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<全ての始まりは二十一世紀最後の日>


 二十一世紀最後の日?

 俺たちの認識ではそれは何十年も先のことだ。


<その日、米国は人類史上初となる異星人との接触を果たしました。

地球上で最も権勢を誇る米国に自らやって来たのです。

後にピルグリムと名付けられる彼は地球人類に警告を発しました。今直ぐに宇宙開発を止めろ、と。

その理由については後ほど語りますが米国はそれを与太話だと切り捨てました。あまりにも非現実的だから。

翻訳機越しとは言え対話を交わしたのです。その精神構造が我々に近しいものであることは分かっていました>


 ……宇宙人にも頭のおかしい奴は居る、とそう認識したわけだ。


<ピルグリムは拘束され極秘の収容所へと運ばれました。

非道な人体実験等を行うつもりはなかったようでその扱いは丁重であったと記録されています>


 ステラが語った米国の姿勢はとても共感出来る。

 今正に俺たちがそうだもの。与太話だとしか思えないことを語られている。

 米国と違い切って捨てられないのは目に見える異常があるから。

 そして恐らく米国も――――いや地球人類も、目に見える異常に遭遇し目が覚めたのだろう。


<ピルグリムの来訪から半日ほど時が流れ新年がやって来ました。

新しい世紀の始まりは同時に地球人類の本格的な宇宙進出の始まりでもあったのです>


 米国の時間で零時を迎えると同時に多くの人種が乗った宇宙移民船第一号が発射された。

 その様子はリアルタイムで全世界に放映されており、だからこそ“誤魔化せ”なかったとステラは言う。


<捻じれ曲がる宇宙船。爆発もせず雑巾のように捻じられ縮み、やがて船は完全に消滅しました>


 生放送だ。放送を中断しようと思えば出来る。というか実際にやろうとしたらしい。

 しかしどうしてか映像は止まらず。カメラを物理的に破壊しても映像は流れ続けていたのだという。


<そして移民船の消滅から時を置かずして世界中に“災厄”が降り注いだ>


 軌道上に突如出現した無数の巨大な球根のようなナニカが世界中の都市部に降り注いだのだ。

 落下の衝撃だけでも随分な被害を被ったがそんなものは序の口でしかなかった。

 燃え尽きるどころか傷一つなく地表に突き刺さった球根が開き、そこから有機物のような無機物のような奇妙な生物が出現。

 その生物が目についた人間を殺し始めたのだ。


<未曽有の大パニック。唯一手がかりを持っているのは米国>


 ピルグリムか。

 ステラの口ぶりからしてアドバンテージを握るべく他国には知らせていなかったのだろう。


<事態が事態ですからね。当時の大統領が直接、ピルグリムの下まで赴き問い質しました。

「これは君の仕業なのか」と。彼は答えました。「だから警告しただろう」と>


 例の与太話、か。


<少し脇に逸れましょうか。皆さんが認識しておられる時代の科学でも宇宙開発はそれなりに進んでいたと思います>


 探査船を飛ばしたり何だり色々やってたな。詳しくはないが時々、ニュースになっていた。

 あれらは実際にあった過去の出来事を流してたんだろうな。


<疑問に思ったことはありませんか?>

「疑問?」

<大昔ならいざ知らず、今の時代でも宇宙人を発見出来ないのは何故だろうと>


 それは……なくはない。

 こんだけ科学も発達して色々観測してるのに何で未だにコンタクトがないのか。

 宇宙人なんてものは空想で実際には居ないのかな、なんてSF映画を観た後とかで考えたりした覚えがある。


<人類に降りかかった災厄がその答えです。

ピルグリム曰く「そこに悪意はなく、宇宙はただただ強い生物を求めている」とのこと。

高度な知的生命体の宇宙への進出が一定水準に達すると災厄が訪れその種族へのテストが始まるのです。

そしてこのテストは途中で止めることは出来ない。一度始まってしまえば滅ぶか全てを退けるかの二択しかなくなってしまう>


 つまり、


「ピルグリムはテストをクリアした種族の一人で、だから俺たちに警告を?」


 宇宙を自由に移動出来ているのなら試練はクリアしたのだろう。

 だが途方もない被害を被ったことは予想に難くない。

