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64 extra 訪れるかもしれない未来

『それってきっと、恋、だよ?』


 初めての恋。初恋。恋。こいぃ??

 いや待って?え、そうなん?ごめん待って分かんない。


「恋、ねぇ」

「ふふーん?おもしろそーな事悩んでるなー、秋斗ぉ」

「おぉおっ?!」


 びっくりしたぁ……いきなり出てくんなよ夏希。

 てか何で考えてる事分かんの?こいつ読心術使えんのかよ。


「恋、なぁ。秋斗が独り言なんて珍しいじゃん、だいぶ悩んでるみたいだなー」


 あ、口に出てたのね。てかここ普通に教室だし。

つまり教室で独り言聞かれて普通に声かけられてビビったと。ウソでしょ恥ずかしいんだけど。


「で?いよいよ恋しちゃったかー?」

「……かも、な。うん、もしかしたらそうかも知れん」

「おっ?!え、マジ?」

「何で夏希が意外そうなんだよ……」

「いや意外と早かったなーって」


 ケラケラと笑う夏希は、見た限りいつも通りだ。

 つい先日、春人と夏希とで帰ってる途中、夏希の様子がおかしかったから心配だったけど……もう大丈夫そうだな。

 

 とはいえ油断は出来ないけどなぁ。

 夏希って今でこそこんなヤツだけど、本来は色々考え込む思考タイプだし、おまけに我慢癖があるし。


「で?誰だよー?」

「いや、何で言わなきゃいねけぇんだよ」

「いーじゃんかー!あたしと秋斗の仲だろー?」


 そうだけど、恥ずかしいだろ普通。

 しかもまだフワッとしてるし……ここはアイツに相談してみるか?


「また今度な。近い内に言うわ」

「ふーん?まぁいーけど」


 思ったよりあっさりと退いてくれたな。もしかしてまだ曖昧なのを読んだのかも。

 だとしたら何でもバレるんだな……仲が良すぎるってのも考え物だわ。


「ほれ、授業始まるぞ」

「はいはい、秋斗こそサボんなよー?」


 授業中に寝る回数は夏希の方が上だろうが……

 そんな思考まで読まれてたのか、夏希は悪戯っぽい笑顔を残して席へと戻っていった。



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



「相談、ね。そろそろかなとは思ってたよ」

「マジか。夏希はもうちょいかかるかもって言ってたのに」


 まぁ夏希の場合は潜在的な願望もあってそう読んだんだろうね。

 もちろんそんな事は言えないけどさ。


 秋斗から昼休憩に連れ出され、向かった先の屋上手前の扉。

 人が来ないスペースで、秋斗は簡単な説明を前置きに話し始めた。


 聞けば、父親の件の際に宇佐さんと会っていたらしい。

 何気ない会話でしかなかったけど、それに救われたと。

 それを今までずっと覚えており、宇佐さんが猪山くん達にいじめられている時に手助けしたのはその時の借りを返す為だったというのが前置きだ。


 そしてつい先日、ずっと宇佐さんを気にかけていた事に対して、『それは恋だ』と言われた。


「けどなぁ、どうも確信が持てないんだよ。ほら、その、えっと」


 らしくもなく濁しに濁して、やっと辿々しく話し始めたことを要約すれば、『夏希、梅雨、冬華達に告白された時に感じた強い感情とは違う気がする』というもの。


 つまり、なんとなく恋愛感情は掴めた気がするけど、彼女達の想いとは程遠く、だからこそ自信を持って「これが恋だ」と言い切れないでいる訳だ。


「なるほどね。それで僕に相談したいと」

「あぁ。何年も片思い拗らせた春人なら良いアドバイスくれるかなぁと」

「言葉のチョイスどうなってるんだい」


 おっと、また話が逸れて雑談に興じそうになってしまったね。

 秋斗と話してるとすぐこうなるから気をつけないと。


「とにかくだ。あくまで僕の意見しか言えないけど、それでもいいかい?」

「あぁ、頼む」


 うわぁ、秋斗が素直に頭下げたよ……これ意外と切羽詰まってるね。

 何か急ぐ事情でもあるのかな。まさか秋斗も気付いてるのか……?

