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転移者の教え子  作者: 塩バター
第二章
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第16話 国別対抗戦2

 ローザ率いるぺスカ組は西のほうに逃げた。その方角には浮遊島を目指すダナモ族がいるが、鍵狩りにいた面子とほぼ変わらないので、一時的に手を組むことも考えて慎重に次の一手を練らなければならない。


 ぺスカの戦力を削ることは出来たが、一番厄介なローザを仕留めることは出来なかった。魔法が使えない今の内にやっておきたいが、欲を出して挟み撃ちにされるのは最悪の形だし、チームを分けるのはあまりにリスクが高い。


 魔法の効果がどれくらいで切れるかロイドに訊いてみた。


「ジエチルの魔力じゃ、五分は持たない気がしますね。モモとジエチルに協力してもらってそりなりにデータは集まってきているんですけど、法則がいまいち分かりづらいんですよね。今回は当たり方が良かったので誤差はそんなにないかと」


 うちのエース様が会話に割り込んでくる。


『先生、アムールの面々は私が請け負うんで、他の皆で逃げてるぺスカ組を追ってください。今なら確実に仕留められると思うんで』


「お前、それは……」


 かなり勇気のいる作戦だ。


 うちの勝ち筋はミーアのとんでも火力で押し切るか、モモの光魔法で戦況を優位に運ぶかしかない。サトミはタイマン向きの戦闘スタイルだし、アクアはあくまで回復要因、ジエチルとエーテルはまだ不安定な要素が多すぎる。


 代表として選ばれた生徒は高い魔力を持っているか、レベルが高く高ランクの魔法を扱えるかのどちらかで、その両方を兼ね備えた者がリーダーとして君臨すると言った感じだ。その中でもミーアのスペックはバグっているわけだが、魔力の高い人間が生まれやすいアムール族は彼女以外も負けず劣らずの性能をしていて、スペックだけなら四つの国の中で一番高いまである。


 しのぎを削り合ってきたミーアが彼らの実力を一番分かっていると思うのだが、勝算もなくこういうことを言うのが彼女なので信用できない。


『国でのことは私の個人的な問題なので、ここは私を信じて、任せてほしいっす。先生が私たちを六対一で負かせたように、次期女王として実力であいつらを黙らせないといけないんっす。私は先生たちみたいに賢くないから、力で引っ張るリーダーにならないと』


 相変わらず、根拠もくそもない根性論だが、彼女ならやれるんじゃないかと思わせる力がある。それだけの才能が彼女には備わっている。自分を信じて疑わない力強い発言。これこそが彼女の強さの源かもしれない。


「先生、あいつはやるときはやるやつですよ」


 悔しいが、俺もロイドと同じ意見だった。


「戴冠式にはちゃんと呼べよ」


『先生、好きっす! 戴冠式とは言わず、結婚式をあげましょう!』


「はいはい」


 出世コースから外れた俺にとっては有難いお話かもしれないな。とにもかくにも、玉の輿に乗れるかはこの戦いにかかっている。


 罠を張る時間はなさそうだったので、王女自ら下々を出迎えに行ってもらった。ミーアが早々にやられる最悪なケースも考えてのことだ。そんなことはまずないと思うけど。


 雑草が生い茂る荒地にて両者はぶつかり合った。下々にはまだ王女様と認められてないようで、真剣勝負の下剋上が始まった。


「ミーア、お前と遊ぶのも今日で終わりだ」


「まだまだ私は遊び足りないっすけどね。楽しく遊んでやるから全員まとめてかかってくるがいい」


 それは死闘と呼ぶに相応しい戦いだった。読み合いなしの力と力のぶつかり合い、アムール族が戦闘民族と呼ばれる所以が分かった。


 『火』、『水』、『風』、『氷』、『土』、『雷』、多勢に無勢のこの状況でも、ミーアは基本となる六つの属性を駆使して互角以上に戦う。


 プロスポーツにおいて一軍と二軍で壁があるように、魔力のランクが一つ違うだけでもかなりの差がある。数で優位が取れると言っても、苦手な属性が一切ないミーアに対し、アムール組は決定的な一打を放つことが出来ない。


 爆撃だらけの荒れた展開から徐々に落ち着いた展開に。


 真っ向勝負が好きで駆け引きが苦手なミーアとしては、これは面白くない展開だったようだが、場が落ち着けば無線を通じて指示が出せる。


「どうすんの、ミーア? 持久戦になると、いくらお前でも残りの魔力と相談しながらの戦いになるけど」


『先生はあっちの戦いに集中してください。こっちは私一人で十分なので』


 ジエチル一人に追わせるわけにはいかないので、サトミ・エーテル・アクアの中衛組に合流させ、今から追いかけようとしている段階で、戦いに入るのはもう少し後になる。どちらかというと、今はこっちの局面のほうが重要なのだが。ドローンも一台しかないし。


『とにかく、口出しは無用っすから。先生が出来る采配は、生徒を信じることっす』


 攻撃の手を緩めて守りを固めだすアムール組に対し、ミーアは徹底的に力勝負を仕掛ける。先のことなんか一切考えず、魔力の消費が激しい上級魔法で攻めて攻めて攻めまくる。戦いが長引けば長引くほど動きが良くなる彼女に、アムール組はやがてついていけなくなる。


 ミーアは地面に手を付き地震を起こし、風属性の魔法を器用に操って宙に浮くと、地割れにより動きが鈍くなった敵を一人、また一人と片付けていく。俺も同じSランク認定なので、彼女の魔力が限界に近づいているのが分かる。


 しかし、誰も彼女を止めることは出来ない。敵も相打ち覚悟で魔法をぶっ放すので、格付けが完了する頃には全身傷だらけになっていた。


 片が付くとミーアはその場にぐったりと倒れこんだ。


「ミーア、生きてる?」


『先生、私は死にました。労いの言葉をください』


 本人としては燃え尽きたようだが、審判に戦闘不能と判断されなかったので。後で拾いに行くから今はそこで寝ときなと言った。アクアの再生魔法で傷を回復し、妖精の泉で魔力を回復させればもうひと暴れしてくれるだろう。

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