第15話 国別対抗戦1
「ついにこの日がやって来たっす!」
まだ試合が始まるまで一時間近くあるのに、ミーアは気合入りまくりだった。あまり勝ち負けにこだわりがなかった俺は、体育祭とかも怒られない程度にしか頑張らなかったので、このハイテンションっぷりには、ついていけそうにないが、彼女の勝ちに拘る姿勢は見習わなければならない。
試合会場を下見して分かったポイントは二つ。
まずは魔力の回復が出来る妖精の泉だ。一発逆転を狙える場所だけど、それは敵にとっても同じなので、向かうにしても状況次第となる。
もう一つのポイントは宙に浮いた島、高所を取れば戦いを有利に進められるだろうけど、うちには探知が出来るモモがいるので、そこまで固執する必要はないだろう。
試合が始まる前からガチガチに作戦を固めたところでどうせ思うようにはいかないが、模擬戦の時みたいに好き勝手やられても困るので、試合前の最終確認をテントの前で行う。
「作戦は前に話した通り、前衛、ミーア・ジエチル、中衛、サトミ・エーテル・アクア、後衛、モモという組み合わせで動いてもらうよ。指示は無線で出すからそれに従ってもらえれば」
うちはどうしても狙われやすいから、一塊になれば総攻撃される恐れがある。戦力を分散して戦うのはリスクもあるけど、モモがいてくれるおかげで敵の居場所は分かるし、無線で指示を出し連携が取れるのはうちだけだ。
少しずつ敵を減らせば勝機が訪れるだろう。
戦力として計算して良いか不安が残るエーテルだが、何時までもふさぎこむような性格でもないので、最終的には私も力になりたいと出場を直訴した。そのきっかけになったのはジエチル。俺と同じでやる気を出すタイプではなかったけど、この一か月一番努力したのは彼だ。彼は彼で自分に何が出来るのか考えているようだ。
「ぺスカ組をまずやればいいんですよね?」
ジエチルの質問に答える。
「まあ、探知が厄介だからね。そこさえ潰してしまえば戦いを有利に進められる」
「同様の理由でモモが狙われるってことですか?」
「敵がそこまでうちの情報を集めているとは思えないから大丈夫な気がするけどね。まあ、モモとアクアは出来るだけ動かしたくない駒かな」
先生私は、とミーアが手を挙げて指示を仰ぐ。
「お前は敵を減らせるだけ減らす。簡単だろ? アムール組はお前に狙いを絞ってくるだろうから、上に立つつもりなら力で示して見せろ。と母君から伝言を預かっているよ」
緊張など知らないミーアの顔がこわばる。すぐ暴走する彼女には良い薬かもしれない。
「なんか言っておきたいことある?」
真綾はあくびをしながら、
「そうね。皆も知っている通り、この対抗戦は最後に生き残ったチームが勝つサバイバル。狙われやすいうちは当然不利。他がつぶし合ってくれればうちにも勝ちの目がでてくるけど、そんな甘い考えでは絶望を希望に変えることはできない。では、どうすればいいか。答えは簡単。全員私たちでぶちのめしてやればいいのよ。やるなら完全勝利を目指そう」
ためになるアドバイスを期待していたのだが、こいつ理論派に見えて感情派なんだよな。だが、気合満々の真綾は滅多に見られないので、生徒がやる気を出すのに十分な効果があった。
この気合が空回らないことを祈るばかりだ。
死者が出てしまうと何もかも台無しなので、安全確保のためにチームの中から一人、審判を出さなければならない決まりとなっている。何でもかんでも面倒事を俺に押し付けてくる真綾だが、珍しく私がやると言い出した。
属性に恵まれただけの俺が指揮するよりも、世界有数の頭脳を持つ真綾が指揮したほうが良い気がするが、時間魔法は使い勝手がいいので、普段授業に出ずに研究室に閉じこもっている真綾に、大事な生徒を守ってもらうとしよう。
*
真綾に仕込まれたのか、ロイドはコンピューターの扱いが俺よりも遥かに上手く、今日に向けて3Dマップを製作してくれた。