 いや、秋斗はこの手の読みは下手だしね。さすがにそれはない、か。


「まず聞きたいんだけど、なぜ彼女達が揃って返事を待つと言ったか分かるかい?」

「なぜって……一応言われたのは、今の俺じゃ相手と同じくらいの気持ちを持ててないから、待てるようになるまで待つ、とは言われたけど」


 うん、まぁそれもあるんだろうね。


「そうだね。でも僕の予想だけど、それは単に彼女達の願望であって本質ではないよ」

「えぇ……分かんねぇよ。本質って何のだよ」

「待つ理由の、だよ」


 好きな相手にも同じように好きでいてもらいたい。

 それは誰しもが考える事だと思う。


「身も蓋もない話だけど、気持ちの大きさに差があっても付き合う事は出来るからね」

「……マジで身も蓋もねぇな」

「事実さ。そして、それを僕は悪いとは思わない」


 そもそも、付き合おうとした時に想いの大きさがお互い同じだ、なんてカップルの方が圧倒的に少ないはずだ。

 それでも付き合いを始めて、付き合う中で想いを育んでいく方が多いと思う。


「付き合って終わりじゃないだろう?付き合ってからが大事なんだと思うよ」

「…………なる、ほど。うわ、思ったより相談しがいがあってビビるわ…」


 一言多い秋斗は、そう呟くなり考え込むように眉間に皺を寄せた。


「……つまり、俺が言われた『待つ理由』は、あくまで『そうなればいいな』っつー話だったって事か?」

「僕はそう思うよ。秋斗には悪いんだけど、彼女達の恋愛感情の大きさを……秋斗がこの先持つようになるとは思えない」


 これは言うか迷ったけど、まぁ僕に相談したのは秋斗だしね。

 それはすなわち、歯に布着せたようなアドバイスなんて求めてない、と判断して良いはずだ。

 それなら、僕が言える……いや、僕だけが言える話はちゃんと伝えるべきだろう。


 そう思い、目を瞠って固まる秋斗を見据える。


「それ、は……」

「すまない、別に悪く言いたい訳じゃないんだ。ただ、彼女達と秋斗は違うって話だよ」


 家族へのコンプレックスという難しい問題を解消してくれ、長く慕っていた兄貴分に恋をした。それからもずっと力になろうと寄り添い、秋斗も優しく、そして甘やかしてきた。

 長く想いを募らせながらも隠し続け、しかし支えようと努力し続けた梅雨。


 友人関係を半ば諦めていじめられかけている所を助けられ、友達となってくれた同級生に恋をした。その後も不器用な人付き合いを助け続けられた彼女は、秋斗が直面した困難の際にも離れる事なく寄り添い続けた。

 誰よりも近くで、誰よりも長く、誰よりも強く秋斗に想いを寄せてきた夏希。


 家族、友人が突如周りからいなくなり、畳み掛けるようにいじめが始まったところを助けられた。秋斗の分かりにくい優しさに気付き、そして同居という密度の高い時間を共にする中で恋をした。

 誰もが踏み込めなかった領域に踏み込み、そして優しく癒し続けた宇佐さん。


「3人とも、秋斗が思ってる以上に、秋斗への想いは大きいよ」

「お、おう……」


 困ったような、照れたような秋斗に肩をすくめて見せる。

 常に飄々としている秋斗らしからぬ態度ではあるけど……まぁ逆の立場だと想像したら僕でもそうなるだろうし、ここは茶化さないでおこう。


「でも、だからといって秋斗が彼女達を大事にする気持ちが負けているとは思わない」

「へ………?いや、んん?え、さっきと言ってる事が…」

「うん、こと『恋愛感情』に関してだけ言えば勝てないとは言ったよ」


 秋斗はそもそもが恋愛感情に深く溺れるタイプではない。

 それは最近癒えたとはいえ、父親の件を長く引きずった後遺症のようなものだとも言える。


 しかしだ。

 秋斗は自分の身をなげうってでも誰かを助けようとする優しさがある。

 相手のことを下心抜きに思いやり、言葉や行動で寄り添える慈愛がある。

 

