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「朝陽奈旭さん、優勝おめでとうございます!!」
優勝賞品の目録を贈呈すると割れんばかりの拍手が巻き起こった。
時刻は夕暮れ。朝も早かったし。皆、もうクタクタだ。でも皆、良い顔してるよ。
「崇めてほらもっと旭ちゃんを崇めてあげて!!」
旭ちゃんのフリーの左手を取り高々と掲げて優勝アピール。
「あ、あの」
「おっと失礼。みだりに女の子の肌に触れるべきではなかったな」
今のご時世(俺認識)、何がセクハラになるか分からんからな。
超生徒会はコンプライアンスに配慮した運営を心がけています。
「煽り立てられても困るっていうか……ってかセクハラとかは別に」
こんな格好してるけどボク男だし……とぼやく旭ちゃん。
自嘲が入っているように見えるのでやっぱり俺の見立ては当たってたらしい。
「身体がどうとか他人がどう見るかじゃなく、自分がどう在りたいかが大切っしょ」
俺は君が女の子として在ろうと努力しているならそう扱う。
俺の言葉に旭ちゃんは目を丸くした後、にひひと笑った。
「……ありがと」
「どういたしまして。さあほら、もっとドヤっちゃえ! 優勝や優勝や! Vやねん!!」
「それはちょっと」
あ、そっすか。
二位、三位にもそれぞれ目録を渡し表彰式は終了。
こちらも目立つのは恥ずかしかったらしくなるはやでと頼まれてしまった。
ちなみにアヤナちゃんとアンジュちゃんだが共にそれぞれのブロックの準決勝で敗退した。
とは言えやり切ったという実感があるからか、そこまで悔しそうな顔はしてなかったがな。
「さて、それじゃこのまま閉会式といこうか」
しかし何だ。ぴたりと静まり返って一斉に注目が集まるとちょっとドキっとするよね。
「まずは皆、お疲れ様。二日間に渡る日程で、しかもこれまでとは違った趣の体育祭だ」
慣れないこともあっただろう。本当にお疲れ様。
楽しんでくれたか? 俺の問いに対する答えは歓声だった。
ありがとう。その顔を見れただけでもやって良かったと思うよ。
「ここで俺から大事な話がある。あんま長々とくっちゃべられたら萎えるのは分かってるんだが勘弁してくれ」
本当に大切な話だから。
そう言うと皆も表情を引き締め、真面目に聞く体勢に入ってくれた。
「これは生徒会の皆にもステラにも誰にも話してないことで、決定事項ってわけじゃない。あくまで俺からの提案だ」
話を聞いて、その上で判断して欲しい。
いずれキチンとした形で賛否を問うつもりだと前置きしてぶちまける。
「――――卒業の無期限延期を考えてる」
≪…………は?≫
皆がポカーンとしている。そりゃそうだ。いきなり何言ってんだって話だもん。
でも安心して欲しい。ちゃんと説明するからとりあえず聞いてくれと言って、改めて説明を始める。
「皆も分かっちゃいるだろうが改めて言わせてもらう。俺たちにはこの先、過酷な戦いが待ち受けている」
少なくともここに居る面子は今は抗うと決意した者達だ。
「これはもう避けようがない。しんどいだろうさ。苦しいだろうさ。辛いだろうさ」
だからこそだ。しんどいことだけじゃなくしよう。苦しいことだけじゃなくしよう。辛いことだけじゃなくしよう。
過酷な戦いの中でも笑っていられるよう、心の光や熱を絶やさずにいられるようにしたいんだ。
「この二日……いやあの日、一ヵ月前から今日に至るまでどうだった?
夜とか、一人になるとしんどくなることもあっただろうさ。でも皆と一緒に居る時は違っただろ?」
辛さを完全には忘れられなくても、心は軽くなったはずだ。
真実を知ったあの日から今日が終わって明日が来る度、憂鬱だったろうさ。
でも皆が居てくれるなら明日がやって来ることも受け入れられるって、そう思えなかったか?
