17
アスレチックでキャッキャした後は男三人で昼飯食って解散と相成った。お互い忙しいからな。
俺も午後の予定が詰まっているのでターミナルまで行き訓練施設へ。
時間にはまだ早いが既にアヤナちゃんとアンジュちゃんはジャージに着替えて俺を待っていてくれた。
「はっやいね~」
午後は二人と実戦形式でやり合う予定なのだ。
「尊さんを待たせるのは嫌だからな」
「そういう尊さんも準備完了じゃないですか」
「あ、これ? いや実はさっきまで九郎と一緒に障害物競走のテストプレイしてたからさ」
そこらの話は終わってからするとして、身体は十分温まってる。
俺は何時でも始められるがそっちは? と目で問うと二人は力強く頷きロックを解除した。
クッソ、相変わらずダークな感じでカッケーなあ……。
「何時でもどうぞ」
剣翼を顕現させクイクイと手招きを一つ。
「君が主攻、私が補助。異論は?」
「ありません。互いの距離を考えれば妥当でしょうから」
アヤナちゃんが前方に、アンジュちゃんが後方にそれぞれ駆け出す。
……速いな。アンジュちゃんはともかくアヤナちゃん。
刃ではあるが脚でもあるから当然っちゃ当然なんだが十数年二本足でやって来たのにな。
加速の勢いそのままに身体を半回転させ刃脚が振るわれる。
回避させる目的だったのだろう。俺が回避した先を狙い撃つように光弾が放たれた。
弾速を考えれば回避は不可能。ならばと剣翼で切り払うがその間にアヤナちゃんは体勢を立て直し距離を詰めていた。
「おっも……!?」
手の方に移動させた刃翼と刃脚で切り結ぶが正面切っての押し合いだとあちらに分があった。
千人のロックが解除されたことで霊的特徴についての情報もそれなりに集まり分かったことがある。
霊的特徴には三つの区分があるということだ。
刃脚や砲腕のような実体型。何かを象ったオーラのような非実体型。そして最後が二つの中間型。
実体型の特徴は総じて強度だったり攻撃力が高い反面、大きく形を変えたりなどの融通は利かない。
非実体型の特徴は実体の逆。攻撃力が低かったり強度がそこまでではないものの修復や形の変化などにはかなり融通が利く。
中間型には両方の良いとこどりだが同時に器用貧乏とも言える。
それぞれの長所を兼ね備えていると言えば聞こえは良いが実体ほど攻撃力や強度はないし非実体ほど自由ではない。
「女性に向かって重いは禁句ですよ」
このままじゃ押し負けると判断した俺を剣翼を砕き攻撃をすかし距離を取る。
砲撃支援を受けながら迫るアヤナちゃんはかなりおっかない。
「真っ向勝負じゃキツイからイヤらしいことさせてもらうぜ」
光輪を分離し両の手に分ける。
それぞれの光輪に一本ずつの剣翼。つまりは二刀流だ。
あちらにはない非実体系の強みだ。まあ完全な非実体とは違って光輪に剣翼という基本の形は崩せないのだが。
「ッ……!」
「ふふ、鬱陶しいだろ? これぞ300はある鷹城戦法その13ウザ絡みだ!!」
始終足を止めず二刀でチクチクヒットアンドアウェイを繰り返す。
同時にフレンドリーファイアを狙い立ち回ってるのでアンジュちゃんも中々援護射撃が出来ない。
こうなると負傷覚悟でアヤナちゃんが無理をするかアンジュちゃんが突っ込んで来るしかないが……さてどうする?
「両方か!?」
即断即決。勇者かな?
