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赤いサメの唄  作者: 変汁
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数日前、この町で起きた火災は放火殺人として捜査が始まったらしかった。私は女の子の中のサメがあの炎のように真っ赤に染まっていたのを見て、女の子が犯人だと確信していた。


けれど、それを問い詰め自白に追い込んだとしても、きっと両親に泣きつき、知らないお姉さんに変な事を言われたと逃げられるのが目に見えている事が、私の気持ちをモヤモヤさせた。


結局、確固たる証拠を突きつけなければ何も解決はしない。だから私は私の為に、これ以上女の子に関わる事、深入りはしないと決めた。


もしかしたら、私がそうする事で、新たな犠牲者が出るかも知れない。いや、確実に出ると思う。それは女の子が捕まるか、死ぬかするまで続くだろう。でも私は私の人生がある。


止められるものなら止めたいけれど、赤の他人の子供を赤の他人が四六時中監視なんて出来やしないのだ。そんな事で私が心を悩ます必要はない。


運命は変えられると思っている方だけど、それは他人がどうこうして出来るものではないとも考えている。だからあくまで変えられるの本人のみなのだ。


これから先、あの女の子の手によって何人の人の命が奪われるかわからない。想像すらしたくなかった。だから私は願う。女の子の運命の輪の中に入らないようにと。


女の子と関わる運命から逃れる方法をみつけて欲しいと。それが何かなんて私にはわからない。けれど人は直感や第六感という、目に見えない感じ方があるから、時にはそれに従って欲しいと思った。


秋が来て冬が過ぎ去った。

その間、この町で起きた放火殺人は3件にも及んだ。3件の放火で死者は4名。まだ犯人は捕まっていなかった。


そんなニュースを耳にする度、私はそうしたくなくても、気づけば自分自身を責めていた。やっぱり私が関わる事をやめたからこんなにも死者が出たのだと。


私はこのままこの町にいたら放火事件の度に、こんな思いをしなくてはいけないのか。それが嫌だった。逃げだそう。春が来たらこの町から逃げようと私は決めた。


逃げる方法は何でも良かった。けれどただのアルバイトでは、祖父母はこの家から出してはくれないだろうから、何かしらの学校に入るのが1番の逃避方法だと思った。


だから私は出来る限り、この町の情報が届かない土地へ逃げようと決めた。東京では近すぎるから、行き先は関西か九州にしよう。


大学なんて入れる知能は私にはないから選択肢は専門学校に絞られる。祖父母には金銭的な迷惑をかける事になるけれど、私も出来る限りアルバイトをしてその手助けをしよう。


そう決めた私は早速、その夜に専門学校に行きたいと祖父母に話した。祖母は直ぐに賛成してくれたが、祖父は良い顔はしなかった。その理由は私の身体の事らしかった。


「マリカの身体は同い年の子とは違うんだ。意識を失っていた10年以上の時間があるのはわかっているな?その成長過程のリスクは目に見えないけれど、必ずあるとお爺ちゃんは思ってるんだ。


マリカの気持ちもわかるし、尊重してあげたいが、やっぱりマリカの事を良く理解している誰かが側にいた方がお爺ちゃんは良いと思うな」


お爺ちゃんの気持ちは痛いほどわかった。

けれどそれ以上に私はここに住み続けあの女の子の事が頭に過ぎるような日々を過ごしたくはない。


今の私にとって1番重要な事は私自身の幸せだった。勿論、何処に行った所で、あの女の子の事を完全に記憶から消し去る事は不可能なのはわかっている。


でも思い出す回数が少なければ少ないほど、私の精神は楽になるし、そんな日々を過ごしていければ、いつしか思い出す事もなくなるかも知れない。だから私はお爺ちゃんの気持ちに逆らい、この家を出ると話した。


「お爺さん、マリカなら大丈夫。今もちゃんと学校にも行けてるのだから何処に行ってもマリカはしっかりやりますよ。だって私達のマリカですもの」


お婆ちゃんのその言葉に私は救われた。お爺ちゃんは膨れっ面をしていたけれど、渋々納得したという感じだった。


私は関西の理容師の専門学校に行くと伝えた。

特に好きなわけでも、興味があったわけでもない。本音はこの場所から離れたいだけで、その理由であれは何でも良かったのだ。まぁ手に職がつけられるなら、それに越した事はないし、将来的にお爺ちゃんとお婆ちゃんの髪を切ってあげたら喜ぶかなぁくらいの気持ちがあった程度だった。


だけど、所詮、その程度の気持ちはその程度の気持ちの結果しか出なかった。私が関西に引っ越し、入学式を終えた5日後にお爺ちゃんが死んだのだ。老衰だった。


お婆ちゃんは私に葬儀には帰らなくていいと強い口調で言った。


「何事も最初が肝心よ。お爺ちゃんだってきっとそういう筈。だからこっちは大丈夫だから、しっかりと勉強しなさい」


電話を切った後、私はいつ以来かわからないくらい昔の事のように声をあげて泣いた。


2年間の勉強の間、私は1度も帰省しなかった。

祖母は私が帰らない事を寂しがったが、こっちで出来た友達もいたし、帰省する事であの女の子の事を再び思い出したくはなかった。それでも完全に忘れる事など無理だから思い出す度、祖母に電話をかけ、放火事件が起きてないか尋ねたりした。その都度、祖母は


「起きてないよ。どうして?」


「ううん。なんでもないよ」


私はいい、そちらにいた頃、沢山の放火事件があったからと話した。


「犯人は捕まったのかなぁ」


「聞かないねぇ」祖母がそう話した後で、


「あ、そういえば先月、まだ小学生の女の子が両親を刺し殺した事件があったのよ。恐ろしい時代になったわねぇ」


祖母の言葉に私はしばらく返事が返せなかった。


祖母の何度目かの呼びかけに私はようやく我に返った。


「どうしたの?」


「ううん。何でもないよ。ねぇお婆ちゃん?」


「なぁに?」


「卒業したら、そっちに帰るね」


「そうなの?」


「うん。理容師の仕事ならそっちにもあるだろうし」


「マリカが帰って来てくれるのは嬉しいけど、そっちでやりたい事があるのにお婆ちゃんの事が心配で、それを諦めるようなら私は嫌だよ?」


「そんな事はないよ。2年間住んでみてわかったの。私、関西の水は合わないから」


これは嘘だった。むしろ関西は私の人生の第二故郷と呼べるほど、好きな土地だ。だけど私が千葉に帰ろうと思ったのは、小学生の女の子が両親を殺害したという話を聞いたからだった。


つまりあの女の子はもうあの町にいないという確信めいたものを感じたのだ。両親を殺害した小学生は名前は公表されてはいないだろうけど、でも私は間違いなくあの女の子だと思った。だから私は咄嗟に祖母に帰ると言ってしまってたのだった。つまりは私の懸念材料が近くからいなくなるわけだから、私が思い悩む事もなくなる。それが嬉しかった。だってそれが嫌で私は関西に逃げて来たのだから。でもそれももうすぐ終わる事が出来る。私は祖母に又、詳しい事が決まったら連絡するねと伝えて電話を切った。その後で私はここでの2年間は無駄ではなかったのだ、逃げ出して来て良かったと切実に思った。


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