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転移者の教え子  作者: 塩バター
第二章
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第14話 光と闇

 エーテルが目を覚ましたのは次の日の朝だった。意外と早く意識が戻って安心したが、本人はその時のことをまったく覚えていないらしい。頭の中に映像として残っているみたいだけど、自分がやったという感覚はないとのこと。


 ごめんなさいと俺とモモに何度も謝ってきた。


「モモが助けてくれたんでしょ? ありがとね」


「先生の言う通りに動いただけで私は何も……」


 重くなった空気をぶち壊してくれたのはミーアだった。


「その様子なら本番までには本調子に戻りそうっすね」


「ボク……、今回は欠場しようかな。発作が出たら試合をぶち壊しかねないし、ボクがいなくてもモモとミーアがいればなんとかなるでしょ」


 皆で勝ち取ってこその勝利なのにとミーアは不満げだった。本番までまだ一か月あるので、出場できるかは彼女の気持ち次第になるが、本人としては戦いには参加せず、ロイドと一緒に裏方に回ってサポートに徹したいようだ。


 彼女にとってとてもデリケートな問題なので、ミーアもそれ以上説得しなかった。それに待ったをかけたのは非戦闘員のロイドだった。


「自然に使えるように南京錠を使って特訓してみれば? 持って生まれた力じゃなかったとしても、君の中にある力なら開錠するはずだよ」


 言われてみれば、試してみる価値はあるかも。日ごろ真綾の助手を務めているだけのことはある。


「先生はどうすべきだと思いますか?」


 エーテル本人に意見を求められる。


「俺は賛成派かな。君にとってこれはいずれぶち当たる大きな壁だろうし、今の内にやっておいて損はないと思うけどね。モモが手伝ってくれれば安全面も保証できるから」


 ジエチルから反対されるかと思ったが、モモがついているなら安心と妹の背中を押した。身体の心配もあるのだろうが、それ以上に二人の関係に溝が出来ないか心配しているようだ。


 全員からやってみるべきだと背中を押され、エーテルは挑戦する意思を固めた。


 特訓をするなら準備は早いほうがいい。研究室から抜け出してきたロイドに今の会話を真綾に伝えてもらうようにお願いする。


「そうするべきだと思っていたんで、すでに伝えて、作ってもらってますけど」


「君、仕事早いね」



 珍しく本気を出した真綾は凄まじく、次の日にはエーテルの南京錠が完成していた。一度も保健室に顔を見せなかったので、口だけで本当に心配しているのか怪しかったが、これが彼女なりの優しさなのかもしれない。


 昔から不器用なやつだとは知っていたけど、結菜と付き合ってからは話す機会が減って、彼女が何を考えているのか分からなくなってきている。


 俺も彼女も生徒を優先する立場になったので、このくらいの距離感が適切なのかもしれないが。


 徹夜明けでぐったりしている真綾から完成した南京錠を受け取りそのまま研究室を出る。三人で修行するつもりだったが、妹のことが心配だったのか兄もグラウンドに来ていた。


「兄ちゃんは心配しすぎなんだよなー。モモがいるから大丈夫って言ったでしょ」


「モモを疑ってるわけじゃないけど……」


「兄ちゃんも試してみる? 身体をいじられた者同士、ひょっとしたら開くかもしれないよ」


 冗談で言ったこの言葉がまさか現実になろうとは、この時はまだ誰も思っていなかった。エーテルは何度試しても開けることが出来なかったが、試しに挑戦したジエチルは一度で成功して見せたのだ。


 修行を中断せざるを得なくなり、悪いなと思いながらも俺は職員室で眠る真綾を叩き起こした。事情を説明した途端、眠気が吹き飛んだ真綾は、


「やっぱり、私の仮説は正しかったんだわ」


 ぞっとするような不敵な笑みを浮かべた。


「それって、兄ちゃんも闇属性の魔法が使えたってこと?」


「それが……。モモと同じ光のほうだったんだよね。どういう原理か教えてくれる?」


「まあ、光と闇は表裏一体って言うしね。属性と言うよりもマナそのものの問題かな。妹ちゃんの場合、あの状態になると魔力も上昇するのよね、まるで上限に達しき者のように。その辺りにヒントが隠されていそうね」


「なんか楽しそうだな?」


「科学者の性ってやつかしら。不謹慎だったかな?」


「お前はそれでいいんじゃないの。問題が解決したわけじゃないから俺としては複雑だけど」


 研究室を出ると、エーテルが入り口で待ち構えていた。扉を閉める俺にカンチョーをしてきて、えへへと無邪気な笑顔を振りまいてきた。


「いや、えへへじゃなくて、えへへじゃ……。モモとジエチルはどうしたの?」


「二人ならさっきの続きをしにグラウンドへ。あんなやる気になった兄ちゃん初めて見たかも。先生的にも戦力が大幅にアップしたから、万々歳なんじゃないんですか?」


「君は、肩透かしを食らった気分なんじゃないの?」


「正直、ボクはちょっとほっとしました。ボクたちはミーアやモモのように力がないから、この力を扱えるようにならないと先はないんだろうけど、ボクには荷が重いと感じてたので。ここに来るまでボクの世界には兄ちゃんしかいなかったからここでの生活が楽しくて、失うことへの恐怖心が強くなっているのかもしれません。先生はずっとボクたちの先生でいてくれますよね?」


「正直、そのつもりはなかったんだけどね。案外、そうなるかもしれないね」


「かもじゃなくて、絶対ですよ、ぜーたい」


 そう言って指切りげんまんを求められた。


 真綾には壮大な計画があるようだが、大人の都合に生徒を巻き込まないために俺はここにいるのかも、いるべきなのしれない。


 大いなる善のためなのか、自分のためなのか分からないが、目的のためなら手段は選ばない。彼女がそういう人間だと俺は知っている。


 俺にはあいつのような計画性はないが、それで安心するならと小指を曲げ絡み合わせた。指切りげんまんと歌うエーテルはまだ子どもで、大人の醜さを分かっていないようだった。

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