 だからこそ他の星の知的生命体が同じ轍を踏まぬよう警告に……巡礼者(ピルグリム)とはよく言ったものだ。


<クリアしたというには些か語弊があるでしょう。降りかかった八つの災厄を彼の種族は確かに退けた。

しかし種族としてはもう終わっている。生き残った者らは心が折れてしまった。

宇宙(そら)へ飛び出そうとした行いを過ちと断じ文明の放棄を選択し原始的な生活に回帰してしまったのです。

ピルグリムもそう。ただ彼が唯一他と違ったのはこのような悲劇が繰り返されてはならないという優しさを抱いていたこと>


 試練を生き残った時点でピルグリムは一廉の人物だったことは察せる。

 彼はいわゆる英雄的存在だったらしく、種族の指導者たちに懇願したのだという。

 このような悲劇を繰り返さないため旅に出たい。そのために技術を使わせて欲しいと。


<英雄の言葉で何より既にその悲劇を痛感した身です。

そういうことならと放棄ではなく封印を選びピルグリムにのみその利用を許可したのです。

そして彼は星の海へと飛び出し宇宙へ飛び出す可能性のある知的生命体を探し始めました。

我々以前にも多くの文明と接触を果たしたそうですが、そう簡単に信じられるものではありません>


 証拠として自らの故郷が、種族がどうなったかを記録した映像等も見せたそうだが……。


<宇宙に飛び出せるレベルの知性を持つことはイコール、それだけ貪欲な生物でもあるということです>


 知性と欲望は比例するってことか。夢がないな。

 広い宇宙のどこかには絵空事のように清廉な生き物が居ても良いだろうに。


<簡単に聞き入れられるはずもなく全て与太と切り捨てられたそうです>

「そして困ったことに地球人も例外にはなれなかったと」

<ええ。聞き入れられなかった場合、ピルグリムは技術提供だけをしてその星を去ることにしていたとのこと>


 その際に災厄の形は共通ではなく種族で変わることも知ったのだとか。

 ステラは僅かに目を伏せながら続けた。


<彼も疲れていたのでしょうね>


 何の益もない巡礼の旅。報いを求めてのことではないとはいえ尽くが無碍にされて来たのだ。

 やってらんねえと思ってしまうのは当然のことだろう。


<ここで最後にすると地球人と運命を共にすることを決め協力を申し出たのです>

「それはつまり」

<ええ、乗り越えられるはずがないとそう思ったのでしょう>


 故郷に帰らず地球を終の地に定めたあたり善性は消えていなかったのだろう。

 ほっといても良いのに少しでも終わりを先延ばしに出来るよう協力を申し出るのだから。


「……ば、馬鹿馬鹿しい! 黙って聞いてれば何だ!?

SF小説じゃないんだぞ! こんなくだらない話を聞いている暇なんかないんだ! 僕は……ぼ、僕は……!!」


 神経質そうな男子生徒……名前は知らんが場所的に三年か、が立ち上がり叫んだ。

 黙って見届けるのはよろしくない。そう判断した俺は遮るように言葉をかける。


「その通り。実に荒唐無稽な話だ。だが、俺も先輩も既に荒唐無稽な事象を見たよな?」


 目の前で人が文字通り消滅するという荒唐無稽(ファンタジー)。これをどう説明する?

 俺の指摘に先輩はたじろいだ。もう一押しだな。


「……俺は朝、起きれないタイプなんだ」

「な、何を」

「目覚ましをセットしても夜中に無意識に解除しちまうぐらい筋金入りの怠け者なんだ」


 母さんに起こしてもらわなきゃ絶対に遅刻する。

 突然のカミングアウトに勢いが削がれたのだろう。先輩は困惑しているようだ。

 ……狙い通り。


「でもさ、今日に限っては自分で起きれたんだよ。したらさ、ベッドの脇に母さんが座ってて俺の寝顔見てるわけ」


 何て言ったと思う?


「「何よ、自分で起きられるんじゃないの」だってさ」


 嬉しそうな、寂しそうな、そんな顔だったよ。


「朝飯の時さ。俺とタメ張るレベルで食い意地が張ってる父さんがメインのベーコンを俺にくれたんだよ」


 昼食の弁当は俺の好物しか入ってなかった。


「俺だけじゃない。先輩も、皆もそうだったんじゃないか?」


 朝起きた時から何時もとは違う何かを感じていたはずだ。


「だから今、そんなに焦ってるんだろ?」


 ステラは言ったよな?