スタート位置はくじで決まり、敵の居場所は分からないようになっている。しかし、光魔法が使えるぺスカ組とうちは別、試合開始早々、俺はモモに敵の居場所を訊いた。自作の3Dマップにマーカーをつけて作戦を練る。
当初の予定通り俺が無線から指示を出し、ロイドにはドローンの操縦と戦闘支援をしてもらう。モモの探知を使わなくても、ドローンを利用すれば敵の位置把握が出来てしまうが、殺し以外何でもありのルールとは言え、後々問題になりそうな行為はやめておくことにした。
集めた情報から敵の動きを分析。
不利な位置取りにいるのはぺスカ組、四つのチームに囲まれていて、どの方角に逃げたても敵とぶつかる最悪な位置だった。狙われやすいうちとしては他がつぶし合ってくれるのは願ったり叶ったりの展開だが、最高のケースを考えて行動するよりも、最悪のケースを考えて行動したほうがいい。
探知の出来るぺスカの戦力を削るのが最優先。無線を通じて俺は生徒に指示を出した。
「よし、作戦通り、まずはぺスカの戦力を削るよ。動くのはミーアとジエチル。他は援護できる位置まで移動して指示があるまでそこで待機」
「結局、ミーアを動かすことにしたんですか?」
ここは俺とロイドで意見が分かれたところだ。ミーアの攻撃は派手で目立つので、探知の魔法がなくてもどこにいるのかもろ分かりだ。むやみな戦闘はどこも避けたいはずだが、アムール組は試合よりもミーアとの勝負にこだわってくる可能性が高いので、敵の数が減るまで我慢すべきという考えも分かる。だが、ある程度リスクを負ってでも、俺はぺスカの戦力を削っておく必要があると思っている。
モモが勇者様の娘ということもあって、アムールのように個人的な感情を優先してモモを執拗に狙ってくる可能性だってある。鍵狩りの一味だったローザという名の少年は魔力が高く、あのモモですら鍵を開けないと使えない探知の魔法が使え、頭もそこそこキレるとのことだ。
準備期間で全員鍵を開けられるようになったとはいえ、まだ不完全な段階。あのクラスを相手にするとなると、ミーアじゃないと荷が重いというのが俺の考えだ。
ミーアは早く戦いたくてうずうずしているようで、何時でも行けるとアピールしてきた。
『日頃、モモッペと修行することが多いんで、光魔法の対策はバッチリっすよ。状況が悪くなる前にさっさとぶちのめしちゃいましょう』
『ミーア、急いては事を仕損ずるって言葉習っただろ。指示を無視して勝手な行動するなよ』
そして、この作戦のカギを握るジエチル。
光魔法を使えるのはうちではモモだけだと思っているだろうからそこに隙が生まれる。特にローザはモモの正確な位置が見えるので、モモを警戒するあまり他が疎かになる。
とはいえ、モモほどの魔力や利便性はない。生まれつき持った力なら、南京錠を使って素質以上の能力も引き出すことが出来るが、人体実験で目覚めた力なので制限付きだ。魔力を封じられるモモに対して、ジエチルの魔力ではマナを乱れさすことしか出来ず、弾速も遅いので近距離で当てなければならない。
初見殺しの一発勝負。このチャンスをものにしなくては。
『先生、ローザくんたちそっちに向かってますよ。どうやら迎え撃つつもりのようです』
魔力の高いミーアは光魔法とは相性が悪い。数の力で押し切れると思われているようだ。実際、前回はそれで彼女を攻略したようだし。
モモの報告を受けて隣にいるロイドに両者がぶつかる位置を予測してもらった。
「このまま行くと、浮遊島に通じる川の中流でぶつかりますね。モモ曰くぺスカ人はほとんどが光魔法で、それ以外は落ちこぼれ扱いされるそうです、地の利はこっちにあるかと」
基本となる六つの属性が使えるミーア、南京錠が開けられるようになったジエチルと違い、サポート特化で戦術の幅がないぺスカ人は、地形や天候の不利を受けやすい。
