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俺は『いざという時しか頼りにならない男』らしい  作者: 鶏唐


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 体育祭二日目。

 本日の日程はリアル格ゲーと終わった後は閉会式をして一旦解散。

 数時間後にゃ自由参加の打ち上げも兼ねた後夜祭って感じだ。BBQとかキャンプファイヤーしながらオールだオール。


「ここで改めて自己紹介をば。解説の鷹城尊です」

「……し、静間……ひ、ひか……げ、です」

「どうも狭間九郎です」


 予選が終わり休憩を挟んで始まった本選は二ブロック三十二人で行われるトーナメントだ。

 今は一回戦五試合まで終了し、これから六試合目が始まろうとしている。


「我ら生徒会からは三人出してたんですがね。まさかの庶務雑務が予選落ちという」

「んぐ……」

「そこら辺どうなん? 皆さんより早く訓練始めてたのにあっさりやられちゃってどうなん?」

「り、リードしてるからこそ真っ先に落とそうとするのは自然なことかなって」

「そうですね。ところで同じようにフクロにされてもそれをぶち抜いて本選出場を果たした女子二人が居るわけですが」

「ごめんなさいねえ! 情けなくてごめんなさーい! 僕だって紗枝にカッコ良いとこ見せたかったよ畜生め!!」


 突っ伏しておんおん泣く九郎の背中を撫でるシズちゃんは優しいねえ。


「さてここまでで五試合行われたわけですがどうでしょう静間さん?」

「……そ、率直な感想を述べるなら……想定より平均値が、高い、かと」

「そこは私も同じ意見です」


 本選出場者は千人の中の上澄みではある。

 じゃあ予選落ちした選手と隔絶した力を持っているかと言えばそうでもない。

 九郎を弄りはしたがコイツが敗れたのもそこら辺の理由が大きいだろう。


「やる気に満ち溢れた方達という前提ありきにしても正直、驚きですよ私」


 戦うために生み出されたつっても今の段階じゃ生まれる前に刷り込まれた技術も知識も解禁されてねえからな。

 ここまでのレベルにまで達したのは本人の努力ありきだ。


「手放しに称賛して良いんじゃないですかねこれ」

「……そう思う」

「っと、そろそろ準備が整ったようなので選手紹介いっときましょうか」


 会場内のモニターにデカデカとバストアップ画像が映し出される。


「我らが超生徒会所属。風紀委員長、久我安寿。画像越しでもキラキラしてんなあの子」

「特に加工してるわけでもないのにねえ」


 おっと九郎が復活したな。


「まあ我々にとっては身内なわけですが今はね、解説ってことでフェアにやらせてもらいます」


 反対側のモニターに対戦相手が映し出される。

 前髪を斜めに流した黒髪ショートの一見美少年に見える……女子だ。

 特に盛り上がりも考えずテキトーに組み合わせたはずなのになあ。


「白組からお越しの天音千早さん! いやイケメンですねえ」

「お越しは何か違うくない? 期せずして男装の麗人対決だね」


 女子にはキツイだろうしボディスーツの上からの着衣は許可してある。

 そして上に着るのはジャージに限らず何でも良いとも。

 これはどっちかってーと男向けだな。カッケー服着てスタイリッシュにバトりたいもんね。


「……観客席から黄色い悲鳴が上がってるな」

「男子の私でもキャー言いたくなる顔の良い女対決ですからねえ」


 疼くよね、乙女が。


「さて男装の麗人と一口に言っても両者タイプが異なります。

久我選手が活発なキラキラ系王子様ならしっとりダウナー系の王子様。

この顔面偏差値の高さからすれば最早優劣はなく好みの領域でしょうね。私? 私はどっちも良いと思います!

ってかステラ、これマジで盛り上がりを考えてのマッチングとかじゃねえよな? 絵ヅラが良過ぎるぞ」


 そう呼びかけると即座に違いますと返って来た。


「ってか思ったんだけどさ。リアルに男装の麗人とか居るんだね」

「百万人も居りゃそういうのも居るだろ」


 まあどっちも性自認がどうとかではなく単に男子系の装いが好みってだけみたいだが。


「ただそれは同時に百万人の中に女装好きの野郎も居るかもしれないってことなんだよな」


 男の娘ならありだがむくつけきマッシブな野郎だったら……いや否定はしまい!