感心しつつ、俺も負けてらんねえなと奮起し二時間ほど訓練に付き合って休憩タイム。
「とまあ、そういうわけで女性の意見が欲しくてね」
三時過ぎだったのでおやつを摘まみながら午前中のことを説明。
「男子女子平等に活躍の場が設けられるというのは良い考えだと思う」
「ですね。メイクを障害にというのはそのまま採用して良いと思いますから残りは道中ですか」
「二つ、三つぐらいは考えるべきだね。家事を採用してみるのもアリかな?」
家事か……その発想はなかったがアリかもしれん。
「一、二は分かったが残りはもう?」
「具体的な形にはなってないけど大まかな方針は」
三、四から俺登場までを語ると……。
「ちょっと待ってくれ」
「?」
「それなら私は四番目が良い。ラスボスの前座にしてくれ」
「え、何で?」
「だって登場のシチュエーション的に完全に女四天王とデキてるじゃないか!」
あ、そういう?
「何を言ってるんですか。役職順なのだから副会長の私が務めるのが自然な流れでしょう」
「そういう当然、みたいな考えはどうかと思うね」
「悪いが却下だ。四番手はアヤナちゃん以外にはあり得ない」
「んな!?」
「ふふ、尊さんもこう言っていますし諦めなさい」
若干ドヤってるアヤナちゃんをキッと睨み付けアンジュちゃんは俺に問う。
「私のことを美人だと言ってくれたのに……彩菜の方が好みなのかい!?」
「いや好みとかそういうんじゃなくてキャラ的にはアヤナちゃん一択っしょ」
「きゃ、キャラ……ですか?」
「ど、どういうことだ」
どういうことだも何も……。
「ふる~い寂れた墓地をイメージしてくれ」
「「ぼ、墓地?」」
「そう。時間は夜。墓地の片隅には不気味な古井戸……イメージ出来た?」
「「えっと」」
「良いから」
促され目を瞑る二人。イメージが出来たと言うので続ける。
「君ら二人。どっちが井戸の中から出て来て怖いよ?」
「「こわ……え!?」」
どう考えてもアヤナちゃんだろ。
アンジュちゃんが出て来てもギャグにしかなんねえもん。ぱっかーん! とかそんな効果音つきそうじゃんね。
コントじゃん。絶対笑うわ。ドヤ顔してるアンジュちゃんの顔がめっちゃ想像出来るじゃんね。
「二人は負けず劣らず、伯仲したレベルの高い美人だがタイプが違う。
アンジュちゃんはキラキラした爽やか系の美人。アヤナちゃんはしっとり淑やか系の美人」
情念系の演出に使うなら前者より後者でしょ。
ポッドに縋りつきながら息絶える姿が似合うのは絶対アヤナちゃんだ。
「「……そういう?」」
何か脱力したような感じだけど、
「流石に自分の下半身で決めるほど馬鹿じゃないんですけど。俺のことどんな目で見てんの?」
さっと目を逸らす二人。
……まあ良い。深くは追及せんでおこう。深入りすると俺も火傷しそうだしな。
「……さて私が担当する第二関門の障害についてだが」
「……深く詰めていきましょう」
それから一時間ほど話し合い、一時間ほど鍛錬で時間を使い終了。
二人とは一旦分かれてターミナルで俺の学校へ。
ちなみに一旦ってのは飯時にまた会うからだ。
アヤナちゃんに対抗意識燃やしてるのかアンジュちゃんも家に通って世話してくれてんだよね。
和食ならアヤナちゃん、洋食ならアンジュちゃんで俺にとって得しかねえ。
<忙しい人ですね>
「なーんか予定が一気に詰まるんだもん」
最初は午前中の視察だけだったもん。
けど二人から誘いが来て、午後からなら大丈夫だろうとOKしたところでまた……。
「うぃーっす!!」
教室に入るとボッキロードトリオを含めクラスの半分ほどが集まっていた。
そう、彼らもまたあの日あの場所に集まって戦う意思を示した人間の一人なのだ。
女子の比率が高くてステラにちくちくされたが、まあそこはどうでも良いか。