 そしてそれを。

 ずっと支えようとしててくれた梅雨へと向け続けた。

 ずっとそばで寄り添ってくれた夏希へと向け続けた。

 ずっと会えずとも感謝していた宇佐さんへと向け続けていた。


「僕は、秋斗が大切にしようと想う気持ちも、恋愛感情にも負けない大切な想いだと思うよ」


 女子達からすれば色々と意見はあるだろう。

 いや、僕も秋斗以外ならこうは思わなかったと思う。

 でも、秋斗の優しさは、仮に『恋』じゃなかろうと、『愛』と呼べるものだと思うから。


「……そう、か。そうなのかな…」

「まぁ最初に言ったように、あくまで僕の意見さ」

「おう……うーん、気持ちが楽になったような、余計難しくなったような……」

「あははは。そうだね……よく言うだろ?恋は求めるもので、愛は与えるもの、とか」

「あー、なんか聞いた事あるな」


 今まで秋斗へ与えようとし続けた彼女達の想いは、きっと愛だ。

 そして今、秋斗の気持ちを求める想いは、きっと恋だと思う。


 反して、秋斗もずっと彼女達を思いやり、与えようと想い続けてきた。

 それは十分すぎるほどに、愛と呼べるんだと思う。


「しいて言うなら、彼女達からの告白と比較しようとするから難しくなるんじゃないかな?大きさなんて関係なく、純粋に、秋斗が求めている相手が『恋してる相手』なんだと僕は思うよ」

「……………そっか、なるほどな」


 おっ、やっと眉間の皺がとれたね。

 まだ確信がある訳じゃなさそうだけど、秋斗なりに方向性は掴めたってとこかな。


「まぁ、僕から言えるのはこれくらいかな」

「おう。まぁあれだ、マジで助かった。ありがとな」

「構わないよ。そうだね、今度の中間テストと体育祭では本気で勝負してくれたら十分さ」

「うわ、対価ありかよ。ちゃっかりしてんな」


 げんなりした顔を見せた秋斗は、しかしすぐにニィっと彼らしい……悪人にしか見えない笑顔を見せた。


「……まぁそれくらいの価値はマジであったしな。感謝を込めて、ボコボコにしてやるから覚悟しとけよ」

「あはははっ!楽しみにしてるよ!」


 珍しく乗ってきた秋斗に、激励の意味も込めて背中を叩く。

 さて、どんな答えを出すか楽しみだよ。

 頑張れ、親友。



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



「今日も来ないんですかね……」

「さぁなー。まぁ千秋さんは喜んでたし、変に心配しなくても良いだろーけど」


 珍しく秋斗が体調不良で休んだ。

 いやサボることは割とあるけど、体調不良になるのは珍しい。


 冬華いわく、「多分知恵熱だからうつりはしねぇけど、一応実家で療養するわ」とか言って、秋斗は久しぶりの実家生活との事。

 紅葉さんから聞いた話だと、千秋さんが大喜びでぐったりしてる秋斗に構い倒してるのか。

 まぁ久しぶりな上に和解後初めての実家らしいしなー。そうなるのも仕方ないとゆーか、そうなる気しかしなかったとゆーか。


「あっ……」

「お」

「よう……」


 噂をすればってやつか、秋斗がのそっと登校してきた。

 いつも以上に気だるげだけど、見た感じ体調自体は問題なさそう。……良かったぁ。


「秋斗、もう大丈夫なの?しんどかったら私が看病するよ?」

「あぁ、もう大丈夫。ありがとな、冬華」

「千秋さんに甘えまくってきたかー?うは、秋斗が甘えてるとこ見てー」

「あぁ、初弾それか。覚えとけよ、夏希」


 だって心配なら冬華がしてるじゃーん。

 だったらあたしくらいはいつも通りにしてやんないとねー。どうせ心配され続けても居心地悪いとか思うくせにさー。


「あ、そうそう。冬華、今日時間ある?」

「え?う、うん。あるけど」

「そっか。悪いけど姉さんと一緒に実家行ってくれないか?母さんがお礼含めて話したいってよ」


 ほほー……こりゃ冬華がひとつ駒を進めたかなー?

