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俺は『いざという時しか頼りにならない男』らしい  作者: 鶏唐


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 シズちゃんの一件からは特に何もなく怠惰な時間を過ごすことが出来た。

 そして今日。はじめての戦いから二週間が経ち、初期戦力が出揃った。


「……正直、予想外だわ」


 三百人ぐらい集まれば良いかなってのが俺の見立てだった。

 しかし、それはあまりにもネガティブで驕りが過ぎる見方だったのだろう。

 説明のために用意した箱の中には千人強の生徒が集まっていた。

 その中には我が友李徴……じゃなくて何時メンの三人も居る。


「まあ尊くんが他人を悲観的に見ていたってのもあると思うけど」

「……あんたは俺に自分を低く見積もり過ぎだと言ったが、あんたもあんた自身を低く見積もり過ぎだよ」

「あなただから集められたのだ」

「それは私たちも同じことです」


 舞台袖で会場の様子を見ていた四人が嬉しいことを言ってくれる。

 ちなみにシズちゃんだが彼は俺直轄の部隊に属することになった。まあ部隊言うても今は一人だけなんだがね。


<尊さん、お時間です>

「あいよ。じゃあ行ってくらぁ」


 四人に軽く手を振り舞台袖を出て中央へ。

 俺が姿を見せるとそれまであったざわめきがピタリと止んだ。

 ……ちょっと帰りたくなった。


「はじめましての奴もそうでない奴にも改めて名乗ろう。鷹城尊だ。よろしく」


 小さく息を吐き出し、続ける。


「まずは感謝を。皆が協力を申し出てくれると言ってくれて本当に嬉しい。本当にありがとう。

こんなクソッタレな現状に中指をおっ立てる勇気を持つ皆を心底から誇りに思う。頼りにしてるよ」


 嘘偽りのない本当の気持ちだ。


「違うし! お礼を言うのはこっちだし!」

「……あんたが真っ先に誰よりも怒ってくれたから」


 そんな声が上がり、少し泣きそうになった。

 頑張りは無駄じゃなかったと改めて実感した。


「じゃあお互いありがとうってことだな」


 収拾がつかなくなりそうだったのでそう締め括る。


「さて、そいじゃこれからのことについて話そうか。

あんまり先のことを話してもオーガさんがウケちゃうから直近の予定な」


 ここに集まっただけあって士気の高さはお墨付きだ。

 緊張しつつもやってやるぞって感じの面構えをしている。


「一ヵ月後の七月十七日から十八日の二日を使って体育祭を開きたいと思います」

≪体育祭!?≫


 え、この流れで!? みたいなリアクションだな。


「まあまあ落ち着きさないよ。ちゃんと理由も説明すっからさ。

皆もステラから説明は聞いたと思うが俺らはロックを外して超人の階段を上ってくことになる。

だがこれが曲者でよ。第一段階のロックを外しただけでもこれまでと随分勝手が変わって来るわけ」


 剣翼を発現させ舞台を軽く蹴って皆が見えるように浮かび上がる。

 映像でも見たがリアルで人が浮いているというのはやはり衝撃的な光景なのだろう。

 中々に面白いリアクションをしてくれたので俺的には満足だ。


「力加減だったり、こういう霊的な身体的特徴だったりな。マジこの状態でドアノブとか握ると豆腐みたいにグチャるぜ」


 少しでも馴染ませようと日常生活でロックを外してみたこともあったがありゃ失敗だった。

 剣翼はまあ消せないまでも縮められたし意図して肥大化させない限りは小さいままだから問題なかったが力加減の方な。

 ハードな訓練のせいで頭がボーっとしてたんだろう。トイレ行く時、ドア開けずそのまま突っ込んだからドアぶっ壊れたもん。


「今は第一段階までならロック外しても普通に暮らせる程度にゃ制御出来てるぜ?」


 でもそこまで行くのには相応の苦労をしたもんだ。


「だからまあ皆にも今日からロックを外して自分のペースで訓練しつつ慣れていってもらいたいわけ。

ただ何の目標もなく淡々と訓練を続けるのも味気ないだろ?

ここに居る皆はやる気に満ち溢れてるから平気だろうが工夫出来るならするべきだ。

だから超人規格の体育祭を開催して一先ずはそれをモチベに訓練を頑張ってもらおうかなって」


 と、そこで一人の生徒が声を上げる。


「超人規格って……具体的にどんな?」

「普通の人間にゃ無理だろってなアスレチックやリアル格ゲーみたいな? ステラ」

<皆さん、スクリーンを御覧ください>


 SFチックな全身ボディスーツを身に纏った俺の写真が映し出された。


「中には空手や柔道なんかで人と戦う経験をしてる奴も居るかもしれんが殆どは素人だろう。

だからいきなり戦えなんて言われても困ると思う。だからこそのリアル格ゲーだ。

このスーツはかなりの防御力があってな。第一段階ぐらいなら本気でブン殴ったりしても衝撃も痛みも来ない」


 とは言え耐久値が無限にあるわけでもないがな。

 あと無効化出来るのはあくまで覆われてる部分だけだから顔面はルールで禁止だ。


「ひょっとして……そのスーツの耐久度をHPに見立ててってことですか?」

「その通り! 眼鏡くんにTポイントを2進呈しよう」

<耐久度は私が可視化しますのでそれを目安にこれ以上はちょっと怖いかなと思えば降参するのもアリです>

「……それ、ちょっと温くないかしら? だって鷹城くんは」

「俺のは無茶を通した結果だ。そうする必要があったからそうしただけで皆がそこまでする必要はない」


 無駄なリスクを背負い込むのが賢いやり方か?


