第17話 国別対抗戦3
ここでいったん状況を整理しようと思う。
一番の難敵であるぺスカの戦力を削った後、ミーアの活躍でアムールが全滅、ダナモは高所を取ろうと浮遊島を目指すような動き、情報が一切なく不気味な存在のラビは今のところ動きがない。
現在はモモの探知を頼りにぺスカを追っていて、もう少しで捕まえられそうなところだ。火力で戦況を変えられるミーアがいないのは痛いが、モモの補助があれば十分対抗できる。モモを合流させて五人で戦うのもありだが、遠距離から攻撃するほうが敵にとって脅威だろう。モモは単独で行動させたほうが活きる駒だ。
モモには探知があるので居場所がばれても捕まることはないと踏んでいたのだが、敵を捕まえる前に先にモモが捕まってしまう。
「ローザくん、どうしてここに?」
モモの目の前に立ちはだかったのは、俺たちの標的で現在必死になって追っているローザだった。
モモは現実世界で彼と再会した時よりも驚いていた。
「簡単なことだ。自分で自分に魔力封じの魔法をかけて探知できないようにしたまでだ。魔力の量で個人を特定することは出来るが、当然、魔力は使えば使うほど減っていくし、魔力を封じればその間探知されなくなる」
「でも……、一人消えれば人数が合わなくなるし、その一人は今も移動中で――」
「脱落した仲間を俺に見立てているだけだ。戦闘中は魔力が絶えず変化する。魔力の消費が激しい探知を常にするわけにはいかないし、慣れていないお前が間違うのも無理はない」
ミーアの攻撃は派手で戦場が荒れやすい。混乱に乗じて脱落した味方の一人と入れ替わり、生存している味方に担がせて移動させる。
移動しているぺスカの中で一番魔力が高い人間をモモはローザだと勘違いしていたようだが、当の本人は初めから狙いをモモに絞って、上書き魔法でジエチルの光魔法の効果を消し、上書きした魔法の効果が切れるタイミングを見計らってこっそり後をつけていたモモを捕捉する。全てはうちの戦力を削ぐための作戦。
「さて、分かりやすい講義はここまでだ。俺はここで足止めする役目なんでね。探知する限りだと警戒しないといけないのはミーアとお前くらい。ミーアが動けない今、お前さえ押さえてしまえば後は崩れていくだけだ」
すみません、と無線越しにモモが謝ってきた。
『もっと探知魔法について理解しておくべきでした』
「いや、俺も、探知に頼りっきりになってたから……」
ぺスカ族の中でもローザは別格だが、だからと言って、上限に達しき者で機転が利くモモが劣っているとは思えないので、拮抗した良い勝負が出来ると思うけど。モモの補助を失った四人は苦戦を強いられそうだ。
*
追跡を中断して四人に現在の状況を伝える。
ジエチルの光魔法の効力が切れる前に追いついて、ぺスカの残党を残らず始末して、ダナモ族とぶつかるのが理想的な流れだったが、体力を減らしただけで無駄足を踏んだ。
『全員でモモを助けに行けばよくないですか?』
もっともなことを言うアクアだったが、それを阻むようにぺスカの残党が目の前に立ち塞がる。敵の数は三人、ローザもいないし、負けることはまずないだろうけど、モモの補助がなくなって倒すにはそれなりに時間がかかる。
そうしている間にダナモ族と鉢合わせになり、一転してピンチになる可能性が高い。初めからローザの狙いはここにあったわけだ。勝負を捨てて俺たちの嫌がらせに走るぺスカ人、よほど俺たちのことが気に入らないと見える。いや、気に入らないのは国を捨て、敵国と手を組んだモモかもしれない。
鍵狩り襲撃時に手渡された本部の資料で見た感じ、ダナモ族のリーダーであるシドはかなりの強者、Aランクの魔力持ちで属性は風。うちで対等にやれるのはモモかミーアだけ、タイマンならサトミでも対抗できるかもしれないが、一対一の状況に持ち込む前に他がやられてしまっては元も子もない。
