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44 終業式2

「全員よく聞け!我らが志岐高校は優秀な教師陣によって優秀な生徒を育て、そして輩出している!」


 屯田の声が体育館に響く。


「優秀な教師陣……ですか。はぁ」

「あははは、ダメ教師の集まりじゃないのー?」

「言ってる本人が同僚にセクハラする教師だしなぁ。むしろ言い切った度胸を評価したいわ」


「そこぉ!静粛にぃ!」

「「「はーい」」」


 目を血走らせて唾を散らして怒る屯田は頑張っても優秀な教師には見えないが、まぁ今は話を聞くとする。

 しかし、最近大人しくしてると思いきや、今日は随分と元気そうである。どしたのさ。


「ご、ごほんっ! だがしかしだ、今の我が志岐高校にはそうではない生徒がいる!」


 マイクいらずのでっかい声に合わせて、一斉に周りの生徒が俺を見た。あれ、打ち合わせでもしたの?息合いすぎだろ。


「注目の的だな秋斗ぉ。羨ましー」

「ぜひ交代してくれ」

「男らしくないですよ?男子たるもの視線を集めてなんぼです」

「いつの時代から来たんだお前は。つか視線の種類くらい選ばせて欲しいわ」


 んのやろ、こいつら楽しんでやがるな?

 

「その男、大上秋斗をいつまで我が校に置いておく?!多くの問題を起こすそいつはいるだけで我が校の品位を落とす!」


「落ちるだけの品位があるんですか」

「冬華ぁ、核心ついてやんなよー?」

「まぁ秋斗のせいで悪影響受けた生徒が居るのは確かだよなー。それこそ冬華とかー」

「夏希さぁ、お前誰の味方なの?ちょっと黙っててくんね?」


 完全にテレビ見る感覚で傍観してやがるよこいつら。頼むから静かにしてて欲しい。


「そう!大上秋斗はこの学校にふさわしくない!ここに居る全校生徒よ、お前達もそうは思わないか?!」


「そ、そうだ!」

「その通りだ!あんな男と同じ高校にいるなんて!」

「退学だ!大上秋斗は退学すべきなんだよ!」


「ぷくくっ、言われ放題じゃん。言い返せよ秋斗ぉ」

「残念ながら言い返せる要素がないんだよなぁ」

「ありますよ。こんなレベルの高校くらいになら在校しても良いと思います」

「お、おう……冬華お前、言うようになりすぎたな。あと志岐高嫌いすぎじゃね?何故入った?」


 しかし、軽口もここまでかな。もうね、なんかのライブでもしてんのかってくらい盛り上がってんだもん。

 

