55 幼馴染と1人の少女 後
「………どこだ、ここ」
見た事もない公園。そこに備え付けられたベンチに座っていた。
「あぁ……」
そうか、俺は逃げてきたのか。
あの場にいる事に耐えられず、無我夢中で駆け出したことを思い出す。
「俺は………」
何で、間違えてしまったのか。
何のために、頑張ってきたのか。
何てことを、してしまったのか。
自嘲や嘆き、後悔が身を灼く。
込み上げては燃え上がり身を焦がす感情が、呆けて座り込んでいた俺を一瞬で焼き尽くす。
「っ、うぁああああああっ!!」
力が抜け、崩れ落ち、それなのに止まってられないと暴れる感情は拳に伝わって、ただただ拳をその場に叩きつける。
それが視界の端に映り……いまだに赤い手を見て、更に感情が混濁する。
「あ、ぁ、あああ」
世界が歪む。
閑静で誰もいない公園には、俺の声だけがあって。
まるで世界に、俺だけしかいないような錯覚に陥る。
いや、錯覚なのか?
「違う、か」
守りたくて仕方なかった家族は、俺が壊してしまった。
優しくて暖かくて、心地よかったあの空間は、怯えと忌避感によって底冷えする程に寒々しい空間になってしまった。
もう、戻ってこない。
狂おしいほど求めたそれは、誰でもないーー
「俺が……っ」
壊した。
公園の水場で手を洗い、冷たい水で流した赤。
しかし何度洗っても地面に叩きつけたせいで滲む血は、まるで逃げることを許さないと俺に罪を突きつけてきているように思える。
洗う事を諦めて再びベンチに座る。
夕暮れで落ちた気温は、冬という季節も相まってそれなりに寒いんだろう。
けど、不思議とそうは思えない。
空っぽになった何かの喪失感の方が、よほど寒かった。
「……学校も、行きづらいしな…」
支えてくれた2人に合わせる顔がない。
というより、失望されるだろう。
守ると豪語しておいて、結果はどうしようもなく壊し尽くした。
家族を壊した俺に向ける目が、優しいものであるはずがない。
というより、向けられることを俺自身が許せそうにない。
「それに、どんな噂になってるか分かったもんじゃないしな……」
記憶は薄らだが、情けなく公園でのたうち回っている俺に友達が声をかけてくれた気がする。
赤い手を怯えた顔で見ながらも、心配してくれた友達。
それを、俺は振り払った。
挙げ句の果てに、罪を泣き叫び、赤をなすりつけるように友達の手を壊れるほど握った。
懺悔でもしたかったのか、罪を少しでも押し付けたかったのか。
なんにせよ、俺のイカれた行動に友達は怯えた顔で走り去っていった。
目を閉じれば、いやでも瞼の裏に浮かぶ、怯えた顔と拒絶の顔。
(……家でも、学校でも、そんな顔されるんだよな)
自業自得。
誰のせいでもない、俺のせい。
でも、それを直視できるほど、もう力は残っていなかった。
(…………怖い)
その目を、その顔を、その感情を向けられる事が、怖い。
逃げたい。逃げ場なんてなく、怯えるように公園から動けないくせに。
消えたい。もうこのまま、誰にも知られず、何もなかった事にして、消えてなくなりたい。
そんな事、できるはずもないのに。赤い手は、今も赤いままなのに。
「ねぇ、大丈夫?」
「――っ?!」
聞こえてきた声に、体が跳ねた。
弾かれたように見れば、1人の女の子。
心配そうな顔にも見えるが、どうも伝わってこない、希薄な表情と。
まるで西洋人形みたいなゾッとする程に整った顔が、印象に強く残る。
「……誰だ、お前」
赤い手を体の後ろに回して隠しながら、震える声を必死に抑える。
出てきた声が自分が思った以上に冷たいものだと驚いたが、どうにもする気は起きなかった。
