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41. 私は意外にも強いようです





 物思いに耽っている私は、急に冷たく濡れた手で口を塞がれた。驚きと恐怖心が共に襲ってくるが、濡れた体でドレスごと拘束され、身動きが取れない。


 そして、髪からぽたぽた水を垂らしながら、私を捕らえた男は耳元で囁いた。


「お前がポーレット侯爵の妹か。なかなかいい女だな」


 背筋がゾクっとする。その間にも、私のドレスはこの男によってどんどん濡れていった。


「俺はお前を捕らえるため、運河を泳いで渡ってきたのだ。


 お前を人質にして、ポーレット侯爵から身代金を取ってやる」


 この男が濡れているのは、なんと運河を泳いできたからなのだ。哀れで馬鹿な男だ。そして、もちろん怖くて怖くて仕方がないのだが……こんな時、ジョーならどうするだろうと思った。


 せっかくジョーから護身術を学んだのだ。この男は刃物も持っていないみたいだし、何とかなるかもしれない!



 私は勇気があるタイプではなかった。

 だが、ジョーとの旅や黒い騎士の件で、少しずつ心が強くなっていたようだ。


 オオカミの群れを追い払ったこと、ジョーの背後に迫る黒い騎士にナイフを命中させたこと、どれもジョーの手柄に比べたら言うのも恥ずかしいことだが、それが少しずつ自信になっていた。


 昔の私なら、こんなふうに捕らえられたら怖くてぼろぼろ泣いていただろうに。



 男は私が怖がっていると思って油断していた。怖がっているのは事実だが……その油断の隙を、私は見逃さなかった。


 素早く手を振りほどき、その腕を抱えて男性を投げ飛ばす。

 もちろん男を投げ飛ばすなんてただの薬師には不可能だが、私はジョーに力の入れ方とか、人の押さえつけ方なんかを習っていたのだ。


 男は宙を飛び、どさっと私の前に崩れ落ちた。そして自由になった私は、大声でジョーの名を呼んでいた。



 投げ飛ばされた男は、侯爵の妹にやられたことに腹を立てているらしい。腰を押さえて立ち上がり、ようやく腰に差してある短剣を抜いた。


 私はもちろん武器なんて持っていないし、何よりドレスを着ていて動きにくい。もしかして、ここまでなのだろうか……


「貴様……女のくせに……」


 男は怒りで震えている。


「気が変わった。殺してやる!!」


 だけど……不意に背後に回ったジョーに、まるで子供でも相手にするように簡単に捕らえられてしまった。もちろん手に持った短剣は、一瞬で地面に落ちていた。


「俺の婚約者に、手を触れるな」


 ジョーは怒りで満ち溢れている。その怒りのオーラだけで、この男を殺してしまいそうだ。


 さらにジョーは付け加えた。


「俺の名は、ジョセフ・グランヴォル」


 その瞬間、男は震え上がり断末魔の悲鳴を上げる。ジョーはその名が恐れられていることを知り、わざとやっているのだろう。そして、最強の騎士に捕らえられたこの男も、また哀れだった。


「どうか命だけはお助けを」


 泣きながら命乞いする男を、ジョーは護衛の騎士に引き渡した。


「牢屋にぶち込んでおけ」


なんて言いながら。




 こうやって、私は甘々のジョーの訓練を受け、意外にも強くなってしまったようだ。もちろん、ジョーの足下にも及ばないが。


 色々と危険な目に遭った私は意外と平気だったが、ジョーはそうでもないらしい。


「アン、心配した」


 その声は少し震えている。そして、濡れてしまった私ごとぎゅっと抱きしめる。


 ジョーは国内で最強の騎士だが、その心は意外と脆いことも知っている。そんな人間味溢れるジョーが大好きだし、安心させてあげたい。


 ジョーの腕の中でその大きな胸と体温を感じ、頬が緩んでしまう私。ジョーにこんなにも大切にされて、すごくすごく幸せだ。


「アン、見事な背負い投げだった」


甘くて切ない声で告げるジョーに、


「ジョーのおかげだよ」


笑顔で告げる。


「ポーレット侯爵の妹が男を投げ飛ばしたなんて話を聞くと、人々は大男ジョセフ様とお似合いだって思うよね」


「……そうだな」


 ジョーふっと笑い、優しく唇を重ねる。その愛を感じながら、私は幸せを噛み締めていた。




いつも読んでくださって、ありがとうございます!


次回が最終話です。

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