第18話 国別対抗戦4
「南西、五キロ圏内と言ったところか? 離れすぎていて正確な位置は分からないが、上限に達したこの魔力は間違いなく奴のもの。どうする? 親子感動の再会と行くか」
「前も言ったと思うけど、あの人と私はもう赤の他人。私の居場所はそこにはないよ」
ふん、とローザは鼻で笑った。
「せいぜい仲良しごっこしているんだな。俺は行くぞ、初めからこんな戦いどうだっていい。あの危険因子をこれ以上野放しにしておけないからな。俺じゃあの男には敵わないが、後をつけることくらいは出来る。何をしようとしているのか暴いてやる」
ローザは試合を放棄して魔力を感じた南西に向かった。
この辺りは封鎖しているはずだが、自分の娘が出ていると聞いて会いに来たのか。モモは父親の記憶がないようだけど、勇者様はなぜ彼女を手放したのだろう。現実世界に帰ってきたのは目的があってのことだろうが、モモも結菜と同じ上限に達しき者の器。彼女に興味は抱かなかったのだろうか。
鍵が完成してから行方不明になった勇者様、どこで何をしていたのか俺も知りたいところだが、今は試合に集中しなくては。
「モモ」
『先生、心配しなくても、私は平気です。それより、サトミくんは大丈夫でしょうか?』
サトミはダナモと応戦しているところ。ぺスカの残党はすでにやられてしまっていて、七人もの相手と戦い、かろうじて生き残っていたが、身体はすでにボロボロの状態で、魔力も底が見え始めているところだった。
モモがフリーになるのは棚から牡丹餅の展開、今から行けば間に合うかもしれないけど。
「モモ、戦いに犠牲はつきもの。自分が逆の立場ならどうしてほしいか考えろ。お前を頼りにしてくれている人間の期待を裏切るな」
自分の苦労が水の泡になるのを恐れてか、サトミ自ら作戦に変更が加えられることを却下した。
攻撃の要であるサトミを失うことになったので、ミーアを拾いに行った三人とモモを合流させ、磐石の布陣で戦うのもありだが、後方からサポートも攻撃も出来る光魔法の強みを活かすためにもやはりモモは単独行動させ、ドローンだけ先回りさせることにした。
同胞であるアムール人を一人で倒したミーアは、幸せそうな顔でぐうすかと寝ていた。既に十分すぎる戦果を挙げたミーアだけど、彼女にはまだ暴れてもらわなければならない。
『先生、コイツ叩き起こしたほうが早いんじゃ』
ヒーラーにあるまじき発言をするアクアだが、この一か月の準備期間で切断されてなければどんな傷でも治せるようになった。何分魔力が少ないのでけがの具合によっては、一人分で魔力を使い果たしてしまうが、ミーアの場合やけどや切り傷が目立つくらいで、小程度の魔力で治癒することが出来た。
「ったく、あんたはもっと利口に戦えないわけ? 猫は賢い生き物だって聞いたけどね」
へへへ、とミーアは無邪気に笑った。
妖精がいる泉までここから遠いが、チームの柱であるミーアを復活させることが最優先。生き残っているチームの中でうちだけが消耗してしまっているので不利な状況ではあるが、ラッキーな展開もあったのでイーブンと言ったところか。
驚異的な粘りを見せていたサトミだったが、健闘むなしく力尽きてしまった。ロイドにお願いして手に入れた敵の情報を仲間に共有する。
サトミに労いの言葉をかけるか迷ったが、彼のプライドを傷つけかねないのでやめておいた。彼が望んでいるのは稼いだ時間を無駄にしないこと。
モモの探知のおかげで妖精の泉まで敵に出くわすこともなく無事に到着することが出来た。後は妖精を捕まえるだけの簡単な作業なのだが、どこからともなく現れたラビ族によって計画が破綻する。モモの探知を潜り抜けたこの魔法はテレポート、三人いるが、使用者は真ん中にいるポニーテールの男と見て間違えない。
「初めてだからか少々酔いますね。驚かせてしまったようで申し訳ございません。ラビ族のリーダーを務めさせてもらっているヒースと言います」
俺と同じ空間魔法の使い手。いや、違う。これはラビ族の王の証である複製魔法。数十年に一人しか現れないという特異体質で、本部にいたクリストファーが得意としていた魔法だ。
相手の魔法をコピーすることが出来る魔法だが、南京錠と違って空間魔法や光魔法と言った特別な魔法も使うことが出来る反面、倍の魔力を必要とするので一長一短。現にクリストファーはハズレ属性と言っていて、彼の能力を参考に作られたのが今の南京錠だったりする。
彼の話ではコピーするには一度相手の魔法を見ておかないといけないということだったが、俺以外の使い手からコピーしたのかな。過去にいたという話は聞いたことあるが。てっきり今は俺だけが使える魔法だとばかり。
ヒースは妖精を使って魔力を全回復させた。妖精は一日に一回限りという制限があるので、これでミーアの魔力を回復させることも出来なくなった。
「終わった、あんなのに勝てっこないよー」
「まだまだ、勝負はここからっすよ」
味方にはっぱをかけるミーアだったが、残念ながらアクアには届かなかったようだ。
「そうは言っても、あんたもう魔力ほとんど残ってないでしょ。ジエチルもあんたよりましってだけで、かなり魔力を消費している。私とエーテルじゃ一発逆転は無理だよ。――そうだ、先生、モモは追いつきましたか?」
「うーん、援護できる位置にはいるけど……」
待ち伏せではなくテレポートで現れたのは、おそらく、モモの探知を警戒してのこと。大量に消費した魔力は妖精で回復出来るので、万全の状態で敵を追い詰めることが出来る。どこでうちの情報を手に入れたのか知らないが、対策されていると考えたほうがいい。
『先生、残りの四人がこっちに向かってきます。私はどうすればいいでしょうか?』
まあ、そう来るわな。
これでうちの情報を持っているのは確実、探知が使えるのも間違いないが、複製魔法が使えるのはヒースだけだと考えていいだろう。テレポートする前にモモの居場所を伝えて、モモをフリーにさせないようにプレシャーを与えに行ったとすれば、ピンチをチャンスに変えられるかもしれない。
「モモは、そこで敵を迎え撃とう。罠を張って迎え撃てば、人数不利は関係なくなる。あっちのことは考えずに自分の戦いに集中すること」
『先生! まさか私たちを見捨てる気ですか?』
アクアの悲痛な叫びが無線越しに聞こえてきた。
「博打ってわけでもないから大丈夫。うちはうちのやり方で勝つべくして勝つよ。南京錠を開けられれば魔力やレベルの差を、覆すことが出来るって証明するチャンスだしね」
『それを博打って言うじゃないの!』
ヒーラーだからと言って攻撃手段がないわけではない。とはいえ、それが出来るのは上級魔法。今のアクアの魔力だと一発で限界がくるが、回復要因として残しておくよりも、ここは勝負に出たほうがいい。




