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17. 誓いを立てられました

ここまで読んでくださって、本当にありがとうございます!






 休憩時間になり人がいなくなった治療院の二階で、私はジョーとソフィアさんに話をした。


 静かな治療院に、私の声が響いていた。



「私は小さい頃に両親を亡くし、顔も覚えていない兄とも引き裂かれ、王宮で薬師として働き始めました。


 王宮の暮らしは不自由なく、素晴らしい師匠や優しい仲間にも恵まれ、充実した日々を送っていました」


「えっ!?それじゃあ、アンちゃんは本当に王宮薬師なの!?」


 ソフィアさんが赤面した顔で、目を輝かせて聞く。私は頷いて、謙遜した言葉を付け加えた。


「下っ端の王宮薬師でした……」


 ジョーをちらりと見る。ジョーは何も言わず、ただ椅子に腰掛け、私の話を真剣に聞いている。


「ある日私は、身に覚えのない罪をかけられました。国王に毒を盛ったという……」


 この事実を告げるのが怖かった。ジョーにも、ソフィアさんにも嫌われると思った。だが、二人ともむしろ私に同情するような表情をしており、それを見てホッとする。


「私は王宮を追われ、助けてくれる親族もおらず放浪しているところ、倒れているジョーを見つけました。


 それ以降は、ご存知の通りです」



 ジョーが何も言わないことに不安を覚える。悲しそうな顔こそしているが、心の中でどう思っているのかすごく気になる。


 まさか幻滅されたりは……していないよね?


「ジョー?」


 思わず声をかけると、彼はさらに泣きそうな顔をしたのだ。最強だと言われるジョーの、こんなに辛い顔を見たことがある人はいるのだろうか。



「アン……辛かったんだな」


 予想外のその言葉に、私は固まってしまう。


「今まで一人で隠して、耐えてきた。


 だけど今は違う。俺だって、ソフィアさんだっている」


「うん……」


 その温かい気持ちが嬉しい。私は追放されてもいいような人間なのに、こうやって頼ってもいいだなんて言われると……迷惑をかけると分かっているのに、頼りたくなってしまう。


 ジョーが優しい笑みを浮かべ、そっと髪に触れる。例外なく、どきんとする私。



「アンは、これからもこの地にいたいか?」

 

 すがっては駄目だと思う。だけど、こうも甘い言葉と態度で示されると、抵抗すら出来なくなってしまう。


 私は、こくんと頷いていた。そして告げる。


「王宮の中は安全だけど、同じ毎日の繰り返しだった。

 豪華な宮殿に、広い治療院。街も整然としていて、人々はただ忙しなく過ごしている。


 でも、ジョーと旅していた時、毎日がこんなにも楽しくて刺激的なのだと初めて思ったの」


 交代で見張りをして、眠っているジョーを見てときめいた。

 ジョーが捕った鳥の肉は、頬が落ちるほど美味しかった。

 無駄話をしながら歩いた道。雨上がりの虹。山から見下ろした絶景……


 どれもこれも初めての体験で、私が知らない世界がこんなにあることに驚いた。


「この街に来てからも、みんな優しくて、距離が近くて、お節介で……

 私なんかを慕って顔を出してくれる人とか、ケーキを持ってきてくれる人とか……


 今日だって、ジョーの呼びかけでみんなが私を守ってくれた。


 私は、この街が好き。オストワルに、これからもいたい」


「そうか……」


 ジョーは目を細め、心底嬉しそうに笑う。愛しいジョーの故郷は、私にとって桃源郷だったのだ。


 ジョーが好き。オストワルが好き。私は、初めて自分の居場所を見つけたのだ。


「アン……」


 ジョーは立ち上がり、私の前へと歩み寄る。そして、私の手をそっと握る。そのまま、片膝を付いて跪いた。


「アン……俺、ジョセフ•グランヴォルは、

 貴女の盾となり、剣となり、

 病める時も、健やかなる時も、……ずっと永遠に、貴女のすぐ近くで、貴女を守ることを誓う」


 握られた手にそっと口付けされる。胸がぞわっとする。


 忠誠を誓うとか、求めていなかった。ジョーの負担になることは、分かりきっているから。だけど、実際にこんなことを言われると、嬉しくて涙が出てしまいそうだ。


 私はこのままオストワル辺境伯領に、ジョーと一緒にいていいのだと思って。


 思わずふふふっと笑ってしまうと、ジョーは不服そうに私を見上げる。そして、幸せそうに私の手を頬に付ける。


 もうそろそろ、ジョーの気持ちを信じてもいいのかな。私は国一番の騎士に守られて、国一番の幸せ者だ。




 ふと横を見ると、ソフィアさんが真っ赤な顔をしてどこかに行こうかそわそわしていた。こうやって、いつもジョーの世界に巻き込まれ、ソフィアさんに恥ずかしい思いをさせてしまっている。いや、私だって正気に戻ると、顔から火が出るほど恥ずかしい。


 思わずジョーの手を振り払い、立ち上がった。真っ赤な顔をしながら。


 こんな私を


「アン」


ジョーは甘く切なく呼ぶ。平静を装って彼を見るが、彼に絆された私は酷く真っ赤でヘナヘナした顔をしているのだろう。


 だけどジョーは至って普通だ。この人はどうしていつもこうも普通なのだろう。


「俺は今からオストワル辺境伯のもとへ報告に行く。

 ……大丈夫だ。領地を挙げて、アンを守ってもらおうと思っている。


 セドリックもいるし、分かってくださるだろう」


「……え?」


「辺境伯も、アンを手放したくないだろう。

 アンのおかげで、この地の疫病が治ったから」


 ジョーは私の髪をそっと撫で、マントを翻して治療院から出て行った。私はジョーがずっと出て行った扉を見ていた。頬を真っ赤に染めて、胸をドキドキ言わせて。 


 私はいつの間にかジョーにどっぷり浸かってしまって、もう離れられないようだ。




いつもありがとうございます。

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