「俺たちを守り育ててくれた大人たちの愛情は嘘じゃないってさ。

もう皆、分かってるんだろ? 家に帰っても“おかえりなさい”を言ってくれる人は居ないんだって。

でもそれを認めたくなくて……分かる、分かるよ。でも、だからこそ話を聞かなきゃ」


 話の内容がどうであれ、聞かなきゃいけない。


「居なくなった大人たち。その理由はまだ語られてない。愛情が嘘じゃなかったって言葉の意味もまだ分かってない」


 少なくともそれを聞くまではどんな荒唐無稽な話であろうと黙って耳を傾けるべきだ。


「で、でも」

「確認したいって? 今、学校の外に出られるようになれば皆一目散に家に帰るだろう」


 その道中で大人が消えた街の姿を目にするはずだ。

 家に帰ったら大切な人たちが居なくなったことを嫌が応にも認識させられるはずだ。


「直ぐに立ち上がれるか? 俺は無理だ。頭で分かってても実際、その光景を見たらしばらく何も出来なくなる」


 だからだ。だからその前に、話だけでも聞いておく。


「崩れ落ちても、立ち上がれるように。立ち上がるための支えが必要なんだ。

ステラの話が真実ならきっと、母さんや父さんは俺が立ち上がることを望んでる。

もう二度と会えない人たちが心底から自分を想ってそう願ってくれているのなら俺はそれに応えたい」


 だからステラの話を聞かせてくれ。

 そう頭を下げると先輩は泣きそうな顔で「ごめん」と言って腰を下ろした。


「続きを」

<ええ。ピルグリムの見立ては間違っていませんでした>


 結論から言うと一つ目の災厄。Mower――草刈り機と名付けられた生物の虐殺さえ乗り越えられなかった。

 守りに徹するのが精一杯でじりじりと追い詰められていったそうな。


<当初は守りに徹している間に提供された技術を用いて攻勢の準備をしていたのですが>


 草を刈るように人間を殺す化け物の殺傷能力は人類の予想を大きく上回っていたのだ。


<厄災との戦いが始まってから三年後。そこを境に胎内に居る赤子が生まれなくなったのです>


 全て死産。その上、新しく作ることも出来ない。

 人類の生殖機能が停止してしまったのだ。悲劇はそれだけではない。


<生殖機能の停止から半年ほどで今度は十八歳未満の子供らが次々に倒れて行ったのです。

中には同じ症状に罹患する大人も居ましたが子供に比べれば圧倒的に少数。

詳細について語れば長くなるので省きますが子供だけを殺す特殊な病と思ってください>


 新しく子供は生まれず、既に生まれた子供たちも死に絶えていく。端的に言って種族の終わりだ。

 ならば俺たちは何なのか。核心が近付いていると感じた。


<ピルグリムから齎された技術を用いれば時間はかかるが生殖機能の回復は可能でした。

しかし、当時の大人たちはそれを選ばなかった。何故か? それでは未来がないと判断したからです>


 持ち直したところでその頃にはもう余力はなく試練は超えられない。滅びが確定してしまう。


<ゆえに彼らは未来に可能性を託す決断をしたのです。

試練が始まった当初、種の保全を目的として保存されていた精子と卵子。

それらに手を加え自分たちの後を継ぐより強くより優れた人類を生み出すことに決めたのです。

新人類の創造と彼らにより良い形でバトンを渡すために全てのリソースを注ぎ込む……>


 それはつまり、


「……捨て石になる覚悟を、決めたのか」

<はい。例え自分たちが滅びても想いを継ぐ子供らが未来を切り拓いてくれるのならば>


 そうするだけの価値はある。

 いずれ旧人類と呼ばれることになるであろう自分たちの歩みは無駄にはならないと。

 生き残った大人たちは覚悟を決めたのだという。


<そしてその選択が諦観に沈んでいたピルグリムの心を動かしたのです>


 ……ピルグリムの故郷でも自己犠牲的な行動に出た者は居ただろう。

 子供だけでもと身を捧げる人間も。他の星でも似たような光景は見たはずだ。

 それでも地球人が彼の心を動かしたのは何故なのか。


<まず第一に全てのリソースを注ぎ込むと言っても、そもそもからして新人類を創れるかどうかも怪しい>


 可能性はゼロではないが、高いというわけでもない。そんな塩梅だったらしい。


<ピルグリムもそれを理解していたからこそ彼は霊的科学の中でも禁忌とされた技術の提供に踏み切ったのです>

「……禁忌? ってか霊的科学?」


 何じゃそりゃと首を傾げる俺に「まずはそこの説明をした方が良いですね」とステラは説明をしてくれた。

 俺たちの認識の上でも当時の人類にとっても魂などというものはオカルトの分野だ。

 しかしピルグリムたちにとっては魂などは体系化された立派な化学の領域。

 ピルグリムの文明はその霊的科学の分野が発展していたから厄災を退けられたのだという。


<新人類の創造にも霊的科学が用いられる予定でした。具体的に言うと遺伝子操作ですね。

物的遺伝子と霊的遺伝子の両方に手を加えることで生まれながらに優れた人類を生み出そうとしたのです>


 ただ人類に今、提供されている技術だけではリミットまでに実現出来るか微妙なラインだったらしい。


「……そこで出て来るのが禁忌の技術とやらか」

<はい。ピルグリムの文明の末期に誕生したもので技術を放棄する際、真っ先に捨て去るべきだと判断されたものです>


 それだけ忌まわしいものなのか。


<生きた人間の魂を使い捨ての燃料にするという非人道的な技術でピルグリムもこれだけは提供するつもりはありませんでした>


 しかし地球人類の揺るぎない覚悟を見て提供に踏み切ったのだという。


<命を使い捨てにする覚悟を決めてしまったから同じことだと思ったのか。

あるいは犠牲となることを決めたその姿にかつての同胞の影を見たのか……ピルグリムの心境は分かりません。

ともあれ禁忌の技術を提供されたことで新人類のクオリティは不老化の実現などを含め大幅に向上しました>


 それは、つまり……俺たちの誕生は誰かの犠牲の上に……。


<禁忌を用いて作られた人工子宮で生み出せる新人類の数は約百万人。

旧人類に余力は残っていたので更に数を増やすことも可能でしたが他のことを考えるとそこが限界でした。

ならば残ったリソースはどう使うべきか。ひたすらに戦い少しでも敵の数を減らす?

