夜空を見上げながら現実逃避する僕たち
密林の遥か彼方に昇って来た月を見ながら僕は香織ちゃんに声をかけた。
「香織ちゃん、彼処を見て真ん丸お月さんが満天の星空に昇って行くよ」
「あ、本当だぁ! 日本で見るより大きく見えるね」
本来ならこんな密林の高い木の上からでは無く、高級ホテルのスィーツルームでシャンパンのグラスを片手に持って遥か彼方に昇る月を眺めていた筈なのに。
香織ちゃんが僕と同じ姓、菊池になって初めての旅行。
そう、僕と香織ちゃんはハネムーン中なんだ。
灼熱地獄の日本を脱出して冬の季節の南米に来たんだけど、乗っていた旅客機が密林に墜落して、高級ホテルのスィーツルームじゃなくて高い木の上から月を眺める羽目になっているって訳。
僕たちは真ん丸お月さまから目を離し、お互いの目を見つめながら肩を寄せ合って甘いキスを交わした。
僕たちは明日、1つになる。
明日……、旅客機の乗員乗客全員を捕らえた食人族に、僕と香織ちゃんは細切れにされ同じ鍋に入れられて混ぜ合わされ、食われる。
だから、だから僕たちは明日訪れる死を頭の外に追い出して、甘い一時を過ごしているんだ。
コロン様から頂いたイラストです。
補足
2人は高い木の枝に並んで吊るされています。