「とは言えこれは酷いですね。退学退学と品もマナーもないです」


「「「「た、い、がくっ!た、い、がくっ!」」」」

「た、い、がくっ!た、い、がくっ!」

「って何で秋斗まで乗ってるんですか?!本人ですけど?!」

「「た、い、がくっ!」」

「夏希までっ?!」


 なんかもうテンション上げなきゃなってらんねえもんよ。投げやりにもなるって。そして夏希のはどうせ悪ノリ。


 教師陣も動かない。

 高山先生だけは何やら教頭っぽい頭してるおっさんに声をかけてるけど、まぁ雰囲気的に止める気はなさそうだ。


 教師達もグルか。

 教師も生徒もノリノリで退学モードの中、この空気を変える方法は……やべ、思いつかないな。


「っ、いい加減にしてください!!寄ってたかって退学退学と恥ずかしくないんですか!」


 ここでまさかの冬華が立ち上がった。


「宇佐さん、頼む引っ込んでてくれ!そいつはこの学校にふさわしくないんだ!」

「こんな無礼すぎる生徒ばっかりの学校くらいには居ても良いと思います!」


「お前の発言もそこそこ無礼だよな冬華」

「なんで秋斗は私の敵ポジションなんですか?!」

「あーあー、冬華までこんな子になっちまってよー。秋斗のせいだぜこれ、責任とって退学したらどーだ?」


「夏希まで遠回しに敵にっ!?なんで庇う相手含めて敵しかいないんですかここ?!」

「「た、い、がくっ!」」

「話を聞いてくださっ、ちょ、ねぇ、あーもう聞けぇ!」


 やっべ揶揄いすぎた、冬華がキレて敬語抜けちゃった。


「真面目にやってください!このままじゃ本当に退学になっちゃいますよ?!分かってるんですか?!」

「わ、悪い。でもよ、」


「夏希もです!秋斗さんと一緒に騒ぐのが好きなのは知ってますけど、時と場合を選んでください!」

「す、すまん冬華。でもさ、」


「でもじゃないです!ちゃんと分かってますか?!今はそれどころじゃないんですよ!?」

「い、いやだから、説教してる場合でもないだろ?」

「そ、そーそー。今はほら、周りを見てさー」


「大人しく黙って聞いてください!」

「お前も大概人の話聞かねえな?!」

「やーん冬華が怖いぃー!」


 こんのマイペースが!ほら周りもなんで内輪揉めしてんだって顔で見てるし!呆れた顔してんじゃん!


――ズガァンッ!!


「「おォあっ?!」」


 ビックリしたぁ。変な声出たわ。


「秋斗―何今の変な声、ウケる」

「いや騙されないからな?夏希もだろうが」

「そこのバカ2人、うるさわいわよ」

「「へい」」


 さっきの音はどうやら姉さんのせいらしい。だって教壇凹んでるし。おまけにヒビとかめっちゃ入ってるし。

 弁償とか……は、なんだかんだ躱すんだろうなぁ。権力って正しく使われる事あんのかな?


「全く………ねぇ、志岐高校の生徒達。今が何の時間か分かってるわよね?」


 教壇が半壊する爆音に続き、呑み込むような気配が体育館を覆い尽くす。姉さん怖いぃ。

 さっきまでの騒音が嘘のように鎮まり返った体育館に、まるで舞台かのように姉さんの言葉だけが響く。


「今が何の時間なのか。……そこの男子生徒、答えなさい」

「え、えと、大上秋斗を追い出す時間では……」

「違うわ。全っ然違う。廊下に立ちたいのかしら?」


 いやそうだったって。俺を追い出す時間になってたよ。

 うーわやべぇ、全然分からんわ。もし姉さんに当てられたら怒られちゃう……!

 夏希に目を向けるも、夏希もこっちを見て小さく首を横に振ってる。

 夏希も同じ事を思ってかどこか焦った感じだし。


「次、志々伎春人くん、答えなさい」


 セェーフッ!むしろナイス!さぁ春人よ、生贄になれ!


「紅葉さんが話す時間です」

「正解よ」

「マジかよただの独裁者じゃねえか!」


 てかアイツすげぇな当てるのかよ!あと姉さんの立場何なんだよ?!


「まだ私の話の途中にぎゃーぎゃーと。少し待ってあげたけどもう待ちくたびれたわ。全員いい加減にしなさい」

「お、大上!まずは教師である私の話を「屯田先生」


 姉さん、そんな真っ直ぐ屯田を見て……いやこれもう睨んでるわ。


「後に、して、ください」

「はい」


 と、屯田弱え……いやこの場合、姉さんが強いのか?もう何も分かんない。てか分かりたくない。


「はぁ。話が逸れたけど、まぁ偶然にも議題としては同じよ。私の話は……私の弟、大上秋斗についての話だしね」

「………はぁ?」


 俺ぇ?何ですかお姉様?