「だって俺は生徒会長だから! 皆のスタイルを尊重するよ!!」

「アホな会長は置いといて両者の実力についてだけど……静間くん?」

「……どちらも予選では際立った動きをしていたな。本選出場者の中でも優勝候補に名を連ねられると思う」

「そんな実力者がまさかの一回戦で衝突! 惜しくもあり、良い戦いが見られる期待で嬉しくもありってところかな」


 オッズはアンジュちゃん有利。

 しかしシズちゃんが言ったように天音ちゃんも際立った動きをしていたからな。

 それを見てた連中が賭けているのか中々のものだ。


「さて、先ほどタイプ違いの美形と言いましたが違うのは戦闘スタイルもですね御両人」

「……久我は左腕を変化させた砲を主軸にしての中・遠距離」

「対して天音選手は右腕を刃に変化させての近接。引き撃ちが出来る久我選手有利かな?」

「どうかな? リングという限られた範囲だからやりようはあると思いますよ」


 天音ちゃんの立ち回りを見るにそういう小器用さは備わってると見て良い。

 リングの上で向かい合う二人。真っ直ぐ視線を交わすだけで絵になっている。


「思い人の前だ。格好をつけさせてもらうよ。っと、流石に不純かな?」

「……良いんじゃない? それぞれっしょ、戦う理由なんて」

「寛容なんだね」

「他人にとってはくだらないことでも、その人にとっては宝物。そんなもんでしょ? 世の中なんて」


 それに、と天音ちゃんは口元を緩ませる。

 ってか歓声デケエ! いやだが分かる! 会話まで美形だぞこの二人!!


「私もまあ、似たようなもんだし。情熱、くれた人の前だから」

「なるほど、そういう意味でも。意外――というのはどちらに対しても失礼か」


 激しさを増した観客の声で聞こえないが小さく笑い合う姿は少女漫画の一ページみたいだ。


「君とは気が合いそうだ。今度一緒に食事でもどうだい? 無料の範疇にはないが中々に良い店を知ってるんだ」

「なら私の祝勝会だね。奢ってよ」

「勝つのは私さ」

「なら」


 二人が同時にロックを解除し臨戦態勢に入った。


「「勝った方が相手の奢りで祝勝会!!」」


 戦いが始まった。

 互いの間合いを考えるなら天音ちゃんが前に、アンジュちゃんが後ろにってのが常道だろう。

 しかしここで敢えてアンジュちゃんは前に距離を詰めた。


「……まあ、うん。鈍器にもなるよなアレ」

「取り回しは刃に比べて悪くはあるけどね」


 身を捻って遠心力をつけてから叩き付けるように。

 回避出来るか微妙だったのだろう。天音ちゃんは防御してしまった。


「あれは悪手だね。位置的に重さが乗ってるから」

「「いや違う」」


 俺とシズちゃんが口を揃えて否定。

 俺も最初はミスったと思ったがあれは計算だ。

 回避するより受ける方がアドバンテージを得られると判断したのだ。


「……見事な脱力だ」

「だあね」


 押されているように見せかけてからの突然の絶妙な脱力。

 危険なアクションではあるが、上手くやれば攻撃をすかして隙を作ることも出来る。

 砲身の重さに押されるように身を流しながら加速しての延髄斬り!

 追撃は流石に当たらなかったがアンジュちゃんのHPがガッツリ削れた。二割ぐらい持ってったんじゃね?


「意表を突いての近距離が失敗したからこれは久我さん不利、かな?」

「そうでもなさそうだぜ? なあシズちゃん」

「……機を窺っている」


 砲身を盾にして防戦一方、に見えるが垣間見えるその目を見れば分かる。


「心理的な隙を見せないためのブラフの可能性もあるが」

「……どう足掻いても打開出来ないほど不利な状況でもないしな」


 俺たちの予想は当たっていた。


「……砲を使った加速か!!」

「意趣返しの延髄斬りってわけだ」


 出来るか出来ないかで言えば出来るのだろう。

 ただ調整が難しいのだと思う。アンジュちゃんの砲は高出力のゲロビか弱攻撃的な単発弾しか使えてなかったからな。

 単発だと加速に使えるほどの勢いは得られないがゲロビだと威力があり過ぎてすっ飛んじまう。

 丁度欲しい距離を詰められるだけの加速を防戦の中で探っていたのだろう。

 一段目で上に飛び、二段目の加速で背後を取っての延髄斬り。

 刹那の攻防は見事の一言だ。多分、これ見てるピルグリムも褒めてると思う。


「良いね良いね。盛り上がって来たぞ」


 そこからも手に汗握る目まぐるしい攻防が続く。

 決着がついたのは十数分後。勝者はアンジュちゃんだったが、


「どちらに転んでもおかしくはなかった。勝敗を分けたのは僅かな差でそれは決して埋められないものではない」

「勝者が敗者にかける言葉なんてないと思うけど?」


 仰向けに倒れた天音ちゃんに語り掛けるアンジュちゃん。

 天音ちゃんの言は至極尤もだが、


「いやある。これでは気分良く奢ってもらえない」

「……はは、ってことはだ」

「ああ、お疲れ様会ってことで費用は折半にしよう」


 差し出された手を取り天音ちゃんが立ち上がり、向かい合う。

 そして今度は天音ちゃんから手を差し出しアンジュちゃんが手を取り握手を一つ。

 え、何これ? 示し合わせたわけでもないのに会話から動きまでイケメン過ぎへんか?


