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 真実が明かされた後、偽装は解除されこの街の本当の姿が露わになった。

 近代的――何なら俺らの認識からすれば未来的とも言える超巨大都市の姿だ。

 子供たちが通う学校が無数に存在する揺籃の街。学園都市クレイドル。

 俺たち以外の子供も別の学校で同じように説明を受けたと聞く。


「はぁ……」


 真実の暴露から三日後の昼。俺は自宅のソファで一人、天井を見上げていた。

 ステラも鬼ではないようで都市の姿を白日の下に晒しはしても帰る家を奪うことはなかった。

 俺たちが自宅だと思っていた場所は位相のずれた空間に隔離されているらしい。

 んでターミナルという施設で渡された鍵を使えば帰宅出来るようにしてくれたのだ。

 確認したわけじゃないが多分、俺を含めて全ての子供が家であれこれ考えている最中だと思う。


「これからどうすりゃ良いんだか」

<本当は分かってるんじゃないですか?>

「うぉ!?」


 突然、テレビの画面にステラの顔が映し出された。

 軽くホラーじゃん……めっちゃドキドキしたじゃんね。


<何せ鷹城尊さんは伝説のいざという時しか頼りにならない男なのですから>


 うわ、今度は俺のスマホに移動しやがった。

 つーか俺のスマホにホログラムを投影する機能とかないのにどうなってんだ……?

 ひょっとして日常の些細な道具も実は未来ナイズされてたりするの?


「……一々フルネームで呼ぶな。尊で良いよ尊で」

<では尊さんと。災厄が健在な以上、ある意味で常時いざという時と言えなくもないですが>

「いざって事態が頻発したらそれもう常時頼りになる男と同じじゃね? 俺は訝しんだ」


 過酷な戦いの中であろうと余裕は生じる。安定を手に入れられるタイミングはある。

 その時は無能になるだろうとステラは言う。


<しかし今も尚、思考が冴え渡っているのは現状がまずいと感じているから>

「……」

<どうなんです? 今、やるべきことについても思いついているのでは?>

「まあ、一応な」


 やばい状況ではある。しかし猶予がないわけではない。

 一ヵ月ぐらいは行動に出なくても問題はないと思う。


<私は全力であなたをバックアップするつもりですよ>

「……統括AIが個人に肩入れして良いのかよ」

<皆さんを安寧の未来まで導くのが私の役目ですから>


 そのために必要な仕事をやっているだけだとステラは言う。


<それに私からもお願いしたいことがありますから>

「お願い?」

<衣食住のサポートや娯楽の提供などについてはこちらで全て賄えます>


 ほう、そりゃすげえ。流石は(俺らから見て)未来の技術だ。


<ですが何もかもを私が担うわけにはいきません。

皆さんの意思決定についてはAIではなく人間が主導して行うべきでしょう>


 道理だな。トップに立つのが人間とAIじゃ下につく人間の心持が違う。


<私は意思決定機関として各学園の代表を集めた超生徒会の設立を考えています>

「看板ださない?」


 連合生徒会とかそういう感じのがカッコ良くない?


<そのトップ。つまりは超生徒会長に尊さんの就任を要請致します>

「役職名ださない? ってか俺が生徒会長て」

<先の立ち回りであなたの適正は完全に示されました>


 いざという時、頼りになる人間がトップに立ち脇を固めれば盤石な組織が出来上がる。

 ステラの言うことも分からなくはないが、そもそも……なあ?

 そのいざという時頼りになるってのがもう信用出来ない。

 俺より出来る奴は他にも居るだろう。百万人も居るんだからさあ。


<いいえ。誰よりも真っ先に動き不味い流れにならぬよう調整していたのは尊さんだけです>

「……他の人間から不満が出るだろう」


 うちの学校の生徒はまあ、先の出来事もあるから納得してくれるかもしれないけど……。


<誤魔化さないでください。それも含めて解決出来る手段があるはずです>

「……」

<あなたが考えていたやるべきことをやれば自然とトップに立つのでは?>

「ああそうだよ! でも俺だってしんどいんだからちょっとは気を利かせてくれても良いんじゃねえの!?」


 あんな話聞かされたらさぁ! 凹むに決まってんだろ!

