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赤いサメの唄  作者: 変汁
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12時5分前にシャッターが開き、イスラム教徒のような出たちをしたアシスタントの女性が現れ、私に占いの時間を尋ねて来た。


私は1時間でお願いしますと伝えると、後ろの女が私に聞こえるように、嫌味ったらしく溜め息をついた。私は直ぐに後ろを振り返り、その女を睨みつけた。


調子に乗っていられるのも今のうちだけよ。と吐き捨ててやりたがったが、どうせ死ぬ運命な女なのだ。腹は立つが相手にする程、私は馬鹿じゃない。


私は前を向き直り、アシスタントが案内をするまで待っていた。アシスタントの女性が数名から希望時間を聴き終えると私の側にやって来て手を取った。


「では最初の方。私の後について来て下さい」


とエスコートを始めた。いつも思いのだけど、ついて来てというなら、何も手を繋ぐ必要は無いと思うのはきっと私だけでは無いだろう。


私は言われたようにアシスタントより少しばかり後方を歩きながらシャッターが開けられた場所へと向かった。


シャッターの奥はかなり薄暗く、壁や天井から小さなランプが点々と吊るされていた。


3階分はある急な階段を2人で登り切ると、鉄扉があり、私はその前で待つように言われた。


助手がインターホンを鳴らすと、インターホンを通じてハスキーな音声が響いた。マリカだ、と私は思った。


「どうぞ。中へいらして」


私は鉄扉についている把手を掴み中へと入って行った。



中は薄暗いが、登って来た階段よりは明るさはあった。


壁はベージュで、そこには花をいけた花瓶の絵が飾られてある。


正面にはロッキンチェアーが一つ置かれてあり、その前にレースのカーテンが垂らされていた。その奥にテーブルを挟んでマリカが座っていた。


全く前回と同じだ。そのマリカも今日も頭からベールを被り顔を隠していた。


「お久しぶりですね。その後、いかがお過ごしでしょう?」


「お久しぶりです。相変わらずですね」


「という事はつまり、貴女は彼を思い続けていらっしゃるという事ですね」


「そうですね」


「わかりました。では今日の占いは…」


マリカがそこで言葉を噤んだ。


「彼との運命を、占って頂けますか」


私が言うとマリカは座り心地が悪いのか、しきりに身体を動かし始めた。息も荒く落ち着き無さそうにこちらを伺っていた。


「忠告は守って貰えなかったようですね」


「忠告?ですか」


「ええ。お忘れになりましたか?」


「何の事かさっぱりわかりません」


勿論、嘘だった。マリカは赤いサメの事で私に苦言をさしたいのだ。


「まぁ。それならそれで構いません。貴女も覚悟の上でしょうから」


遠回しに嫌味を言われてこちらまで苛々し始めて来る。良いから早く占えと思った。


彼の周りから大勢の女を排除して来たのだ。彼と私の運命の糸が、必ず結びついている筈。マリカが何かを言いそうな雰囲気を感じ、私は身構えた。


「前回も言いましたが、貴女と思い人は絶対に結ばれる事はありません。例え、生まれ変わったとしても、未来永劫に貴女が、思う人への恋は叶う事はないでしょう」


「どうしてですか?」


「ご自分でわかっていらっしゃるでしょう」


「わかりません。全くわからないわ」


「人に対し、傷つけ、蹴落とし、嘲笑し悪態をつく。このような行為をする人は一見幸せな恋愛や家庭を持っているように見えても、必ずしっぺ返しをくらいます。家庭をお持ちなら重い病気にかかったり、子供に先立たれたり、騙されたりします。恋人同士であれば浮気をされたり、妊娠してしまった後で、捨てられたりするでしょう。たったそれだけで?とお思いかも知れませんが、人の運命とはそのように出来ているのです。ましてや貴女はその飼っている赤いサメを利用して、多くの命を奪いましたね」


「言うなれば、これは必要悪ですよ。良くない者を排除するのがどうしていけない事なんですか?」


「それは貴女がする必要もなければ、その権利も、自分の願望を叶える為だけに命を奪う権利など、無いからです。ましてや。自らの手を汚さず、呪いめいた赤いサメを利用するなど、とんでもありません。そのような人に幸福など手に入れられるとお思いですか?残念ながらそんな事はあってはならないし、ある訳がありません」


「そうですか。なら1つだけ良いですか?」


「何でしょう?」


「私と彼が結ばれるにはどうすれば良いのですか」


私の言葉にマリカが溜め息をついた。私の次に並んでいた女と全く同じだった。


「何度も言いましたが、それはありません」


「絶対に?」


「絶対にです」


「なら別な人を探した方が良いのですか?」


「その事を貴女は知りたいですか?」


「ええ。私は彼が大好きですが、マリカさんに無理だと言われるなら、私を愛してくれる他の男性で我慢しなくちゃいけないことも、考え無ければならないでしょうし。それにこの歳で、今後、独り身は流石に寂しいですから」


「わかりました。では占って見ましょう」


マリカはいい、タロットカードのような物を取り出し、目の前にあるテーブルへ一枚、一枚、置いて行った。


「そうですね…残念ですが、他の男性も貴女には近寄る事すら、いえ、います。たった1人だけ貴女に近寄ってくるものが…」


マリカの言葉の途中でいきなり腹部が鈍痛に見舞われた。鉄球を高い位置から落とされたような衝撃と痛みが腹部を襲う。吐き気をもようし両手で口を押さえた。

前のめりに椅子から崩れ落ちた。


身体が熱かった。乾燥した皮膚がひび割れたような痛みが全身に走る。喉の奥で鉄球を詰まらされたように呼吸が出来ない。ゼェゼェ言いながら私はマリカを見上げた。目からはとめどなく涙が、溢れ落ちて行く。


「貴女も誰かから憎まれているようですね」


マリカの言葉に対し返事が出来ない。


「貴女にも見えるのではありませんか?貴女が飼っているサメ意外の別の赤いサメが」


私は目を凝らした。確かにマリカの言う通りだった。1匹だった筈の赤いサメが今は2匹となり、私の中で泳いでいる。一体、どこの誰が…」


私は更に痛みを覚え床をのたうち回った。


「ちょっと来て下さい。お客様が体調を、崩したようです」


マリカが言うと、直ぐにアシスタントの女が現れた。私を抱きかかえた。


「少し早いですが、これで終わりとなります。

なので、代金は結構です」


他人行儀な口調でマリカはそう言った。


その言い方が頭に来た私は財布から一万円札を4枚取り出し床に叩きつけた。私はアシスタントに連れられ、ゆっくりと館を後にした。


外に出ると私の体調を心配したアシスタントが言った。


「少し休んでいかれた方が良いのでは?」


私は首を横に振った。


「病院に行かれた方が宜しいかと思いますが。救急車を呼びましょうか?」


「いらない。いらないって。もう放っておいてよ!」


私はアシスタントの腕を振り解いた。フラフラした足取りで並ぶ列の横を歩く。


私の次に並んでいた女がチラリと私を見た。その目はまるで私を軽蔑しているかのようだった。私を踏み付け、大声で嘲笑う姿が目に浮かんだ。


殺してやる。私はそう呟き、マリカに希望を抱いている長蛇の列の奴等の奇異な目線を感じながらその側を蛇が這うように歩いて行った。



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