「悪いな鷹、忙しいだろうに」
「気にすんねい。今日は確かに忙しかったが基本、暇してるしな」
「……鷹城、生徒会長なんでしょ?」
「優秀な人材が揃っとるけえ。俺はただの決裁マシーンよ。親指でタブレット連タップしてるだけのお仕事だべ」
や、俺の意見が聞きたいって時は普通に聞くけどね。
でも完成度高くて俺が意見すること殆どないっつー。
「責任ある立場を押し付けられてるのに鷹城くんは鷹城くんだね」
「いざって時頼りになるからって担ぎ上げられたが人間、出来ることしか出来ねえよい」
そんな具合で雑談をしていたがふと会話が途切れ、真面目な空気になる。
(ボッキロードトリオとはこの辺の話も済んだが、他はまだだからなあ)
俺としてもふざけるわけにはいかないので黙って皆の様子を見守ることに。
しばしの沈黙の後、うちのクラスにおける女子のリーダー的な存在である橘が口を開く。
「……あの、さ」
「うん」
「ありがと」
歯切れが悪いというか、どういう言葉を選べば良いのか分からないって感じだな。
あんまりこの空気が続くのイヤだし助け船を出そう。
「そりゃ何に対して?」
「ほら、うちらずっと世話になりっぱじゃん? ……こないだの戦いもそうだけどそれよりも前。全部が変わったあの日も」
すぅ、と息を吸い込みゆっくりと息を吐きながら橘は言う。
「うちらがわりと早く立ち直れたのは初動が良かったからだと思うわけ。
鷹城が率先して皆をまとめて、ステラの話を噛み砕いたりうちらの気持ちを代弁してくれたり。
自分もしんどいのにこれ以上やばくならないようにって踏ん張ってくれたお陰で……今、ここにこうして居られる」
ありがとう、と今度は皆が口を揃えて感謝を告げる。
「おう、どういたしまして。んじゃこの話はここまでな」
「あんた……うんまあそうだね。鷹城、こういう空気苦手だろうし」
「鷹城くんはふざけてるぐらいが丁度良いよね」
「コイツが真面目なことしてるってことはそれだけ大変な時だろうしなあ」
「わしゃ何かのバロメーターかい」
場の空気が弛緩する。
「そいや皆は紅白どっちなん?」
ボッキロードトリオはボブが赤組、キムとクロードが白組だ。
ボブがハブられてるような気もして可哀そうな気がしないでもないがコイツ、
『おいやべえぞ鷹、白組でめっちゃ好みの子見つけた!!』
とか言ってたから同情の必要はないだろう。
ってかコイツの好みの子とかそうそう居ないだろうにと思いこっそり写真送ってもらったが確かにボブのドストライクだった。
ちなみにボブの好みはかなりニッチというか条件が厳しい。
まずは自分より背が高いこと。この男、190あるんだぞ? そして自分より筋肉があって気が強いこと。
そんな心身共にマッシブな女、中々居ねえよっつーね。でも居たんだから驚きだわ。
ボブのマゾっけが大いに刺激されてて艶々しておるわ。
「うちは白だね」
「あたしもー」
「私も白です」
「赤は少な目だよな」
うちのクラスの比率としては三割強が赤で残りが白って感じらしい。
「空気はどんな感じ? いや視察とか行けば良いんだろうけど……ほら、変に身構えちゃうかもじゃん?」
あんま気ぃ遣わせたくないしそこらは踏み込めてないんだよな。
「赤は良い感じだぜ。そりゃまあ五百人ぐらい人居れば諍いとかもあるけどさ」
「基本的に意識が高い、というかやる気に満ち溢れた人間の集まりですからね」
「多少衝突はしても普通に仲直りしてるよね」
「あとは代表がしっかりと仕切ってくれてるってのもあるよな。才女ってああいうことなんだろうなあ」
ほうほう、そりゃ結構なことだ。
「白も同じようなもんかな」
「ああでもリーダーはタイプが違うよな」
