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 現在の時刻は午後十一時五十四分。

 日付が変わる少し前の時間帯というのは独特な空気があると思う。

 今日と明日の境界に立っている際のどこかフワついた感覚。

 不安なのか期待なのか。上手く言い表せない感情が顔を出す。


「ふぅ」


 少し前から始めた日課の散策の〆としてコンビニを目指すその足取りは重くもないが軽くもない。

 目の下に薄く隈が刻まれた眼鏡のどこか疲れた雰囲気の少年――狭間九郎はぼんやりした頭でコンビニの自動ドアを潜った。


「いらっしゃいまっせー」


 店員の挨拶を聞き流しながら雑誌コーナー前の通路を進もうとして、足を止める。

 違和感に気付いたのだ。九郎がギョッとしてレジを見ると、


「え」


 コンビニの制服に身を包んだ見知らぬ少年が居た。

 ――――そう、俺こと鷹城尊くんである。


「だ、誰……?」


 突然の邂逅に狭間クンは軽く混乱しているようだ。

 一時間ぐらい前からステラにモニタしてもらってたんだが……いやぁ、彼ホント苦労人って感じの顔してるよね。

 いやまあ真実の暴露による心労もあるんだろうけどさ。

 あの草臥れた空気は一朝一夕で纏えるようなもんじゃないと思うの。これがSSRの中間管理職かと感心したよ。


「鷹城尊に御座る」

「七條彩菜と申します」


 ホットスナックのチキンを齧りながら答える。

 ちなみに隣に居るアヤナちゃんはコンビニの制服ではなく生徒会仕様の制服だ。


「た、鷹城くんに……七條、さん? えっと、何でこんなところに……特に鷹城くん」

「いや何。狭間くーんを待つ間暇だったからちょっとステラに頼んで用意してもらったんだよ」


 ちょっとしたサプライズよサプライズ。


「……ステラに? いやそれ以前に僕を、待っていた?」


 怪訝そうな顔だ。まあ当然だな。

 俺は一つ頷きステラを促すと彼女は小さく咳払いをし、説明を始めた。


<私は人間の意思決定機関として超生徒会の設立を考えていて、あなたはそのメンバーに選ばれたのです>

「嘘、何それダサい――ってのはともかく僕が、選ばれた?」


 ダサいよな。俺もアヤナちゃんも分かるマンと頷いちまったよ。

 しかしこれだけダサい言われても名前変えるつもりないとか頑固なAIだよ。

 頑固なAIって何だよ……セルフツッコミ入れてもうたわ。


<超生徒会長に尊さん。副会長に七條さん。そして庶務・雑務にあなたをと考えております>

「会長副会長と来て何で庶務雑務!?」


 それな。

 あと狭間クン、普通に会長って呼んでくれるの地味に嬉しいよ。尊ポイントを③進呈しよう。


<その三ポストが上位の職ですからね>


 生徒会という看板を掲げているが実質、立法・行政・司法を包括した都市の統治機構だからな。

 三権分立はどうしたって? そんな余裕もありゃしねえんだよこっちは。

 ってのはさておきだ。会長、副会長、庶務雑務を除く役員は専門的な分野を担当することになる。

 委員会という名で仕事をばらけさせ、それぞれの長が生徒会に名を連ねることになるのだとか。

 それとは別個に議員みたいな形で会議には各校から選出された代表も参加することになる。