 体育館では人目があったから我慢したけどメンタルボロボロなんだよこっちも!


<それは失礼。しかしあなたにはこの方が良いかと思いまして>


 朝起こしてもらわないと駄目なタイプなのでしょう? とステラは笑う。

 ……自覚はしてる。ケツ叩かれた方が良いタイプだってのは。


<どの道、あなたには戦う以外に道はないのでしょう? 違いますか?>

「……違わねえよ」


 母さんと父さんにとって俺は実の子供ではない。

 にも関わらずだ。我が子のように愛してくれた。心の底から俺を愛し慈しんでくれた。

 その想いに応えないという選択肢はない。

 最初はどうあれ俺の記憶にある両親の姿を見る限りではその愛情には何の打算もなかったように思う。

 俺を育ててる内に災厄だの何だのがどうでも良くなったのかもな。

 見返りを求めてのことではない。でも、だからこそ応えたいんだ。


「クッソ! しゃーねーな! やったらぁ! でも準備が……」

<準備が必要なことも承知の上です。さしあたってあなたの補佐となる副会長をスカウトしましょう>

「副会長ねえ。そう言うってことは既に目星はついているんだな?」


 つーか副会長には超つかないの?


<ええ。あなたの補佐としてこれ以上の人材は居ないでしょう。運命さえ感じます>

「へっ、野郎と運命感じられても嬉しくねえやい」

<おや存外、頭が硬いのですね。優秀な人材と聞いて真っ先に男性を思い浮かべるとは>

「え、あ……女の子?」

<YES。こちらをどうぞ>


 ステラが居なくなり砂嵐になっていたテレビの画面が乱れ始める。

 ってか砂嵐って――えらく古典的な表現だな。初めて見たわ。


「ちょ、おま……これ盗撮!?」

<火急の事態です。多少の常識は無視しましょう>


 テレビの画面に映し出されたのは女の子女の子した感じの部屋。

 ベッドの上では一人の女の子が身体を丸め頭を抱えていた。


(……で、デケエ)


 その子は色々な意味でデカかった。

 身体が丸まっているので正確なところは分からないが立ち上がって背筋を伸ばせば180以上はあるんじゃないか?

 まあタッパは良い。青少年のメインはそこじゃない。


(あ、あれ何カップあるんだ……?)