「迫り来る脅威と戦うための戦士になんてなる必要はない。良いじゃねえか、学生のままで。子供のままで」
必要に迫られて何かになる必要なんてないんだ。
くだらないことで笑って、くだらないことで傷付いて、くだらないことで意地張って……そんな子供のままで戦おう。
「やろうぜ、厳しい戦いの中でも少しでも余裕があんならやろうぜ。
今日みたいな体育祭、文化祭や合唱コンクール、部活――――思いつく限りの青春をさ」
無駄だって思うか? 俺はそうは思わないね。
戦いにのみ専心してたら輝かしい記憶だって色褪せちまう。心が擦り切れちまうよ。
だから辛い中でも新しいキラキラ輝く思い出を刻んでこうや。
「その輝きがきっと、未来へ続く道になるはずだ」
卒業を延期して学生を続けようって理由はまだあるぞ。
「それにさ、悔しくね? このままなし崩しで学生が終わるなんてあり得ねえだろ」
日常が突然崩れ去って流されるがまま戦いに臨んでとかないわ。
灰色の青春とかそういうレベルじゃねえだろ。
「このまま状況に流されて学生が終わるって、何か負けた気分にならね?」
災厄だけじゃない。俺たちに後を託した大人たちもだ。
最後に見た大人の顔を思い出せよ。誰一人として良い顔はしてなかったろ?
「うちの担任なんて泣いてたぜ?」
何でそんな顔してた? 決まってる。俺たちがこれから迎える明日を悲嘆していたからだ。
「ちょっと待てよ俺たちを舐め過ぎじゃんね」
自分たち旧人類の終わりは笑って決断出来たのにだ。
後を託した俺たちの船出を悲痛な顔で見送るってどういうこったよ。
いや分かるぜ? 罪悪感だったり俺たちへの愛情ゆえだったりさ。
嵐の夜、地図も羅針盤もないまま船出する連中を笑顔で見送れる奴はどっかおかしいよ。でもそれはそれ、これはこれだ。
悔しいもんは悔しいからしゃーねーじゃん。
「だから天国に居る大人たちを見返してやろうや」
どんなに過酷な戦いの中でも俺たちは笑顔を忘れず戦ったぞってさ。
俺たちの青い春は血生臭さだけじゃなかったんだって突きつけてやろうぜ。
「んでさ、俺たちが勝ってマジに何の憂いもない未来が訪れたその時が卒業よ」
戦いが終わる時が何時かは分からない。でもどうせなら春が良いな。
満開の桜の中、皆で卒業式をやるんだ。
「胸を張って堂々と学生を卒業して大人への道を歩き出すんだ」
どうよ? ハッピーエンドだろ。綺麗なスチルが目に浮かぶじゃんね。
「そのために改めて卒業の無期限延期を俺は提案する。
いずれ……まあそうね。これから夏休みに入るからそれが終わった後ぐらいかな。
新学期に正式な形で学園都市の皆に賛否を問うつもりだからそれまでゆっくり考えてくれ」
ああでもそうだな。
「この話聞いて、今どう思ったかだけは聞かせてくれよ。
賛成? それとも反対? ステラ、ここに居る皆のスマホに確認のための」
何かこうアンケート的なの送って? と言おうとしたが遮られた。
何に? 拍手の音にだ。最初は多分、数十人ぐらいだった。
なのに間を置かずどんどん拍手の音は大きくなっていって気付けば割れんばかりの拍手が会場を満たしていた。
中には周囲の熱に浮かされてってのも居るだろうが……いや今は野暮で悲観的なことはなしにしよう。
「ありがとよ! でもまあ、これはあくまでこの場に居る面子の! それも今の考えだ!!」
熟考の末、違う結論になったとしてもそれはしょうがないこと。
否定は決して悪ではないから思考を狭めずゆっくり考えろと言い含める。
「ってかうるせえ! 今俺が話してる最中でしょうが!!」
≪あっははははははははは!!!≫
「笑うな! ったくもう……んじゃ皆、お疲れさん! これにて閉会式は終了! 後夜祭に参加する奴ぁ一時間後に集合な!!」
そう言ったが誰も帰ろうとせず会場に残り思い思いに寛ぎ始めた。
