第5話 侵入者
「先生ってえこひいきだったんっすね」
「何だ急に……」
しばらく学校を休むことになるので、グラウンドで一人修行するミーアに遅れを取り戻すための宿題を持っていったのだが、嫌がらせと判断したのかポイっとその場に捨てた。
贔屓して徹夜で頑張って作ってあげたのに。
「どうして私は連れて行ってくれないんっすか? 修学旅行は皆で楽しむイベントだって聞きました」
「どうしてって……、見た目の問題?」
ぷくーとミーアは頬を膨らませた。
「確かにモモッペは可愛いっすけど……、伸びしろなら私だって負けてないもん」
ミーアはそう言って自分の胸を揉む。そういう見た目じゃないんだけどな。
「何? 君も向こうの世界に興味あるわけ?」
「私はただモモッペのことが心配なだけっす、モモッペは故郷でいじめられてそうっす。そのせいか自分のことを語りたがらないし、私と違ってわがままも言ったりしません。そんなモモッペが向こうの世界に憧れるのは、きっとここから離れたいから。せっかく友達になれたのにそんなの寂しいじゃないっすか……」
モモが現実世界での暮らしに憧れを抱こうと、住民票を移すのは現実的ではないのだが。友達を想う気持ちは伝わったので、同伴者として注意して見ておくように約束した。
出発の日、迷いのない目をするモモに、俺の言うことを絶対に守るように再度約束させ、異界の扉を開ける南京錠を開いた。転移する場所のイメージがないとどこに飛ばされるか分からず、分断される恐れがあったので、不本意ながら結菜と一緒に撮ったプリクラを彼女に見せた。
事故防止のため、周辺に人がいると扉は開かないように予めプログラムされているので、潜入するところを目撃される心配はなかったが、犯罪に手を貸しているだけに異様な緊張感があった。
「制服のままだとなにかと目立っちゃうから、とりあえず、服を買いに行こうか。こっちの流行とか分からないだろうけど、まあ、自分が可愛いと思うものを選べばいいよ」
その前にプリクラを撮ってみたいというので、先生と教師という関係でありながら、カップルのように男女でプリクラを撮ってしまった。目が大きくなった自分の姿を見て、彼女はこれが最先端の科学技術かと興奮していた。
せっかくショッピングモールに来たので、彼女の希望を優先して少し遊ぶことにした。モモにとっては見るもの全て新鮮に映ったみたいで、あれなんですかこれなんですかと質問攻めにあった。女性の買い物は長いと言うが、気になったものを片っ端から試着するものだから、服を選ぶのにもかなりの時間がかかった。
楽しそうだから別にいいんだけどさ。
可愛いは人類共通認識なのか、モモは桃色のカーディガンにベージュのスカートという若者らしいチョイスをした。
犯罪臭も軽減されたところで、この国ならではの食事をしたいというモモを俺は回転寿司店に連れて行った。彼女は回るお寿司を見てさらにテンションが上がった。
「どう、こっちに来た率直な感想は?」
「私、こんなに騒いで周りに怪しまれてないですかね? それだけが心配です」
「まあ、目立ってはいるかな……」
髪色が派手なのでそのせいかと思ったが、好奇の視線と言うよりも性的な視線を感じるので、単にこの子が美人だからだと気付いた。しかし、彼女にその自覚はないようだ。
「次はどこに連れて行ってくれるんですか? 私、電車とやらに乗ってみたいです」
予定では先に彼女を自宅まで案内し、一通り用事を済ませるまでそこで大人しくしてもらうつもりだったのだが、目立ってはいても、怪しまれてはいないようだし、今日はとことん彼女に付き合うことにした。
*
俺たち運び屋には三か月毎にノルマが課せられ、成果を本部に報告しなければならない。ノルマを達成しない者にはペナルティが発生し、最悪の場合、本部に鍵を没収されてしまうことも。
しかし、魔力を持った人間はこっちでは希少。人手が足りなくなっては困るので、魔力の低い者には救済処置が用意されていて、ノルマ以上の働きをした者にはボーナスが出る。
異世界では常に死のリスクが付きまとうので、大半はノルマを達成するとこっちに戻ってくる。魔法が使いたくてこの仕事を選んだ人間は、ダンジョンに潜ってモンスターを狩るよりも、この施設内にある仮想空間を使って模擬戦をするほうが楽しいと次第にサボりがちになる。三か月に一度しか帰らない俺のような人間は稀だ。
そういう俺も自分の目的を優先しているので、真面目に働いているかというと微妙だが。
本部にあまり顔を出さない物珍しさか、ここに来るといつも模擬戦を申し込まれるのだが、鍵狩りのせいなのか建物内はピリピリしていた。
手続きさえ終わればここに用はないと帰ろうとするも、話があると武市に呼び止められた。鍵狩りの件でこっちに帰ってきていたようだが、何か進展でもあったのだろうか。
「悪いな、こっちに帰ってきてまで」
「別にいいけど。場所まで変える必要あったんか? 話の内容はおおよそ見当つくけど」
武市の希望でドーナツチェーン店に移動したが、調理実習の成果を先生に見せたいと、帰ったらモモが夕飯を作って待ってくれているので、俺は飲み物だけを注文した。こっちに戻ってきて三キロ太ったという彼だが、一個くらいなら大丈夫とドーナツを注文した。
「公には出来ない話なんでね。どうやら異世界人がこっちの世界に侵入しているらしい」
「え……」