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俺は『いざという時しか頼りにならない男』らしい  作者: 鶏唐


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「以上を持ちまして体育祭一日目の日程は終了となります。お疲れ様でした」


 アヤナちゃんのアナウンスが終わり人がはけ始める。

 時刻は午後の四時前。ナイターも余裕だし何ならクレイドルは人工天体を使ってるからなずっと昼間のままにも出来る。

 詰め込めば一日で全部の予定を消化出来るだろうがぶっ続けでやれば楽しさよりも疲れが勝ってしまう。

 なのでほどほどの時間で切り上げることにしたのだ。

 直ぐに帰るのもアレだな、とかもうちょっと遊びたい子向けに屋台は夜九時まで営業させてあるので結構な数の生徒が残っている。


「ほいじゃ九郎、シズちゃん行くべや」

「うん。七條さん、久我さん、お先」

「……失礼する」


 最低限やるべきことを片付け、女子二人に挨拶をして会場を後にする。

 向かった先は最寄りのファミレス。


「おーい、ここここ!」

「悪いな待たせちまって」

「良いよ良いよ。そっちは生徒会の仕事あるんだしさ」


 奥の席でボッキロードトリオと合流する。

 今日は九郎とシズちゃんを三人に紹介する予定だったのだ。


「はじめまして。僕は狭間九郎。尊くんには何時もお世話になってます」

「……静間日影。同じく……色々、世話をしてもらっている」

「おお、これはご丁寧に。俺はキム・テオ」

「クロード・オルドリッジだ。名前で良いぞ」

「南米に吹く灼熱の疾風ことボブ・ホーキンズ。よろしくゥ!」


 自己紹介もそこそこに早速、注文を飛ばす。

 俺らも腹減ってるからな。何か腹に入れとかないと。


「色々話は聞いてるよ。鷹を助けてくれてありがとな」

「……い、いや……助けてもらってるのはこっちだし」

「そうそう。尊くんが手を引いてくれたから僕らは早く立ち直れたわけだし」

「おいおい、そんなに褒めても何も出ないけどもっと褒めて良いんだぞ?」

「調子に乗るな」


 おぉぅ、九郎くんの辛辣なツッコミが染みるぅ。


「ちなみに九郎はこの面子で唯一の彼女持ちだったりする。存分に嫉妬して良いぞ」

「……!」

「うん?」


 何故かシズちゃんがビクっとした。

 え、待って待って。ひょっとして……。


「シズちゃん、居るの? 彼女」

「……」


 うそやん。

 え、だってそんなの一言も聞いて……いや私生活について話すタイプじゃなかったわ。

 そういや女子の呼び方も呼ばれ方も苗字だったなシズちゃん。

 引っ込み思案な性格ゆえと思っていたが……うわマジかよ。


「ってか九郎、お前その面知ってたな!?」

「まあ、うん。同じ彼女持ちってことで色々相談受けてたし」


 クソァ!!


「超生徒会長だけおひとり様とかウケる」

「ご愁傷様です」

「草」


 キムはコップでチーン! するな。お行儀悪いだろ。


「つーかおひとり様云々はテメェらもだろうが!!」

「いや俺は今良い感じの子居るし」

「思いあがるなよボブ。あくまで好みのタイプを見つけただけだろお前」

「そうだそうだ。偉ぶるのはくっついてからにしろ」

「何自分は違いますけど? みたいな顔してんだか」


 イキったボブに俺たち三人が集中砲火を浴びせる。

 しかしボブの面の皮の厚さは中々のもの。

 九郎とシズちゃんよりは男として一段下のステージに居るが、俺たちよりは一段上だというスタンスを崩さない。


「「「実るな実るな枯れ果てろ恋の花ァ!!」」」

「呪詛を飛ばすな。君ら友達だろ」

「……そういうの、どうかと思う」

「やっぱ彼女持ちは違いますわァ! 心の余裕っつーんですかねえ!? お前らマジで反省しろや!」


 クッソ、ますますボブが増長してやがる!


