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28. 彼女が大好きだ (ジョセフside)



◆◆◆◆◆




 俺はアンの馬車が視界から消えても、ずっとアンのほうを見ていた。


 騎士としてだけ生きてきた俺は、女性には興味がなかった。いくつか縁談を持ちかけられたりもしたが、あまりにも興味がないため断ってきた。結婚なんてすると、自分の自由な時間がなくなる、そして騎士としての仕事に影響をきたす。女性は、俺の足枷でしかなかった。


 でも……その身をなげうってまで、俺を看病して助けてくれたアンに、一気に恋に落ちた。

 

 生き延びるためには俺を捨てて逃げるべきだったのに、訓練もしていないその体で、オオカミの群に立ち向かった。この女性はどうして、何も関係ない俺をこうも大切にしてくれるのだろうかと思った。


 だけど、彼女の旅をするうちに、知らない気持ちが芽生え始めた。


 アンはいつでも俺が少し無理しようとするものなら、「まだ病人なんだから!」なんて俺を止める。そして、代わりに鳥を撃ったり魚を獲ったりしようとするが、当然出来るはずもない。だから俺が喜んで食べ物を捕獲した。


 彼女のぶんまで食べ物を捕獲し、すごいなんて喜ばれると、気付いたらにやけてしまっている自分がいた。


 俺はこんなアンの、純粋でまっすぐで、人のことを大切にするところに惚れたのだと思う。





「ジョー。あれで良かったの?


 ジョーがアンを引き止めるなら、僕も全力で阻止したんだけど」


 セドリックが言いにくそうに俺に告げる。だから俺は答えた。


「アンはせっかく兄に会えたのだ。今まで身内がいなくて寂しい思いをしてきたのだろう。


 だから、アンには幸せになって欲しい」


 俺はこうやって、アンが患者を思うように、アンを一番に考えている。だから俺の思いが砕け散っても、アンが幸せになればいいと思っていた。


「ジョセフ様……お話に割り込んで、失礼だと承知しております」


 セドリックと俺の間には、いつの間にかアンの仕事先の薬師がいるではないか。そして、この女は堂々と俺に物申すのだ。


「アンちゃんは……本当に幸せになれると思いますか?」


 その言葉に、セドリックまで同調する。


「アンは最後にジョーに何て言ったの?」


 最後の言葉は……「ジョーのことが大好きだよ」だった。その言葉を聞いて、胸が悲鳴を上げたのは事実だった。


 アンは俺の知らないうちに、俺のことを好いてくれていたのだ。俺がどれだけ迫ってもアンは飄々とすり抜けていくから、まさか俺のことが好きだとは思わなかった。おまけに、目の前であんなにも泣かれたら困る。

 アンを泣かす奴は許さないと思っていたのに、一番アンを泣かせた奴は俺だろう。


「アンは侯爵家の娘だったんでしょ?

 ジョーとの結婚に何ら問題がないじゃん。

 ジョーがアンを引き留めないから、ジョーは一生誤解されたままだよ?」


 セドリックの言葉が胸を抉った。


 俺が……誤解される?アンをこんなにも好きなのに……誤解される?


 それは嫌だ。そして、そのことでまたアンを泣かせるのだろう。


「最近、ジョセフ様は治療院に来られませんでしたよね?

 それでアンちゃんも、ずっと元気がなかったのです」


 薬師がそう言うのも分かる。

 俺は確かに忙しくしていた。あの黒い騎士たちが領地に頻繁に現れるから、防衛に当たっていたのだ。……というのも言い訳で、忙しくしていたらアンのことを忘れられると思っていたからだ。


 アンに会いに行けば、離れられなくなる。俺が潔く身を引くのが最善だと思っていたが、それがアンを苦しめていたなんて。


 アン……会いたい。

 アンと共にいたい。 

 俺は、アンが大好きだ。



 セドリックを見ると、ニヤニヤ笑いを浮かべながら俺を見ている。セドリックは俺の心が分かっているのだろうか。


「ほら、ジョー。はやく追いかけないと!」


 その言葉を待たなくても、今すぐにでもアンを追いかけたい。そしてぎゅっと抱きしめて、二度と離さないと告げたい。


「ジョーが女性に対してそんな顔をするの、初めて見たよ」


 俺だってそう思う。最近の俺は狂っていた。これは俺の初めての恋であって、理性を吹っ飛ばすほどの大きな恋であった。そして、こんな恋はこれで最後にしたい。


「アンを追いかける」


 俺は馬に飛び乗り、馬を走らせた。馬車はまだそんなにも遠くに行っていないはずだ。今ならすぐにアンを取り戻せる。あとで後悔するくらいなら、行動に移したほうがいい。


 ヘンリー様は俺を憎むかもしれないが……やっぱり譲れないのだ。



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