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20. 彼と甘々デートに行きます




 今日は治療院の休診日だ。


 休日といってもすることがなく、仕事をしている日のほうが楽しい。だが、疫病も落ち着き平和が戻ってきたため、毎日治療院を開けなくても良くなったのだ。


 ソフィアさんも働き詰めで体調を崩していたし、今日はたっぷり休暇をとって休もうと思った。

 ……が。今までずっと働いていた私は、急にできた休みで何をしようか迷ってしまうのだった。


 街の中を散策しようかな。それとも、少し離れた湖なんかに行ってみるか。だけど、黒い騎士のことを思い出した。私はきっと、市内中心部でおとなしくしているほうがいいのだろう。


 私は気付いていなかったのだが、どうやらジョーの指示によって護衛が付けられていたらしい。治療院の前にいる騎士だけでなく、私の邪魔にならないように、離れたところで騎士が見守ってくれていたようだ。


 といっても、あの日以降不審な人は見ていないし、領地の騎士団が街をしっかり守っているからだと思う。


 朝食を食べ、家の掃除をし、それでも時間を持て余すから薬草園にでも行こうかと思い始めた時、家の呼び鈴が不意になった。


 急な来客で飛び上がる私。

 休日に、一体誰だろう。急患かな?それとも黒い騎士……?

 怖くなった私は、そっと覗き穴から外を見た。すると……


「ジョー!!」


 彼の姿を見た瞬間、嬉しくなって扉を開けていた。


「ジョー!こんな時間にどうしたの?仕事は?」


 いや、仕事があっても、ジョーはいつも私のところに来るのだが。


 だが、目の前のジョーは、いつもの隊服姿ではなかった。いかにも高価なスーツに身を包み、頬を緩ませて私を見ている。

 スーツ姿のジョーも、紳士でとてもかっこいい。目の保養になるし……ドキドキする。こうやって甘い瞳で見られるだけで、私は体の力が抜けてしまうのだ。


「今日は休みを取っている。

 せっかくのアンの休日だ、一緒に過ごしたかった」


「ジョー……でも……」


 慌てる私は、真っ赤な顔で告げる。


「私っ!こんな普通の服しかないし、ジョーと並んで歩くのが恥ずかしい!」


 この家に置いてあった服は、おそらくセドリック様が私用に準備をしてくださったものだろう。その服にケチをつけるつもりは全くないが……でも、かっこいいジョーを見ると、卑屈になってしまう。


「そんなこと気にしなくていい。必要なら、俺が服でも何でも買う」


「そんな……ジョーにそんなことさせたら、私がジョーをいいように使ってるって言われるし……」


「アンを侮辱する奴は、俺が許さない」


 ジョーはそんなことを言うから、ジョーには何も相談出来ないな、と思う。ジョーは例外無しで、私を苦しめる人を排除してしまいそうだから。

 

 ジョーは優しい目で私を見て、そっと頬を寄せた。ジョーの頬と私の頬が触れ、ぼっと熱を持つ。そしてそのままぎゅっと抱きしめられた。


 このまま流されてはいけないと思い、


「じ、ジョー!!」


 努めて元気に振る舞う。


「あっ、あのね!私、オストワルの街をもっと知りたいの!


 今まで忙しくて、ほとんど治療院と家の往復だったから」


 ジョーは私の体をそっと離し、熱っぽい瞳で私を見る。そして、甘い声で告げた。


「俺はこの家で、一日中いちゃいちゃして過ごしてもいい。

 だが、アンがそう言うならそうしよう」


 ホッとしつつも、ジョーがまたとんでもないことを言ったことに気付いた。


 一日中いちゃいちゃして過ごすなんて……もしかしてジョーはあらゆることをすっ飛ばして、そのつもりで家にやって来たの!?


 真っ赤な顔の私を見て、ジョーは面白そうに笑う。


「冗談だ。街で、必要なものは全て買ってやる」


 いや、冗談には聞こえないんだけど……私は真っ赤な顔で頷いた。





 それから、ジョーとオストワルの街を歩いた。


 通り過ぎる人が振り返り二度見をするが、それにはもう慣れてきた。また騎士団長がアンにべたべたしていると思われているのだろう。恥ずかしいが、諦めの境地に達している。


 そして、ジョーは尻尾を振る犬のように私に擦り寄り、嬉しそうに見下ろすのだ。美男の笑顔の破壊力は凄まじく、どきどきして顔が真っ赤になってしまう。だから、ジョーから目を逸らしている。


 ジョーは、服の店やらアクセサリーの店やら、たくさん私を連れて回った。そして、可愛いとかいいねとか反応したものを、全て買ってしまうのだ。一体いくらかかっているのだろう。だから、必要以上に反応しない作戦を取ることにした。



「結婚したら、毎日がこんな生活なのか」


 ジョーがしみじみと言うが、


「だから……結婚出来ません」


 私は苦し紛れに答える。


 ジョーが私に好意を抱いてくれているのはよく分かるが、身分というどうしようも出来ない障害だってあるのだ。


 私がジョーと結婚するためには、本当に駆け落ちしなければならないだろう。そして、ジョーがこの地を去るということは、この地の混乱を意味する。私情で多くの人々を苦しめるのは、さすがにいけないと思った。


 それなのに、


「どうしてだ?」


ジョーはなおも不服そうに言う。


「俺と結婚したら、絶対に大切にする。一生尽くす」


 そんなこと言わないでよ、ますます離れられなくなってしまうから。


「でも……ジョーは騎士団長だから……貴族だから……」


 身分云々の話だけではなく、凄まじく価値観も違うだろう。現に、ジョーはこうやって私のために浪費しまくっている。

 

 ジョーは大量に買った袋やら箱やらを抱えて店を出る。ジョーはこんなにたくさん持っているのに、私は手ぶらだ。


「ジョー、私も持つから!」


 慌てて駆け寄るが、


「アンは黙って俺に甘えてろ」


ジョーはまた甘いことを言う。


「アンに荷物を持たせるなんて、出来るはずがない」


 ほら、こんなところも価値観が違うのだろう。ジョーは騎士という言葉がぴったりな紳士だから。


 おまけに、


「そこにいる男に、アンの家まで運んでもらおう」


 なんて言って、自分の部下である騎士に、私用を押し付けている。意外とタチが悪いのだ。




いつも読んでくださって、ありがとうございます!

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