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転移者の教え子  作者: 塩バター
第三章
30/51

第26話 追憶のダンジョン2

 シドの言うことは正しかったようで、二階層目から難易度がぐっと跳ね上がる。仲間と分断される仕掛けが転移装置に組み込まれていた。


 薄暗い上に迷路のような造りになっていて、突き当たりを右に行くか左に行くか迷っていると、突然、右側の通路の明かりが灯った。危険は百も承知で明かりの正体を突き止めに行く。


 そこにいたのははぐれたばかりのモモだった。彼氏と待ち合わせでもしていたかのように、弾けるような笑顔でモモが近づいてきた。


「一人になった時はどうしようかと思ったんですけど。――良かった、先生に会えて」


 真っ先にモモと合流できたのは大きい。モモの光魔法で散り散りになった仲間を探すことが出来る。


「それが……、さっき試してみたんですが、上手くいかないんですよね。お役に立てず申し訳ないです」


「ダンジョンの中だと効果を発揮しないとか?」


「いえ、そんなことはないと思います。何だったら、ダンジョンの外からでもダンジョンの中にいる人を探知できるくらいなので」


 と言うことは、ダンジョンの仕掛けかな。 


 テトラが残した魔法の効力で探知の類が一切通用しなくなっているとシドが言っていたが、それと何か関係があるのだろうか。


 序盤とは思えない難易度に頭を抱えたくなったが、モモと一緒なので絶望的と言うほどではない。探知の魔法は使えなかったけど、モモは賢いし、戦闘面においても頼りになる存在。心配なのははぐれている三人である。シドとサトミは大丈夫だと思うけど、戦闘経験の乏しいアクアが心配だ。


 手遅れになる前に急いで合流しなくては。ここでじっとしていても仕方ないので、モモと一緒に皆を探しに行くことにした。


「ダンジョンの中って暗いんですね?」


「それはダンジョンによってまちまちだけどね。もしかして、ダンジョンに潜るの初めて?」


「私に限らず、ぺスカ人は基本国の外に出ないので」


 以前、シドがぺスカは保守的な一族と揶揄していたけど、確かに、そんな印象は受けた。モモは単純に興味なかっただけのようだが。


「けど、この動く光の玉のおかげで、真っ先に先生に会うことが出来ました」


「それ、モモの魔法じゃないの?」


「いえ、私はこれに導かれて来ただけで。どうしてだか、懐かしい感じがするんですよね」


 そう言ってモモは不用意に光の玉に触れた。すると、光が一点に凝縮して玉が割れ、中から見覚えのある代物が出てきた。


 俺は訊いた。


「それは?」


「さあ? 見た感じ、南京錠のようですけど……。これって誰かの落とし物じゃないですよね」


 真綾たち科学者が作った南京錠に似ているけど、素材は金属ではなく骨だった。


 ダンジョン攻略に必要なものなのだろうか。とにもかくにも、現在優先すべきなのははぐれた仲間と一刻も早く合流すること。モモの探知で見つけられれば良かったんだけど――。


「先生、さっきの発言撤回して良いですか。私、アクアたちの居場所分かるかもしれません。――こっちです、付いてきてください」


 迷路を真上から見ているかのように、モモは俺の手を引いて正しいルートを進んでいく。ダンジョンの守り主であるゴーレムが起動するが、俺たちの行く手を遮ることはなく、安月給の警備員のように俺たちを通してくれた。


 何が何だかさっぱりだが、おかげで無事にアクアたち三人と合流することが出来た。


「先生、死ぬかと思いました」


 目に涙をためて抱き着いてくるアクア、対抗戦で少しは自信がついたかなと思ったが、そんなことはなかったようだ。ダンジョンは命懸けだし、アクアは連れてくるべきではなかったのかもしれない。


「モモが見つけてくれたんでしょ。私の欠陥魔法と違ってマジで有能過ぎんでしょ」


「私と言うか、この光る南京錠が……」


 モモが言うには女性の声が聞こえたとのこと。


「声が聞こえたってのは頭の中にってこと? 俺は女性の声なんて聞こえなかったけど……」


「すみません、表現がふさわしくなかったかも。こうしなきゃってのが分かったというか。一時的に身体を支配されている感覚があって、なんて説明したらいいのか分からないです」


