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俺は『いざという時しか頼りにならない男』らしい  作者: 鶏唐


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 とうとう体育祭の日がやって来た。

 開会式の会場に選ばれたドームにはそれぞれの学校の体操服に紅白ゼッケンをつけた生徒らがひしめいている。

 体育祭は放送される予定でカメラも設置されているが皆、あまり気にしていないようだ。

 ちなみに放送すると言っても俺の時みたいに強制ではなく特定のチャンネルやサイトにアクセスしてだから選択権は視聴者にある。

 観るのが辛いなら観なければ良いし、ここに来れるほどではないが前に進む気持ちがあるなら視聴者という形で参加すれば良い。

 ちゃんと視聴者プレゼントも用意してあるからな。


「「宣誓! 私たちはスポーツマンシップに則り正々堂々と競い、そして心の底から楽しみ抜くことを誓います!!」」


 紅白の代表の宣誓に両陣営から拍手が巻き起こる。

 ……こういうのを受け取る側に立つのって中々に新鮮だわ。

 俺らは参加者でもあるが運営側でもあるからなあ。


「それでは超生徒会長、前へ」


 今度は俺の番だ。

 アンジュちゃんのアナウンスに従いグラウンドに置いてある上に登る奴(名称不明)に飛び乗る。


「宣誓、確かに。代表の二人も言ったように難しいことは考えず全力で楽しんでくれ」


 俺の話が終わり、ラジオ体操の音楽が流れ始める。

 俺がお立ち台? の上でぴっぴやることになっているんだが……緊張するなこれ。


(超生徒会が十全に機能してりゃ保健委員長の役割だったんだがなあ)


