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39 それぞれのやり方

「いやー、今日も今日とてたくさん詰まってんなぁ」


 昨日の夕方に撤去した俺の下駄箱のゴミは、すでにパンパンに補充されている。

 変な所で仕事が早いヤツらに呆れるやら感心するやらだ。


 それでも大して気にならないのは昨日の事があったからだろうな。

 冬華、そして夏希と春人に感謝、か。


「だなー……よし、これを回収してっと」

「……?夏希、何それ?」

「ん?昨日の朝から丸一日セットしてたビデオ」

「………へ?」

「まーな?普通ならさー、何日か繰り返す必要があるんだろーけど。秋斗の嫌われ具合が限界突破してるからなー」

「いやまぁ……一日でこんだけ補充されてりゃ、そりゃ十分な証拠にはなるだろうけど。い、いつの間にお前……てかそれで何する気だよ…」


 俺は別に今までもそうだったようにやり返すつもりはない。

 最近色々あって多少なりとも向き合えるようになったが、それは変わらない。

 しかし昨日の夏希と春人の黒い笑顔、そして今になって集めてる証拠を見ると……うん、嫌な予感が勝つんですけど。


「まーいいじゃん。別に見るだけなら確認だけだろー?手を出すかどうかとは別の話だしー」

「本当かよ……俺の悪友が小賢しくて頼もしい。あと怖い」

「はっ、そーだとしたら秋斗に似ちまったんかなー。責任とれよー?」

「怖い怖い怖い。つか俺のせいじゃなくね?」

「秋斗の方があたしより悪辣で怖くて手札が多くて頼りになるっての」

「最後の褒め言葉がとってつけたようにしか聞こえない……」


 ほぼ悪口の軽口を叩きつつ、夏希はビデオを眺めながら舌舐めずりなんかしてる。絶対確認で終わらせる気ないだろ。

 とか話しながら歩いていると、いつものようにどこからか聞こえてくる声。


「出たなクズが。……てかあいつ最近学校来すぎだろ」

「根古屋さんもよくあんなのを相手に出来るな。何考えてるんだろ」

「最近は宇佐さんも話しかけてるらしいぞ。あのクズが何か脅してるんじゃないか」

「てゆーか宇佐さんもチヤホヤされてチョーシ乗ってたしどーでも良くない?」


「……ん?」

「あん?どしたよ秋斗」

「いや、なんでもな……くない。悪い夏希、いくつか聞いていいか?」

「……にししっ、おー聞け聞けー!質問の分アイス奢ってもらうからなー」

「高いのか安いのか……」


 聞こえてきた陰口にいくつか気になる事があり、夏希に問いかけるとどこか嬉しそうに答えてくれた。ちゃっかり報酬ありだけど。


「冬華って嫌われてんの?もう盗難云々はウソだって広まってんだろ?」

「あー、それ以前から少なからずあーゆー声はあったなー。簡単に言えば嫉妬ってやつ」

「うへぇ……でもまぁ、そりゃそんなのもあるわな」


 春人にそういう声が少ないから忘れてたけど、そも春人のヘイト管理は異常なレベルだし比べるのも酷か。

 

「冬華も警戒して男子とは一線引いた態度だけど、あの見た目で彼氏や好きな人が居ないから一部から色々言われてるみたいだなー」

「彼氏や好きな人?関係あんの?」

「そりゃなー。自分の好きな男が冬華に惚れるか心配なんだろ。その冬華自身に彼氏や好きな人がいればライバルから外れて安心、って感じだなー」

「な、なるほど……女子って話す相手まで気にしないといけないんだな…」


 大変だろー?と他人事のように笑う夏希に、苦笑いをしつつ次の質問。


「で、もいっこ。夏希もなんか言われてなかった?」

「そりゃ多少はなー。まぁ気にすんなっての。あたしが気にしてないんだし」

「おいおい……俺のせいだろ?」

「はぁ?あたしがあんま人と関わらないようにしてるからだろー?自惚れんなバーカ」


 呆れた視線を寄越しながらどうでも良さそうに吐き捨てる。

 夏希らしいと言えばそうだけど、とは言えなぁ。まぁ少し気にかけておくかね。


「つーかさー。一番言われてんの秋斗じゃん」

「ふっ」

「なんで誇らしげだアホ」


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「よし、これで提出書類は揃ったわね。全員お疲れ様。私は職員室に行ってくるから解散にしましょう」