 胸にでっかいメロンついてんのかい! そこまで育てるのに眠れない夜もあっただろう。ってか尻もデケエ。

 かと言って肥満ではない。見た感じキュっとくびれている。

 顔立ちも見える部分から推察するに美人系で正に非の打ちどころのない別嬪さんだ。

 ああでも、今はちょっとイケない気分にはなれないな。

 長く艶やかな黒髪を振り乱しながらうめく様は……うん、痛々しい。


<あの色々デッケエ少女の名は七條彩菜と言います>

「心を読むな!!」


 アヤナちゃんね。


「で、あの子が俺のベストパートナーだって?」

<はい。あなたがいざという時しか頼りにならない男なら彼女はその逆。“いざという時、役に立たない女”です>

「なあそれ才能? ただの悪口やんけ」


 俺はまだ一応、頼りになるとは言われてるじゃん。

 深く切り込めばいざって時以外は役立たずってことだがアヤナちゃんは直球やんけ。


<逆に言えばいざという時以外は役に立つということです。現にレアリティはSSRですから>

「ならもう素直に基本的には頼りになる女で良くない? 悪意を感じるんだよねあのアプ……」

<? どうかされましたか>

「お前か! あのアプリの作成者お前だろ!? ふざけやがってテメェ……!!」

<まあそこは置いといて>


 箱を横にどかす仕草をしてステラは続ける。


<既に分かっていると思いますが御二人にはシナジーがあります>

「カードゲームかよ」

<茶化さない。彼女がいざという時役に立たないのはメンタル面の問題です>


 責任の重さを背負い切れない。

 思考が鈍り、動きも散漫になってデケエ置物になるのだという。

 ステラはホント、口悪いな。慇懃無礼のお手本かよ。


<逆に重い責務を背負ってのけられる誰かが居るなら安定して使えるということでもあります>

「……だから俺を頭にして彼女には補佐を徹底させる、と」

<はい。重要な決断は全て尊さんに任せてしまえば良い。そう思えるだけの信を勝ち取ることが出来れば彼女は安定するでしょう>

「信を勝ち取る。そこが一番、難しくね? そもそも面識すらないんだぜ」

<何を仰るレディキラー。あなたの手練手管で篭絡してしまえば良いでしょう>

「俺未だにそこは納得してねえからな?」

<というわけで早速、説得に赴きましょう>


 話聞かねえなコイツ。


「っておい!?」


 突然、景色がぐにゃったかと思うと俺は見知らぬ御宅の玄関に立っていた。

 流れからしてアヤナちゃん家だろうけど……えぇ? お前こんなことも出来るの?

 コイツに反乱起こされたら俺ら詰むじゃんね。


<さ、行きますよ>


 ……俺のスマホ浮いてるんだけど。

 えぇ? これも未来の技術なの? やだ怖い。

 浮いたスマホの画面から上半身を出してるステラに導かれ二階へ。


(気は乗らないが、早ければ早い方が良いのも事実だからな)


 覚悟を決め扉を開けると、


「! 誰!?」


 ビクリと身体を震わせ露骨に警戒するアヤナちゃん。

 そりゃそうなるわとしか言えないリアクションですわ。

 それはそうと目元の黒子が色っぽいな……。


<不作法失礼。非常事態ゆえ強権を発動させて頂きました>

「す、ステラ……はともかくそちらの方は……?」

<こちらは鷹城尊さん。学園都市の意思決定を司る機関“超生徒会”の長。超生徒会長です>

「嘘……信じられないぐらいダサいです」


 だよな!


<七條彩菜さん。あなたには副会長として彼の右腕になって頂きたく>

「……く、空気が読めないのですかあなたは!? い、今私が……私たちがどんな思いをしていると……!!」

<それは百も承知。しかし誰もが誰も悲嘆に暮れていれば何もかもが無駄になってしまう>


 動けると判断した人間には動いてもらう。

 ステラの言葉はどこまでも冷酷でアヤナちゃんはこれまた露骨に嫌悪感を露わにしている。


「どこに目がついてるんですか!? 私が動けると!? お、お母さんが……お父さんが……!!」

<では尊さん。後はお願いします>


 嘘だろ!? 場を乱すだけ乱してパスとかチームプレーって言葉をご存じでない!?