「いやはや見事な試合だったね」

「ですねえ。後に続く選手はプレッシャーかもしれませんが気負わず頑張って頂ければなと」


 その後も試合は続き、Aブロックの二回戦を半ばまで消化したところで昼休憩となった。

 俺と九郎、シズちゃんも生徒会テントに戻り女子二人と合流し昼飯を食べ始めた。

 彼女持ちの野郎二匹はそれぞれ手作り弁当だが、俺も負けてない。こっちは女子二人だからな!

 ……どっちとも付き合ってねえからお前の負けだろって? うん、まあ、そこは置いとこう。


「二人ともお疲れさん」

「ありがとうございます。とりあえず先行者としての面目は保てそうです」

「まあ、今のところ何とかなっているがこの先はどうなるか」

「あなたの場合、一回戦から激戦でしたしね」

「トーナメントだからね。そういうこともあるさ」


 おっと九郎くん、肩身が狭そうだねえ。


「あ、いや狭間くんを揶揄してるわけではないんだ」

「申し訳ありません」

「逆に惨めだからやめて。いっそ尊くんみたいに弄って……いやそれも腹立つな」


 面倒な男よのう。


「時に尊さん。一通り選手の試合は見終えたわけだがこれはと思う人は居たかい?」

「そうねえ」


 目ぼしいのは何人か居た。

 中でも個人的に気になるのは、


朝陽奈 旭(あさひな あきら)。あの子だね」

「「……あぁ」」


 九郎とシズちゃんはなるほどという顔をした。


「百万人も居るんだからそりゃ居るとは言ったけど……本当に居たとはなあ」


 スカートを好む系男子――――もとい男の娘。

 見た目は小柄な女の子にしか見えなくて選手紹介の時にステラから訂正を入れられて驚いたよ。

 服装もスーツの上から女物の服着てるしな。

 こっちはアンジュちゃんや天音ちゃんと違って多分、マジモンだ。

 所作が女の子のそれだったもん。自分は男だという認識がありながら女の子になりたいと思ってるタイプと見た。


「ステラから詳しいプロフィール聞いたわけでもないのにそう断言出来る観察眼、ちょっとキショイよね」

「うるせえ!! ……キャラって意味でも強いが、あの子は実力的な意味でもヤバいと思う」


 霊的な特徴は俺と同じ翼だが旭ちゃんは実体型で天使の翼みたいのがくっついてる。

 そしてこれが中々の強性能なんだよな。

 切り離した羽がロボット系の創作に出て来るビット兵器みたいになるのね。

 しかも左右の羽で性質が違うんだわ。

 右から分離した羽は刃物としての性質。左から分離した羽からは何かビーム撃てるみたいで遠距離武器としての性質を持っている。


「大当たりの部類に入ると思うが注目すべきはそれを十全に操れる当人の力量だ」


 思考操作が可能つってもだ。それにしたってキャパってもんがある。

 性質の異なる左右の羽を同時に展開して十全に操れるか? 性質が違うってことは運用も異なるんだぞ?

 少数ならまあ出来るかもしれないが何十枚もとなると運用は困難だ。

 俺なら状況によって左右の羽を使い分ける形で運用するだろう。少なくとも併用はしない。


「……オートかセミオートならまだ分かるんだが……あの動きは、明らかに違う」


 シズちゃんの言葉に大きく頷く。

 それを証明してくれたのが一回戦で旭ちゃんと当たった男子だ。

 彼もまた優勝候補に名を連ねるレベルの実力者で、だからこそ旭ちゃんの実力も浮彫になった。


「情報処理能力、空間認識能力の素養が頭抜けてるんだろうな」


 ただ弱点がないわけでもない。

 一回戦だって圧勝だったわけじゃないしな。懐に潜り込めれば何とかなりそうではある。

 とは言え決して近接格闘が弱いってわけでもないがな。


「あの子が優勝候補で言えば一番人気になるだろう」


 とは言えだ。負けた奴らの中にもこれはってのは結構居たがな。

 制限ありだから十全に実力発揮出来てないようなのがチラホラ。

 限りなく何でもありな状態でやればまた色々と展開は変わって来るだろう。


「なるほど」

「というか尊さん、完全に朝陽奈さんを女の子として認識してませんか?」

「本人がそう在りたいと思ってんなら否定はしたくないからな」


 いや俺の見立てが間違ってる可能性もあるからその時は普通に男として扱うが。


<やっぱコイツ危険なのでは? ステラは訝しんだ>


 急に出て来るな。

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― 新着の感想 ―
[一言] ステラさんの訝しみ 素敵です
[一言] 四人目のヒロイン候補は男の娘ですかね
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