 他の生徒もそう思ったのかーーいや、俺と姉さんが姉弟だと思われてなかったから新事実に驚いたからかーー体育館が静まり返り、


「「「ぅええええええっ?!」」」


 動揺と、俺の気のせいでなければ悲鳴混じりの声が上がった。


「そ、そんなバカな!あの大問題児と大上様が姉弟?!」

「なんで同じ血族に天使と悪魔が?!さては大上秋斗は義弟か?!」

「待て!きっと同姓同名の大上秋斗がいるはずだ!探せ!」


 体育館は大混乱。

 先生達は知ってるから普通に落ち着くように言ってる。けど、誰も聞いてない。

 あー……えげつない数の視線が突き刺さってるぅ。帰りたい、切実に。


 もうね、何してくれてんだ姉さん。


「………最っっ悪だ。せっかくこれまで大人しくやり過ごしてきたのに……」

「はい?大人しく?辞書貸しましょうか?」

「おい秋斗ぉ、自己評価甘すぎないかー?」


 両サイドの言葉は無視。辛辣すぎて今のメンタルじゃ耐えられない。


 先生達もさすがに目に余るのか、本気で怒ってるようにしか見えない剣幕で生徒たちに静かにするよう叫んでる。

 それでも止まらないあたり、驚きがそれだけ強かったのか……先生達に力が無いのか。


「うるわさいわね。静かにしなさい」

「「「は、はいっ」」」


「……マジで姉さんが教祖の宗教とかじゃないよな?止められなかった先生達が涙目だぞ」

「近いかも知れないなー。尊敬通り越して崇拝してるヤツもいるらしーし」

「何それ怖い。あ、馬場先生がとうとう泣いたぞ。あーあ知ーらね」

「これだけ信頼度の差を見せつけられたらなー。まぁうちの教師じゃこうなるのも仕方ねーだろ」


 姉さんの一言でピタリと静まる体育館。

 ちなみに俺は今、この学校に入学して多分一番の恐怖を覚えている。実の姉が変な方向に向かってるんだもの。家族会議待ったなし。


「入学してから定期的に騒動をお届けしている我が弟なんだけど、最近はどうやらカンニングについて注目されてるわね」


「なんでビジネスニュース風?」

「耳に入りやすいもんなー、さすが紅葉さん」

「そうですね。私も積極的に使っていきたいです」

「全肯定?!え、何、怖っ!お前ら2人まで宗教入ってないだろうな?!」


 地味に面倒な状況になってるはずなのに、こいつらのせいで集中出来ないんだけど。


「カンニングの噂の発端は、秋斗に学年一位をとれる訳がないから、という理由らしいけど……考えてもみなさい」


 俺に構わず話をサクサク進めちゃう姉さんは、スッと目を細めて生徒達を見渡してからゆっくりと口を開く。


「私の弟が、たかが中間テストで満点がとれないとでも思うの?」


 何様だと叫びたい。

 

「そ、それは確かにそうですがっ……しかしっ、大上様の弟とは言え、今までの件から考えてあり得ない話ではないのかと!」


 いや、『確かにそうですが』じゃねえから。優秀な姉に愚弟がいる事だって普通にあるだろ。

 それでもさすがに反論が上がり、その上他の生徒もこれには同意らしく、ステージに立つ姉さんに無言の否定的な視線を送っている。

 

「そもそも、その『今までの件』と言うのも、あんた達が言うような内容とは少し違うのよ」

「ぅげっ?!」


 ちょっと待って?何言う気だおい?!


「例えば入学当初にあった同時の上級生とケンカがあった話、あれのしんそーー」

「ストォップ!何言ってんだ姉さ、じゃなくて生徒会長!」

「――うはイジメられていた生徒を助ける為なの」

「言い切った?!普通止まるとこだろ!?」


 さらりと最後まで言うマイペースな姉。

 尊敬してる姉ですが、久しぶりにひっ叩いてやりたいです。


「そ、そんな話が……」

「まさかそんな、さすがにそれは…」

「し、信じらんねえ……いくら大上様のお言葉とは言え…」


 姉さんの言葉で揺れる生徒達。

 さすがの姉さんでも一年以上嫌われ続けている生徒の悪評を一言でひっくり返せはしないらしい。

いや、固定概念や事実として定着している俺の嫌われ具合を揺らすだけすごいのかも知れないが。


「いや、もし仮にそんな美談があったとしても、俺が上級生とケンカして怪我をさせたのは変わらんだろ」

「そ、そうですよ!実際に大上秋斗は停学になってますし、大上様もそれを止めなかったのでは?!」


「だな。俺がやった事はどんな理由があっても褒められたもんじゃない」

「その通りです!大上様、こんな問題児なんかの擁護なんてやめて下さい!」


「あの……なんで本人が煽動してるんですか?アホなんですか秋斗は?」


 うるさいぞ冬華。

 ……この立場だからこそ出来る選択や行動ってのもあるんだよ。


「そうね。本当は怪我もさせずに済ませれたのに、ね。……理由は恐らく、わざわざ助け出した生徒が二度と目をつけられないように徹底的にやったから。加えて、敵対心を自分に向けさせる意味もあるわね」

「考えすぎだろ。てか生徒会長、個人的な話で生徒らの夏休み減らしてやるなよ。早くステージから下りろよ」


「いいじゃない。休み前に私をたくさん見れるのよ」

「ナルシストみたいな発言になってんぞ」


「「「大上様、ありがとうございますっ!!」」」


「そう、仕方ないの、事実だから……残念ながら」

「残念すぎるだろ。うん、ごめん」


 やっぱ家族会議は不可避だこれ。母さんに報告しよう。いや、母さんなら笑って「やるじゃない」とか言いそう。大上家って俺以外まともな人いないの?


