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転移者の教え子  作者: 塩バター
第三章
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第25話 追憶のダンジョン1

 隠しダンジョンと言うだけあって、自力では見つからないような仕掛けが施されていた。以前、移転先を求めてモモと視察に行った峡谷には白い切り株があるのだが、そこに水属性の魔法で水分を与え、太陽光ではない魔法の光を与えると、切り株は時間を早送りしたかのように見る見る成長していき、写真と同じ綺麗な桜の花を咲かせた。


 根本のウロからまがまがしい闇の魔力を感じる。どうやら、ここが入り口のようだ。ダンジョンに潜るの何時ぶりだろうとか、考える余裕がこの時はまだあった。


 シドは見張り役として仲間を二人残し、残りの二人は用済みとばかりに引き返させた。この判断に俺は疑問を呈した。


「君の仲間は連れて行かなくていいの?」


「俺の仲間を危険にさらすわけにはいかないからな。――ってのは、ただの負け惜しみになるか。ここにいるメンバーだとここは厳しいからな。短い付き合いとはいえ、仲間に死なれたらお前らだっていい気はしないだろ?」


「そんなに難しいの、ここ?」


 不安そうにアクアが尋ねた。


「ここは人によって形を変えるダンジョンだ。イアンがここに身を隠しているのなら、過去最高クラスの難易度になっているだろうな」


 追憶のダンジョンを攻略すれば、人生で一番幸せだった頃の思い出に浸ることが出来るが、ダンジョンに魂を奪われ、ここから抜け出せなくなるとのことだ。自分以外の誰かにダンジョンを攻略してもらうことで、深い眠りから目を覚ますことが出来るらしい。ダンジョンに足を踏み入れた人間は、囚われた人間の過去の怨念と戦わなければならない。


 従って、人によって形を変えるダンジョン、人柱次第で難易度も十人十色、勇者一行が歩んできた冒険譚を疑似体験させられるのなら、気を引き締めていかないと全滅もあり得る。


 勇者様がどれだけ強かったのかは知らないが、モモの成長ぶりを間近で見ているアクアが、出直しましょうと提案してきた。


 ここまできておいて引き返すのはあれだが、それも選択肢の一つかもしれない。俺は教師として生徒を守る立場にあるわけだけど、この件に関してはモモに決定権がある気がする。どうしたいか本人に尋ねてみた。


「先生が一緒なら私は問題ないと思います。私が心配なのは後でミーアにグチグチ言われないかってことくらいです」


 ははは……、とアクアの顔が引きつる。


「じゃあ、私はこの人たちとここで待っているので、絶対に生きて帰ってきてくださいね」


「お前はヒーラーとして貴重な戦力だ」


 付いてくるように命じたのはシドだった。ヒーラーはいてくれるだけで心強い存在だけど。


「マジで過大評価が過ぎるって!」


 ヒーラーは便利屋じゃないんだぞと抗議するアクアだったが、結局ついてくることに。お化け屋敷に来たカップルのように俺の腕にしがみつく。これだと助けようにも助けられないんだけど、非力な私はこうするしかないんです、とすがるような目で訴えてくるので、怒るに怒れない謎の状況だ。


「で、なんでモモまでしがみついてるわけ? 君は俺の助けなんかいらないくらい強いでしょ?」


「アクアばっかりずるいです」


 ずるいとかそういうことなのかな。


「おい、イチャイチャしてないで早く行くぞ」


 ダンジョン内には無数のネクロマンサーがいて、作り物には出せない恐怖を演出していた。ただ、知能があるわけではないので恐れるに足らず。


 この程度の相手に魔力を使うのも勿体ないので、物理攻撃に長けたサトミに敵を一掃してもらった。所謂雑魚だが、この敵が厄介な点は、何度倒しても時間が経てば復活するところ。その前に明かりの灯る空間まで急いで移動した。


 さっきまでビビりちらかしていたアクアだが、身の安全が保障された途端、陽気さを取り戻した。


「なんだ、全然大したことないじゃない。あんた、ちょっと話持ったでしょ?」


「ここはまだチュートリアル的なところだ。下に行けば行くほど当然難易度は高くなる。最悪勇者が敵として現れるかもしれない。運が良くても邪竜が最終ボスとして待ち構えているだろう。気を抜くとマジで死ぬぞ」


 ここはイアンの怨念が形となったダンジョン。もし、勇者様が敵として現れるであれば、彼自身が勇者様に対してそういう認識を持っていたということになる。勇者様がこっちで嫌われているのは知っていたが、旅の仲間とも上手くいっていなかったのだろうか。


 シドは双子と同じ戦争孤児とのことだが、生まれながら高い魔力を持つ彼は貴族に高値で売買され、最近まで王宮に住んでいたとのこと。そこら辺の事情にも詳しいようだ。


「最愛の人を奪われて恨んでいないのなら、それは本当の愛とは言えないんじゃないか? だが、奪い返せなかったのは己の弱さが原因だ。同情する余地はないな」


「けど、仕方なかったんでしょ?」


 アクアが会ったこともない人間の肩を持つ。


「じゃあ、国をほったらかして、ここに引きこもっているのも仕方ないで済ませるのか。あいつのせいで東の国は滅茶苦茶だ。ただ、金持ちが欲求を満たすだけの国になっている。そのせいで人生を滅茶苦茶にされた可哀そうな例がそこにいる。そうだろ、サトミ?」


 視線を送りあっていて怪しいと思っていたが、どうやら、この二人は知り合いのようだ。


「俺がコイツに魔法の手ほどきをした。言わば師だな」


「あんたを師と思ったことは一度もない」


「昔はもっと素直で礼儀正しい子だったんだがな。誰の影響だ、そこのハーレム野郎か? それとも、生田って科学者か?」


「信用できない人間に話す気はないな」


 どれくらい強くなったか見定めてやると、シドはダンジョンにいることを忘れて決闘を申し出た。貴重な魔力を使うわけにはいかないので、俺が向かい合う二人の中央に紙を空間転移させ、それを早く切ったほうが勝ちという単純な勝負で優劣をつけることになった。


 剣を扱えるサトミのほうが有利に見えるけど、属性的には風魔法を扱えるシドに分があるので、条件的には五分五分だ。


 全員でサトミを応援していたのだけど、勝負に勝ったのは風魔法を操るシドだった。当然の結果だとシドはふんぞり返る。モモにボコボコだったくせに調子に乗ってんじゃねえよ、とアクアが小声で毒づいた。


 サトミは悔しがる素振りすら見せずに剣を鞘に収めた。


「心に迷いがあるな、サトミ。俺に隠せるとでも思っているのか。お前、何を考えてる?」


「俺はただ、やるべきことをやるだけだ……」


 モモの時みたいに声をかけてあげるべきなのか、生徒によって求める対応が違ってくるので、この判断が非常に難しい。真綾に電話で無茶なお願いをされたのだろうけど、サトミは彼女のことを慕っているので俺が口を出すのも違う気がする。


 シドに言われるまで彼が思い詰めていることに気づかなかったし、俺は教師としてまだ未熟な部分が多いようだ。

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