 梅雨はもともと千秋さんと交流があったけど、冬華はいきなり秋斗んち行った時に会っただけだもんなー。

 確実に気に入られるだろうし、これで外堀的な意味では冬華が梅雨に追いつくワケだ。


「は、はい。分かりました」

「なんで敬語に戻ってんの?……まぁいいか、放課後になったら姉さんがここに来るから待っといてくれ」

「わ、分かりまし……分かった」

「いや無理しなくても……え、まさか緊張してんの?」


 いやそりゃそーだろ。やっぱそのへんは鈍感のままかーこいつ。

 んー、頑張れよー冬華ぁ。


「そ、そりゃしますよ!」

「あー、いやマジで気楽で良いから。お礼聞くのと、なんか料理食ってみたいって言ってるから一緒に料理とかするだけだし」

「うっ……が、頑張ります…」

「あれ?余計に緊張してね?」


 ダメだこいつ……秋斗ぉ、もうちょいそこらへんの機微も勉強しよーなぁ?

 あたしや春人、梅雨相手にならともかく、冬華は千秋さんの人となりとかは知らないんだからさー。


「あー、冬華。だいじょーぶ、マジで雑談しかしないパターンだからこれ」

「そ、そうなんですか?」

「間違いないって。真面目な話なら秋斗もついてくだろーし」

「えっ?!秋斗は来ないんですか?!」


 あー……。まぁわかりにくい……というか、普通はそう思うもんなー。


「あれ、言ったろ?姉さんが迎えに来るから『行ってくれ』って」

「いや、秋斗が分かりにくいってのー。反省しなー?」


 秋斗なら『ついて来てくれ』って言うしなー。

 でも、それにしたって珍しいのは間違いないけど。

秋斗がそこらへん適当なとこがあるとはいえ、普通なら一緒に行きそーなもんなのに。

 って事は。


「秋斗ぉ、なんか用事でもあんのかー?」

「ある。悪いけど夏希、時間くれ。春人にも声かけるけど、それは俺から言っとく」


 まぁそーなるか。

 それにしても実家に冬華を1人で行かせてまでの用事ねぇ。そんな大事な用事を、休み明けで久々に登校してすぐに?

 家族絡みかー?いや、それなら別行動にする意味が分かんないし……いや、待てよー?


「ん、りょーかい。時間あげるから、お話聞かせろよー?」

「……おう、助かるわ」


 やっぱか。

 これはアレだなー、あたしらと何かするんじゃなくて、あたしらに話す事自体が目的なんだろーね。

 んで、最近の状況からして……まぁいわゆる恋バナしかない。


 ふーん、思ったより早いじゃんか。

 あとは内容が相談なのか報告なのか、ってとこかー。

 

(報告なら、もう……)


 相手が決まった、という事になる。


 なんだよ、やるじゃんか秋斗。

 そーだね、あんま待たせるのも男としてどーかと思うし?

 早計で失敗した、なんて事も秋斗なら大丈夫だろーし?


