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俺は『いざという時しか頼りにならない男』らしい  作者: 鶏唐


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 翌日のことである。

 昼食を終えた後、俺は三人を伴って超生徒会の生徒会室を訪れていた。


「……生徒会室ってより大企業のオフィスって感じだな」

「まあ実質行政拠点のようなものですからね。長机を組み合わせてパイプ椅子を、では駄目なのでしょう」

「僕、すっごく場違いな気持ちだよ」

「手入れが行き届いているな。うん、良いことだ」


 超生徒会長という卓上ネームプレートのあるデスクに向かい他より幾分豪奢な椅子に腰を下ろす。

 めっちゃ座り心地ええ……俺の桃ヒップが優しさに包まれてる。


「尊さん。お行儀が悪いですよ」


 机に脚を置く俺をめっ、と咎めるアヤナちゃん。

 ちょっと興奮した。そういう癖が俺にはあるのか?


「ごめんごめん。一度やってみたくてね。悪の親玉って感じでカッコ良いっしょ」

「気持ちは分かる」

「もう、狭間さんも何同意してるんですか」

「サンドバッグな未来が内定してんだしこれぐらいは勘弁してちょ」


 自分で決めた以上、やり通すがそれはそれとして許される範囲で好きにさせてもらう。

 損な役割を担うんだからそれぐらいの役得はあっても良いだろ。


「サンドバッグ、か。昨日も思ったが尊さんは軽薄なようでいて実にシビアな考えをしているな」


 ちなみに今日はアンジュちゃんもステラが用意した超生徒会の制服を身に纏っている。

 アヤナちゃんはセーラー風だがアンジュちゃんは俺と同じ男子のものだ。

 ……悔しいがやっぱカッケーなこの子。並ぶとどっちが生徒会長か分からなくなんべ。


「シビアっつーか極々当然のことじゃね? アンジュちゃんも理解出来るっしょ?」


 アンジュちゃんには俺のスタンスとかは既に説明してある。

 その上で俺の命が危うい事態にならない限りは職責を優先するとの確約を貰った。

 頭の良い子だからな。下手なことにはならないだろう。


「それはまあ。ただ、そうはならない気もするがね」

「何だい? そりゃ災厄相手に始終有利に立ち回れるって?」

「そうは言ってないさ。実際、苦しい時は幾度も訪れるだろう」


 なら、


「しかしそこがあなたの本領なのではないか?」

「あぁ……尊さんはいざという時しか役に立たない男、ですからね」

「苦境でこそバフが乗りまくって適切な舵取りが出来るなら確かに不満なんかも抑えられそうだ」

「むしろ苦境を利用して団結の強化や士気高揚に繋げるのでは?」


 期待が重過ぎだろ。

 そんな都合良くやれると思えるほど俺は俺を信用出来ない。


「というか今も実際似たようなことやってるからね尊くん」

「持ち上げ過ぎだ。それよかステラ」

<お手元の資料をどうぞ>


 それぞれの端末に超生徒会室のある拠点ビルの情報が記された資料が送信される。

 拠点となる場所の把握ぐらいはしっかりやっておかないといけないからな。


「レストランやジムまで……至れり尽くせりですね」

「僕らには損な役回りを押し付けるからそれ相応の報いをってことかな」

「だろうね」


 ええやんええやん。特にこれ。温泉施設とかあたし嬉しいわ。

 デスクワークで疲れた身体を温泉とマッサージで……んほほ、夢が広がるな!


「とりあえず俺はまだ休暇中だしビル内の施設巡りでも……」

<ああごめんなさい尊さん。そうもいかなくなりました>

「は?」

<またしても面会希望です。こちらは以前から打診されていたものですが>


 先日の様子を見るにアンジュちゃんが何を考えているのかステラも把握しないまま面会希望を伝えて来た。

 だが以前から打診されていて、そして今の今まで黙っていたということは今回は違うのだろう。

 黙っておくにたる理由があって、ステラもそれに同意してなければ今の今まで俺に知らされてないのはおかしいからな。


「どこの誰さん? アンジュちゃんみたいに目をつけてた奴なのか?」

<目をつけていましたが重要度としては劣りますね>


 ということは委員長にと考えてるような人材ではない?