『何を迷う必要がある』
声の主はサトミだった。
『情に流されて冷静な判断が下せないとは、見下げたお人良しぶりだな。この場合の最善が何なのかお前は分かっているはずだ。あの人なら実戦でもお構いなしに命令を出すぞ』
この場合の最善策。
時間稼ぎ要因として誰か一人を囮として残し、残りの三人でモモを援護しに行く。もしくは、倒れているミーアを拾いに行き、アクアの再生魔法で傷を治した後、妖精がいる泉に移動して魔力を回復させる。どちらにしろ、囮になった人間はそこで力尽きるだろう。
今まで命令させる側の人生しか経験してこなかったので、非情な采配をすることがこんなにも勇気がいることだとは思わなかった。
『もういい。俺がやる。その代わり、助けに行くのはモモではなくミーアのほうだ。後々のことを考えたらそのほうが絶対に良いし、あのローザって男、モモにとって因縁のような相手なんだろ? だったら、自分でどうにかするものだ』
この役を担えるのはアクア以外の三人、より多くの時間を稼ぐには力の強い人間を残すほうがいい。だとすると、サトミということになるが、自分から志願するとは思わなかった。プライドが高く認めたがらないが、彼が一番ミーアの実力を買っているのかもしれない。
『先生、ローザくんのことは私に請け負わせてください。今の私なら彼と対等に戦える気がするんです』
残りの三人でモモを助けた後に、ミーアを拾いに行くという策もあるにはあるが、モモ自身がローザとの戦いを望んでいるように見えた。自分よりも他人を優先させてきた彼女がこんなことを言い出すなんて。
分かったと俺は二人の判断に任せることにした。
サトミの戦闘スタイルは魔法で敵との間合いを詰め、剣で戦うというもの。南京錠を駆使して戦えば一気に化けると思うのだが、本人的にはまだ実戦で試すほどの自信はないようだ。ルール上どれだけ倒しても得点にはならないので、サトミは攻撃に転じず守りを固めて、ダナモとぶつかるまで時間を稼ぐつもりのようだ。
ちょうどドローンも追いついたことだし、向こうは彼に任せて、モモとローザの戦いに集中しようと思う。
光と光のぶつかり合いは息をのむ攻防となった。互角の戦いを見せるモモだったが、現時点ではローザのほうが魔力が高く、同じ属性と言うこともあって徐々に押される展開に。
光魔法ではなく基本魔法を使えば、互角以上に戦えると思うのだが、ローザは彼女にとって因縁の相手、冷静さを欠いてしまっているようだ。
声をかけるべきか迷っていると、二人は戦闘中だということを忘れて会話を始めた。
「ローザくん、あなたは間違ってます」
「お前こそ、表と裏の世界が共存できると本気で思っているのか? 向こうの世界に行って一番驚いたのは科学技術ではなく人の多さだ。誰にでも自由にこの世界を行き来できるようになれば、俺たちに勝ち目はない。お前はそういう相手と手を組んでいるんだ。それがどんなに危険なことか分かっているのか?」
「そうやって何もかも決めつけるんだね。皆が皆あの人と同じだと思っていることが大きな間違い。私だって泣き虫のままじゃないんだよ。別世界の住人だろうと人は人。私は自分の存在を認めてくれた人たちのために戦います」
言葉でわかり合えなかった二人は魔法で語り合う。
感情をむき出しにして戦うモモ。負けまいとローザも応戦するが、戦いが長引くほど向こうの局面が気になってかお互い集中力をかき始める。
「さて、そろそろ勝負がついた頃かな」
ローザが探知を使って状況を確かめる。
「これは……」
二人にしか分からない何かがあるのか、ローザはモモに探知の魔法を使うように要求する。これってとモモも彼と同じ反応をした。
「感じるだろ、特別高いこの魔力、ミーアやあの地球人よりも高い、人類が到達できる最大の数値。あいつだ、あいつがこの近くにいる」




