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赤いサメの唄  作者: 変汁
30/40

赤いサメの唄 虚妄の愛 ① series 4

最初から他人が終わるのを待つつもりはなかった。だから1番乗りでマリカに占って貰う為の準備も、怠る事はなかった。抜かりはない。


そのような準備をするには訳があった。

それは過去に2度程、マリカの館に来た事があり、その経験上、1番乗りが良いと判断したのだ。


初めての時は、油断というか、あれほどまで待たされるとは考えもしなかったせいでオープン近くの12時頃に行ったのだが、終わったのは夜、9時近くだった。


随分と待たされる羽目に遭い、待ち時間だけで疲弊してしまう程だった。


それを踏まえ2回目は9時に行ってみた。それでも既に40人近くの人が並んでいて、諦めて帰ろうと思ったくらいだ。


その2回の経験から私は前日から乗り込み、まだ陽の上がらない早朝からマリカの館の前で陣取る事にした。


そのお陰で今日は1番乗りだ。まだ私以外に来ている客はいない。


今回、占って貰う為に、寝袋とテントも購入していたが、さすがにこれはやり過ぎだと思い、持って来る事はしなかった。だがこれから先、私がそうだったように占って貰う為だけに、テントを用意する人がいないとは限らない。


だから私は、テントや寝袋などに使った費用は将来への投資だと考えるようにした。


同じ待つなら1番で来て待つ方がまだマシだ。

私は眠気を覚ます為に大量のミンティアを口に放り込んだ。


今回、マリカに占って貰うのは過去2回と同じで、あの人の事だった。


あの人とは電車内で見かけたとある男性の事だ。明らかに私より歳下で見た目はチャラ男だけど、顔がもろタイプだった。


要するに一目惚れだったのだ。初めて見かけた時は仕事終わりの夕方5時半過ぎだった。 


ドア付近の手摺りを掴み立っていた私の前に、発車寸前のドアが閉まる前、彼達が駆け込んで来たのだった。


「間に合ったぁ」「ギリセーフ」等と周囲の客にはお構いなしな大きな声で喋り出すと何が面白いのか、数名が笑い出した。


恐らく乗り込む前の会話の続きを思い出し笑ったのだろう。そんな仲間に対し「お前ら声、でけーよ。ガキじゃないんだからちょっとは周りの迷惑も考えろよ」と彼は注意をしたのだ。


見るからにチャラい見た目に反してそのような言葉を吐いた彼に私は驚いた。


見るからに大学生という雰囲気があったが、そんな中にあり、彼の言葉は異質に感じられた。


思わず私は彼の顔をマジマジと見返してしまった。

いきなり目が合うと彼は軽く頭を下げ、声は出さずに口だけ動かし、ごめんなさいと言った。


その瞬間、私は彼を愛してしまった。好きになったではなく、心の底から愛してしまったのだ。


慌て頭を下げ、彼から目を逸らした。心臓が高鳴り鼓動が激しくなって行く。顔が火照っていくのがわかった。


そんな私の気持ちを他所に、彼と彼の周りにいた友達は、今から合コンに向かう為の話をし始めていた。


やはり、彼はとある大学生の学生だったようだ。何回生かはわからないけど、恐らく私とは一回りくらい離れていると思った。


当然、幾ら私が愛してしまったと言った所で、歳上のオバさんを彼が私など相手にするとは思っていなかった。


見ているだけで我慢しなきゃと何度も何度も頭の中で繰り返した。その時は、そう思う事で自分を抑制出来た。けれど、2度、3度と彼を見かける内に、私のその気持ちだけでは、とても満足出来なくなっていた。 


