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赤いサメの唄  作者: 変汁
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まだ何か言い足りなかったのか、仕事終わりに静香に誘われてカフェでお茶をした。


そこではこの夏に出会う歳下男性の妄想話を永遠と語られた。


髪型、髪の色。顔面偏差値、身長、体格、性欲の強弱、運動神経から学歴、職場に至るまで静香の好みを聞かされた。


「経済力は必要じゃないかな」


「どうして?」


「それは私が株で儲けるからよ」


静香は完全にマリカに心酔し、まるで忠実なしもべになったようだった。


「どうせ35まで結婚は出来ないし、おまけに社内結婚になるのだからせめてそれまでは良い思いをしなきゃ損だからね」


「なら後、11年もあるね」


私は静香の本当の年齢を知らないから、わざとカマをかけてみた。もし同い年というなら、そうなのよと返す筈だからだ。


「そんなにあるわけないじゃん?」


「え?」


「7年よ。あと7年しかないの。だからちょい頑張らないといけないのよ」


見事に引っかかった。今の静香はマリカの占いによる現実をきっちり自分に当て嵌めているようだ。


「7年?え?てことは静香今、28なの?てっきり私と同い年かと思ってた」


「あれ?私、年齢、咲に話さなかったっけ?」


「うん」


「そうだった?ま、良いじゃない。今知れたのだからさ」


静香はそう言うとまだ出会ってもいない歳下の

男の事を話し出した。


私はまだ何も達成してもいない静香の妄想話にかなり辟易し、帰宅した時には憔悴しきっていると言っても言い過ぎではないくらい心身共に疲れきっていた。


延々と同性の話を聞かされるのは精神的に良くない事は同じ女として充分、わかっていた。だがやっぱり一方的な話にはウンザリするし、静香が嫌いになりそうだった。


大学時代の元彼も、私のそう言う所に嫌気がさしたと別れる際、吐き捨てるように言ったのを思い出す。


「女の話には意見したらダメ。ただ聞いてるフリをして相槌を打ってあげれば満足するんだよ」


キャンパスでたまたま、元彼がそう友達に話しているのを偶然耳にした私はそうなんだ?と思った。


だからそれからは余り余計な事を話さないよう気をつけようとした。だが無理だった。特に生理前と生理中は止めどなく言葉がついて出た。


愚痴や文句に始まり、元彼の態度やその友達に苛立ち、それらを元彼に話続けた。


その結果、私はフラれたのだが、そこで悟ったのはよく話を聞いてくれる男でも私は長続きしないのだろうという事だった。それは大学卒業して新たな彼氏が出来た時も同じだった。


「人の話は聞かないくせに、お前ばかり話まくってさ。ったく俺は盗聴器じゃねーよ。もう付き合ってらんないから。全くお前にはウンザリなんだよ」


やっぱりこうなったか、と私は思ったものだ。

だからこれからは気をつけようと思っても、それは私には出来そうになかった。きっと又新しい彼氏が出来ても同じ事を繰り返してしまうだろう。だから彼氏のいない今のこの状況は気が楽で良かったのだが、静香がマリカに占って貰って、その話を今夜散々聞かされた私は、僅かだけ元彼の気持ちがわかった気がした。


最悪なのはこれからの静香が今夜のような状況がいつまで続くのか?という事だ。もし長く続くのなら、私は元彼のように、静香に対して怒ってしまうかも知れない。部署が同じだから、出来るなら喧嘩はしたくないし、それだけは避けたかった。


私は息をするより多く溜め息をつきながらお風呂を沸かした。


お風呂からあがると火照った身体を誰かに抱きしめて欲しかった。男は疲れ切った時、無性に性欲が促されるらしいが、女の私も、実はそうなのかも知れない。


違うとしたら、肉体的疲労で、性欲が激しくなるという事ではなく、精神的疲労によって起こる癒されたいという気持ちが性欲と合致するようだ。だから今夜は無性に抱かれたい気持ちだった。けどそのような相手もなく元彼に甘えるのも何か違う気がして、仕方なくネットでBLを漁り読みAVを観て気持ちを紛らわせた。