 でも、ちょっと、もう少しくらい、時間かけてくれても良かったのに……。


「はぁ……」


 誰にも聞こえない程度に溜息をつく。

 いや、我慢したかったんだけど、思ったより堪えるねーこれ。


 でも、もう決めた事なんだ。

 伸ばした手は、もう掴んでもらったし、掴んでるんだから。

 だから、ちゃんと笑顔でおめでとうって言わないと。


 良かった。早く内容に気付けて。

 じゃないと……もしいきなり言われてたら、きっと笑ってあげれなかったから。





「んじゃ秋斗、冬華ちゃん借りてくわよ?」

「おう、母さんが暴走しすぎないように見てやっといてくれよ?」

「アンタね、自分で出来ない事を私に押し付けないの」

「え……?」


 あ、冬華が見捨てられた仔犬みたいな顔してる。

 まぁ大丈夫でしょ、すっごく可愛がられるってだけだし、危害とかはないしねー。


「じゃあな、冬華。また夜に」

「ちょっ、秋斗?!」

「はいはーい、冬華ちゃん行くよー?」

「あ、ちょっ、秋斗ぉ…」


 うわー……すっごい可哀想な感じになってる…

 冬華のドナドナ感はんぱない。てかその顔めちゃくちゃかわいいんだけど。庇護欲やばい。


「あはは……ドンマイ宇佐さん」

「ま、大丈夫だろ。それよか悪いな、時間もらって」

「気にしないでいいよ。場所はどうするんだい?」


 この聞き方からして、春人も内容は分かってんだなー。

 さて、いよいよか。

大丈夫、ちゃんと心の準備はした。

 親友として、めいっぱい祝ってやるんだ。


「あー……どうしよ」

「おいおい秋斗ぉ、考えてなかったのかよー?ばーかばーか」

「全く、まだ体調が悪いのかい?それとも千秋さんに甘やかされて夢見心地が抜けてないのかな?」

「はっは、ほんっと優しい親友に恵まれてるわ俺」


 青筋浮かべた秋斗は、にっこりと良い笑顔で吐き捨てるように言う。


「ま、俺んちで良いだろ。一人暮らしの方な」

「しゃーないなー、ついてってあげるー」

「そうだね、秋斗の家ならそう遠くないし……あ、秋斗。僕喉乾いたな」

「マジでなんなのこいつら」


 そんな感じでいつもみたいな会話してたら、あっという間に秋斗んちに到着。


 んー、やばい。ここにきてちょっと顔が強張る。

 こいつらと一緒に居ると時間が経つのが早い。

 楽しいからなのは分かるけど、今日だけはもうちょっとゆっくりがいいなぁ。


「ほれ、ジュース」

「え、どうしたんだい秋斗」

「お前が喉乾いたっつったんだろーが!」


 秋斗からコーヒーを受け取り、一口飲む。

 この部屋でよく飲む馴染んだ味に、少し落ち着けた。


「で、だ。なんか言う前からバレてるくさいけど、俺の恋愛絡みの話だ」

「だろうね。ここ最近休んでたのは、それについて考えすぎて知恵熱でも出たのかい?」

「そ、そこまでバレてるのか……」


 あ、そーゆーコト。

 そーいや冬華も知恵熱がどうとか言ってたっけ。


 それにしても基本的に即断即決、もしくは理路整然と思考を着実に進める秋斗がそこまで悩むなんてねー。

 秋斗らしくないというか、まぁ秋斗らしいというか。

 でもま、安心したかも。


「そこまで考えたんだー。んじゃもう大丈夫だろーなぁ」

「あぁ、俺の気持ちは固まった。んでまぁ、やっぱ最初に話すのは2人かな、と」

「そっかそっかー、そりゃ光栄ですなー」


 良かった。

 秋斗、ちゃんとすっきりした顔で笑えてる。

 しっかり納得できる、悔いのない答えを出せたんだ。


 良かった。

 秋斗が幸せになれそうで。

 ちゃんと、それを今あたしが笑って聞くことができて。


「にししっ、で?誰なんだよー?」

「そうだね。僕も相談した身としては気になるな」

「言われなくても言うっての。どのみちすぐバレるワケだしな」


 さて、やっぱ冬華だよね。

 ホントすごいなー冬華は。女性としてちょっと反則なレベルの魅力だしねー。


 梅雨は泣くかなー?

 もし泣いたら、やけ食いにでも付き合おっかな。そん時は春人も巻き込んでやろっと。






「夏希、好きだ。付き合ってくれ」




「………ぇ……?」


「言っとくけど、ちゃんと本気で考えた。考えた上で、俺が欲しい思ったのは……求めたいと望んだ相手がお前だった」


「………………」


「だから、夏希。お前さえ良ければ、俺と付き合ってください」


「……………」

「……………」

「……………」

「……夏希?」

「あー……秋斗、これ固まってるよ。処理落ちしてフリーズしてるね」

「ぅえ?!め、珍しいな……てか何で?ちょっと前に告白まがいなコト言ってたろこいつ」

「やっぱ鈍いね秋斗は。ほぼ諦めてたんだよ、夏希は」

「えぇええ?!マジかよ……え、じゃあこれフラれるヤツ?」

「さぁね」


 え?

いまあたし、こくはくされた?


「……ちょ、おい夏希……?」


 頬を伝う冷たさと、心配そうにあたしを見る秋斗に、やっと頭が再起動した。

 

「なん、で……?」

「え、いや何でって……一番好きだからだろ」

「ぃ、ぃちば………〜〜〜っ!!」

「うわ、顔真っ赤」


 うそ、うそっ、うそぉっ?!

