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転移者の教え子  作者: 塩バター
第一章
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終章 アクア視点1

 私、アクア・プリーストは焦りを感じていた。真綾ちゃんにスカウトされ、入学したのはいいものの、生徒は私を含め七人しかおらず、何だか騙された気分だ。授業はどれも新鮮で面白く、人間関係も良好だが、このままでは彼氏一人できずに青春を終えそうだ。


 諦めかけたその時、真綾ちゃんが新任の先生を連れてきた。目鼻立ちの整ったさっぱりとした顔で、あまり年上という感じはしなかったけど、向こうは美男美女が多いんだろうかと羨ましくなった。


「ねえ、今日来た先生のことどう思う?」


 昼休みは女子四人で卓を囲んで食事を取るので、数少ない女子の意見を聞いてみることにした。


 この学校は全寮制で家事は分担しないといけない。食事に関しては朝昼晩担当が決まっていて、真綾ちゃんが用意したレシピ本に沿って作る。こっちと向こうでは食材が異なるので再現出来ているか怪しいが、真綾ちゃん曰くこっちの食事は肌に合わないらしく、見た目や味付けだけでも向こうに寄せたいとのことだ。


 調理実習という名目で彼女の気分に付き合わされている気がしないでもないが、レシピ通り作れば美味しく出来るので特に不満はない。


 今日の献立は双子が作った特製のカレーだった。妹のエーテル・ウォーカーはいたずら好きで、私のだけ異様に辛くアレンジされていた。エーテルは悪びれた様子もなくニカッと笑い、どうって何がと質問に質問で返した。


「別世界の人だから全然期待してなかったけど、私はかなり良い線いってると思うんだよね」


 脳みそ筋肉のミーアが答えた。


「そうっすね、空間魔法使えるってだけで厄介なのに、魔力の量も私と同じくらいある。今のところ勝てるプランが見当たらないっす」


「んなこと誰も聞いてねえんだよ」


 異性としてどうかって話をしているのに、揃いも揃って恋愛に興味がないんだから気が狂いそうだ。


 私がおかしいんだろうか? 


 ミーアはこう見えて一国のお姫様だし、モモとエーテルは暗い過去を持っている。普通の家庭に生まれ普通に育ったのは私だけなので、時々温度差を感じることがあるのだが、私はもっと女の子らしい会話で盛り上がりたいのだ。


「性格はまだ分かんないけどさ、事情はどうあれ、ここで働くことになったってことは、人種の壁もそこまで問題にならないと思うんだよね」


「でも……」


 ミーアの話では恋人がいたとのことだが。


「その人亡くなっちゃったんでしょ? 死んだ人間は黄泉の国に行って二度と帰ってこないの。お前ら本当にそれでいいのか? 良い出会いには回数制限があるんだよ。真綾ちゃんはこの学校をデカくしたいみたいだけど、そんなの何時になるか分からないよ」


「男なら他に兄ちゃんたちがいるじゃんか」


「一人はシスコン、残りの二人は真綾ちゃんにぞっこん、こいつらとどうフラグを立てろって言うのよ」


 脳筋バカとブラコンはほっておいて、私は最後の希望にかけることにした。


「モモは? 私の言ってること分かるでしょ?」


「さあ? 私恋愛なんてしたことないし。第一、あっちじゃ教師と生徒はそういう関係になっちゃいけないって話を聞いたけど。だから、仮にそういう気持ちを持ってしまったとしても、それは胸にしまっておくべきだよ」


 なんて良い子ちゃんぶっていたくせに、別世界から帰ってきたモモは別人に生まれ変わったんじゃないかと思うほど色めきだっていた。


 先生に振り向いてもらいたい一心で、モモは授業中手を挙げて質問をしたり、休み時間は積極的にコミュニケーションを図った。向こうで何があったのか訊いてみたものの、もじもじしてなんて言っているのかさっぱり分からなかった。


 恋はここまで人を変えるのかと複雑だったが、恋愛事に疎いミーアは彼女の変化を好意的に受け取っているみたいだ。


「最近モモッペ張り切っているな。ようやく私をライバルと認めたのかな」


「あのほころんだ顔見てみ、今あんたのことなんか眼中にないよ」


「よっぽど旅行が楽しかったんっすね」


 悔しそうにミーアは歯ぎしりをした。


 こいつ本当に何も分かってないんだな。なんだか先を越されたような気分なので。こいつの純粋さを利用してモモをからかうことにした。


「よし、ミーア、今度は私たちも連れて行ってもらえないか先生にお願いしに行こう」


 教壇で話をしている噂の二人を突撃した。先生の答えは無理の一点張りだった。


「何でモモは良くて私たちは駄目なんですか? 先生、モモが可愛いからって贔屓してるでしょ?」


 そうだそうだとミーアが応戦する。


「俺もあいつと同じお尋ね者になっちゃったから、もう国に帰ることはできないんだよ。もはや見た目がどうとか言う問題じゃないの」


「でも、命がけでモモのことを守ったのは、ボランティアってわけではないんでしょ?」


「いや、助けてもらったのは俺のほうだけど……。俺はただ、自分の命と彼女の命、価値があるのはどちらか天秤にかけただけだよ」


「つまり、惚れたのは魔法の才能で、モモ自身に惚れたわけじゃないってことですね?」


「そういう言い方はどうかと思うけど……。まあ、知り合ってまだ一か月そこらだからね。身体が勝手に動いたって表現が正しいかな」


 大人として正しい行動をしたまでと結論付ける先生だったが、教師としては100点でも、モモからすると0点の回答だったようだ。


「それって誰でもよかったってことですか? 私のこと特別だって言ってくれたのに。あれも全部嘘だったってことですか? 子どもだと思って私のことをからかったんですか?」


 どうなんですかと先生に詰め寄るモモ。


 生徒をそういう目で見ていないのか、先生はモモが怒っている理由が分かっていないようだ。恋愛は惚れたもの勝ちなのか、惚れたもの負けなのか、今後のモモを見守るとしよう。

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