翌朝、目が覚めると赤いサメが巨体をくねらせ激しく泳いでいた。泳いでいるというより、暴れていると言った方が正しい。


恐ろしく速い動きで幾度となく方向転換を繰り返す。

時より見せるその大きな口を開け何かに襲いかかるように噛みつき、そのものを引き裂くかのように、頭を揺らしながら引っ張り回す。それがしばらくの間、続いた。ようやく静かに泳ぎ出したかと思った矢先、静香の事が脳裏を過った。


今日も又、昨日のような話を聞かされるのだろうか。

そう考えると朝から憂鬱な気分になった。


正直、ウンザリだ。有給でも取って休もうかと考えたけど、今は年度末だから、簡単に休むわけにはいかず、それに有給は前もって申請しておかなければならず、私は仕方なく出社する為の支度を始めた。


女の子の日を使って休む手もあるにはあったが、過去にも何度か使っているし、今日はその時より、時期的にかなりズレている。上司に嘘だとばれても構わないのだけど、そんな事で嫌な仕事を回されたりしたら目も当てられない。


私は軽くシャワーを浴び朝食の支度をした。野菜とヨーグルトの簡単な朝食だ。それを食べ洗い物を終わらせてメイクをした。


着替えて家を出る時、又、赤いサメの姿が見えた。

今はジッと動かず、浮かんでいた。


その姿は寝起きの時と違い、少し愛らしく思えた。

サメが可愛いと思う世の女性が多数いるとは思えないけど、私が見てるこのサメはとても可愛いらしかった。


いつもと同じ時間に家を出ていつもと同じ電車に乗りいつもと変わらない時間帯に乗り換え駅に着き、いつもと変わらないホームに降りて、見知った顔を確認して何故かホッとしいつも通りに、エスカレーターに乗り乗り換えホームに向かう。


そこでもいつもと変わらない電車が来るのを待つ。

数分後にはいつもと同じ電車に乗って会社がある駅に向かう。改札を出て送迎用のバスが待つ場所まで歩く。


前列付近の席に座るのもいつもと同じだ。


そして会社に着くと着替えを済ませて自分のデスクに着く。今はピッタリ9時だ。だがその時、いつもと変わらない筈の社内の筈が、いつもとは違っているのに気づいた。


静香の姿が見えないのだ。普段、静香は私より早くに出社している。なのに今日は来ていない。体調を崩した?あり得ない。彼女は女の子の日でも休まないし、それは風邪や高熱でも同じだ。さすがにインフルエンザにかかった時は休まされたが、それでも静香は出社しようとしていた程だ。


たかが事務職なのに、そうまでして仕事に来ようとする静香の気がしれなかった。おまけに特別、給料が高いわけでもないのにだ。


なのに静香は無遅刻無欠勤を続けようとしていた。そんな静香が今朝は来ていないという事に私は少なからず動揺した。同時に安堵もした。占い師マリカの話を聞かずに済むからだ。それはそれで良いのだけど、でも静香が欠勤している事については心配だった。


「山本さんはどうした?誰か何か聞いていないか?」


上司が言いながら私を見たので私は首を横に振った。


「誰か連絡してみてくれ」


そう言うと後輩の1人が静香の携帯に連絡を入れた。


「繋がらないです。というか電波の届かない場所にいるかって流れて来ますよ?」


その言葉に上司は


「ちょくちょくかけてみてくれ」


「わかりました」


後輩が受話器を置くのをみて私は静香にLINEを送ってみたが、既読は付かなかった。


スマホの電源が切られているなら、当然、既読はつかない。それがいつになるかわからないが、考えても仕方ないので私は仕事に集中する事にした。


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