 保健委員は生徒の健康面をあらゆる面でサポるのが仕事だからな。

 こういう運動関連も任せられたんだが今は空席なので俺がやるしかない。

 アヤナちゃんやアンジュちゃんあたりでも良いと思ったんだが、


『第一回ですし音頭を取ったのは尊さんですから』

『大変だろうけど尊さんが今回は全面に出るのが良いと思う』


 とのことだ。


「会長違う! ミスってるミスってる!!」

「え、嘘……あ、ごめん今のなし! スルーして!!」


 どっと笑いが巻き起こる。

 普通の学校でやる体育祭でこんなやり取りしてたら叱られただろうが問題なしだ。

 何ならもうお喋りしながらでも良いだろ。


「ってかさー! これ、プログラムに組み込んでおいて何だけど要る? ラジオ体操要るか!?」


 かつてならいざ知らず今の俺たちは超人規格だ。

 最初から激しい運動してもよっぽど無茶なことをしない限り怪我とかしないじゃんね。

 体育の授業でやるかったるそうな伸脚や屈伸でも何ら問題ないぞ。何なら準備運動なしでも良いぐらいだ。


「あしを戻して手あしの運動しながら愚痴るんじゃないよ!」

「あんた生徒会長だろ!」

「こういうのはもう、何だろ……お約束なんじゃない?」

「いやだからこそ意味のないことは止めようという問題提起……じゃないな」

「そういうアレじゃないわよ。完全に面倒だからでしょアレ」


 あちこちで野次が飛んで来たり雑談が巻き起こる。

 良い意味でぐだぐだしたままラジオ体操が終了。


「それでは最初の競技である障害物競走についての説明を始めます。

参加人数は両陣営それぞれ二百人ずつとなりますが……ヒントを幾つか。

単に動ける者だけを選ぶと途中で躓く可能性が大いにあります。

ですので男女バランス良く、身体能力だけでなく知性や感性に長けた方を選ぶと攻略に役立つかと」


 もうこの段階で何やら不穏なものを感じているらしい生徒がチラホラ。

 ふふ、良い勘してるぜ。楽しめはするが決して楽なものではないぞ~……うふふ。


「メンバー選定のための時間を六十分取りますので皆さん、よく話し合ってくださいね」


 人数が人数だからな。

 それなりの仲ならともかく一ヵ月ぐらいしか面識ないんだから時間は多めに取っておくべきだろう。


「ちなみに超生徒会組は皆さんを迎え撃つ立場として参加致しますのであしからず」

≪迎え撃つ!?≫

「それではステラ、我々は先にスタンバイしておくので後の調整をよろしくお願いします」

<お任せください>


 会場を後にし狂乱ホークキャッスルへと転移する。

 アヤナちゃんがボスを務める鬼女の間で卓袱台を囲みながら会場の様子を観察。


「和気藹々としていますね」

「カラ元気もあるだろうけどね」

「だが楽しいと思うのも嘘ではないはずだ。何せ気が滅入ることが続いていたからな」

「……良いことだと思うが……俺があの輪の中に居なくてホッとしてる……想像するだけで胃がキュッとなる……」


 まあシズちゃんはね。俺ら四人にもまだ完全に慣れてないものね。

 何だか警戒心の強い小動物を相手にしてるみたいだと常々思ってる。


「九郎くん、どっちが勝つと思う?」

「障害物競走限定? それとも競技全体を通して?」

「前者で。ちなみに僕は白組に可能性を感じてる。何か強そうな見た目の人多いし」

「いやいや赤も侮れねえぞ。何せ赤には我が友ボブが居るからな」


 黒人だからじゃねえぞ? そも俺たちにそういった括りはねえしな。

 超人規格になったことで身体能力にそこまでの差はなくなった。

 これから練磨していく過程で優劣は出来るだろうがまだ一ヵ月だしな。しかし、精神面は別だ。

 メンタルという意味でボブは強い。


「何せ奴はちょっと引くレベルのマゾだからな」


 流石に真実の暴露は許容範囲をブッチしてたから普通に凹んだがそれ以外のことはな。

 精神的な苦境も肉体的な苦境も平然と快楽に変換しちまう。


≪……≫

「他人様に話せる逸話をピックアップしてもやばいぞ」


 中二の時だったか。

 下りの坂道をチャリで爆走してる時にこけてアイツ、爪剥がれかけたんだよな。

 ぷらぷらしてるのが気持ち悪いつって躊躇なく剥がしたんだがその瞬間に……。

 あの幸せそうな顔は今でも悪夢に見るぜ。


「あの時は真面目に友人関係を見直すべきか迷ったもんだ」


 それはともかくだ。


「アイツをタンク役に使えば喜んで磨り潰されてくれるだろう」


 命懸けの戦いなら真剣になるだろうがこれは遊びだしな。

 楽しむことを優先しろと言った以上、奴は絶対自分の趣味を優先する。


「ほら見ろ、画面の向こうで奴が自己PRを始めたぞ」

≪……≫

「恐ろしい男よのう」

「何で君はちょっと誇らし気なの?」

「変態は変態だが気合の入った変態だからな」


 友人関係を見直すかどうか葛藤した際に得た答えがそれだ。

 変態も貫き通せば立派な道なんじゃないかってな。

 世間様に迷惑をかけるようなことをするような奴でもないし……なら良いかなって。


「……白組にも尊さんの友人が居るんじゃなかったか?」

「キムとクロードね。アイツらは障害物競走じゃ活躍しねえよ。戦い向きの性癖持ちじゃないってのもあるが……」

「君は一体何を言ってるんだ」

「アイツらは調子に乗れば乗るほど尻上がりに強くなるタイプだからな」


 コツコツ有利を積み重ねて加速してくのが強みだ。

 対人のみに集中出来るなら運用次第で強ユニットになるが障害物競走だとなあ。


「障害物競走も対人だけど障害物競走はまず障害を超えられないとだからだな?」

「そーゆーこと。妨害とかでギア上げてくって手もなくはないが」


 今回の障害物競争は楽しめるよう調整してあるつってもハードはハードだからなあ。

 そんなことしてる暇あるなら普通に最初から強いのを入れた方が良い。

 駄弁りながら様子を見守っていると五十分ほどで話がまとまったらしい。

 競技に出る連中がこっちに来るらしいので生徒会の皆にも配置についてもらった。


「俺もポッドの中に……いやまだ良いか」

「第三関門の半ばぐらいで大丈夫かと」