「いずれ来る本格的な戦いの準備段階とすら言えないようなとこで無茶して潰れたら元も子もない」

「……そうね。あなたの言う通りだわ。話を遮ってごめんなさい」

「良いさ。そうやって意見を言ってくれるのは俺からしてもすっげえ嬉しい」


 だから皆も疑問とかあれば遠慮なく口にして欲しいと言って俺は続ける。


「ある程度まで育ったらこないだの俺みたいにコッソリ地球に出て少数での実戦形式の訓練もやるつもりだが」


 まだまだ先の話だ。千里の道も一歩から。

 地道にコツコツといこう。丁寧に丁寧に積み重ね続ければいずれは未来にだって届くかもしれない。


「最初からただハードな訓練をする必要はないさ。

一足飛びで行った結果、踏み外して真っ逆さまなんてのは御免だろ?

だから徐々に意識を切り替えつつ段階を踏んで皆で強くなっていこうや」


 そのための第一歩が体育祭だ。


「大仰に構える必要はない。楽しむこと、知らない奴と交流を深めることを第一に考えりゃ良い。

つってもやっぱり不安か? ならちょっとやらしいことを言おう。楽しむ方はさておき交流を深めるのは大事なことだぜ?

何たっていずれは背中を預け合うことになるんだからな。知らん奴に自分の命を任せたくないだろ?」


 落ち着いてから協力を決めたとは言え、だ。

 やる気が少々空回りして前のめり気味になっているのが見て取れるのでフォローを入れた。

 先ほどの説明と相まって……少しは落ち着いたかな?


「じゃ体育祭についての詳しい説明に入ろうか。言うまでもないがここに居る面子は面識皆無の他人だ」


 同じ制服着てるのも居るが少数だ。

 学校別で分けるのはどう考えても不可能である。


「なのでこの後、くじを引いてもらって紅白それぞれの組に分ける。

訓練もそう。体育祭が終わるまでは赤組、白組でやるよう手配する。

組分けが終わったら別に会場を二つ用意してあるからターミナルでそこに向かって話し合いをしてくれ」


 最低限決めて欲しいのは代表。

 それ以外にも組の中で役職を作るのは自由にしてくれて良い。やり方は一任するつもりだ。


「えっと、決まったらステラに言えば良いのか?」

「ああ。ってか決める段階でも必要なことがあればステラにガンガン注文つけてくれ。AIなんぞ働かせてなんぼだからな」

<AI差別ですか? 泣きました>

「まあこんな奴だから遠慮は要らんよ」


 泣きましたと言いつつ無表情だからな。


「他には……ああそうそう、賞金だ。クレイドルにおける物品の購入の説明はもう受けてるよな?」


 事前にやるよう言ってあるし大丈夫だろう。


「参加賞で一律一万円。活躍に応じて個々に。判定はステラがやる。

優勝したらその組の連中には五万、負けた方には二万を一律で追加だ」


 体育祭に参加するだけで最低でも三万は貰えるので日雇いのバイトと考えたら中々のもんだろう。

 打ち上げで使うなり頑張った自分へのご褒美に何か買うなりして欲しい。


「しつもーん! 超生徒会長……いややっぱダサいなこれ。会長はもうくじ引いたの?」

「ああ俺? 俺は赤でも白でもない別枠の俺組だよ」

≪俺組!?≫


 いやだって不公平だろ? 先行して既にかなりアドバンテージある俺がどっちかの組に入るのは。

 だから優勝争いにも絡まない枠でやらせてもらう。


「ちなみに俺組は俺を含めて五人。この後紹介しようと思ってたが丁度良いし今やるか」


 パンパンと手を叩き、舞台袖の四人を舞台上へ招く。


「右から順番に副会長の七條彩菜。庶務雑務の狭間九郎。風紀委員長の久我安寿。

最後は生徒会ってかいずれ結成される俺直属の部隊の一員になる静間日影だ。

俺ほどのアドバンテージはないけどこの四人も皆より早く訓練を始めてるからな」


 競技で当たれば強敵となるだろう。


「ちなみに超生徒会についてだが重要な役職は基本、ステラが素養を考えた上で抜擢することになってる。

緊急を要する場合や判断が難しい場合は俺が強権を振るって決めることもあるが意思決定は基本的に議会制みたいな形になる。

だから学校が再開したら各校から代表を選出して超生徒会に議員を送り込んでもらうから頭の片隅にでも置いといてくれ」


 それまでは俺らで回すが、意見等があるならその都度お問い合わせメールをくれれば。

 えーっと、他に何か言っておくことは……?