彼を手に入れたい。誰にも渡したくない。そう思うようになり、いつしか彼を見かけた日は、その後をつけるようになった。


自宅も部屋番号も把握した所までは良かった。


だが私もそれなりの大人である以上、これから先にアクションを起こしてしまえば、どうなってしまうかくらい想像に難くなかった。


完全な彼のストーカーとなり、いつしか彼の部屋へ押しかけるという行為を犯すまで突っ走ってしまう自分がいる事に、少なからず驚いた。


さすがに犯罪へと走ってしまうのはヤバいし、そんな自分が怖かった。


けれど、何度か、違う女ばかり家へと連れ込んでいる姿を見てしまうと、私のしている行為は彼の女たらしを止めさせるには必要な事と思えるようになっていた。


もし避妊をせず相手が妊娠でもしてしまったらこれから明るい未来が待っている彼の人生に翳りが見えて来る。


そんな目に遭わせる訳には行かなかった。メンヘラ女に捕まり、自殺騒ぎを起こされる可能性もゼロとは言えない。


所詮、彼と合コンで知り合うような女は皆、彼に気に入られようと派手なメイクに肌をギリギリまで露出させている服装で酔っ払い、彼を誘惑するに決まっている。


そこまでしないと、彼を落とせないと考える頭が空っぽな馬鹿な女子大生ばかりだ。そんな女はヤリモクされ捨てられればいい。


何故なら彼はそれをわかった上で馬鹿な女に一時の幸せを与える慈悲深い人間なのだから。そんな彼の優しさに気づけているのは私だけに違いなかった。


だから私は彼との運命を知りたくて今日まで2回もマリカの館に向かったのだ。


1回目も2回目も貴女が好きな彼と結ばれる事はないと、マリカにハッキリと断言されてしまった。


彼は貴女に相応しくないないし、その彼には想い人がいるとまで言われた。


それは私ではないのですか?と尋ねるとマリカはコホンと咳払いし、残念ですがと言った。


その言葉にどれだけ私が打ちのめされた事か。高いお金を払い、行きたいトイレも我慢して待ち続けた挙句、これだ。こんな仕打ちがあって言い訳がない。


私だって大人だから身の程は弁えているつもりだ。なのに、残念とは何だ。それは私にとって正に死刑宣告に等しかった。


「わかりました。ありがとうございます」


そういい立ち上がった私に、マリカはいきなり私を呼び止めた。そして


「貴女が飼っているその赤いサメで何をなさろうとしていますか?」


「はい?」


いきなりのマリカの言葉に一瞬、戸惑った。けれど、直ぐに私は夢で見たあの赤いサメの事だと察した。


その事だけで、私はこの占い師が、確かな力があるのだと気づき、より腹が立った。私の見た夢を当てる人間の占いが外れる訳がない。


つまり、私と彼は結ばれる運命にはないという事だった。許さないと思った。マリカもそうだが、彼の心を虜にした女が許せなかった。


その女が死ねば1つ、私は彼に近づける。


「どうするも何も、所詮は夢ですから」


「本当にそうでしょうか」


私は振り返りマリカを見た。薄いベールのような物が垂れていて本人の姿は確認出来なかった。


だが代わりにマリカのいう通り、私の前に赤いサメが泳いでいた。腹を上に激しく尾鰭を動かしている。


「赤いサメには充分注意なさってください。その赤いサメは貴女の心のある部分を表しています。それが見えているという事は、貴女は今、とある人に殺意を抱いていらっしゃるようです。悪いことは言いません。どうかその殺意を押し留めて下さい。でなければ貴女は幸せを手に入れる所か、今以上な苦しみを味わう事にもなりかねませんので」


私はマリカの言葉を無視して、館の外を出た。

その間もずっと赤いサメは泳いでいた。


それから今日まで、私の赤いサメが消える事はなかった。身体も倍以上に大きくなっている。

それだけ私の殺意がより強くなったという事だった。


そして私は彼の持ち帰る女全てに、私の殺意をぶつけるようになった。すると不思議な事が起こった。


皆が皆、何かしらの事故で命を落としたのだ。私が憎み、死ねと願えば願う程、女達は不当な死を迎えたのだった。


赤いサメの存在を理解した私は、何とか彼の好きな女を見つけ出したかった。


それが見つけられれば、彼は私のものになる筈だ。


私は、仕事が終わると彼の家へと向かった。部屋の明かりがついていれば、居酒屋のバイトは休みだった。


そういう時は必ず、彼は友達と出かけて行く。当たりだった。彼の部屋の明かりが消えて、男友達と一緒にマンションから出て来た。


後をつけると、彼達は真っ直ぐ駅へと向かっているようだった。

改札を抜けると彼達は走り出した。


「次の電車にいる筈なんだな?」


友達がいい、彼は頷いた。


「今日、告るのか?」


「いや、まだだ」


「何でだよ」


「先ずはお前達に見てもらって感想を聞いてからにするよ。他人が見た第一印象て大事だからな」


そんな事を話しながら彼等は到着した電車に乗り込んだ。私も続いた。


そして彼が小声であの人だと指差した先にはスーツを着た女が立っていた。


確かに彼が好きになる理由もわからないでもない。そこそこ可愛いし、愛嬌もありそうな女だった。


けれど私程ではないと思いながら、改めて彼は歳上が好きだという事実に私は顔が綻んだ。


これは運命だった。この時、私は再び週末にマリカの館で占って貰おうと決めたのだった。


そして今、私はマリカの館の前にいる。

しばらくすると背後から足音が聞こえて来た。


自撮りする風にスマホを持ち上げ、背後を撮影する。

その顔を見た時、私は絶句した。


私の後ろには彼が好きなあの女が立っているではないか。取り乱しそうになりながら私はスマホを下げ、占いの時間までその女が死ぬ姿を思い浮かべてた。


お前なんか死ね。殺してやる、殺してやると呪詛のように頭の中で繰り返し続けた。


すると赤いサメが腹を上にして泳ぎ出した。

よし、と私は思った。


赤いサメがこの姿で泳ぐ時、私が殺意を抱いた相手は必ず何かしら起きて死んでいる。


だがこの女だけは、私が死に方を決めたかった。

首吊り、練炭、衝突事故。電車の飛び込み、いや、電車だと多大な迷惑がかかるし、もしこの女が飛び込んだ電車に彼が乗っていたら彼が可哀想だ。


こんな女の肉片や飛び出し潰された内臓や頭蓋骨の上を彼が乗った電車を通したくは無い。却下だった。


風呂場でリストカットや軽動脈切断も発見が遅れるから面白くなかった。


もっと目立つような形で殺してやりたい。その姿を撮影され、SNSで拡散されてしまうくらいの死に方が良かった。私は決めた。


今、背後にいる彼が好きだと言ったこの女は、会社の屋上から飛び降りさせるのが一番良い。


勤めている会社が2階建てとかでは、笑えもしないが、まぁそれでも確実に死ぬのだから高さまでは、気にしない事にした。


私は占いの時間が来るまで、この女が飛び降りる姿を思い浮かべ続けた。そして繰り返し死ねと念じ続けた。


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