「かいちょー! どうせなら後夜祭の準備もうちらでやれないかなー!?」
「そーそー! ただダラダラしてんのもアレだし!」
本選出場してない奴らは元気が有り余ってるしそれもありか。
「よっしゃ! んじゃステラと紅白のリーダーの指示に従ってバーベキューの準備してくれ!!」
≪おー!!≫
わちゃわちゃと、そして良い意味でだらだらとしながらの準備。
ゆっるーい空気のまま準備を終えてゆっるーい空気のままバーベキューが始まった。
「会長、お疲れ! こっち肉焼けてっけどいるー?」
「貰う!!」
ジュース片手に場内をうろついていると御声がかかった。
野郎からというのはちょいとアレだが焼けた肉をあーんしてもらう。うん、うまい。
生徒会組で用意した網もあるんだがな。ちょっと皆の顔を見て回りたかったのだ。
「かいちょー、カ~ッコ良かったよ~」
「ねえねえ、色々大変だろうしあたしらが秘書という名の愛人やったげよっか?」
「色々スッキリさせたげるよ~」
「え、マジ!?」
とあるグループのギャルっぽい子たちからそんなからかい染みた申し出が上がると、
「何デレデレしてんだエロ猿ゥ!」
「不信任提出すっぞ!!」
別のグループの野郎からゲラゲラと笑いながら野次が飛ぶ。
「非モテの嫉妬が心地ええわー!」
「〆る? アイツ〆ちゃう?」
「わっはははは!!」
あぁ……良いなあ。
「鷹城くん、学校再開とかの話も出てたけど何時からとか決まってるの?」
「んー、ある程度人が集まり次第かな。あとは夏休み中、夏期講習とかって名目で自由参加の勉強会とかもやろうかなって」
「なあなあ、体育祭もやったんだし文化祭もやるんだよな!? どんな感じよ!?」
「まだ考えちゅー」
良い。
「生徒会だよりに部活とかについても書いてあったけど会長ってこうなる前は部活とかやってたんです?」
「んにゃ、中学からず~っと帰宅部よ。でも良い機会だから何かやろうかなとも思ってる」
「だったら野球しようぜ!」
「いやラグビーだろ」
「サッカーだよな会長!」
「どう考えてもバスケっしょ」
「楽だけど皆からちやほやされる部活が良いかなー!」
≪部活舐めんな!!≫
ホント、良い空気だ。
(にやけちまうよ)
一通り回り終えたところで帰還。
網の近くに俺のために用意してくれたミニテーブルとキャンプチェアがあったので腰を下ろす。
「ただ~いま」
「おかえりなさい。お肉、焼けてますよ」
「すまんねえ」
「こっちは野菜だ。肉だけでなく野菜も食べないとな」
「じゃあ僕からはライスを進呈」
「……ど、ドリンクを」
「至れり尽くせりじゃんね」
ありがたく頂こう。
「随分と嬉しそうだね」
「そりゃな。……頑張った甲斐があったんだって思える光景だもんよ」
先行きは不透明。未だ不安要素は山のように積みあがってる。
それでも、ああそれでもだ。これは確かな一歩だろう。
「……ああ、そうか。今か」
首を傾げる四人に俺は言う。
「今、実感した」
真実が暴露されたあの日、揺籃の時は終わりを告げた。
望まざる巣立ちを迎えさせられた。
けどあの日から俺たちは前に進めていただろうか?
一番、動いていたと思われる俺ですら……多分、本質的には進めてなかったんじゃないかな。
でも今なら胸を張って言える。
「これが最初の一歩なんだ」
過酷な運命へと続く道の、
「今ようやく俺たちは歩き出したんだ」
青き春の終わりを目指して。
ソシャゲみたいにメインのストーリーラインの主要人物は固定面子で進めて
イベント形式みたいなサブで他のキャラの出しまくって色々青春させようとか考えていたんですが
そうするとキャラ設定大量に考えないといけなくてこのままのペースで続けるのは無理だなと判断し
キリも良いので一先ず完結という形にさせて頂きました。
続くかどうかは分かりませんがここまでお付き合いくださり本当にありがとうございます。