 ちらりとアヤナちゃんを見ると小声で生徒会だよりについてと返って来た。

 じゃあその説明頼むわと目で促すとアヤナちゃんは小さく頷き、前に出た。


「これから月のはじめに生徒会だよりを配信致します。

一ヵ月のスケジュールや何か大きな決定がある場合はそれについての説明も。

もう少し詳しく知りたいと思った場合はメールの下部に記載されてあるURLから超生徒会のHPに飛んで頂ければ。

それと月のはじめにと先ほど言いましたがそれは再来月からになります」


 超生徒会についての紹介、運営の方針。

 んでさっき話した体育祭なんかについても改めて説明しておきたいからな。


「今月と来月分の合併という形で今夜、十九時に初回の生徒会だよりを配信する予定ですので是非ご一読くだされば」


 大体こんなもんかな? ほなら組分けや。


<くじ引きアプリをインストール致しましたので皆様、それぞれのスマホを御確認ください。

全員に行き届いていますね? 結構。では早速、起動してくじを引いてください。

ああ、くじを引き終えた時点でアンインストールしてくださって結構ですよ>


 それから数分ほどで全員がくじを引き終え組分けが終了。


「よーし、そんじゃ赤組からここ出てターミナルに行ってちょーだいな!

白組はこちらから指示があるまで待機。赤組が全員転移したら白組の番な!」


 そうして全員が会場からはけるのを見届け、ようやっと一息。

 やっぱ大人数の前で話すとか緊張するね。カチンコチンだわ。


「お疲れ様です尊さん」

「尊さん、飲み物をどうぞ」

「お、すまんね。アンジュちゃん」

「……」


 何時の間にか用意されていたスポドリを受け取りぐっと流し込む。

 はー、染みるわぁ……何気に口の中、カラッカラだったのよねあたし。


「……何やら七條の顔が怖いが」

「しっ。駄目だよ日影くん。見て見ぬ振りが正解だ」


 さて、後はもうやることと言えば代表の確認と……話し合いの中で何かあった際の対応だな。

 そっちはシズちゃん以外に任せるつもりなので俺はもう完全フリーだ。


「そいじゃ俺は教官とこ行くから後しくよろ~」


 ピルグリムの存在についてはこの場に居る全員が知ることを許可されている。

 ただ万が一を考えるとアレなので一応、教官呼びにしといた。

 実際普通の訓練でも専用AIが教官やってるしな。


「今日はもうゆっくりして良いんじゃないかい?」

「二週間休ん……完全に休めたわけでもないがまあ休息は取れたしな。そろそろ俺も訓練再開せんと」


 体育祭では他に合わせて第一段階までしかロックを解除しないがそれはそれ。

 これからを見据えるならスキルアップはせんとね。

 これまでのようなハードスケジュールでやるつもりはないが体育祭までにゃ第三段階まで解除しておきたい。


「……なら俺も訓練に向かうか。俺は残ってもやることないし」


 ちなみにシズちゃんだがピルグリムの指導は受けていない。

 知ることは許可されたものの精神面でまだ自分の指導を受ける資格はないとのことだ。

 皆と分かれターミナルで専用の施設へ。

 既に連絡は入れていたのでピルグリムが俺を迎えてくれた。


「順調のようで何よりだ」

「わりと大変なんだがね。何せ人の上に立つ経験なんて皆無だったし」


 四人とか少数ならともかく一気に千人増えたんだもん。

 流石の俺もこれまで通りとはいかない。


「言いつつ何とかしてしまえるのだから大した男だよ」

「そうやって持ち上げて一体何を考えてるのかしら。イヤらしい」

「急にカマるな。さて、それじゃあ今日の訓練だが……ふむ、どうしよう?」

「おい」


 頼むぜピルグリム。


「いやこれまでのような詰め込み式のハードなものでなくなったからな」


 一度、俺と話し合いながらカリキュラムを詰めたかったらしい。

 マジかよ。それならもっと早く言ってくれたら良いのに。


「可愛い教え子が死闘の末に勝利し、ようやく訪れた休息だ。邪魔をするわけにもいくまい」


 あらやだイケメン。

 ニヒルに笑うピルグリムにちょっとキュンだぜ。


「尊は何か希望があるかね?」

「とりあえず体育祭までにゃ肉体面の制限は全部取っ払っておきたいかなって」

「それぐらいは余裕を持ってやれるだろう。他には?」

「他にもやれるんなら武器の扱いについてよろ」

「了解した。再開初日だし今日は軽めでいこうか」

「あいあい」


 その後、俺は散々にボコられた……軽めとは?

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