第12話 模擬戦2
「げっ……、なんかこっち来たんですけど、あの二人はどうなったわけ?」
「ごめん。罠に引っかかっちゃったみたい」
アクアはモモの次に狙うつもりだったが、まさか同じところにいてくれるとは。モモもアクアも火力の出せるミーアと組んだほうがお互いの強みを活かせると思うのだが、単純に組みたい相手と組んだ感じなのかな。
俺自身偉そうに指示を出せるほど実戦経験が豊富かというとそうでもないので、大事な局面以外は各々の判断に任せるつもりだったが、今回はしっかり手綱を握ってあげたほうがいいかもしれない。
「モモは分かるけど、なんで私まで……」
非力なアクアはモモの背後に隠れる。
「ヒーラーはほっておくと面倒だからね。まさか君も一緒にいるとは思ってなかったけど、チームを組むのは常套手段だけど、お互い組む相手は考えたほうが良かったんじゃない?」
「女は恋愛事が絡むと見境がなくなるんです」
なんかよく分からないが、探す手間が省けたので願ったりかなったりの展開だ。モモがもじもじしている隙に真綾と作戦を練る。
「あれって短射程タイプにも切り替え可能なんだよな?」
『もちろん。ただ、ガードは出来るし、弾速は遅いから、防ぐのは難しくないかな。不意打ちが出来ない分、近距離のほうが当てづらいけど。燃費も少なくて済むから一長一短』
「効果時間は?」
『それは当たり方によるかな。君が身をもって体験したように魔力が高い人間ほど効果を発揮しやすいから、瑞希くんとの相性は最悪ね』
要は一発も当たれないわけか。
相手の攻撃フェイズにならないように攻撃の手を緩めないことが大事になってくるが、こそこそと二人で作戦を練っていたので、向こうが仕掛けてくるまで待つことにした。
負けるつもりはないとはいえ、こちらの戦力を明確にするためにやっている模擬戦だ。
「行くよ、アクア」
「任せときんしゃい」
合図とともにモモは地面に氷塊を発生させた。相性の良い火属性で対応すればいいわけだが、その氷を溶かしたのは俺ではなくアクアだった。蒸気という名の霧が発生し、拳銃の乾いた音と共に光の弾丸が飛んでくる。
音で飛んでくる方向は分かるので、ガードで対処すれば問題ない。そんなことは使い手の彼女が一番分かっているはず、だとするとこれは次の一手の布石と考えるべきだ。
二人の作戦は挟み撃ちというシンプルな一手だった。
俺にはもしもの時のテレポートがあるので、カウンターを狙ってみてもいいかなと、後方から突っ込んで来るアクアの攻撃に備える。モモの光魔法にだけ警戒していればいい。しかし、彼女の放った魔法は、手裏剣のように木の葉が襲ってくる風属性の広範囲攻撃だった。
俺ではなく対抗線上にいるアクアを狙った攻撃だと気付くまで時間はかからなかった。テレポートで回避すれば済む話だが、模擬戦とはいえ相手は生徒、回復要因のアクアが串刺しになるのはさすがにまずいか。
先生は生徒を傷つけたりしませんよね、という大人を試すかのようなあくどい戦法だった。
数が数だけにガードしてからだと後ろの対応が間に合いそうになかったので、恐れず突っ込んでくるアクアに俺は自分から挑みに行った。怯んでくれたら嬉しかったが、相打ちならうちらの勝ちと速度を緩めることはなかった。
彼女を傷つけずにこの状況を切り抜ける方法。俺は彼女の拳を手のひらで受け止めると、空間魔法で彼女と一緒に安全な場所まで飛んだ。
「うげっ……。気持ち悪……」
テレポートはそんなに難しい魔法ではないが、移動する距離が長くなるほど、連れていく人数が増えるほど、難易度が跳ね上がる。魔力が低い者は高ランクの魔法に慣れてないから、その負荷に耐え切れず酔うことがあるようだ。
完全に戦意を喪失したアクアだが、ゲームで現実逃避していたことを考えると物凄い成長と言える。
「先生、生徒相手に本気出しすぎです。そんなに私たちとデートしたくないんですか?」
なんでそんなに俺とデートしたいのか謎だが。
「しかし、仲間を助けるヒーラーが囮役を買って出るなんて本末転倒もいいところだよ。まあ、良い作戦ではあったけどね」
「モモが保証してくれたんです。先生は絶対に私たちを傷つけたりしないって」
「あっそう……」
信頼されすぎるのも考えものだな。
「先生は私に期待しているみたいだけど、やっぱり私にはこういうの不向きですわ」
「才能があるかどうかは周りが決めることだけど、凡人かどうかは自分で決めることではないよ。やりたくないことを無理にやれとは言わんけど、やれるだけのことはやってみようよ」
「そうやってモモをたらしこんだんですね……。私はまだ軽いノリなので負けても悔しくないけど、モモは本気みたいだから、子どもだと思って舐めてかかると痛い目見ますよ」
ミーアがうちのエースならモモは切り札。彼女に言われるまでもなく実力は勝っている。頼りになる味方ほど敵に回すと恐ろしいわけで、その内の一人を余裕ある内にやっておくことにした。
真綾が俺用に作ってくれた新しい南京錠。鍵を開けて使うのではなく、予め人や物にセットしておけば自分の近くに飛ばすことが出来る。魔力を大量に消費することになるが、魔力の高い二人を戦闘不能に出来るのならお釣りがくる。
すでに降参したアクアに手伝ってもらって作ったイバラの檻に俺はワープマーカーを設置し、転移魔法でサトミとミーアを檻の中に閉じ込めた。
「先生、こんなことも出来たんっすか!」
こんなのズルですとミーアが抗議するので、丁寧に技の解説してあげた。再び口論になる二人。二人とも才能に関しては疑いようがないけど、やっぱりまだ子どもだな。
まだ勝負はついていないので、二人にはしばらくそこで頭を冷やしてもらうことにした。