 紅葉姉の言葉で生徒会メンバーは笑顔を浮かべて仕事を終わらせた事を喜び合っている。

 と言っても、私にも労いの声はかけられるし一緒に喜んではみるものの、実は私は正式の生徒会メンバーではないんだよね。


「紅葉姉、わたしもついてくっ」

「そう?じゃあちゃっちゃと行くわよ」


 一応部外者としてあまり長居もね、と思い、紅葉姉にくっついて退室。


 「今日の昼休憩には終わらせるわ」と宣言した通りに終わらせるあたりは流石なんだけど、代わりに昼ごはんを食べれなかったみたい。

 そのせいでちょっとだけせっかちさんになってるぽいね。

 かくいう私も食べてないもんね。紅葉姉と一緒に食べようと思って我慢してたし。


「梅雨、生徒会の仕事には慣れてきたみたいね」

「ん〜、多分?」

「あんたの多分は大丈夫よ」


 何で私――志々伎梅雨が非正規メンバーにも関わらず生徒会の仕事に参加しているかというと、この紅葉姉の企みによるもの。

 いわく「アンタは来年生徒会長になるはずだから」らしい。


 紅葉姉は生徒会長として生徒のみならず先生からも信頼が厚い。けど、本来は結構暴君――いや、唯我独尊なところがある。

 けどそんな所も含めて頼りになるし、私は紅葉姉の事が好きだから、企みとか度外視で仕事の参加を受け入れた。


「着いたわ。ったく職員室遠いのよね、生徒会室の横に移動させてやろうかしら」

「辞めてあげなよ……」


 移動が面倒だからってだけで先生達に大規模な引越し作業をさせないであげて。年配の先生なんか倒れちゃうよぅ。

 冗談よ、と言ってはいるけど、半分位は本気だったと思う。


 そして職員室の扉に手をかけた時、ピタリと紅葉姉が止まった。

 疑問に思って問いかけようとした時、私もやっと原因に気付けた。


「教頭!大上秋斗の満点なんて信じるのですか?!不正をしているに決まっているでしょう!」


 職員室の中から聞こえてくる教師の声。

 私じゃ細かくは聞こえないけど、どうやらアキくんの事を批判しているみたい。

 ちなみに、多分だけど紅葉姉は地獄耳だから詳細まで聞こえてるはず。


「あんな生徒、この志岐校にふさわしくありません!」


 その言葉が聞こえてきた次の瞬間、紅葉姉は扉を壊す気かな?という勢いで豪快に扉を開いた。


「――辰巳先生のような教師は、確かにこの程度の学校にお似合いですものね」


 そしてこのセリフである。

 生徒達の間で紅葉姉が『女王』と呼ばれている理由がよく分かる。


「な、なっ……お、大上…!い、今のはどういう意味だ!」

「そんなに不正をしたというのなら、問題を変えて再テストをしてみれば良いのでは?抜き打ちで行えば不正をする余裕がないかと思いますけど?」


 辰巳先生の言葉を丸無視して一方的に告げる女帝。

 形こそ敬語なのに、側から見ればどちらが上位の立場かなんて一目瞭然。


「や、やってやろうじゃないか!良いんだな、お前の弟だろ!」

「構いません。もしそれで大幅に点数ダウンするなら、私も姉として責任を持って不正の証明に尽力します。ですがーー」


 一度言葉を切り、ツカツカと優雅に辰巳先生へと足を進め、覗き込むように体を少し折り曲げる。

 その様子を周りの教師は注意するでもなく戦慄した表情で見守ってるし、教頭先生に至っては「またか」とばかりに額に手を当てて天を仰いでる。

 うん、生徒会長への信頼と畏怖、あと諦念は紙一重のようだ。


「それでも満点ないしそれに近い点数をとった場合……辰巳先生は根拠もなく生徒を陥れようとして、虚偽を高らかに叫んでいた罰を受けてもらう必要がありますよね」


 語尾にハートマークでも付きそうな声音で、歌うように紡ぐ言葉。

 放送部員顔負けの綺麗な話し方と可愛らしさとは裏腹に、内容は実にダーク。辰巳先生の冷や汗やっばい。


 まぁ紅葉姉だもんね。こうなるのは仕方ないかなぁ。

 

 これは私の予想だけど、もともと生徒会長になったのも、先生達が必要以上に弟――アキくんを攻撃しないように牽制したり守れる立場を手に入れる為だと思う。


 もともとアキくんと一緒で紅葉姉も面倒くさがりな方だし、こう言っちゃなんだけど生徒会長なんてガラじゃない。

 つまりアキくんの為という予想はほぼ確実に正しいと思う。


 なんだかんだ似た者姉弟だよねぇ。

 素直にそれを言わないとこもそっくり。おまけに似てると言ったら「似てない」と絶対言うところもそっくり。あと何より鈍感!2人とも!鈍感っ!!もうっ!