「私は……。お父さんのお仕事にお母さんとついてきて、今はお散歩中なんです」
鈴を転がしたような、透き通る、澄み渡るような声。
その綺麗さに背中にゾクリと何かが駆け抜けたが、それに気付かないフリをした。
「あっそ。いいから話しかけんな」
「それよりその格好、寒くないですか?風邪、ひきますよ?」
「ひかねぇ。ほっといてくれ」
人生でもかつてない程人に冷たく当たってるというのに、女の子は気にした様子もなく話し続ける。
マイペース、という言葉が脳裏をかすめた。
「もう、ガンコですね。って怪我してますよ!大丈夫ですか?!」
「あーもー人の話を聞けよ!大丈夫だからほっとけっつってんだ!」
ガンコはどっちだよ。浮かぶ思考に引きずり出されるように、苛立ちが首をもたげる。
「どこが大丈夫なんですか!うそつき!」
「うぇ?ちょ、やめ、さわんな!」
「全くもうっ。あまり無茶はダメです。ちゃんと自分を大事にしてくださいね」
「ちょ、おま、はなせ!何で抱きつくんだ?!」
自分でも最低だと自嘲するも、止まらずに罵声を浴びせているというのに。
マイペースな女の子は、気にした様子すら見せずに、近寄り、あまつさえそのまま抱きついてきた。
「痛い時はこうするんですよ?お母さんがいつもやってくれるんです」
「お前と一緒にすんな!俺は1人でも大丈夫なんだよ!」
はっきり言おう。とっても恥ずかしい。
羞恥と、それに負けない困惑が体の中で暴れ回る。
それなのに、優しく背中を撫でる小さな手のせいか、体の外に伝わって暴れる事はなかった。
「ほら、うそつきです。1人で大丈夫な人なんていません。でも、今だけは、私がついてますから」
「だからっ……あーもう、なんてマイペースなヤツ…」
1人で大丈夫じゃなくても、もう1人になってしまったんだ。
そんな言葉は、なぜか彼女に言っても丸め込まれる気がしてしまい、代わりに出たのはなんとも情けない悪態。
「えへへ。ありがとうございます」
「褒めてねぇ……」
「でも大丈夫です、これからあなたは1人じゃないです」
しかし、これは聞き捨てなからなかった。
何も知らないくせに、無責任な事をのたまう彼女に、心の底から怒りが湧き上がる。
それを止める暇もなく、自分でも驚く程に冷たい声が漏れ出た。
「……は?いい加減な事言ってんじゃねぇよ」
「もう、怒らないでよ!でもホントだもん。これからは私があなたの味方ですからね」
「……………」
何を分かったふうに。俺がやったことを知らないくせに。
怒りと共に湧き上がる言葉の数々は、しかしーー
「ほら、元気出してください」
「……………なんか、肩の力抜けたわ」
優しい声音によって、不思議なくらいあっさりと霧散させられた。
きっと、何を言っても聞きやしない。下手したら丸め込まれる。
そんな期待を、諦観を装って、震えそうになる声と体を必死に抑え込み、目頭に集まりそうな熱を瞬いて散らす。
「うふふ、すごいでしょう」
「だから褒めて……いや、はいはい……ありがとな」
震えと熱がおさまった頃、そっと彼女は抱擁を解いた。
赤くなってるであろう俺の目を見て、驚くでもなくふわりと微笑む。
その微笑みが、あまりにも綺麗すぎて。反論の言葉は、途中でするりとほどけ、感謝へと姿を変えた。
それから彼女は安心したように頷き、聞こえてきた父親であろう声に反応して公園を後にした。
姿が見えなくなる最後まで振り返っては俺に手を振る彼女を、俺はただ座って眺めていた。
それから俺は、自分の足で家へと戻った。
そこに父さんの姿はなく、逃げるようにして出ていったのだとか。
潰れそうな程に重さを増す自責の念。
でも、涼やかな声と優しい小さな手に守られるように、また家から逃げ出す事はなかった。