自然の力を使えば実力以上の魔力が出せるので、水属性で地形を上手く利用して戦えば、戦況を優位に進められるので展開としては悪くない。
ロイドの見立て通り浮遊島に通じる川の中流でローザ率いるぺスカ組と相まみえることになった。先に攻撃を仕掛けたのはローザだった。
「力を欲するあまり犯罪者に手を貸すとは、惨めだな、ミーア」
「国の将来を担う人間とは思わえない台詞っすね。才能じゃモモッペに勝てないからって焦らなくていいっすよ。モモッペはうちで預かるんで」
惨めな煽り合いから始まった戦いは、やがて魔法を使った魂のぶつかり合いに。
水魔法で波乗りしながらミーアは、複数の属性を持っていることを活かして戦う。これに対し、ローザたちぺスカ組は、一定の距離を保ちながら弓を使って攻撃をする。向こうは一発でも当てれば勝ちも同然なので、リスクを負わずに戦うつもりのようだ。
この一か月で一番伸びたのはジエチルだけど、相手は将来国を背負って立つ者たち、ミーアの補助がないとさすがにしんどそうだった。
高ランクの魔法を使えるのはローザ一人だが、じゃあ、他が大したことないかと言うとそうではなく、運動能力の高さ、射撃の正確さ、これらは持って生まれた能力ではなく、努力で身についたものだと分かる。
どうやら、先のことを考えて戦う余裕はないようだ。
「暴れたりなくないか、ミーア?」
『先生、私が全力を出したら死人が出るっすよ。知らないっすよ、反則負けになっても?』
「問題ない、責任を取るのは教師の役目だから」
時間を操る真綾が審判として近くで見守っているので、大事故には繋がらないだろう。
俺の采配に対してロイドが疑問を呈する。
「それなら、分断させているチームを合流させて、全員でたたいたほうがよくないですか? 敵の数が減るまでモモとアクアを動かしたくないって気持ちは分かりますけど」
「いっそのことアムールをここに呼んじゃおうかなって。加減なしのミーアの攻撃で敵の数を減らせれば、ぺスカとしては一旦引かざるを得なくなると思うんだよね。アムールの後継者争いに巻き込まれたくはないだろうし」
「なるほど……」
作戦が上手くいくかはミーア次第だけど、魔力の高い彼女にとってもぺスカ人は天敵のような相手。ただ、本人的には、モモと修行することが多いからか、光魔法に対して苦手意識がないようだし、ここは彼女に任せてみることにした。
ミーアは大量の魔力を消費し、川の水を増水させた。足がつかなくなるくらいの深さになると水中戦になるのを嫌ったのか、ローザが魔法そのものの封印という大技を繰り出した。成功すればその魔法は使えなくなり、さらに、使い手に対して免疫をつけることで受けるダメージを半減することが出来る。
ただ、相手の魔法を封印するまで時間がかかり、その間、無防備になってしまうので、万能と言うわけでもない。ここが勝負所と判断した俺は、無線でモモに指示を出した。
「モモ、そこからローザのこと撃ち抜ける?」
『はい、何時でも行けます!』
相変わらず、素人とは思えない正確な射撃で、標的であるローザを撃ち抜くモモだったが、当然これは警戒されていたようで、ローザの周りを囲んでいた仲間に防がれてしまう。モモのことをよく知るぺスカ人だから対処出来たわけだが、その油断が彼らにとって命取りになる。
モモを警戒するがあまり正面ががら空きになり、ジエチルの光魔法に反応出来ず、マナが乱れて魔法がコントロール出来なくなる。
ローザと言う絶対的なエースが崩れ、うちのエースが暴れられる状況が整う。ミーアは増水した水で渦を作って力を集中させ、ローザを囲む三名を戦闘不能にした。一度体勢を立て直そうと逃げるローザとその仲間、入れ替わるような形で次の難敵が近づいてくる。
『先生、アムールがそっちに向かってます』
さてと、問題はここからなんだよな。