ピルグリムはそう考えていたようですが旧人類はそれを選びませんでした>


 ……ああ、何となく分かってしまった。

 そうか、そういうことなんだな。


<皆さんは一定の年齢に達すれば即座に実戦投入が可能なだけの能力を持ち合わせています>


 ……だろうな。じゃなきゃ弄った意味がない。


<今はロックをかけているので実感はないでしょう。

しかしロックを解除すれば強靭な肉体、生まれる前に刷り込まれた技術の数々で直ぐにでも戦うことが出来ます。

ハッキリ言いましょう。皆さんを戦場に投入するまで戦い続けていれば僅かであろうとも旧人類が生き残る可能性はありました>


 なのに何故、それをしなかったのか。決まってる。


「……残された何もかもを愛するために、使ったんだな?」

<はい>


 或いは最初はもっとドライな計算だけだったのかもしれない。

 愛を教えることでそれが執着となり勝率が少しでも上がるだろう、と。

 新人類そのものを作り出す段階ではそこまで情がなくて旧人類の意地を見せ付けてやる。

 そんな気持ちの方が大きかったのかもしれない。

 だが生まれた子供を見て心境の変化があったのかもな。

 子供が居なくなってから新人類が造られるまでどれぐらいの時間が経過したのかは分からない。

 だが相応の時間は流れていただろう。

 久しぶりに新しく生まれた命を見て、そして共に過ごす内に絆されてしまっても不思議ではない。


「……俺たちの人生の大半は戦いに費やされる。それを不憫に思ったんだな」


 先生の最後の言葉が脳裏をよぎる。

 自分たちを許さないでくれ――俺たちは戦うために生み出された命とも言える。そこに俺たちの意思はない。

 旧人類のエゴと言えばその通りなのだろう。自分たちだけで終わってれば良かった。勝手に過酷な生を定めるなと。

 これから先、大人たちを恨む奴だって出て来るだろう。

 けどさ、俺はこの世に生まれて来られて良かったと思うよ。母さんや父さんに出会えて良かった。

 少なくとも俺は今日まで幸せに生きて来られた。それは嘘じゃない。

 その幸せを与えてくれたのは間違いなく大人たちだ。

 ……皆が皆、そう思えるかは別だがな。この先、この問題に火がつくこともあると思う。


<戦いを運命づけられた命を憐れんだのは事実。過酷な運命を強いてしまったという罪悪感もあったでしょう。

同時に温かな愛情が土壇場でその命を支え未来を切り開く大きな力になると考えたのも事実。

ですが理由はどうであれ、あなたたちを想うがゆえの選択であることは分かるでしょう?>


 ……ああ、痛いほどにな。


「となると俺たちが今まで認識していた現実は仮想空間みたいなものなのか?」


 ステラは頷いた。


<当時、生存していた旧人類は自分たちを大きく三つに分類しました。

一つ目は時間制限つきだが絶対的な安全圏を確立するための燃料。

二つ目は安全圏を少しでも長く維持するための燃料。

三つ目は安全圏の中で子供たちを庇護し愛情を注ぐための役と二つ目の補助>


 いのちの、ゆりかご。


<日本が仮想現実の舞台として設定されたのは何でもない日常の舞台として適格だからですね>


 そして一つ認識の訂正を、とステラは続けた。


<鷹城尊さん。あなたは先ほど「外国人多くないか?」と疑問に思いませんでしたか?>

「……ああ」

<それは誤りです。厳密に言えば新人類に人種というものはありません>


 曰く、手を加える段階でありとあらゆる人種の遺伝子が詰め込んだとのこと。