 ちなみに今回の辰巳先生の暴走に紅葉姉が動く必要はなかったっぽいよ。

 職員室の一角で美人が怖い顔して立ち上がってたし。


 あと少し扉が開けるのが遅ければーーもしくあんなに豪快に開けてなければーー高山先生の声が紅葉姉のそれを遮っていたと思う。

 紅葉姉は火が点くと割と一直線だから気付いてないっぽいけど。


 そんなことを考えてると、ぐりんと紅葉姉が振り返ってわたしを見る。ひぇ、一瞬考えてることがバレたかと思ってヒヤっとしちゃった。


「梅雨、あんたは先に戻ってなさい。ついでに少し見回ってくれると助かるわ」

「あ、は〜いっ!行ってきまっす!」


 うむむ、一緒にご飯は食べれないみたい。残念だなぁ。

 きっと本腰入れて辰巳先生を詰めるんだろうな〜。

 辰巳先生、ご愁傷様っ。ついでに後でフォローに回るであろう苦労人の教頭先生もお疲れ様ですっ。


 さーて近日中には肩身狭く縮こまってるであろう辰巳先生は置いといて、どこに行こうかなぁ。

 見回りといってもどうせなら知り合いのところに寄りたいしぃ。

 うん決定っ、2年2組に行こっと!


 私が大好きな人が集まるクラスへと軽い足取りで進む。


 余談だけど、しばらく先の話、職員室は生徒会室の近くに移動した。

 担任の馬場先生いわく、辰巳先生が頑張っとかなんとか。





「こんにちはー!」

「お?梅雨かー、どうしたー?」

「あ、夏希姉!見回りついでにアキくんと夏希姉に会いに来たっ」

「んー?春人には?」

「うげぇ、勘弁してくださいよぅ」

「あははは、反抗期かー?」


 綺麗な顔で少年みたいに笑う夏希姉。紅葉姉と同じく私のお姉ちゃんみたいな人だ。


 お兄ちゃんは尊敬はしてるし好きだけど、あまり外では近付きたくない。

 理由はいくつかあるけど、一番は視線。

 集まり方がヤバくて、お兄ちゃんは余裕で受け流すけど私はムリ。気分悪くなっちゃう。

 

 ……実のところ、昔は兄の完璧ぶりと比較されるから嫌、というのが一番だった。


 だけど、それはもう解決した。

 兄を越えたから、というワケじゃない。気にする必要がなくなったんだ。

 話せば長くなるけど、私が大好きな人、アキくんのおかげ!っとだけ言っておこっかな!


「しっかしタイミング悪いかったなー。秋斗トイレ行ってるぞー」

「えぇ〜!もぉ、また会えなかったぁ!」


 むむぅ、これで何連敗目かなぁ。てかこれ、絶対偶然じゃないよね。アキくんが避けてるに決まってるっ!

 はぁ。どうせ私の学校生活に余計な問題を起こさせたくない、とか思ってるんだろうなぁ。

 守ってくれようとするのは嬉しいけど、もう昔みたいな子供じゃないのに。


「てかそれ、まだ飯食ってないのかー?」

「あ、うん。ねぇねぇ夏希姉、もうご飯食べた?」

「あたしも食ってないな。一緒に食おっかー」

「うんっ!」


 夏希姉は鞄に手を入れ、パンをひとつ取り出した。

 そこで気付く。しまったなぁ、夏希姉もうご飯食べてたんだ。


「ほれ、こっち座りな」

「あ、うんっ!えと、ありがとね夏希姉!」

「おー」


 夏希姉はちょっと……いやかなりの大食い。パン一個なんて足りるはずがない。

 きっと間食用だったんだろうなぁ。気を遣わせまいとウソをついてくれたんだ。


 でもそれを口にはしない。

 夏希姉とアキくんはこうやって分かりにくい優しさで包んでくれる。きっと妹みたいに思ってくれてるんだろう。

 

 その優しさを拒むのも失礼だと思うし……何より甘えたいんだもん。

 夏希姉は口は悪くてぶっきらぼうだけど、すっごく優しい大好きなお姉ちゃんなのだっ!