「この高校が残念なのは置いといて、俺の噂は別に間違ってないんだ。わさわざ今更取り上げる話でもないだろ」

「何故本人が本人の悪評を主張してるのよ?」


「自分の責任を有耶無耶にしたくないだけだ」

「あっそ、随分と立派じゃない。でもね、背びれ尾びれまで責任を持つ必要はないの。アンタは変に不器用だから無駄に背負っちゃうけどね」


「ハッ、噂なんてほっといても背びれも腹びれもついでに腹びれまで勝手についてくるもんだろ。仕方ないし、言った所で誰も聞きやしないしな」

「そうかも知れないわね。けど、アンタは最初から諦めすぎなのよ」


 呆れたように言い捨て、姉さんはため息をつく。

 いやため息つきたいのはこっちなんだけど。


「アンタは周りを助けるのに便利だからって嫌われ者になりたがってるみたいだけどね。それが周りの為になるかは別よ」

「あぁ、それなら私から散々言っておきました」

「ありがとうね冬華ちゃん。またカフェ行きましょ。今度こそ奢らせてね」


「アンタらいつの間にそんなに仲良くなってんの?!」

「ねぇ河合ちゃん」


 無視ですか。

 それにしても河合?ねぇなんで君がステージの上にいんの?


「そうだよ!大上君がイジメから助けてくれたから今僕は楽しく過ごせてるのに!でも生徒会長、ちゃん付けはやめて下さいっ!」

「ほら河合ちゃんもこう言ってるでしょ。……てかアンタの周りってかわいい女の子多いわね。誰が本命なのよ?もしかして河合ちゃん?」

「やめてあげてぇ!そいつ男だからぁ!」


 姉さん、それはあかんやつや。

 河合も落ち込んだ様子だ。が、切り替えたように歯を食いしばって俺を見た。


「ねぇ!大上くんが退学なんて僕は嫌だよ!僕と一緒に学校生活を過ごして欲しいんだ!」

「あら熱烈ね」

「姉さんやめろ!ややこしくなる!あと河合、女扱い諦めるな!」


「河合さん……まさかそんなところからライバルが…」

「冬華ぁ!よく分からんけど多分それ違う!」

「うるさいわねぇ、静かにしなさい秋斗。ねぇ東雲ちゃん?」


 あれ?またなんかステージに人が増えてる?

 てか誰だ、この中学生みたいな……いや体の一部は立派すぎるが、とにかく童顔の女は?


「大上さん、その節はありがとうございました。相変わらずぎゃーぎゃーと騒がしくて素敵ですね」

「このタイミングで新しいキャラ引っ張ってくんなよな!誰だよお前!?」


「虫川先生のセクハラから助けて頂いた東雲ですよ。記憶力が足りないところも素敵ですね」

「ちょっとこの人俺を罵倒しに出てきただけじゃないの?!素敵ですねって取ってつけりゃ良いと思うなよ!」


「秋斗さんマズイです。私とキャラ被ってます」

「冬華お前どこ心配してんの?!」

「あら宇佐さん、ご心配なさらず。私はあなたとは比較にならない程上品で、おまけに胸が大きゅうございますので」


 あ、自分で言うんだそれ。頬に手を当てて微笑む東雲。

 それに対して、にっこりと笑顔を作った冬華。


「すみません秋斗さん、ちょっと席外しますね」

「おう……って待て待て待て!その固く握りしめた拳をほどけぇ!」


「大上さんうるせぇでございます」

「東雲、お前も言うほど上品じゃねえからな!?あーくそなんで話聞かねえヤツしかいねえんだ!」


「その秋斗自体が話を聞かないからだよ」

「春人にだけは言われたかねぇええ!!っておい何でちゃっかりお前までステージの上にいんの?!」


 無駄に爽やかな笑顔でステージに立つ春人。あーもう嫌な予感しかしねえよ!

 てかこれ終業式だよね、こんな終業式聞いた事ないんですけど。教師陣もこれにはポカーンですけど。


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― 新着の感想 ―
[一言] さすがに主人公がウザいなぁ。 前の感想でも書いたけど、主人公にせよ冬華にせよ、バックボーンがほとんど語られてないので感情移入しにくいのですよね。 この話、結局何も進んでないですし。
[気になる点] せっかく面白いのに、ちゃちゃ入れてばっかりで横道に逸れて話が進まない いい加減イライラしてきた
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