 科学でも魔法でも説明できないような怪奇現象に、アクアはなにそれと気味悪がる。


「さっさと捨てちゃいなよ。そんな不気味なの……」


「物は試しだ。開けてみろよ」


 アクアとシドで意見が食い違う。


「先生、開けてみてくれませんか?」


「俺が?」


 どちらかというと、俺はアクアの意見に賛成なのだが。多数決により開けてみることに。それは決して開けてはならないパンドラの箱だったようで、落とし穴の罠が作動する。


 落ちた先は楕円形の闘技場だった。


 柵が上がりモンスターが放たれる。現れたのはトロル二体とミノタウロス一体、雑魚敵も合わせると計二十体にも及ぶ刺客。


 勘弁してよーとアクアが俺の背中に隠れる。アクアに妙な対抗意識を燃やしていたモモだったが、ここは学級委員として冷静な判断を下した。


「先生はアクアのことを守ってあげてください」


 デカブツはシドとサトミに任せて、モモには二人のサポートに徹してもらう。俺はアクアを守りつつ遠距離から雑魚敵の相手を。生徒に難敵を押し付けるような形になってしまったが、これがもっとも安全な戦い方だと思う。


 目覚ましい活躍を見せたのはサトミだった。対抗戦では自ら損な役回りを請け負ったが、やはり彼は頼りになる存在だ。対抗戦では良いところなしだったシドも実力は本物。攻撃速度の速い風属性の魔法で、動きの遅いトロルに反撃の隙すら与えない。


 彼らの実力はもはや疑う余地なしだけど、モモの光の加護によるサポートも大きい。光の加護は攻撃力と回避力を高める魔法で、使い手の魔力が高ければ高いほど効果を発揮する。欠点としては光の加護を使っている間は、他の魔法が一切使えなくなるところ。サポートに徹する必要がないくらいモモは強いけど、先のことも考えた場合、モモとアクアの魔力は温存しておいたほうが得策だ。


 きりがないとシドは空気を凝縮させ、爆発を引き起こす。風魔法はミーアも好んで使う万能属性だけど、死線をくぐり抜けているだけあって、技の練度は彼女よりも高かった。


 対抗戦でモモが彼に完勝できたのは、相性の良い属性で彼の強みを消せたことが大きい。余計なお世話かもしれないが、南京錠を使いこなせるようになれば属性の選択肢も増えるし、持ち前の魔力量で他を圧倒できると思う。


 彼の実力を疑っていたアクアも。


「あんた、やれば出来るんじゃん。口先だけの雑魚だと思ってたけど」


 その首はねるぞとシドが半ギレで睨みつける。


「で、どうするんだ?」


 どうするってと俺は訊き返した。


「おそらく、これが何度も繰り返される。大量の魔力を消費して安全策を取るのか、手負い覚悟で魔力を温存しながら戦うのか」


「なんだかんだあんたも先生頼りなんじゃん」


「俺が頼りにしているのはコイツの空間魔法だ。勇者にしろ、邪龍にしろ、コイツがいなければ勝てないからな。そういう意味では信頼している」


 買いかぶり過ぎだが、生徒の命を預かっている以上、教師である俺が弱音を吐くわけにはいかない。


「魔法無しでもやれるサトミを軸に戦おう。俺がワープマーカーを周辺に設置していくから、サトミはそれを駆使してモンスターの不意をつく。モモは今まで通り光の加護でサポート。君も基本は今まで通りの戦い方で構わないけど、なるべく敵の注目を集めてサトミが動きやすいように立ち回ってくれると助かるかな」


 またしても損な役回りを任せることになるが、彼ならやってくれるはずだ。俺の判断をどう思っているのか分からないが、不満があれば言っているはずなので、刀を鞘に収めないのは了解のサインと受け取っていいだろう。


 第二の刺客はワーウルフ五体と、ケルベロス一体。


 俺はアクアを守りながらワープマーカーを設置する。俺が設置したワープマーカーを駆使しながら、サトミはモンスターの死角を的確に取っていく。さらに光の加護のバフで上昇した彼の素早さに、モンスターたちはついていけない。


 第三、第四、第五、刺客は次々とやってくる。


 ゲームだと敵のレベルはどんどん上がっていくが、そんなことはなく安心していると、今までの敵とは格が違う大ボスが空から現れた。


 龍の咆哮で地面が揺れる。後ろにいるアクアは言葉が出ないくらい圧倒されていて、足をガタガタ震えさせていた。怯えているアクアには悪いが、その圧倒的な存在感に俺はピンチであることを忘れ、完全に見入ってしまった。


 邪龍の攻撃は口から黒い炎を吐いたり、翼で風を起こして毒を地上に充満させたり、身体を回転させて突進してきたりとやりたい放題。周囲に充満させた毒で相手の魔力を奪い、さらに属性を取り込むことが出来る。取り込めるのは基本魔法だけでなく、モンスターの残骸から奪った闇属性と俺から奪った空間属性を混ぜ、巨大なブラックホールを発生させる。


