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神の問い

作者: 雉白書屋

 人生には避けられない不運ががあるものだ。とはいえ、それはあまりに無情で、あまりに巨大すぎた。

 今まさに、地球は迫りくる巨大隕石との衝突によって滅亡の瞬間を迎えようとしていた。

 宇宙局がその発表をしたとき、世界中が混乱に陥った。ある者は犯罪行為に走り、ある者は自ら命を絶ち、ある者はシェルターに閉じこもり、またある者は食料を抱えて安住の地を求めて彷徨った。映画のように誰かがなんとかしてくれると現実逃避する者もいれば、悔いのない人生を送ろうと奔走する者もいて、また冷笑する者、気が狂う者、家族と過ごす者、何も知らない虫や動物を羨み……と人々はそれぞれの方法で残された日々を過ごした。だが、いよいよ終末の時が目前に迫ると、皆が同じ行動を取った。


 それは、神に祈ることだった。奇跡を信じ、救いを求め、せめて恐怖から解放されたいと願った。だが、その者たちも予想だにしなかっただろう。本当に神が目の前に現れるなど。


「天国に行くか、地獄に行くか、どちらがいい?」


 突如目の前に現れた神の言葉に、男は唖然とした。

 これが最後の審判というものなのだろうか。しかし、天国か地獄かを自分で選べるとはどういうことだ? いいのか? 特別? おれだけにこの問いを投げかけているのか、それとも全人類の前に現れているのだろうか……。


「悩む時間はないぞ。あと数秒だ」


 神は淡々とそう告げた。男は地球滅亡の知らせを聞いてから今日まで、何とか正気を保ってきた。だが、ついに心の均衡が崩れ、発狂しそうになった。渦巻く思考に溺れ、目玉がぐるぐると動き回った。

 なぜもっと早く現れてくれなかったのか。そうすれば考える時間があったのに。いや、そんな無礼なことを考えてはいけない。とにかく早く答えなければ、勝手に決められてしまうかもしれない。しかし、これは試されているのか? 『天国に行きたい』と言えば欲深い者と見なされ、地獄に落とされるのではないか? だが、そんなふうに疑うことこそ、不敬なのではないだろうか。しかし、逆に、『地獄に行きたい』と言えば、裏をかいたつもりが、そのまま地獄に落とされてしまうのではないか。いや、ただ聞いているだけで、そもそも、どちらを選んでも地獄に落とされるのではないだろうか。ああ、神はなんて意地悪なんだ。だから直前に現れたのか! いや、だからそんなふうに疑うのがよくないのだ。ああ、しかし、あっ、あっ、あああ……。


 男は手で顔を揉みしだき、白眼を剥き、果汁を絞るように脳を凝縮させ、やっとの思いで言葉を絞り出した。


「か、神様のお傍にいたいです……」


 その直後、世界は落日のような茜色の光と熱に包まれた。巨大隕石が衝突し、地球は砕け散った。人類の歴史は終焉を迎え、いくつもの破片が宇宙に飛び散る。

 しかし、男は確信していた。自分の答えが正解だったと。問いに答えた瞬間、神は目を丸くしたのだ。

 そう、『神のお傍にいたい』これが天国行きの切符だったのだ! 我ながらなんて可愛げのある回答なのだろうか。神もきっと微笑んでおられるはずだ。

 ああ、天国とはどんな場所だろうか。素晴らしいところに決まっている。何人が行けたのだろう。滅亡までに自殺した者や欲望のままに罪を重ねた者たちは地獄に落ちたに違いない。おれは我慢していて本当によかった。

 ……しかし、まだ着かないのか? 目の前には暗闇が広がるばかりだ。この暗闇の向こうにきっと天国があるはずだが……この暗闇……ここは……なぜ、おれは宇宙を漂っているんだ。地球は砕け散り、おれは死んだはずではないのか。

 地球の残骸とともに漂う中、男は疑念に囚われた。


「地球を作った神として、私は星の最期を見届けなければならない。それが使命なのだ。この地球の残骸がすべて消滅するまで、ずっとな」


 神は男の傍らでそう語った。

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