「――ねぇねぇ宇佐ちゃん、なんで最近大上のクズとお話してるの?辞めた方が良いよ?」

「そうだよー。もし脅されてるとかなら、アタシらから鬼頭センパイに頼んであげるからさー」


 いざご飯!と一口目を頬張った時に聞こえてきた会話。

 見てみると、冬華先輩がお友達?とお話してた。


「せっかく疑いも晴れたんだからさー、あんなのじゃなくてアタシらと絡もうよー。鬼頭センパイも紹介してあげるからさぁ」

「そーだね、特別だよ?ガチで頼りになるセンパイなんだから」


 鬼頭センパイ?確か紅葉姉が言ってたような。

 確か、「アンタは危ないから関わらないように」って言われたっけ。んー、まぁ気にする程の事じゃないかな?あっ、卵焼き美味しっ。


「ねぇ夏希姉、鬼頭センパイって誰―?」

「三年の、まぁいわゆる不良だなー。ケンカっ早くて力もあるから、素行が良くないヤツらのリーダーみたいな扱いになってる人」


 なるほどぉ、昔でいう『ばんちょー』さんみたいな感じかな?

 この学校って微妙に風紀が良くないもんね。


――紅葉姉いわく、伝統なんだとか。


 ばんちょーが、ではない。教師の怠慢が、だそうで。

 多少偏差値が高くても、やっぱり子供。教師が威厳もやる気も取締りもなければ楽な方に流れ、風紀が乱れる。

 それが伝統となり、一定数の不良みたいなのが出てくるとかなんとか。


 まぁ要するに教師がだらしないから生徒もだらしなくなくなるって感じらしい。


「危ない人なんだね〜」

「まぁ、梅雨は近寄らない方がいいだろーな……さて、すまん。少し抜けるなー」

「え、あっ、うん」


 てゆーかもう食べちゃったの?私まだ一口しか食べてないのに。早すぎぃ、掃除機なの?


「よう、冬華。面白い友達が出来たんだなー?」

「え、うわ、根古屋さん?!」

「うそ、根古屋さんが話しかけてきてるっ?!」


 夏希姉がさらっと冬華先輩に話しかけると、先程まで話していた先輩達が驚いてる。……頬が赤くなってる事は触れないでおこっと!