「尊くんの友達だけあって中々に愉快な人たちだね」

「……よ、陽キャ過ぎて……ちょっと……怖い」

「「「いや障害物競走のあんたも十分怖かったよ」」」


 選手として参加したボブは当然として見てたキム、クロードもビビったらしい。

 後から振り返ってみれば最初が一番ガチだったよねっつー。

 大量のドローンを率いてガンガン攻めて来るシズちゃんは正にボスだった。


「逆に狭間はアレだな。まるで印象に残ってない」

「分かる」

「本人もステージも薄味だったよね」

「……実際そういう意図でやってたけど直に言われると何かもやるね」


 すまんな中間管理職。


「静間とは別の意味で怖かったのはアレな。最後の四天王」

「七條ちゃんだっけ?」

「やられた後の演出がホラーじゃん。息絶える演技上手過ぎでしょあの子」


 それは俺も思った。

 提案したのは俺だけどあそこまで迫真の演技かまされるとビビるよね。

 何ならポッドの中でちょっとちび……いや何でもない。


「その後にラスボス登場だけど逆にホッとしたわ。だって知ってるツラだもん」


 そんな話をしていると注文の品が届き始めた。

 おやつということで皆、スイーツ系を頼んだのだが……ちょっと絵ヅラがキツイな。


「明日はリアル格ゲーかぁ……鷹は出ないんだよな?」

「ああ。今の段階だと差があり過ぎるからな」


 第一段階までに限定して性能を落としても経験の差がなあ。

 既に実戦を経ているのに加えてピルグリムとも実戦形式でやり続けてるから。

 ちなみにシズちゃんもだ。こっちは対俺を主眼に置いて戦闘に重きを置いた訓練してたからな。


「へえ、シズちゃんも強いのか」

「……そ、そうでもない」


 シズちゃんは恥ずかしそうだ。


「ルールとかどうなってんの?」

「九郎ちゃ~ん」

「はいはい。明日改めて説明されるけど」


 そう前置きして九郎はルールについての説明を始める。


「君たちも知っての通りリアル格ゲーは全員参加だ。

午前中、最初は紅白ごちゃ混ぜの予選から始まる。予選は一対一じゃなくて集団だね。

ここで篩にかけて本選に出る人間を選別するわけだ。残った数の多さがポイントに直結する。

本選では基本的にマッチングは紅白になるけど、紅白の人数が均等になることはまずないだろう」


 多い方は同陣営でのマッチングになる。


「本選はシンプルに勝てば勝つほどポイントをゲット出来る。

ただ負けた方は加点なしかと言えばそうでもない。

良い立ち回りをしていたり、これはと思うような動きがあった場合も加点される。

だから勝てそうにないからって試合を投げるのはおススメしない。その場合は加点がなくなるからね」


 ただ立ち回りでの加点は勝者側にもあるからそこは注意だ。


「ちな分かってると思うけどボブのゾンビ戦法は通用しねえかんな」

「HPゲージあるもんな」

「マゾ有利にならないのは良いことだと思う」

「友達をマゾ呼ばわりとか酷いと思わんのか?」


 だってマゾじゃんお前。


「話を戻すね?」

「「「「こりゃ失敬」」」」

「戦いとは直接関係ないルールについても説明しよう。本選からは賭けが解禁される」

「「「博打OKなの!?」」」


 OKなのである。

 金銭を用いた私的な賭博は禁止されているが、公的なギャンブルはセーフだ。

 何せ運営がAIだからな。人間には出来ないことだって簡単に出来ちまう。

 誰が何時どれだけの金額を賭けたのか。頻度はどれぐらい?