震える足で立ち尽くす俺を、母さんはいつか見た優しげな、それでいて痛ましげな笑顔を向けてくれた。
「晩御飯、用意するわね」
並べられた食事は……3人分だった。
そこに言葉にならない虚無感を覚えるも、母さんと姉さんはぎこちなくも笑顔を作り、食べようとしない俺を促した。
「……ごめん、なさい」
思わず溢れた言葉に、母さんと姉さんは一瞬泣きそうな顔になりーーすぐに、でもさっきまでよりもくしゃりとした不恰好な笑顔を見せた。
「こちらこそ、ごめんね、秋斗」
「アキのせいだけじゃないわよ、ごめん」
その言葉を聞くと同時に、食事も忘れて泣きじゃくった。
気付いたら母さんと姉さんに抱きしめられていて、それに気付いて、また泣いた。
強く、痛いくらいに、苦しい程に抱きしめられたのに。
はぐれて途方にくれた末に親を見つけた幼子のように、ひどく安心してしまった。
それからやっと泣き止み、更にしばらくしてから、母さんと姉さんはそっと俺から離れた。
隙間を吹き抜ける冷たさに身震いしそうになるも、残る熱と、何より抱きしめられていた場所に残る2つの涙の跡を見て、震える事はなかった。
「……なんで、怒らないの?」
そして溢れた言葉。
溢れ落ちた声が部屋を揺らした後に、口にしたことを後悔して体をが強張る。
しかし彼女達は一瞬顔を歪ませたが、すぐに至極軽い口調で言ってのけた。
「ひーみつー!」
「秋斗?それは女の子同時の秘密なの。ごめんね」
優しい声音と、少し悪戯げな笑顔に、また涙が浮かびそうになった。
それを誤魔化すように、女の子って歳か、なんて言ったらぺしんと軽く叩かれた。それなのに、なぜか嬉しかった。
「……そう、か」
「……ごめん」
翌日、朝一で志々伎と根古屋が俺を迎えてくれた。
脳裏に2人の怯えた顔や拒絶の顔が描かれ、湧き上がる恐怖に足を止める。
しかし、涼やかな声と小さな手、柔らかな声と二つの涙の跡が背を押すようにして、2人の前に立ち、頭を深く下げた。
せめて誠実でありたくて、ありのままを伝えた。ずっと、頭を下げたまま。
話し終えても、顔は上げなかった。いや、上げれなかった。
2人の顔を見るのが、怖かった。
長い沈黙が、ひたすらにその場にとどまる。
「……あのね、大上くん」
「………あぁ」
その沈黙を破ったのは、根古屋。
いつもの自信なさげな声音ではない、確固たる覚悟を感じさせる声で、彼女は言葉を紡ぐ。
「あたし、大上くんの事が好きなの」
「…………………………………………………え?」
思わず顔を上げた。いや上げるわこんなもん。
見れば、顔を真っ赤に染めて、しかし目だけは一切の揺らぎも感じさせない、鋭ささえ伴った真っ直ぐなそれが迎える。
その目に。その振る舞いに。
初めて俺は根古屋夏希という少女に、心の底から圧倒された。
「あたしを上級生から助けてくれて」
俺の疑問や困惑を根こそぎ吹き飛ばすような、重みを感じさせる声音。
「ひとりぼっちなあたしを誘ってくれて」
少しずつ抜けてきたが、いまだ残っていた弱弱しさは、今は見る影もない。
「不慣れなお話で変な顔されちゃうあたしをフォローしてくれて」
一歩も、指ひとつ動かせない俺に、根古屋は一歩踏み出す。
「好きなの。大好き。大上くんの事が、心の底から、大切なの」
すでに女性らしさを帯び始めている体を、押し付けるように抱きついた。
「……お、俺、は」
正直、嬉しくないはずはない。
しかし。
同時に過ぎるのは、怯えた顔と、拒絶の顔。大切なものを自ら壊した、赤い手。
そして湧き上がる感情。
そこで、やっと気付いた。
――俺に、人を好きになる資格なんてあるのか?