 うーん、夏希姉、見た目が美人なだけじゃなくて中身がイケメンだからなぁ。昔ファンクラブあったし。会員女子多数の。


「友達ではありませんよ、夏希。見れば分かるでしょう」

「あははっ、まーなー。おいそこの女子AとB」

「え、あれ、名前……あの、アタシ、同じクラス…」

「すまん、覚えてねーわ。秋斗をクズって呼ぶならアンタ達の名前も必要ないだろー?よくあたしの聞こえる場所であたしのツレをバカに出来たなぁ?」


 あーぁ……やっぱりこうなったかぁ。

 夏希姉は陰口が嫌い。

 昔夏希姉自身が言われてたらしいし、昔助けてくれたアキくんが陰口を言われるようになったから。


 だからといって、堂々とあんな風に言える人は少ないと思う。

 アキくんの前では自重してるらしいーーアキくんに止められるからーーけど、そうじゃなければズバズバ言っちゃう。

 かっこいいお姉ちゃん、いや姉御である。


「な、なんなのよいきなり!?ねぇ宇佐ちゃんからも何か言ってやってよ!」

「はぁ……分かりました」


 夏希姉の圧に負けて宇佐先輩に助けを求めるA先輩。いやB先輩?結局名前聞いてないや。

 それに仕方なさそうに宇佐先輩は溜息をついてから冷たい視線を向ける。A先輩へと。


「不愉快です。秋斗も夏希も私の友人です。これ以上悪く言われたら私も怒りますよ」

「え……」


 お、おぉ……宇佐先輩も言うなぁ。見た目はそんなイメージじゃなかったんだけど。

 A先輩とB先輩、何言われたか分からないみたいな顔で固まっちゃってるもん。

 宇佐先輩みたいな超美人の無表情であんな風に低い声で言われたら……うん、すっごく怖い。


「この際だから言いますが、私の前であまり秋斗の悪口は言わないでください。不愉快です」


 ついでとばかりにクラス全体をさらっと見回しながら牽制。というか追撃。

 効果は凄まじく、集まってた注目の視線が一斉に気まずそうに逸らされた。


「あははっ、冬華やるぅ」

「前から我慢はしてましたが、そろそろ限界だったんです。秋斗は全然反論しませんし」


 学年でもトップの美少女2人の言葉は、思春期の学生達には響く。

 教室の中心で背中合わせに立つ2人は、まるでステージから見下ろす役者のよう。


 そんな雰囲気もあって、特に男子には効果はありそう。あんな美人2人から嫌われたくないもんね。


 けど、そうじゃない人達もやっぱり居て。


「お、覚えときなさいよ!鬼頭センパイに言ってやるんだから!」


 B先輩がそう言い残して教室を出て行く。ばんちょーにチクりに行ったんだろうな。

 三年生の怖い人が敵になる。普通に考えて危ない状況になってしまった。それにしても捨て台詞が小物すぎる。


「夏希、鬼頭センパイって誰ですか?」

「気にしなくていいっての。問題ないし」


 けど、夏希姉にとってはそうではないらしい。

 夏希姉の言葉に、不安や心配の色を見せずに「そうですか」とだけ頷いて昼食を続行する冬華先輩も大概だけど。

 見た目の繊細な綺麗さに反してなかなか図太いなぁ。


 いやでも普通に心配なんだけど……でも夏希姉が言うなら大丈夫なのかなぁ?うん、夏希姉だしね!


「……えへへっ、ねぇ夏希姉!冬華先輩ともご飯食べたいなっ」

「お?冬華、いいかー?」

「もちろん構いませんよ。……相変わらず可愛いですね梅雨さん」


 夏希姉が友達と仲良しなだけある。うんうん、冬華先輩もかっこよかった!

 しかもこんな突然の申し出にも優しく微笑む優しさ。あと笑顔ヤバい、美人すぎるっ!ちょっと目がギラついてるのはきっと気のせい。


 大好きなアキくんには会えなかったけど、かっこいい先輩に会えた。

 実質見回りしてない事は忘れて、この幸運を噛み締めてご飯を食べよっと!


 それにしても、こうやって夏希姉――と冬華先輩――もアキくんを守ってたんだ。

 「え?頼られるまで何もしないよ。悔しそうに頼ってくるのを見るのが楽しみなんだ」とか笑顔で言っちゃう腹黒兄貴とは大違いだね!


 そう言えばアキくん戻って来ないなぁ。やっぱ避けてるなぁー?


 もうっ、私の中で一番かっこいい人はどこに行ったのやら。



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



「鬼頭センパイ!聞いてくださいよー!」

「宇佐と根古屋がチョーシ乗ってるんすよ!ちょっと痛い目見せてやってください!」

「ふぅん……」


 あーぁ、嫌な場面を見てしまったなぁ。

 今日はお弁当を忘れて親友の冬華と別行動したのが良くなかったのかなぁ。


 食堂で1人寂しくご飯を食べてーー冬華は人が多いのは嫌だと逃げられたーー帰り道に聞こえてきた声。

 確かあの2人は同じクラスの栄子と美湖。

 わたしと冬華がこんな風になる前はカースト2番目くらいのグループだったけど、最近は調子に乗っちゃってるみたいね。


 それよりマズイのは鬼頭先輩。

 以前わたしと組んだ猪山もタチの悪い知り合いが居たけど、そーゆー人達のリーダー格。

 意味分かんないくらい強い上に女相手でも平気で暴力を振るうとか聞いた事がある。


 あーもうヤバいよぅ。

 とにかく急いで2人に知らせなきゃ。そんでセンセーに言うとかして対策しないと!


「お?根津?なんでこんなとこいんの?」

「ぅえ?あっきー!?」


 び、びっくりした……

 最近話す機会が増えた、学校一の嫌われ者の大上くん。

 以前、自業自得で制裁されたわたしを救ってくれた男の子。


「な、何してんのこんなとこで」


 やばい、声が上擦っちゃう。

 変にかしこまったら嫌そうにするからいつも通りを心掛けてるんだけど……何故か上手くいかない。

 なんで……ってのはまだ直視したくはないけど、分かってる。まだ認めたくはないけど。


「あんま学校で話しかけんな、バカ」

「………うん」

「よし。つか早く戻れよ、授業始まるぞ」


 あっきーは自分を悪意の標的にして周りを助ける。それを聞いた時からこうなっちゃったんだよね……。

 今だって、わたしを守る為にこうやって遠ざけてくれる。

 それはそれとして、あっきーも戻りなよね。同じクラスで同じ授業受けるんだけど?