 全てを飲み込み、光すら脱出できない上限魔法。


 初動は様子見のつもりだったけど、このままでは全滅なので、俺は地面に巨大なワープマーカーを生成し、仲間全員を建物の中に転移させた。


 建物の中も安全と言うわけではなく、ブラックホールの重力に耐え切れず崩れていくが、魔法の及ぶ範囲が広いだけに大量の魔力を消費する。持続時間は一分あるかないか、それまではここで待機し、作戦を立てることにした。


「もうやだ、帰りたい……」


 心が折れかけているアクアにシドは。


「泣き言言ってないで仲間の傷を癒せ。何のためにお前をここに連れてきたと思っている」


「あんたはもっと仲間をいたわれないわけ?」


 ブツブツ文句を言いながらアクアは、毒を受け状態異常になった仲間を再生魔法で元通りにする。


「勝てそうですか?」


 不安そうにモモが訊いてきた。


「なんとかなるんじゃないかな」


 さすが先生ですとアクアに笑顔が戻る。倒せるとまでは言ってないんだけど。どちらにしろ、戦う以外の選択肢はないので、自信満々に言ってもよかったかもしれない。


 攻略法が分かってなかったらきつい相手だったが、勇者様の伝記で龍の倒し方は分かっている。ここには光魔法を操るモモもいるので、彼らの戦い方もある程度取り入れることが出来る。


「で、その攻略法とは?」


 シドの問いに俺は答える。


「うろこだよ、あの硬いうろこをはいでしまえば、こちらの攻撃が通るようになる。ここにいるメンバーは魔力が高いし。皆が役割をきっちりこなせば勝算は十分あると思うよ」


 言うは易く行なうは難し。相手が相手なので一つのミスが死に直結する。そうならないためにも、俺は一人一人に指示を与えた。


「シドはなるべく龍の注意を引き付けてくれ。さっきの奴らとはわけが違うとは思うけど、一瞬でもいいから隙を作ってくれると助かる。モモはここから別行動。俺が空間魔法でやつのうろこをはがすから観客席からそこを撃ち抜く。とどめを刺すのはサトミだ。むき出しになった身の部分を魔力を帯びた剣で刺す」


 申し訳なさそうにアクアが手を上げた。


「あのー……、私は誰に助けてもらえば?」


「邪龍の弱点となる部分は喉元。あそこは奴が魔力をためているところで近づくのも危険だ。勇者様には闇属性の魔法があったから、毒気を取り込みながら近づくことが出来たが、俺には邪龍に近づく手段はあっても、自分の身を守る術はない。だから、君を背中に担いで再生魔法で毒を無効化しながら邪龍に近づく。この場合の最善策は話した通りだよ。どうする? 決めるのは君だ」


「うー……、先生は本当にずるいです。そんな風に言われたらついていくしかないじゃないですか。私だってみんなの役に立ちたいし、先生が龍を倒すところこの目で見たいもん」


 ブラックホールの効果が消え、行動を開始する。


 この相手に魔力の温存なんて言っていられない。うろこをはがすまでこちらの攻撃が通ることはないが、攻撃は最大の防御であると信じ、上級魔法で敵をけん制する。


 テレポートで一気に間合いを詰めることも出来るが、扱いの難しい空間魔法を連続で使えば、脳の処理が追いつかなくなって精度が落ちていく。身体の一部であるうろこをはがすには相当の魔力と集中力が必要になるので、出来ればそれまでは基本魔法で乗り切りたい。


 シドが上級魔法で龍の注意を引きつけている隙に、俺は土属性の魔法で足場を作り、テレポートを使わずに龍の弱点である喉元まで到着し、空間魔法で龍のうろこをはがした。早くも王手をかけた俺はお役御免と龍から飛び降りた。


 観客席の上段からモモが光魔法でむき出しになった身の部分に弾丸を放つも、そりなりに知能もあるのか、大きな翼で防がれてしまった。


 背中で戦況を見守っていたアクアが訊いてきた。


「近距離からじゃないと当たりませんかね?」


「当たらなければ無理やり当ててしまえばいい」


 アクアを下ろしてモモに合図を送る。俺目がけて放たれた光魔法を邪龍に近づいた時に設置しておいたワープマーカーに飛ばし、本来当たるはずのない攻撃を無理やり当てた。


 邪龍の魔力を奪うことに成功したので、今度は氷属性の上級魔法である吹雪で身体の自由を奪う。


 邪龍に止めを刺すのはサトミの役目だ。闇属性相手には物理攻撃のほうが有効、剣を邪龍の喉元に突き刺して息の根を止めた。

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