好きで、大切で仕方ない、守りたかったものを壊した俺が、どの口で好きだなんて言えるというのか。
それを証明するように、湧き上がる感情は、ただひたすらな恐怖だった。
(……やべ、怖い)
もしかすると、これが噂に聞くトラウマというやつなのか。
大切……とは思える。母さんも、姉さんも、こいつらも……昨日の女の子も、大切だと、素直にそう感じられる。
けど、好きだという感情に視線を向けただけで、吐き気がするほどに、怖い。
また、壊してしまいそうだから。
ふと見た自分の手が、赤く染まって見えたから。
「っ」
思わず震えてしまった体に気付いたのか、根古屋は一度強く抱きしめた後、そっと離れた。
そして、今の俺とは相反して揺るがぬ目で俺を見据える。
俺はその視線にか恐怖のせいか分からないまま、逃げるように目を逸らそうとして、
「だから、親友になって」
告げられた言葉に、視線ごと固まった。
「「……え?」」
思わずもれた言葉は、志々伎と被ったらしい。今更ながら、志々伎がいたことを思い出した。
「……えへへ、2人とも変な顔」
そんな俺達を、根古屋は可笑しそうに眺める。
「あのね?大上くんは、今とっても弱ってるの」
「……ごめん、情けないな」
「うぅん。そんなことない。でね?そんな大上くんに、押し付ける気なんてないんだ」
……ごめん、よく分からん。志々伎もそうだったらしく、困惑した表情だ。
そんなアホ面並べる俺達に、根古屋は微笑む。
「好きって、すごく素敵な感情だと思うよ?けど、どんなに素敵でも、あくまで自分の気持ちを相手に押し付けるものだとも思うんだ」
「……………」
「それを押し付け合って、受け入れ合って、好き同士になるんじゃないかな。ワガママみたいに自分の気持ちを押し付け合うのに、でもそれをお互いが受け入れ合うの。それって、すごく素敵」
少し目を伏せて言葉を紡ぐ彼女は、とても同じ小学生とは思えない程大人びていて。
まるで、知らない子のようにも見えた。
「でもね、今の大上くんは、きっと押し付けるのも、受け入れるのも難しいと思うんだ」
そう見えてしまうほどに、彼女はこのわずかな時間で、変貌を遂げていた。
「だからね?あたしの好きは、絶対押し付けない。大切なの。守りたいの。だからあたし、強くなるから」
すでに、眩しいくらい強いだろう。
そう言おうとするも、きっと今の彼女の望む言葉ではないと呑み込む。
「えっと、つまりね?この好きは、大上くんと一緒にいる覚悟の気持ちなの。だから、返事なんていらない。させない」
いつも後ろを追いかけるようにしていた昔――数分前までの根古屋は、今、言葉なく沈黙していた俺よりも、間違えようもないほど前に立っていた。
「それでね。もしまたボロボロになって、逃げたくなっても。大上くんを、絶対1人にさせないの」
そう言って、伏せていた目を俺へと戻した。
その目には、思わず震えそうな程の力強さが湛えられいて。
前に立って、俺を導くかのようで。
「覚悟、しろよー?」
俺の口調を真似るようにおどける彼女は、悪戯好きな猫のように、しかし優しく笑ってみせたのだった。
「……いやはや、まいったね」
「志々伎……」
少しばかり呆けて固まっていた俺の耳を揺らす声。
見れば、志々伎が珍しくも情けない顔で俺と根古屋を見ていた。
「何が神童だ。これほど情けないと思ったのは初めてだよ」
そう言って根古屋にぎこちない笑いを向ける志々伎に、彼女はふんと鼻息が聞こえそうな自信に満ちた笑みで返す。
少し前までの根古屋らしからぬその表情は、しかし今は不思議と似合っていた。
「……大上くん。僕も決めたよ」
「な、なんだよ」
思わず身構える俺。いやだって、正直すでにちょっと泣きそうなんだよ。仕方ないだろ、なんだよ根古屋のあれ。反則だろ。
しかし志々伎の言葉は予想とは違った方向だった。
「君には、負けない。ずっと勝負に挑ませてもらうよ」
「……んん?」
「あともうひとつ。根古屋の手伝いかな。君から離れないという根古屋を、全力で後押しするとしよう」
「……はぁあ?」
え、何?何言ってんの?意味分かんなーい。
「分からないかい?要は根古屋の真似さ。情けないけどね」
思わず根古屋を見れば、彼女にはすぐに理解できたらしく満足そうな笑顔。
いやこめん、俺だけついてけてない。ねー待ってよー。
「……驚いた、まだ分からないのか。君、もしかして自分に向けられる感情に鈍くなったかい?」
「はぁ?何いきなりマウントとってんだ」
「いや、これは嫌味とかじゃなく……いや、今はいい」
小馬鹿にした顔に食いつくも、志々伎は仕方なさそうに肩をすくめる。え、なに、腹立つんですけど?