「そ、それは理解したけど何で……ハッ!? まさか、あの、LHRでやらされた……!?」


 あぁ、狭間クーンとこもLHRでやらされたんだ。


<あなたほどの才能を持つ中間管理職はこの都市に居ません>

「う、嬉しくない……嬉しくない……」

「おいおい狭間クゥン、俺なんぞ“いざという時しか頼りにならない男”だぞ」

「……私なんか“いざという時、役に立たない女”ですよ」

「何? あの適正検査ってユーザーに喧嘩売ってるの?」


 それな。アヤナちゃんは特に酷いと思う。

 それならまだ基本的には頼りになる女とかのが良いだろ。


「というか、鷹城くんと七條さんがここに居るのは」

「……はい。私は役職を引き受けました」

「同じく」


 俺たちの返答に狭間クンは驚いているようだった。

 まあそうだよな。こんな短期間ですっぱり割り切れたのかって。


「喪失の痛みも虚しさも、消えちゃいないさ。まだこの胸に刻まれてる」


 というかこれが消えることはないだろう。

 時の流れで癒されはしても完全にとはいかないはずだ。

 古傷が痛むようにふとした瞬間に振り返って、その痛みを再確認するんじゃねえかな。


「なら、どうして」

「……私は私自身の足で立ち上がったわけではありません。それは今もそう」

「七條さん?」

「一番最初に自分の足で立ち上がり進む道を定めた鷹城さんに共感したから」


 今は俺に寄りかかるような形で手伝っているに過ぎないと自虐的に笑った。

 こちらには納得がいったのか狭間クンは俺に視線を戻した。


「……ドライな人間で、機械のように0と1で生きているなら理解出来なくもないけど君は」

「おぉ、そんな器用な人間じゃないさ。泣くしキレるし凹む。どこにでも居る普通の高校生さね」

<普通の高校生が複数の女生徒からお金を借りて総額十三万円もの借金を作りますかね?>

「十三万!?」


 あのさ、俺の十三万をネタみたいにするの止めてくれるかな?

 まだ俺が持ちネタにするのは理解出来るけど違うじゃんね。お前の持ちネタになってるじゃんね。


「ゴホン! まあ俺の借金はさておきだ」

「……それも気になるんだけど」

「さておきだ!!」


 アヤナちゃんに話した動機を再度、説明する。

 これから一緒にやっていくのだから根っこの行動指針を偽ることはしない。


「……」


 狭間クンは神妙な顔で黙り込んでしまった。

 まあそうだよな。俺の動機は特別なものじゃない。

 大人たちが全身全霊で愛してくれていたからこそ共有出来てしまう。ある意味俺たちは兄弟姉妹のようなものだからな。

 それでも最初の一歩が中々踏み出せないのは当然のことだ。


「まあ今日は顔合わせだし直ぐに返答をとは言わないよ――……ああそうだ」

「?」

「悪い、動機もう一つあったわ」


 アヤナちゃんの時は今話したものだけだった。

 けどある程度、時間が経ったからだろうな。また別の感情も芽生えて来たのだ。

 再度、動機を語ったことで俺は新しい理由に気付けた。


「現状がな、シンプルにムカつくんだよ」


 草刈り機を含めた災厄とやらにな。

 俺たち新人類は戦いを強いられた存在と言える。じゃあ旧人類は?

 大人たちもそうじゃねえか。ピルグリムが警告に来てくれたけど普通は信じられねえよ。

 実質、選択権なんてないに等しい。宇宙移民は世界規模の事業だったんだぞ?