 傾向から依存症の気があると判断されたなら強制カウンセリングもかませる。

 ステラが管理するのならギャンブルで身持ちを崩すことはないから娯楽の一つとして認めることは可能だ。


「ただまあ賭けられる金額には上限があるけどね」


 あくまでちょっとした小遣い稼ぎの範疇だと九郎は締めくくった。


「い、色々と考えてあるのは理解したがそれでもギャンブル解禁とは」

「驚いたわ」

「な! すっげえいけないことしてる気分だわ」

「……実際、提案した尊以外は最初難色を示していたしな」


 とは言え頭ごなしに否定されたわけでもないがな。

 いずれはそういう娯楽を解禁するにしてもまだ早いのでは? というのが大半だった。

 俺も部分的には同意した。全体で解禁するのはまだ先のつもりで、今回はあくまで体育祭でだけのつもりだったし。


「え、鷹が提案したん?」

「そうだよ。幾ら楽しむと言ってもそれはどうなのかと僕も思ったんだけど」

「……理由を、聞けば、納得出来たから最終的に全員が賛成した」


 どういうことだと何時メン三人の視線が向けられる。


「今回の博打はある種の訓練も兼ねてるのさ」

「「「く、訓練?」」」

「今回、賭けに使われるのは何だ?」

「何って……戦う奴ら、だよな?」

「それだよ」

「「「どれだよ!?」」」

「漫画とかでよくあるだろ? 戦ってもねえのに“こ、コイツやばい!”みたいなシーン」


 俺がシズちゃんに対してそう感じたように戦う前から強い、ってのは何となく分かるもんだ。

 ピルグリムと戦うことでそういう感覚が培われた結果だろう。

 いやまあシズちゃんの場合は事前に素養について説明されてたってのもあるかもだが。


「……ギャンブルを通して勝ちそう、つまり強そうな奴を見極める目を鍛えようって?」

「正確には感覚的な分析能力を養う、だな」


 一回戦は殆ど情報がないままだからハードルは高い。多くを感覚に頼らざるを得ない。

 二回戦はある程度、情報が分かってるのでハードルは低くなる。感覚に頼る部分は小さくなるが頭を使った分析に使える。


「俺らにとってさしあたっての敵と言えるのは草刈り機でアレについては情報も大概出ちゃいるが」


 そういう感覚を鍛えるのは決して無駄にはならない。

 死地においても冷静に頭を働かせられるのが理想だが、それは並大抵のことではない。

 だから感覚的に現状を分析し判断出来るような能力を少しでも身に着ける。やばいラインを見極めて退けるようにな。


「今回の博打解禁はその一環さ」

「……尊、そこまで考えてリアル格ゲーを提案したのか?」

「いんや? 最初にあの会場で語った時はそこまで考えてなかったよ」


 思いついたのは十日ぐらい前か。

 使えそうだなと思ったんで超生徒会の会議で提案してみたのだ。


「……お前、マジにトップとして仕事してんのな」

「仕事ってほどのもんでもねえ単なる思いつきだよ」


 実際にそれを形にするのは俺以外だからな。

 仕事と呼べるほどのものではない。


「やべえ、鷹がカッコ良く見える。小学校の時以来だ」

「ちょっと待って。俺そんな長い期間カッコ良いとこ見せてなかったの!?」


 あったやろ! つーか逆に何だよ小学校の時のイケメンムーブ!


「裏山で見つけたエロ本を堂々と持って帰るみこっつぁんはマジにイケメンだったよ」

「それ!?」

「ってか今思ったんだがああいう捨ててあるエロ本って……」


 キムがぽつりと呟く。


「「「「……」」」」


 やべえな。隠してたエロ本をベッドや机の上に置かれるのよりキツイぞ。

 すん……ってなった俺たちを見て九郎がフォローを入れる。


「まあそれは置いといてだ。三人は他に気になることとかない?

あるなら遠慮なく聞いて欲しい。体育祭のことに限らずね。ほら、一般生徒の目線を色々知っておきたいからさ」


 なるほどこれは確かにSSR中間管理職。

 フォローが上手くなけりゃ間に入って上手くやれませんよねっていう。


「あ、あー……じゃあアレだよ。委員会について聞きたいんだけど」

「何かな?」

「給食委員とかあるの?」

「……な、懐かしい単語だ」


 シズちゃんがそう言うのも頷ける。給食委員とか小学校の時だけだろ。


「いやでも尊、考えてもみろよ」

「あん?」

「衣食住に困らないつったって自分で作るの除けば全部ロボじゃんか」

「そうだけど」

「人の手で作った料理の温かみみたいなのが恋しくなるだろ。精神的なケアって意味でもさ」

「……なるほど」


 その視点はなかった。

 俺はその温かい料理を極々自然に食べ続けていたからな。気付けるわけがねえ。

 真実の暴露から三日目ぐらいだろ。ロクな食事してなかったの。

 そっからはアヤナちゃんに面倒見てもらってて少し前からはアンジュちゃんも加わってる。


「創設予定の委員会に給食委員はなかったが……九郎、シズちゃん」

「支持するよ。料理の素養がある子も居るだろうし」

「……うん、良いことだと思う」


 アヤナちゃんとアンジュちゃんも賛成を示すだろう。

 後日改めて議題に上げて細かいところを詰めていこう。


「お、おぉぅ……え、そんな簡単に決まるの?」

「実際有益だったもん」


 それから真面目な話、馬鹿な話、色々なことを話して楽しい時間を過ごした。

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― 新着の感想 ―
[一言] 現在存在する予定の委員会が風紀委員会と給食委員会という
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