 あ、秋斗が、あたしを……?


「ぅえっ……、ぅっ、ひぐっ…」


 こら、もう、ないてるばあいじゃないのに。

 は、はやく、へんじしなきゃ。

 しなきゃなのに、声がふるえる。


「あー……やっぱ色々と悩ませたよなぁ。悪かった」


 まって、まってってば、まてこら、いまハグはだめ。よけい泣いちゃうだろ。

 もう、言わなくても、つたわってるだろ、ばか。


「でも好きになっちまったもんはしゃーないよな。事故みたいなもんだと思って諦めてくれ」

「ぇぐっ……さぃ、てーの、こくはく……」

「そ、そこらへんは追々磨きます……」


 そーやって、またにごす……

 逃げるなって意味をこめて、腕の中から秋斗を見上げる。

 

「…っく……もっかい」

「……夏希、ずっと寄り添ってくれてありがとな。好きだ、これからもずっと一緒にいてくれ」


 ぅあ………、その笑顔は、反則……っ!


「っぅう、あぁああああっ!」


 結局大泣きしちゃったあたしを、秋斗はずっと、優しく抱きしめてくれた。




「ぁー……秋斗の腕の中で、これでもかってくらい泣かされたぁ…」

「あの、なんかやらしい感じに言うのやめてくんない?」


 やっと落ち着いたあたしに、秋斗は困ったように苦笑しながらそっと腕を解いた。

 程よい室温の空気が背中に流れ込み、しかしそれが妙に寒く感じて強く秋斗を抱きしめる。


「…………」


 無言で秋斗を覗き込むように見上げると、秋斗は観念したようにまた腕を背中に回してくれた。

 つい緩む口元を隠すように胸板に押し付け、ついでにあたしの匂いをマーキングするみたいに額をこすりつけておく。


 あー……どうしよ、やばいくらい幸せだー……

 でも、そうは言ってられないんだよね……


「あ、あのさ、秋斗……」

「秋斗とは付き合えない。付き合ってこの3人の関係が変わる事で、壊れるきっかけになるのが怖い。だからこれまで通り、幼馴染でいよう……だろ?俺もちゃんと考えたっつったろ」

「えっ?!」


 思わず肩を跳ねさせたあたしを落ち着かせるように、秋斗は優しく頭を撫でてくれる。

 でも待って、何であたしの考えが……


 いや、そうだよね、同じ事考えてたんだ。

 あはは……やっぱり、そうだよね。


「うん……だから」

「最近の夏希見てたらそう考えるかなと思った。だから、ここに春人も呼んだんだよ」

「ぇ……えっ、あっ、あぁあああっ!」


 そ、そういえば春人もいたんだった!

 うわ、うわわっ、うそっ!


「に”ゃあああっ?!ば、ばかっ、なんで春人いんのにこんなっ、こ、こくっ」

「うおっ、ちょ、落ち着けって……」

「ぅうぅううう……」


 顔を上げられずにまた胸板に隠れたけど、いやこの体勢も見られてたら恥ずかしいワケで……あぁあああ……っ!


「…………あきとのばか……」

「ちょ、かわいいから落ち着けって。ちゃんと理由もあるんだっての」


 か、かわいいとか今いうな……!