 それを他所から来た異星人の言葉を鵜呑みにして延期にするのもどうなんだってハナシ。


「夢を抱いて宇宙(そら)に飛び出したらいきなり特級の理不尽押し付けられたんだぞ?」


 ありえねえだろ。せめて選ばせろよ。

 こんな理不尽に膝を屈するとか悔しくて悔しくて堪らねえ。


「負けたくねえ」


 目に物見せてやりてえ。


「だから俺は災厄に中指おっ立てることにしたんだ」


 母さんや父さんたちの価値を証明したいってのも私情っちゃ私情だ。

 でもそこには散って行った人たちの想いが乗っかってる。

 けどこれは違う。マジに大人たちとか無関係にシンプルに俺がイラついてるってだけ。


「戦う理由としちゃ弱いかな? でもさ、良いんだよこれで」


 だって、


「男なんてそんなもんだろ?」

「――――」


 笑う。ああ、何だろな。今、超スッキリしてる。

 雨の中で傘をささずにはしゃいでいた時みたいな、良い知れぬ解放感がある。

 ちょっと難しく考え過ぎてたのかもな。そのせいで気負いがあったのだろう。

 良い意味で身体の力が抜けた気がする。


「ま、そういうわけだからよ。気が向いたら連絡くれや。待ってるからさ」


 用は済んだ。明日も早いし帰ろう。

 アヤナちゃんを連れてコンビニを出ようとするが、


「――――待ってくれ!!」


 呼び止められる。


「どした?」

「……男なんてそんなもん、か。そうだね。ああ、その通りだ」


 俯き、何やらぶつぶつと呟いている。


「ふざけんな!!」

「「!?」」


 急に叫ぶじゃんね。


「ああ、同感だ。僕もそう思うよ」


 顔を上げた狭間クンはやっぱり草臥れた顔をしていたけど、どこか晴れ晴れとしたものを感じる。


「……まだ拳を握る覚悟を持てない僕だけど、それでも良いなら君のお手伝いをさせてくれないかな?」

「ああ! 十分さ! 一人じゃない。一緒に居てくれるってだけでも心強いよ!!」


 照れ臭そうに差し出された手をガッチリ握り返してぶんぶんと上下に振る。


<何でしょうね。尊さんがアオハルっぽいことしてると何か釈然としません>


 コイツ、マジでいっぺんウイルスぶち込んでやりてえ……。

 どっかに天才ハッカーとか居ねえかな。まあ良い。


「っし! 折角、椅子が三つ埋まったんだ! こんな時間だがお祝いしようや!!」

「「お、お祝い?」」

「ああ! 今日ぐらいは夜更かしして食べて飲んで遊びまくろうぜ!!」


 明日も訓練はあるが軽いのだしな。

 何なら一徹ぐらいは余裕余裕。気力充実してりゃむしろ動きも良くなるってもんさ。


「ああでも二人はオールとかしないタイプだったり? んなら日を改めるけど」

「……必要に迫られねば夜更かしはしませんが……ええ、今日ぐらいは良いと思います」

「僕の場合は根が陰気だからね。そういう経験はないけど、うん、今日はそういう気分だ」

「良いね~ノリ良いよ~」


 ……カラオケ、とかはハードル高いか。ファミレスでだらだら駄弁るのもちょっと落ち着かないかな?

