22. お兄様がやってきました
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治療院は今日も忙しい。
といっても、疫病の流行が落ち着いた今、来る人は大半が無駄話やら差し入れを持ってきてくれる人なのだが。
無駄話も、大半がジョーと私との恋愛話となっていた。
「アンちゃん、結婚式はいつなの?」
なんて聞かれるが、正直そんな話は上がっていない。
プロポーズもされていないし……だけど、ジョーは私のことが好きなのだ。キスもした。そう思うと顔が真っ赤になってしまうのだった。
ジョーとの結婚にはまだ障害があるが、ジョーの言う通り本当に何とかなるのかもしれない。
「ジョセフ様があんなににこやかなのも、アンちゃんがいる時だけだからね」
女性が言う。
「この前、街でジョセフ様が女性に話しかけられていて、ジョセフ様すごく冷たい顔をしていたよ」
「……え?」
「ジョセフ様がアンちゃんにあんなに優しいから、人が変わったんだと思ったんだろうね。
でも、結局ジョセフ様はジョセフ様だった」
そうなんだ……特別扱いをされて申し訳ない気持ちでいっぱいだが、内心安心でもあった。ジョーは本当に私だけを見てくれているのだと思って。
そして、ジョーを思うだけでまた胸がきゅんと鳴るのだった。
こうやって時間が過ぎて昼前……
「アンちゃんのおかげで腰の痛みがすっかり良くなったよ。ありがとう」
「いえいえ、お元気になられて良かったです。
しばらくは毎日湿布を貼ってくださいね」
患者を送り出した時、門の前に鎧を着た男性を数人見つけた。鎧を見るとビクッとしたが、この前の黒い騎士とは違う鎧だ。兜は被っておらず、手に持っている。
そしてこの男性たちの周りには辺境伯領騎士団も集まっており、話をしているのだ。お互い穏やかに話をしており、トラブルになっているようには見えない。一体どうしたのだろう。もしかして、辺境伯領騎士が鎧を着ているだけなのだろうか。
不安になった私のほうに、足を引きずりながら歩いてくる男がいた。私と同じような赤毛と赤い瞳で、肌はほんとのりと白い。背が高く、どことなく懐かしい雰囲気がある。
彼は煌びやかなスーツを着ており、ひと目で貴族だと分かった。貴族の中でも、すごく身分が高い人だろう。
彼は私の前で立ち止まり、
「アン!」
目を潤ませて私を呼ぶ。
「……え?」
こんな人のこと、私は知らない。そして、私の名を知る高貴な人は、王宮関係者だろうか。王宮と思うと背筋がゾゾっとした。私はどこかの侯爵から指名手配されているらしいし、この人も私を捕らえるために来たのだろうか。
そして、こんな時に限ってジョーがいなくて、心細く思う。
「アン!一目見て君だと分かったよ。
……大きくなったなあ!」
彼は泣きそうに顔をくしゃっとして、私を見る。そのまま足を引きずりながらよたよたと私の前まで歩き、頭をくしゃっと撫でる。
少なくとも敵意は無さそうでホッとするが、本当に誰だろう。不思議に思う私の前で、彼は泣きそうな顔のまま告げた。
「アン•ポーレット。僕は君と離れてから、君のことを考えなかった日はなかった。
君は王宮に拾われて、何をしているのだろうか。嫌がらせは受けていないか。ずっと心配していた」
彼は私の頭に手を置いたまま、信じられない言葉を吐いたのだ。
「君は僕のことを覚えているか?
……僕は、君の兄のヘンリー•ポーレットだよ」
……え!?兄って……
「お兄様!?」
目を見開いて彼を見る。すらっと背の高い彼は、私によく似た顔で幸せそうに笑っている。
私は小さい頃に両親が亡くしたため、家族の記憶がほとんどない。兄がいたことは知っているが、兄の顔すら覚えていないのだ。それが、こんなに優しくて穏やかそうなお兄様だったなんて!しかも、一般的に見ると美形の部類に入るだろう。
「アン……、会いたかったよ。
この街のジョセフ騎士団長がアンがいることを教えてくれて、僕はいても立ってもいられなくなってすぐに来たんだ」
「ジョーが……?」
そういえば、ジョーが私の兄に手紙を書くだなんて言っていたことを思い出した。ジョーはきっと、天涯孤独の私の寂しさを紛らわそうとしてくれたのだ。お兄様に会えたことも、ジョーのおかげだ。
ジョーを思うと胸が熱くなる。
お兄様は目を細めて私を見て、手を伸ばす。私はその腕の中に飛び込んでいた。
ジョーにも同じことをされたが、ジョーの腕には飛び込めなかった。それは、ジョーに恋情を抱いているからだろう。ジョーに触れるだけでおかしくなってしまいそうな私だが……お兄様の腕の中は、懐かしい思いでいっぱいになる。ようやくこうやってお兄様と会えて、胸が張り裂けそうだ。
「アン……本当に大きくなったな」
懐かしむような柔らかい声。
「アン。辛い思いをさせてごめんね」
こうやって、お兄様との再会に胸を打たれていると……
「何をしている!!?」
不意に大好きな声が聞こえた。その声を聞くと、胸がきゅんと甘い音を立てる。
私はお兄様に抱きしめられたまま、顔を上げた。すると、目の前には頬を染めてこっちを睨んでいるジョーの姿が見える。それにしても、ジョーはすごく怒っている。めらめらと怒りの炎が見えるほどに。
「あっ、あのね、ジョー!」
私はお兄様に抱きしめられたまま、慌ててジョーに告げた。
「ヘンリーお兄様が来てくださったの!ジョーが呼んでくれたんでしょ?」
「お兄様……!?」
ジョーははっと我に返ったように私たちを見た。
「そうか……ヘンリー様は、わざわざこの地まで来てくださったのか……」
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