<静間日影。SSRの兵士になり得る素養を持つ男の子です>


 指揮官とかではなく兵士ね。

 嬉しい人材ではあるが絶対に替えが利かないというわけでもないからステラ的には優先順位が下がるのだろう。


<尊さん直轄の部隊の一員候補にと考えていましたが決定事項というわけでもありませんでした>

「ふむ。それでそのシズちゃんは何だって俺に?」

<私から語っても良いのですが……いえ、やはり本人の口から聞くべきでしょう。場も整えてありますので出来れば受けて頂けると>

「分かった」

「……尊くん、休暇中なのに良いのかい?」

「ああ。わざわざ休暇中に話持って来たぐらいだからな」


 委員長クラスに比べれば優先度は下がっても軽んじるわけにはいかないってのがステラの考えなのだろう。

 だったら乗るさ。俺としても気になるしな。


「私たちも同行してよろしいでしょうか?」

「ステラ?」

<構いません>


 というわけで皆揃ってビル内のターミナルへ向かい転移した。

 辿り着いたのは訓練場。ただ俺がピルグリムと使ってるとこではなく別のとこっぽいが。


(あれがそうか)


 訓練場の中央で……失礼だが何とも陰気臭い男が胡坐をかいて座っている。

 何というかこう、気を遣って話しかけるのを躊躇っちゃうタイプっぽい。

 だがそれはそれとして……強いな。かなり。


「――――俺は一発の弾丸で良い」

「「「「うん?」」」」


 え、唐突に何? ポエマー?


<静間さん。それでは伝わりませんよ>

「……」

<ほら、頑張りましょう?>


 ちょっと待てよ。何か優しくない? 対応が柔らかいだろ明らかに。

 軽く不満を覚えつつも、邪魔しちゃ悪いかと口を噤みシズちゃんの言葉を待つ。


「……鷹城尊……あんたの戦いを、見た」


 そうか。そりゃそうだろう。強制視聴だったからな。

 見てない奴は居ないと思うがここでそんな軽口叩くと凹みそうだしお口はチャック。


「あんたの言ってたことは……全部、その通りだと思う。一から……十まで、共感出来た。

災厄とやらには……腹が立つし……お父さんとお母さんの献身が無駄じゃなかったと……証明してやりたい」


 ならお手手繋いで一緒に戦いましょう、とはならないよな。

 もしそうならこんな回りくどいことはしないだろう。


「だが……俺は、あんたのようにはなれない」

「それはどういう意味で?」


 多分、そこがこの話の重要な部分なんだと思う。


「……命懸けの、戦いは……出来る、かもしれない。勝算が定かではなくとも」


 強がり、ではないな。

 ちょっと話した感じからも分かるようにシズちゃんは陰気な性質だ。自分に自信がないのだろう。

 あれやこれやと考え過ぎてしまうのかもな。それは逆に他人を気遣える素養でもあるから良いことだが……今は置いておこう。

 そんな彼だから強がりで戦えるとは言わないはずだ。自分なりの判断基準でそこは問題ないと思えている。

 じゃあ何が問題?