 なら家だな。場所は俺ん家。二人は自宅に招いたら持て成さなきゃって思っちゃうだろうし。

 よそ様の家だから緊張はするだろうが、そこは俺が上手いことフォローすれば良かろうて。


「じゃ、色々買い込んで俺ん家行こうぜ。言い出しっぺは俺だから金は任せてくれ!!」

「そう言えば働きに応じて金銭が支給されるんだっけ。鷹城くんは……まあ、今誰よりも都市に貢献してるよね」


 ごちになりますと手を合わせる狭間クンにおう! とドヤ顔で返す。

 それから欲望の限りにあれこれ購入し自宅へ。

 アホほど荷物あるけど今の俺は超人なので全然問題ない。

 何なら剣翼に荷物引っ掛けたりとかしちゃったんだぜ。

 それやったら「何それ?!」って狭間クン、めっちゃ驚いてたがな。


「へえ、狭間クン彼女おるんね」

「……何と言いますか、狭間さんとは正反対のタイプに見えますね。あくまで見た目の印象ですが」


 家に戻ると早速、テーブルにお菓子を広げパーティ開始。

 互いの話をしていく中で狭間クーンに彼女が居ることが判明。

 スマホにあるツーショット見せてもらったんだがアヤナちゃんの言う通り正反対のタイプっぽい。

 すんごい気が強そうじゃんね。写真越しでも目力半端ねえもの。


「あはは、そうだね。僕は結構流されるタイプで紗枝はグイグイ引っ張るタイプだし」


 グイグイ引っ張られてる狭間クンが容易に想像出来るぜ。


「……まあ、うん。だからってのもあるよね。鷹城くんに着いて行こうと思ったのは」


 例に漏れず彼女ちゃんもどん底に居るらしい。

 狭間クンも同じように辛かったが、それでも守らなきゃいけないものがあると奮起したらしい。

 けどどんな言葉も届かなかった。

 でも、諦めるわけにはいかない。外に出てたのは少しでも早く立ち直ろうという足掻きだったようだ。


「正直、意味ないんじゃないかって心のどこかで思ってた。でも僕自身、鷹城くんの存在に励まされたから」


 自分が立ち直ってその姿を見せてあげれば少しでもマシになるかもしれない。

 そう思って一歩踏み出す決意をしたとのこと。


「ええ話やんけ……狭間クーンが彼ピで紗枝ちゃんさんも幸せ者だよ」

「そ、そうでもないよ。というか、くん付けじゃなくもっと軽く呼んでくれて良いよ」

「いやでも狭間クン先輩だし」

「先輩って言っても僕らタメじゃないか」


 まあ、それはなあ。

 これは俺も後で聞かされたんだが新人類は製造年月日一緒らしいんだよね。

 てっきり初期ロット、セカンドロット、サードロットで学年分かれてるんだと思ってた。

 ただ特にそういうことはないらしくランダムで一~二歳の差で振り分けられただけとのこと。

 誕生日もそう。振り分けられる際に設定されたそうな。


「それに君は生徒会長で皆のリーダーになるわけだし」

「……そうだな。んじゃ九郎って呼ばせてもらうわ。言葉遣いも緩めでおk?」

「OKOK。というか、僕もその方が楽だよ」


 うぇーい系に先輩として気を遣った感じで扱われるのはむずむずするらしい。

 というか俺、うぇーい系だと思われてたの?


「まあ僕の話は置いといてだ。そういう鷹城くんこそどうなんだい?」

「俺~? 居ない居ない。今は、とかじゃなく生まれてからずっとおひとり様よ」


 尊には恋愛が分からぬ。尊は恋愛経験皆無のティーンである。

 物欲に駆られ、友と遊んで暮らして来たのだ。


「意外だなあ」

「チャラついた奴が皆、彼女持ちってわけじゃねーよ」


 チャラつくと彼女出来るなら世の中の思春期男子は皆、チャラつくわ。

 俺の親しい友人トリオ……ボブ、キム、クロードもチャラチャラしてっけど彼女居ない歴=年齢だしな。


「まあでもこっからよ。俺はこっからよ。やれば出来る男だって俺は俺を信じてる」

「……こんな状況でも恋愛、するつもりなの?」

「そりゃするだろ。何が悲しくて戦いだけに明け暮れなきゃならんのよ」

「鷹城くんは、すごいなあ」


 嫌味かとも思ったが本気で感心してるらしい。

 別に大したことは言ってないだろ。現に大人たちも戦いだけの人生では勝てないからと日常を楽しませてくれたんだから。

 戦いが人生のメインストーリーに陣取ったとしてもサブストで日常を楽しむ方が絶対、良いって。


「でも戦いか……いずれは僕も……」

「まま、今は良いじゃないのそういうのは」

「そうだね。空気読めなくてごめん。けど、ちょっとだけ気になることがあるんだよね」

「うん?」

「ほら、道中で鷹城くんが出してた光の翼。僕もロック? を解除したらそういう霊的な特徴が出たりするんだろ?」

「話を聞く限りだとまあそうね」


 正直、ちょっとドキドキしてると九郎は期待と不安が入り混じった顔で言った。

 ああなるほど。そうね、気持ちは分かる。

 女子には分からんが男子的には心を擽る要素だもんね。


「ビジュアルガチャで当たりを引ければ良いんだけど」

「こればっかりはなあ」


 自慢するようで何だが俺のは当たりだよね。SSRぐらいはあると思う。

 使い勝手の良さもそうだがカッコ良いもの。


「ってかさステラ」

<何です?>


 ホログラムのステラも何か食ってるんだが電子フード的な何かかそれ?


