18. 第一騎士団宿舎にて
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ここはオストワル辺境伯領、第一騎士団宿舎。
騎士団長ジョセフは、騎士団の者と友人のセドリックを集め、アンの話をしていた。
始終真面目な顔のジョセフを、セドリックは笑いを浮かべて見ている。そして、とうとう我慢が出来なくなって告げた。
「ジョー。君がアンにどっぷり浸かっているのは知ってるよー。
町中で噂になってるもん!」
その言葉を、騎士たちは半笑いで聴いている。
騎士たちも、最近のジョセフのアン狂いには大変驚いている。剣だけが友人だった孤高の騎士が、こんなにも一人の女性にのめり込んでいるなんて、信じ難いものがあった。
最近のジョセフといったら、見回りだと告げて、度々治療院に行っている。朝から水撒きをしたり、掃除をしたり。メイドかと思うほどの奉仕ぶりだ。
半笑いの騎士たちに、ジョセフは大真面目な顔で告げた。
「アンが国王殺害の罪を被っている。
これは、どういうことか、誰がアンを悪人に仕立てたのか、俺は知りたい」
「団長……それを知って、まさかその犯人を殺す訳じゃないですよね?」
少しびくつきながら告げた騎士に、ジョセフは相変わらず真顔で言う。
「ぶっ殺す」
冗談じゃない……これは本気で言っていると、誰もが思った。
厳しい顔のジョセフに、まあまあとセドリックは言う。
「まさかアンが王宮薬師だったなんてねー。それに、アンが殺害なんてするとは信じられないけどねー。
でも、アンのことにジョーが首を突っ込むことはないんじゃない?」
「首を突っ込むに決まってるだろ」
ジョセフは自分の前の机をガンと叩き、宿舎の中には鈍い大きな音が響いた。それで、騎士たちも皆驚いてしまう。
わーお!とセドリックは大袈裟に驚いたふりをした。
「アンを苦しめる奴は、誰だって俺は許さない。
この地にアンをとどめておくのも、この地の者全てにおいて悪いことはない」
「確かに、ジョーを死の淵から呼び戻し、街の疫病を止めることは、アンにしか出来なかっただろうけどねー。
それにね、ジョー……」
セドリックは、急に真剣な面持ちになって、彼に告げた。
「アンが王宮薬師だったのなら、アンは平民の子供ではないと思う。
王宮薬師には、それなりに地位がある人しかなれないと思うよ?
アンには、ジョーが知らない秘密がまだあるはずだよ」
「……そうだ。俺もそこが引っかかっている。
だから俺は、アンの出生について調べるよう指示した。
それと、アンには極力気付かれないように、護衛を付けることにした」
「そうだね、変な奴がうろついているみたいだし」
ジョセフの想像通り、オストワル辺境伯はアンを守ることに同意した。それは、最強の騎士団長ジョセフの命を救ったり、街の疫病を止めたりと、オストワル辺境伯にしてみても恩があったからだろう。
すぐにオストワル辺境伯領の住人には、薬師アンについて箝口令が敷かれた。
そして、騎士団の見守りも一段と厳しくなったのだ。
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