「……」


 じとっとした目で俺を睨むアヤナちゃん。

 目は口ほどにものを言う。さっさと出てけとその瞳は雄弁に語っていた。

 俺はそれを無視し、床に座り込んで胡坐をかく。


「まずは自己紹介からだな。俺は鷹城尊。好きに呼んでくれたら良い」


 何を言えば良いか分からない。そも俺はそんなに器用な人間ではないのだ。

 だから素直な言葉を紡ごう。それがせめてもの誠意だろう。


「アヤナちゃんも聞いたと思うけどさ。安全圏に居られるのにはリミットがある」

「……」

「早ければ五年後にゃ嫌でも戦火に巻き込まれる」


 そうなれば二択だ。


「抗うか、めそめそいじけながら滅びを受け入れるかだ」


 滅びを受け入れる。絶対に嫌だ。


「死にたくねえ。だから抗う。でも抗うだけじゃ足りない」


 死にたくないは最低ライン。大前提だ。


「勝ちてえ。災厄の先にある未来が欲しい」


 もう命懸けの戦いなんてしなくても良い。

 幸せを追うことだけに集中出来る、そんな未来が欲しい。


「…………ご立派な願いですね。ヒーロー願望がおありなので?」

「いやいや、俺は良いとこうっかり八兵衛ポジだよ」


 黄門様どころか助さん角さんにもなれやしない。


「じゃあ何で八兵衛くんはそんな気合入れてんのかっつーとさ」


 答えは実にシンプルだ。


「私情だ。応えたいんだよ。俺を愛してくれた人たちに」


 父さん、母さん、行き着けの定食屋のおっちゃんおばちゃん、これまで世話になった学校の先生方。

 他にも沢山。両手両足の指を使っても足りないぐらいの人たちに愛情を注がれて俺はここまでやって来た。


「俺が死ねば全部無駄になる。俺が生き残るだけでも意味がない」


 戦いが始まれば犠牲者は出るだろう。それはどう足掻いても避けられない現実だ。

 それでも災厄に打ち勝って一人でも多くの人間を未来まで連れて行く。


「そうすりゃ証明出来る」


 無駄じゃなかったんだって。無意味じゃなかったんだって。


「父さんと母さんが命を燃やし尽くした価値が俺たちにはあったんだって」


 胸を張って叫びたい。

 あなたたちが居てくれたから俺たちは勝てた。絶望の先に辿り着けたんだって。

 天国まで届くよう高らかに叫びたい。


「無駄死になんかじゃない。見苦しい時間稼ぎでもない」


 弱音なんか吐かず苦しみを悟らせず笑顔の裏で血を吐きながら戦い続けた人たち。

 その戦いには確かな意味があったのだと証明する。


「――――それが俺に出来るせめてもの親孝行なんだ」


 両手を床につき、頭を下げる。


「だからお願いです。俺を助けてください」

「な、ちょ、ちょっと!」

「少しでも良い流れを作ることが出来れば頼りに出来る仲間は増えるだろう」


 でも今のままじゃ駄目だ。悪い方向に悪い方向に行っていずれ取返しがつかなくなる。

 悪い流れに歯止めをかけ、再起の流れを作り出す。

 そのためにはアヤナちゃんの存在が必要不可欠なんだ。


「君だけなんだよ。今、俺の助けになってくれそうな人は」

「そんなこと」

「ある。ステラが太鼓判を押したんだ。それに直に君を見て俺も確信した」

「か、確信ですか? い、一体何を判断材料にして……」

「俺はTHE・駄目人間だ。誰かの善意に寄りかかって生きてるようなロクデナシだ」


 だからこそ鼻が利く。


「今はべっきべきに折れてるかもだけど立ち上がってくれたらすっげえ頼りになるんだろうなって」


 こんなどうしようもない俺にも手を差し伸べてくれるような優しい人間なんだろうなって。


「俺一人じゃ無理なんだ。無理なんだよぅ」


 あかん、泣けてきた。

 御大層な技術を使って作られたのが俺って嘘だろお前。

 どうせならもっとすげえ人間にしてくれよ。何でこんなアホを作り出しちゃうかな。初期不良じゃんね。


「う、うぅ」

「ちょ、ちょっと……泣かないでください」

「だって……だってぇ……俺、もう、マジに悔しくて……お、おれひとりじゃ何もできなくてぇ……」


 ぴえん超えてドボンだわ。涙の海に沈んでるよ。


「わ、分かりました! 分かりましたから! ……私に何が出来るとも思いませんけどそれでも良いなら」

「あ、アヤナちゃん!!」

「わ!?」

「好き! 愛してる! アヤナちゃんしか勝たん!!」


 感極まり思わず抱き着いてしまったけど……嫌がってる様子ないし、ちょっとぐらいええよな?

 やわらけえ。おんなのこってやわらけえなあ。あったけえなあ。


<息を呑むほどの覚悟を語ったと思えば一転して余さず己が弱さを曝け出す……こ、これが女殺しの力!!>

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― 新着の感想 ―
[良い点] こいつは間違いなく才能の通りの男ですね!!!
[一言] そうか、これが女(あるいはオンナ)をその気(あるいはソノ気)にさせる話術か!
[良い点] なるほど……これが【SSR:ヒモ】の実力か…… [一言] 人は消えたりはしない ゆえに消えた大人たちは人ではなく、人が存在すると錯覚させられていたか、虚像を見せられていたのである よって恩…
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