「赤さんとこは話に聞くに委員長タイプって感じだけどうちは……」
「白は?」
「芸人系?」
「ちょっと気になるじゃねえかオイ」
「まあでも今っとこ上手く回ってるよ」
紅白の内部事情をあれこれ聞いていると、
「あのー、私からも鷹城さんに聞きたいことあるんですけど」
「何だいさっちん?」
「はい。あの、最初のロックを外した時に現れる霊的な特徴あるじゃないですか」
「はいはい。アレね。アレがどしたん?」
「あれはどうやったら能力が伸ばせるんでしょう?」
あー……それねえ。
ステラに聞けば大抵のことには答えてくれるが無理な場合もある。
それが論理に基づかない感情やファジーな感覚が絡むケースだ。
そして霊的な特徴を鍛えるというのもそこに含まれる。
ピルグリムは漫画みたいな戦いを意識しろって言ってたがありゃあくまで立ち回りについてだからな。
「私の場合、こういう感じなんですが」
さっちんが軽く手を振ると右手の人差し指に40cmほどの光の爪が出現した。
俺と同じ中間型だ。でも色が赤黒いから禍々しい。カッケーなあ。
「参考資料にと鷹城さんの戦いを自由に閲覧出来るようになっているのでちょこちょこ見てるんですが」
「……同タイプっぽいから伸ばしたり自分の意思で自壊させたり出来るはずなのに出来ない?」
「はい」
「あ、俺も気になる。訓練してて動きは良くなったりしてるんだけど」
「鷹城みたいに器用に扱えないんだよな」
「ゲームでいうスキルの熟練度的なアレなん? 使い続ければ良い感じ?」
「こればっかりは個人差っつーか。いや一応、使い続けることにも意味はあるんだが」
感覚的なものなのだ。
「何、つーのかな? ホントに気付けばそういうことが出来るようになるんだわ」
初めてピルグリムとの戦いで剣翼を使った時が正にそうだ。
剣翼を光輪に沿って走らせることで斬撃を放ちピルグリムを牽制したがあれは意識してのものではない。
使った後で自分なりに理屈をつけてみたし、それもまあ間違ってはいないのだろう。
だが理解=使えるとはまた違うんだ。
「むしろ逆っつーか」
≪逆?≫
「使えるようになった後で理解が出来るようになるっつーのかな」
「Don't Think. Feel的な?」
「頭で考えるタイプには難しいということでしょうか?」
「それがそうでもねえんだ。副会長のアヤナちゃん居るだろ? あの子、如何にもな真面目系に見えるっしょ?」
「うん。尊の補佐にはピッタリだよね」
「実際真面目なんだがあの子も霊的な特徴に由来する能力の伸びは生徒会の中で二番目に高い」
今日の訓練で主攻を担ったのも近距離・中距離だからってだけじゃない。純粋に強いからだ。
逆に同じようなタイプの九郎は苦戦してる。どっちもキッチリと理屈を立てて考える性格なのにな。
「じゃあひたすら使い続けるしかねえのかっつーとそうでもなくてだな」
剣翼を出現させ見え易いよう手元に持って来る。
光輪が分裂し右手と左手に分かれる。今日も使った二刀流だな。
「これが出来るようになったのは便所でクソしてる時だった」
当然剣翼なんぞ出してない。普通に踏ん張ってたよ。
「まるで脈絡がないんですけど……」
「だから説明が出来ねえんだよ。霊的な分野の話だからなあ」
どうしても観念的なものになってしまうのかもしれん。
悟りを言葉で説明出来ないのと似たようなもの、かな?
「なら、あまり気にせず流れに身を任せる方が良いんですかね」
「うん。鍛えて伸ばせるとこを伸ばしてった方が良いと思う」
「あ、なら次俺の質問良いか?」
「良いぜ~」
何だろうな。元の日常にはもうどうしたって戻れないのは分かってる。
それでも前を向き多少のカラ元気混じりでも新しい日常を始めようとしている。
(少し、ほっとした)




