。近づき、掌を冷たいが振動する結晶の表面に置いた。骨に衝撃が走る。これは選択ではなかった。*《呼び声だ。》*
我は全身で結晶にすがりついた。氷の虚無における最後の熱源のように。遺物の灼熱の息が唇を焼いた。
「我に彼を授けたまえ」と、裂け目の沈黙に向けて囁いた。結晶に、星々に、鋼鉄の一族そのものの運命に。「息子を。守護者を。闇の災厄を。彼がアダマントよりも堅く、太陽よりも輝かんことを!代償は…*全てを*払おう。」
結晶が…*閃光を放った*。光ではない――純粋なエネルギーの噴出だ!白い稲妻が我を貫いた――口から、目から、細胞の一つ一つから!痛みではない。*《再生だ。》*世界は眩い白さに溶けた。『原初の火花』が荒々しく貪り尽くすその力を、我が虚無に突入し、非人間的な炎で満たすのを感じた。そして…虚無。
***
我が神聖なる鍛冶場の冷たい石の上で目を覚ました。*《感じた。》*内なる振動を。空虚ではない。生命だ。小さく、荒々しい*火花*が結晶の脈動に合わせて踊っている。剃刀のような鋭い歓喜が、凍りつく恐怖に取って代わった。*《我は何を世に解き放ったのだ?》*この力は…安息を知らなかった。*《猛り狂っていた。》*
月日は炎の悪夢の中で過ぎた。火花は増大し、怒りの炎へと変わった。我の妊娠は拷問だった。吐き気ではない――骨を焼く内なる炉だ。体は燃えた。一族の怯えた非難の眼差しを捉えた。囁き声:「怪物…神々の怒り…」。ただタランだけが、我の灼熱の手を握りしめ、言った。「彼は偉大となるだろう、イルダナ。我らの『支柱』だと。」
出産…それは生命の叫びではなく、崩れ落ちる山の咆哮だった。痛みが我を引き裂いた。まるで現実の布そのものが内側から引き裂かれるようだった。力が尽き、暗闇が迫りくる中で…
★**キーン!**
泣き声ではない。落ちる刀身の澄んだ高い音。
鍛冶場の石の床の上に横たわっていたのは…少年だった。だが肉ではない。*暗く、煙る隕鉄でできていた!*小さな拳は握られていた。目――細い二つの裂け目で、そこから深紅の光が流れ出ていた――は大きく見開かれ、煤けた天井をじっと見据えていた。音一つない。ただ熱した金属が空気で冷える威嚇的な*《ヒューッ》*という音だけ。
「ヴェイロン…」と、息を吐いた。その名は彼の小さな体から立ち上る蒸気の音から生まれた。*《炎の子?鉄の児?》*そうだ。彼は両方だった。だが鍛えられてはいなかった。その力において脆かった。
*《彼を封緘せねば。マルゴールだけが…『炎の烙印の儀式(ザ・リチュアル・オブ・ザ・ファイアーブランド)』だけが。》*刃のように鋭い母の意志が我を立ち上がらせた。唸る乳児を耐火蜘蛛糸の布で包んだ。『山の心臓』にあるマルゴールの炉への道程は地獄だった。一歩一歩が拷問だった。ヴェイロンは布越しでも焼け、彼の金属の小さな体は溶けたように真紅に染まったり、青い酸化皮膜に覆われたりした。泣かなかった。彼は…*鈴のような*細く鋭い音を立て、心臓を締め付けた。
マルゴールの鍛冶場は『永劫の槌』の深部で燃えていた。空気は熱で震え、火花は悪魔蛍の群れのようだった。鍛冶の神、マルゴール・ザ・フォージフェイス(焔顔のマルゴル)自身、溶岩が固まったような皮膚と、灼熱の炉の裂け穴のような目を持つ巨体で、巨大な炉の前に立っていた。彼の視線は――金床を打つ槌の一撃のように重く――我が震える手の中の包みに落ちた。
「持ってきたな、『碑版の娘』?」その声は地滑りの轟きのようだった。「代償は知っているか?」
うなずいた。舌が上顎に貼りついた。息子への恐怖が熱さよりも強く喉を締め付けた。*《代償?彼の理性?我と古の力との絆?》*
「『永遠の金床』へ。」マルゴールは木ほどの大きさの火箸で炉の中央にある石板を指した――最初の星々を鍛えたあの石板だ。
心臓が母の愛の槌と義務の金床の間で引き裂かれた。一歩踏み出した。劫火への一歩。唸る包みを真っ赤に熱せられた金床の上に置いた。布が閃光を放って灰となった。隕鉄の乳児の裸身が石板の上に横たわった。彼の小さな体は*溢れ出る*眩いばかりの白光に包まれた――『星竜の心臓』そのもののように。裂け目状の目が光った…*戸惑いながら?*
マルゴールは躊躇わなかった。その巨掌――炎への恐れを知らぬ――が『創造の槌』を掴んだ――現実そのものを鍛えることのできる道具だ。
**【イルダナの内なる独白】**
*《やめ!止まれ!彼はまだ子だ!我が火花!我が血肉…我が金属…許せ、ヴェイロン!これが唯一の道なのだ!不屈となれ!一族の盾となれ!生き延びよ!》*
槌が煤煙に満ちた鍛冶場の天高く舞い上がり、神々しい力を火花散らせた。全世界が一撃を予期して固まった。
**★打撃!**
★**グガガガガガガガーンッ!!**
音は山の根元を震わせ、石の精霊たちを泣かせた。白と金の火花の噴水が天井へと吹き上がり、『創造』の眩い閃光で洞窟を照らした。我は叫んだ。痛みと恐怖で目を固く閉じた。
目を開けた。オゾンと…*新生の鋼*の匂いがする煙。金床の上には…相変わらず少年が横たわっていた。だが彼の金属はもう煙らず、真紅でもなかった。輝いていた!深い、ビロードのような黒い光で、きらめく銀の脈が走っている――まるで星を散りばめた夜空のようだった。無事だった!折れておらず!ただ…*刻印されていた*。マルゴールの烙印の模様が彼の胸に浮かび上がった――様式化された炉と槌だ。
マルゴールは槌を下ろした。灼熱の眼窩にかすかな…*称賛?*が走った。「堅い」と、熔けた金属を流すような音で唸った。「山稜より堅い。だが…」
かがみ込み、巨大な指の先でそっと乳児の心臓の上の場所に*触れた*。鼓動があるべき場所で、金属の輝きが薄れ、鈍い、ほとんど*脆い*普通の肌のような部分が残った。
「…ここに。『未顕現の縫い目』。『心鱗の欠陥』。全ての創造物には欠点がある、イルダナ。それを忘れるな。」
彼は炉に向きを変えた。彼の使命は終わった。
我は熱さを感じずに金床へと突進した。ヴェイロンを掴んだ。彼は…*温かかった*、陽に温められた石のように。堅いが生きていた。彼の鋼の指が、新生児としては考えられない力で我の指を握った。裂け目状の目は深紅の光を放ち、我を見つめた。恐れはない。*好奇心?* *認識?*
出産の苦しみさえ知らなかった涙が小川のように流れ出た。涙は彼の温かい小さな体に触れるとシューッと音を立てて蒸発した。
「ヴェイロン…」と、鋼の幼子を胸に抱きしめながら囁いた。その胸の中では母の愛の嵐とマルゴールの警告の凍りつく恐怖が渦巻いていた。「我が炎…我が鋼…*《我が避け得ぬ嵐?》*」
**第一章 終わり**