「……でも、抱えたままじゃ……無理だ。

大人たちの、自分以外の誰かの期待もそうだが……自分の願いさえも、背負えない。

きっと……ぐるぐる考えてしまう……本当に出来るんだろうか……って……その、重さで……潰れてしまう」


 ――――ああ、そういうことか。

 完全に輪郭を掴んだとは言えないが大体は理解出来た気がする。


「だから一発の弾丸になりたいと」


 何もかもを誰かに託して、自分は何も考えずに戦えるようになりたいと。

 そういう意味でシズちゃんは一発の弾丸になりたいと言ったのか。

 俺の言葉に彼は小さく頷いた。


「あんたなら……それが、出来る……と思う……けど、確信がない……本当に大丈夫なのか……不安で……」

「それで?」

「だから……勝手だが、試そうと……思った……幸いにして、俺には……戦う人間の才能があるみたいだから……」


 なるほど。

 ぶっちゃけ杞憂だと思うがな。優れた兵士としての素養を持つというなら場数を踏めばその内、重さに慣れると思う。

 だが今それを言っても意味はないので口にはしない。


「それでステラに頼んだわけだ。多分、あの日の放送が終わってから直ぐに」


 どれだけ過酷なものでも構わないから自分の才能を少しでも花開けるようなカリキュラムを組んでくれと。

 んで俺をテストするに足る実力が身に着いたと判断したから面会を望んだ、と。

 多分今の俺と互角ないしはちょっと劣るぐらいがラインだったんだろう。

 もっと時間を使えば超えられただろうがシズちゃんの目的は勝つことではない。自分という武器を託すに足るかどうか。

 一週間ぐらい鍛えただけの人間に負けるなら託せはしないってことだと思う。


「……そうだ。その、あの、か……勝手なことだとは分かっちゃいるが……」

「良いよ、やろう。今直ぐに」

「……良い、のか?」

「俺ぁこの学園都市を束ねる超生徒会長様だからな」


 そんな奴が生徒の頑張りを無碍にするわけにはいかないじゃんね。

 結果がどうなるにせよ、その努力には応えてやりたい。生徒会長としてではなく俺個人としてもそう思ったから受けたのだ。


「……あ、ありがとう」

「ステラ、武器の準備と治療の手配を」

<了解しました。お互い手の内が割れるのも良くないでしょうし別室でそれぞれの希望を聞きます>

「そうしてくれ。ああ、アヤナちゃんたちはどうする?」

「……許されるのならば見届けたいと思います」

「僕も」

「ここで席を外すという選択肢はないかな」

「じゃ、隅っこで観戦しといてくれ」


 十分ほどを準備に費やし、再度俺たちは訓練場で向かい合った。


「……その外套は……防護、と隠蔽……か。本気、でやってくれるんだな」


 その言葉を聞いて俺は半ば勝利を確信した。

 “自己評価が低すぎる”ぜシズちゃんよ。

 ってかもう臨戦態勢なのに見た目の変化が……あ、いや違う。よく見れば耳が長い。エルフ耳?


「そっちは馬鹿正直に晒すんだな。フル武装じゃんね」

「……あんたと同じことを考えも、したが……戦っていればその内、隠蔽は意味がなくなるし……」


 こっちの方がやり易い、勝算が高いと思ったのだという。


「見えて……いれば、色々考えるだろ? あんたの立ち回りは……そんな感じだったから」

「なるほど。じゃ、始めるか」

「……ああ……ステラ、合図を」

<それでは――――始め!!>


 号令と同時に俺は真正面から突っ込んだ。

 慌てず騒がず迎え撃つあたり本当に兵士としての素養があるんだな。

 ああ本当に良かった……“花開く前”で。


「……? ッ!」


 被弾を無視して突っ込んで来ることが予想外だったのだろう。

 何かあると思い牽制の攻撃を放ちながら距離を取ろうとするが無駄だ。

 ダメージを度外視して最短距離を進んでいるのだから俺のが速い。


「――――ッッ!?」


 必要な距離を詰めたところで躊躇なく外套の中に仕込んでいた大量の爆薬を起爆。

 ちょっとやそっとの攻撃じゃ誘爆しない頑丈なのをチョイスしたがそれでも最初の攻撃はちょっと心配だったから成功して良かった。

 突然の自爆特攻に全員が呆気にとられているのが気配で何となく分かる。

 しかしそこは優れた兵士の才覚。真っ先に我に返ったシズちゃんだがこれまた俺のが速い。

 ダメージの総量では俺のが上だがあらかじめそうと決めていたから精神的な動揺によるラグはない。

 あるのは肉体的な反応でそれにしたって覚悟していれば最低限に切り詰められる。

 自爆からほぼ間を置かず動き出していた俺は未だ混乱の中に在るシズちゃんの両腕を剣翼で切り飛ばす。

 完全に立て直せていない状態での四肢の喪失。混乱デバフ延長。

 体当たり気味に真正面から胸に膝を突き刺しその勢いのまま押し倒し首筋に剣翼を押し当てる。


「二度は通じない。一回こっきりのやり方。それでも俺の勝ちだ」


 見せずとも、もう少し長く訓練を続けていれば逆に封殺されていたかもしれない。

 これが通じるのは今だけ。


「自分を低く見積もり過ぎだよ」


 見た時から強いのは分かっていた。

 そしてその素養からして長引けば更に成長してひっくり返される可能性も。

 だから確実な勝ちを得るため戦うことになった時点で戦法は決めていた。

 真っ向切っての不意打ちで動揺を誘い一方的に圧殺する。確実に勝つならこれしかないと。


「とまあ、偉そうなこと言ったがお眼鏡に敵うかどうかは別の話だけどな」

「……いや、十分だ」

「シズちゃんは俺より強くなるぜ?」

「シズちゃ……? だとしてもだ……あんたは、勝機を見逃さなかった……」


 あちこち傷だらけで両腕を失い激痛に苛まれているだろうに、その顔には安堵があった。


「……今しかないと、これしかないと、迷うことなく決断出来た……」

「そうかい。なら」

「……ああ。全部、託す……俺は今この瞬間から……あんたの弾丸で、あんたの刃だ……」

「ありがとよ。でも“預かる”だけだ」

「……?」

「本格的な戦いまでまだ時間がある」


 生きてりゃ考えも変わって来るものさ。

 切り離した想いが惜しくなることもあるだろう。今の自分ならば背負えると思うことだってあるかもしれない。


「シズちゃんが返して欲しいって思う時まで、大事に預かるよ」

「…………本当に、敵わないな」

「よせやい照れる」


 さて、


「――――救急車ァ! 早く救急車ァ!! 俺とシズちゃんを助けてぇええええええええええええ!!!!」


 もう全身痛くてしょうがないの!!

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― 新着の感想 ―
[良い点] メディィィィィッック!!!!! 衛生兵カモオオオオオオオオオオオオン!!!!! [気になる点] シズちゃんはマトモに闘ったらどれほどの才能発揮するんだろうか 今回はわからん殺し(自爆)だ…
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