「勝負を仕掛けるのは、君との関わりを断たない覚悟さ。そしてどうやら思った以上にぶっ飛んでそうな根古屋を……というか君たち2人をフォロー出来るのは僕くらいだと思ったからかな」
「なーにを偉そうに」
俺の苦言も聞き流し、志々伎は笑う。
「なにより、神童と呼ばれてずっと退屈だった僕を楽しませてくれたのは君だよ、大上くん。最初こそは興味本位で相手をしていただけなのに、全然勝ち越せないからムキになってきてすらいた」
いつも爽やかな笑顔の志々伎は、しかしどこまでも楽しそうに笑う。
「それどころか、困ってはなかったけど僕じゃどうしようもなかった男友達との仲まで取り持ってくれたね。なんのつもりかと思ったけど……」
「何もクソもねーけど」
「ふふっ、知ってるさ。というより、思い知らされたね。正直に言おう、嬉しかったよ」
告げられた言葉に、言葉が詰まった。
あの唯我独尊な志々伎が、素直にお礼を言うとは。
「そして認めたよ。負けたとね。これは死ぬまで言うつもりはなかったけど……大上くん、君は僕の憧れだよ」
何言ってんだ、ありえねーだろ。なんて、茶化す言葉すら出ないほど、真っ直ぐで真摯な目に圧倒される。
「だから、負けない。挑ませてもらうよ。僕が負けたままでいると思うかい?」
彼らしからぬニヤリとした悪役じみた笑顔は、しかし意外にも似合っていた。
「逃げてもいい。手を抜いてもいい。好きにすればいいさ。でも、僕は挑み続けるよ。逃げられると思わない事だね」
結局は、そういう事なんだろう。
言葉は違えど、根古屋と同じ意味をもった言葉。
俺の意思に関わらず、離れないという意思。
「……買い被りの物好きめ、好きにしてくれ」
「言われるまでもないさ」
そんな言葉しか吐けれない俺は、我ながら本当に情けない。
そんな俺を、優しげに見るのだから、こいつらも相当な変人だわ。
それから、予想通りあっという間に広まった俺の悪評。
そんな中でも、2人だけは変わらず接してくれた。
血濡れのやばいヤツとか、親殺しとか言われる俺に、根古屋は構わず寄り添い、志々伎は俺達を挑むように立ち回った。
程なくして中学に入学しても、地元だからほとんど変わらない面々。
当然ついてまわる俺の悪評だが、やはりと言うべきか変わらない2人との距離感。
絶え間なく続く先輩がたの暴力や同級生をはじめとした陰湿な嫌がらせに、根古屋は構わず共に行動して、志々伎がフォローする。そんな小学生の後半と変わらぬ日々。
いや、後半になるとフォローもいい加減ストレスだったらしい志々伎が壊れ、ちょっとヤンチャに走ったか。
それを止めるどころか煽り、挙げ句の果てには全力で乗っかる根古屋。いやほんと逞しくなっちゃってまぁ。
とか言ってる俺もちくちく言われ続けたストレスは自覚以上だったらしく、即座に乗っかって大暴れした。途中で慌て始めた2人に止められるくらいに大暴れした。
先輩達を蹴散らし、嫌がらせの犯人を暴いて報復したり。ちなみに止めようとする2人を更に止めて俺を煽ったのは姉さんだったりする。
入学した時にはすでに女傑と恐れられていた姉さんの、俺を煽りながら一緒に暴れる顔は、それはまぁなんとも良い笑顔でしたとも。
そして姉さんからは「3バカ」と呼ばれ、周りからは問題児3人組扱いされるようになる頃にはーーそれでも春人と夏希は周りから好かれてるからセコいーー、今度は俺への嫌がらせは減っていった。
それでも相変わらず周りとの距離感はそのままだったけど、まぁおかげさまでなんだかんだ楽しく過ごせた。
高校からはどうなるのかね。
俺達の中学はあまり頭が良いやつがいなかった事もあり(というかおバカばっか)、志岐高校にはほとんど通うやつはいない。
大きく変わるメンツや環境に、楽しみな気持ちもある。
こうして今なお自覚できないほど奥底に残るトラウマにも似た傷に蓋をして、俺は中学を卒業した。
進学した先で、速攻で嫌われ者になったり、いつの日か壊れる寸前で助けてくれた女の子に会うなんて、これっぽっちも思いもせずに。




