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追放された薬師は、辺境の地で騎士団長に愛でられる  作者: 湊一桜


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26. 帰郷の日はどんどん近付きます





 お兄様の足は順調に回復した。嫌々ながらに薬を飲み、鍼治療を受け、まだ走れるまでには回復していないが、違和感なく歩けるようにはなっていた。


 これから足が完全に回復するまでは、申し訳ないがまずい薬を続けてもらわなければならない。



「アンのおかげだよ!本当にありがとう!」


 お兄様はそう言って、嬉しそうに飛び跳ねる。慌てた私は、


「お兄様!まだ安静にしていてください。

 足に負荷をかけないように!」


必死で止めた。


 正直治るか不安だったが、ここまで元気になってくれて嬉しかった。

 そして、あまり治療院に来なくなったジョーに変わって、お兄様が薬草園の水やりや片付けをしてくれる。その心遣いは嬉しいのだが、ジョーに会う頻度が減ってしまったのは寂しかった。


 そして、ジョーとの別れも刻一刻と迫ってきている。ジョーは予想以上にダメージを負っていないようで、それがまた私を苦しめた。


「アン、僕も元気になってきたから、週末には帰ろうと思う。


 これ以上領地を留守にしてはいけないからね」


「分かりました」


 そう答えながら、このオストワル辺境伯領にいられるのもあと少しかと寂しく思う。


 私は、このオストワル辺境伯領が大好きだった。

 自然に恵まれ、優しい人たちに囲まれ、ジョーがいて……だけどこの地から私がいなくなっても、ジョーをはじめとする人々は、いつも通りの日々を過ごすのだろう。


「アンちゃんがいなくなるなんて寂しいわ」


 ソフィアさんが悲しそうな顔をする。


「アンちゃんのおかげでこの地の人々は救われたし、私だってすごく勉強になったわ」


「ありがとうございます」


 私のほうが、ソフィアさんに感謝してもしきれないほどだ。


 急に現れた見ず知らずの私を雇ってくれたし、年下で後輩の生意気な私の意見も聞いてくれた。……素直に認めてくれた。


「私こそ、ありがとうございました。

 ソフィアさんにお会い出来て良かったです」


 本当に、心からそう思う。ソフィアさんが私を受け入れてくれたから、今の私がいるのだ。


 だけど……欲を言うと、ジョーからもそんな言葉を聞きたかった。私がいなくなると寂しいとか……行かないで欲しいとか。私のことを好きだと言ったのに、今のジョーは私を避けているほどだ。


「アンちゃん、最近元気ないけど大丈夫?」


 ソフィアさんが遠慮がちに聞く。元気がないのは分かっていたが、必死でなんでもないふりをしていた。だけど、ソフィアさんには分かってしまっていたのだ。


「すみません、みなさんとお別れするのが寂しくて……


 でも、これから元気に頑張ります!」


「そう……」


 ソフィアさんは、なおもじっと私を見つめている。心の奥底まで見透かされてしまいそうな錯覚に陥り、わざと元気な笑顔を作った。


「アンちゃんは、ジョセフ様が好きなのね」


 ソフィアさんの急な言葉に、


「えっ!?」


思わず声を上げてしまった。そして、その言葉を理解すると同時にかぁーっと顔に血が上る。


 私は、ソフィアさんにジョーとの恋愛話をしたことはない。それなのに、ソフィアさんは知っていたのだ。


「ちっ、違います!」


 慌てて否定するが、ソフィアさんは楽しそうで、それでいてせつなげな瞳で私を見ている。


「ジョセフ様がアンちゃんを大好きなのは知っていたけど、ジョセフ様が来なくなってから、アンちゃんはずっと暗いわ」


 ソフィアさんにはバレバレだったのだ。

 私は間違いなくジョーに恋しているし、会えなくて寂しい。だけど、これからもずっと会えない日が続くのだ。


「ねえ、アンちゃん。

 ……悪いこと言わないから、オストワルに残らない?


 そのほうが、ジョセフ様にとってもアンちゃんにとっても幸せだと思うよ」


 きっと、私にとっては幸せだろう。だけど、こうやって引き止めてくれるのはいつもソフィアさんや街の人で、ジョーからはそんな話さえ聞いたことがない。

 それが、私が悩んでいる一番の理由だ。


「ジョーは、私がいなくてもきっと平気です」


 そうだよね。最強の騎士団長が、一人の女性がいなくなるだけで心を痛めていたら、騎士団は成り立たないだろう。


 ソフィアさんは、なおも


「そんなことないと思うけどなぁ……」


なんて譲らなかったが、そんな言葉をジョーの口から聞きたかったものだ。


「ソフィアさんに、手紙を書きますね。

 ポーレット領の近くに来られることがあったら、ぜひ遊びに来てください!」


 努めて元気に振る舞った。




いつも読んでくださって、ありがとうございます。

読んでいただけて、とても嬉しいです!

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