「さて、春人……春人?なんで遠い目ぇしてんだよ?」

「……僕は何を見せられてるんだ」

「あー……悪い。姉さん相手にあと一歩のとこで苦戦してるお前には目に毒か」

「くっ……」


 いや、もう告れよ。紅葉さんも満更じゃないってアレ。なんでうちのやろー共は鈍いんだ。


「全く……それより夏希、おめでとう。長年の想いが叶って良かったね。親友として祝福するよ。僕まで、すごく嬉しい」

「俺は?」

「だ、だからっ……そうはいかねーだろ。そしたら春人が…」

「あれ、ここにきてスルーとかある?」


 あたしが危惧した、2人と1人になる事でおきる揺らぎ。

 それを見るのが怖くて、秋斗の腕の隙間から恐る恐るそっと春人を見ると、


「あはははっ!秋斗の考え通りなんだね。いやぁ、夏希もバカだなぁ」


 まさかの、ばくしょーしてた。


「は………?ちょ、春人、おい、あたしはな、真剣に……」

「はぁ。あのね、君達がどれだけイチャついても関係ないから」


 おまけに、バッサリ言い切られた。


「え、だって……」

「じゃあ良い機会だし言わせてもらうけどね?今更だよ、今更。これまでどれだけ君たちがイチャついて、2人の世界つくって、熟年夫婦みたいなやりとりして、かと思えば初々しいカップルみたいな顔して、それを間近で見せられて、紅葉さんと愚痴って、なのに紅葉さんは恋愛興味なしオーラすごくて、それで僕がどれほど苦労してきたと思ってるんだい」

「いや……うん、なんかごめん」


 めっちゃ言うやん。てか後半は紅葉さんに対してじゃない?


「そうらしいぞ夏希。そもそも、こんな腹黒を世に放つワケにはなぁ……俺たちで面倒見てやらねぇとだろ。だから今まで通り、夏希も手伝ってくれないと困る」

「ははーん?言うね秋斗。フラれてしまえっ!」

「おいぃ!今一番言っちゃダメなやつだろ!」


 ………ほんとに、いつもどーりだ……

 よーく見ても、2人とも、無理した顔してない。


「あは、あはははっ!」

「お、おう?」

「え、えっ?」


 なんだぁ……あたしの早とちりかー。もー、早く言ってよバーカ!


「くふふっ、春人ぉ、残念だったなー?お先にあたしらはカップルになっちゃったー!」


 珍しくやさぐれたように鼻を鳴らす春人と、目を丸くする秋斗。

 ほんと、頼り甲斐があるんだから。


「さーて、秋斗ぉ?」

「お、おう」

「返事、だけどさ。あたしも好きだよ。ずっと好き。死ぬまで離さないからね?覚悟、しなよー?」


 いつぞやの言葉を最後に添えて、思い切り笑ってみせた。

 頬をほのかに染めた秋斗に、きゅんとして、思わず顔を寄せる。


「っなつ、むぐっ……」

「……っぷはぁ…………あははっ、もーやばいかもぉ。幸せぇ」


 顔を真っ赤にして固まる秋斗を、ぜっったい離してあげないって気持ちを込めて、ぎゅうっと抱きしめる。

 秋斗、ありがと。大好きだよ。







〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


おまけ


「てなワケで、付き合う事になりましたー!」


「「「「…………」」」」


「あ、あはは……。あの、そのぉー……ほ、ほらこれ!これあげるから許してぇ!」


「……ボイスレコーダー?」


…………。


「ゆ、許してくれたかなー?」


「うん、勿論。夏希、おめでとう。今は祝ってあげるね」

「夏希姉、おめでとっ!今はたくさんお祝いするよっ!」

「夏希先輩、おめでとうございます。今は幸せを噛み締めてくださいねぇ」

「根古屋さん、おめでと。ま、これから少しでも長く幸せでいなよ」

「根古屋さん、良かったわね。おめでとう。卒業後が楽しみね?」


「こ、こいつら諦める気ねーじゃんかー?!しまった早まったー!」


ここまでお読み頂きありがとうございました。

今度こそストーリーとしては完結です。


ここまで読んで下さった優しい方へ、良ければ下の⭐︎に正直な数の★を入れてあげてください……!


余談ですが以後、嬉しい感想にてたまにで良いので投稿を、と言って頂けたので、たまに投稿するかもです。

では重ねてになりますが、本当にありがとうございました。


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[良い点] ものすっごくいい話でした! [気になる点] 無し!といいたいところだけど脱字がたまにあるのが気になりましたが、脳内で解決できる範囲です! [一言] これはもっと伸びて欲しい!アニメ化までお…
[一言] 書籍出るのいつまでも待ってます。
[良い点] うぉーーー!幼馴染エンドきたーー!!! いやー、回を重ねるごとにこのエンドを切望しておりました。ほんとうにありがとうございますm(_ _)m [一言] お疲れ様でした。楽しませていただきま…
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