 旧人類の面影を忘れないよう肌の色や名前などで違いを出しているが根本的には同じなのだという。


<日本人、というよりアジア系の特徴が多いのは架空とは言え日本を舞台として設定したからでしょうね>


 場所というものは霊的に意味を持つからその結果だろうとのこと。

 新生児の頃は良い感じにばらけていたらしいが半年もする頃には日本人っぽいのに変わっていたとか。


<話を戻しましょう。仮想現実を作り上げてから今日に至るまで旧人類はあらん限りを尽くし日常を守り続けました>

「何の比喩でもなく魂が擦り切れるまで、か」

<本当ならもう少し続けることも出来ましたが>

「……安全圏維持のためにはここらが限界だったか」

<はい。消失まで最低でも五年の猶予があります。それを残すためにはここが限界だったのです>

「何のためかなんて……言うまでもないよな」


 俺たちのためだ。真実を知った俺たちが立ち上がるためには時間が必要だ。

 戦う覚悟を決めるのにもな。幾ら能力があると言っても今の今まで平和に暮らしてたんだから。


「……どうせなら直接、真実を聞かせ……ああ、そういうことか」


 クッソ、普段は鈍いのに何でこういう時は頭が回るんだ。


「ど、どういうことだよ……」

「……直接、話を聞かされても信じたか?」


 そして仮に信じられたとして黙って大人たちを見送れたか?

 将来を悲観して自殺するようなのも出て来たんじゃねえのか?

 だからあの人たちは最後の最後まで口を噤んだんだよ。


「去る前に聞かされるのと去った後で聞かされるのじゃ重みが違う」


 なまじ大人が傍に居る分、受け止め切れない。

 定められた別れ、過酷な戦い、大人たちが見守る中で考える時間を与えられたら甘えが出ちまう。

 しかし、もう……居ない。母さんも父さんも皆、皆居なくなっちまった。


「なあ、この話を聞いた後で直ぐに自殺なんか考えられるか? 少なくとも俺には無理だ」


 いずれそういう考えが首をもたげることはあっても今直ぐには無理だろう。


<本当に察しが良いですね。流石は“いざという時しか頼りにならない男”>

「――――うん?」


 そういやさっきもそんなこと……待て、待て、待て!!


「……生まれながらに色々仕込まれたのが俺たちなんだよな?」

<はい>

「LHRでさ。妙なアプリやらされたの。才能やら何やらが分かるってやつ」

<はい>

「ひょっとして才能、とかも仕込めるわけ?」

<はい。どんな花が咲くかは一定の年齢になるまで分かりませんが何かしら一定水準以上の才能が開花します>


 「あ」と俺のクラスの誰かが言った。


<ホスト、セクシー男優、色男、チャラ男さん、ヒモ、女の寄生虫、竿役、ダメンズ製造機。

ハーレムの主、女殺し、ベッドヤクザ、女を幸せだと思いこませたまま天寿を全うさせられる男……>


 ……。


<あくまで才能であり現段階でその能力を備えているわけではありません>


 …………。


<しかしここまで多くの才能をしかも最低レアリティがSSRというのは凄まじいことです。あなたが一等賞!>

「死ね!!」


 嬉しくねえよこんな一番星!!

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[一言] めちゃくちゃお先真っ暗だけど辛さが気にならないのはきっとLRのおかげ
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