「だよな」


 そうこうしている内に競技開始。

 偽装が解除されて露わになった断崖に両陣営、あんぐりと大口を開けて固まっている。


【こ、これ登れってか!?】

【出来るか出来ないかで言えば多分、出来るっぽいけど……お、落ちたらやばい、よね?】

【いや命の安全は保障されてるとか……ってあ! もう登り始めた奴居る! 白組だ!!】

【あたしらも続くよ!!】


 一人が動けば後は早かった。我先にと崖を登り始める選手たち。


【いける、これ意外と普通にいけるぞ!!】

【ティンと来た。これ崖ぶち抜けば近道出来るんじゃない!?】


 正攻法で登る者。ショートカットを試み罠に引っ掛かる者。

 各々が自由に障害に取り組む様は見ていてとても面白い。


「……皆さん、とても良い顔をしていますね」

「そうだな」


 アヤナちゃんが母親のような優しい目で画面を見つめながら言う。俺もその通りだと思う。

 さっきの出場選手を決める話し合いもそうだが、


「子供が子供らしい顔をしているのは良いことだ」


 父母やうちの担任はきっとそう言うだろうと笑う。

 俺も子供だが他よりは余裕があるからな。何の気兼ねもなく一日をお笑い漬けで過ごす程度には。


「……そうですね。私との父と母もその通りだと笑うでしょう」

「それはさておきこうして見ると皆、結構練度が高いな」


 ステラから報告は届いていたが想像以上に動けているように思う。

 やる気がある面子の中でも選りすぐりだから当然と言えば当然だが、出場してない子らとそこまで差はないだろう。

 平均値が高い。最近思うんだが俺は少々、悲観的にものを見過ぎなのかもしれない。

 トップとしてはそれぐらい堅実な方が良いかもしれんけど下手にそれを出力すれば士気にも関わりかねない。

 そこらは気を付けるべきだろう。


「わははははは! おい見ろよアヤナちゃん! 鮫でロデオしてる馬鹿が居る!!」

「……弾丸の掃射はない。ステラ的にはアリの範囲なんですね」

「良いね、ステラ! あの素晴らしい馬鹿に五十点!!」

<了解致しました>


 今のところ赤が僅かにリードしてる感じかな?

 両陣営の第一陣がそろそろシズちゃんの居る砦に到着しそうだ。

 お、砦の中に侵入したな。


【……オレ、オマエタチ、コロス。ドン、ヨロコブ】

【え、何そのキャラ付け!?】


 それな。俺も思った。


【さ、サイボーグ的な?】

【周囲に滞空してるドローンがめっちゃ不穏】

【あ、攻略のヒントって書かれた看板ある!】


 さてお手並み拝見。

 接待プレイをするように命じているが楽々乗り越えられるわけでもない。

 ヒントはしっかり明示してあるがそれを活かせるかどうかは彼ら次第だ。


【……厄介だなあのドローンの群れ】

【ステラの操作、じゃないわね。何ていうか機械的な冷たさを感じない】


 む。

 ゼッケンの違う男女が話し合っている。


【思考操作。なら操ってるのは更に後方?】

【いや難易度を上げるって意味ならそうした方がここのボスの負担を減らせるが会長殿は楽しむことを主目的に置いてる】

【なら操ってるのはここのボスね。あれだけ激しい立ち回りをしながら思考操作とは言えあそこまで精緻な操作をするなんて】

【……道中の障害で競い合ってポイントを稼がせつつ、ボス戦は一時共闘みたいな形か? あっちが想定してるのは】

【多分】


 良い目のつけどころをしている。


 あの二人のそれぞれの陣営における役割が見えて来たな。

 示し合わせたわけではないだろうが両陣営共に同じ考えをしているっぽい。

 楽しむことがメインだから基本は自由にやらせるつもりなんだろう。

 だが何かしら大きな判断が迫られる場面ではそれを決める役が居る。あの二人がそうだ。


【赤組! ここは一旦白組と休戦して一緒にあのボスの対処に当たるわよ!!】

【白組! まずは勝たなきゃ話にならねえ! 共闘だ!!】


 エクセレント!


「ステラちゃーん! あの子たちにイイネを上げて!!」


 瞬間、あの二人の周りに大量のイイネが飛び交った。


【何だこれ!?】

【うっざ! ああでもこれ高ポイントってことなのかしら?】

【た、多分……いやまとわりつくな! 離れろイイネ!!】


 獲得ポイントは競技終了後に分かるようになっている。

 あの二人は間違いなくそれぞれの陣営のMVP候補となるだろう。


「やはり司令塔が居ると動きが違いますね」

「そりゃな。個の力に方向性を持たせて運用出来るんだ。よっぽど険悪な関係でもない限りはプラスになるさね」


 日本人特有の右に倣え精神もプラスに働いてる。

 それも日本が仮想現実の舞台に選ばれた理由の一つなのかもしれんな。

 右に倣えは悪く言えば自己主張に乏しいが、良く言えば協調性があると言えなくもない。

 ボブとかも「俺の心には南米の熱い風が吹いてる」とか言ってて自己認識では日本人じゃない。

 しかし生まれも育ちも日本ならば右に倣えの精神も自然と身に染みてしまうものだ。

 あと見てて思ったがこれ……。


「ステラ、この先の障害物の難易度下方修正入れといて」

「尊さん?」

<理由を伺っても?>

「示し合わせたわけじゃないだろうが赤も白も敵陣営の妨害はしないようにしてるようだ」


 選手同士の足の引っ張り合いも勝負の醍醐味ではある。

 俺もテストプレイでは九郎とバチバチやり合ってて楽しかったしな。

 しかし負けん気の強い連中はともかく、そういうのをストレスに感じるタイプも多い。

 何度も楽しむためのものだと言った俺の意を汲んでくれたのだろう。

 両陣営のトップはしこりを残さないようにそういう足の引っ張り合いはNGにしたっぽい。

 先々のことを考えて仲良くなることを優先したというのもあるだろう。


「あっちが配慮してくれてるならこっちも配慮しないとな」

<理解致しました>

「あ、今のは良いですね」

「うん。シズちゃんもちょっと驚いてる」


 さあ、楽しくなってきたぞ。

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