「訓練始めるかどうかは置いといても本人にその気があるなら二人のロックについては解除しても良いんでない?」


 気持ち的にもう一本手足が増えるようなもんだからな。

 ちょっと時間空いた時とかに使って慣れさせる方が良いと思うのね。


<ふむ、そうですね。希望があれば解除しましょう>

「ホント? じゃあ僕お願いしたいんだけど」

「早速じゃん」

「ガチャは引きたいと思った時が引き時なんだよ鷹城くん」

「それ爆死フラグな気が……」


 いやだがその男気だけは買おう。


<室内でやって物が壊れたらイヤですしちょっと外出ましょうか>


 というステラの提案に従い俺は菓子の袋とジュースを両手に庭へ。

 こんな豪邸の御庭みたいな広さじゃなかったんだが……どうやら広さを弄ったらしい。


「あ、ステラ。次は私もお願いします」

「アヤナちゃんもするんけ?」

「はい。鷹城さんが言ったように慣れておいて損はありませんからね」

「良いの引けるよう祈っとくわ」

「は、はあ」


 そんな話をしていたからだろう。

 ステラが気を利かせたのか九郎の眼前にTAPと書かれた文字が浮かび上がった。

 多分、これ押せばガチャが回る演出が始まるんだろう。


「――――頼む!!」


 九郎がボタンを押すと青いクリスタルのようなものが出現し弾け飛んだ。

 タオル、雑巾、洗剤……これはハズレアアイテム的なアレだろうか?

 粗品がクリスタルの欠片からぽとぽと落ちて来る。

 そして、


「うぉ!?」


 最後。十番目のちょっと色の違う欠片が現れたと思えばズン、と庭が揺れた。


「こ、これは……う、腕?」


 九郎が恐る恐ると言った様子で自身の右肩あたりを見ながら呟く。

 肩口から生えていたのは巨大な腕だった。

 Vの字をひっくり返したような感じで拳を地面につけているが……で、デケエ。

 相撲取りを二つ縦に連結したんじゃねえかってぐらいゴツイ。巨人の腕と呼ぶに相応しいサイズだ。

 しかもこれ俺の剣翼みたいに半透明じゃなく質感が超リアル。


「う、うーん? これは……どう、なんだ?」


 デザインはまあ悪くないと思う。ゴテゴテした如何にも強そうな感じだし。

 ただ九郎的にはスタイリッシュ方面が良かったみたいだし当たりとは言えないな。

 でもハズレと呼ぶにもこれはこれでって感じもするみたいだ。


「SRか特別欲しくはないSSRとかそんな感じ?」

「……かもね。いやでもこれ邪魔だね。日常生活を送る上ではかなり邪魔」


 それはそう。


「俺の翼もある程度、サイズを調整出来るし慣れれば九郎も小さく出来るんでね?」

「……頑張るよ」


 ロック、と呟き腕を消した。まあ邪魔だもんね。

 ああでも調整はどうなんだろうな?

 俺のは何か実体と非実体の狭間だから出来そう感あるけど九郎のは実体そのものだし。


「……少し不安になって来ましたね。あ、私は普通にやりますので」

<了解しました。心の準備は良いですか?>

「はい」


 瞬間、アヤナちゃんの両腰から黒い何かが飛び出しザシュッと地面に突き刺さった。

 俺と同じ刃の翼――――いや違う、これは脚か。半ばあたりで角度がついたそれは蜘蛛の脚に似ていた。

 こっちも九郎の腕と同じで実在と非実在の狭間にあるような半透明のそれではなくリアルな質感だ。

 妖しく黒光る刀身からは触れるだけで斬れてしまいそうなぞっとする冷たさを感じる。


「……」


 左右の刃脚が動き地面から抜き放たれる。うん、これはどう見ても脚だわ。

 アヤナちゃんは無言で刃脚を動かし具合を確かめているがその顔は渋い。


「絡新婦……」

「コラ九郎! 女の子にそんなこと言わないの!!」


 俺も正直、そう思ったけどね。

 いやでもキツイよ。男の俺からしたらカッケー! ってなるが女の子はねえ。女の子に蟲はキツイっす。


「しかしこれ、どうなってんだ?」


 地面揺らしたり刺さったりしてるから質量があるのは間違いない。

 俺みたいに肉体と距離があるならともかく物理的に生えてるよな?

 あんなデッケエもんぶら下げてるのに全然、堪えてないのは超人規格だから?

 そこらについて疑問をぶつけてみると、


「いや不思議と重さはないんだよね」

「同じく」


 霊的な器官だからか物理法則は意味ないのかな。

 ピルグリムも常識に囚われるなって言ってたし。

 まあでも重さがあったら頭から角が生える子とか大変そうだしな。

 常識的なサイズならまだしもデケエのなら出してる間は常時、項垂れた格好になっちゃうし。


<それにしても>

「あん?」

<一番ダメな人が一番綺麗な感じなのちょっと笑いますよね>

「お前マジでいっぺんシバキ回すぞ」

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