「あっきーも戻んないとじゃん。それともなに、サボり?」

「いや野暮用。終わったら戻るわ。じゃあな」


 そう言って呑気に歩いていく。って、待って待ってそっちはーー?!


「ちょ、あっきー待っ」

「ども、お邪魔しまぁす。なんか面白そうな事話してたんで……俺も混ぜてくれませんかね、鬼頭先輩?」


 ああぁぁああバカぁああっ!そこ今一番行っちゃダメなとこぉー!

 

「あん?ってお前か、大上……珍しいな、何の用だ」

「久しぶりっす。いやね、そこの2人が言ってた名前、俺の知り合いなんすよ」

「……ちっ」


 とりあえず急いで隠れるっ!

 あーもう、鬼頭先輩はヤバいってあっきー!舌打ちされてんじゃん!

 と、とにかく助けを呼ばないと!えと、ふ、冬華にライン!それできっと根古屋さんとかも伝わるし!


「ったくマジかよおい、何綺麗どこ囲ってんだ大上………おいお前ら、もう宇佐と根古屋には関わるな。痛い目見んぞ」

「えっ、えっ……ちょっ、鬼頭センパイ?!」

「何言ってんすか!?」


 ……ん?あれれ?なんか思ってた展開と違う感じ?


「……おい、そこの女子AとB」

「はぁ?!なんだよクズ!話しかけんな!」

「てかAとBって何だよ!栄子と美湖だし!」

「え、まさかのニアピン」


 まぁ、うん。でも大上くん、名前でイジるのは良くないよ?いやそんなつもりはなくてグーゼンなんだろうけどさ。


「俺ってさ、学校で一番嫌われてるらしいんだよ」

「知ってるし!バカじゃないの!このクズ!」

「くくっ……そう、クズなんだよ。でさぁ、そんなヤツが女相手だからって優しくすると思うか?」


 何気ない感じに言った言葉。

 けど、2人が固まるには十分すぎたみたい。いや待って、いかにもヒーローっぽい登場したくせに悪役になってんじゃん。


「あの2人が何かされたら、同じ事をお前らにしよっかな」

「は、え……ちょ、ちょっと待ってよ!アンタはカンケーないじゃん!」

「俺がいじめてる宇佐と、何故か話す機会が多い根古屋。俺の数少ない学校の暇つぶし相手にちょっかい出しといて関係ないはないだろ」


「は?!マジでなんなの?!しゃしゃんなよクズ!」

「女子に手ぇあげるとかサイテーだし!鬼頭センパイ、あいつやっちゃってくださいよ!」


 2人が鬼頭センパイに言い寄る。や、やばいって!早く逃げなよぉ!

 いや落ち着けわたし、もしケンカになったら即冬華にライン!もういっそ先生を呼んできてもらう!


「いや、やらん。……あー、とりあえずお前らもう帰れ」

「え?!な、なんでっすか?!」

「あ、俺も帰るっすわ。言う事言ったし」


「おう、さっさとどっか行け。二度と来んな、この嫌われ者が」

「お互い様でしょうに。へいへい、お邪魔しましたー」


 ……何事も、なかった?

 良かったあぁぁあ。ホント焦ったよぅ。


「あれ?根津まだいたのかよ。そろそろ授業遅れるぞ」

「あ、う、うん!今から戻る!」

「あっそ。んじゃ」

「あ、待っ……てくれないよね、そりゃ」


 てか歩くの早いな!おい普通こんなとこに置いてくかお前?!


「ねぇ鬼頭センパイ!なんでやってくんないんすか?!」

「だから帰れって……まぁいい、お前らに教えといてやる」


 ありゃりゃ、まだ粘ってたか。前からねちっこい子達とは思ってたけど、カースト上がったからから悪化してるっぽいね。

 そんな2人を見下ろしながら鬼頭先輩は面倒くさそうに吐き捨てる。


「大上には睨まれないようにしとけ……無視されてる内はいいが、敵にだけはなるな」

「ちょ、どーゆー意味っすか?!って待ってくださいよぉ!」


 あ、やばっ!こっち来る!

 しかも予鈴鳴った!やばい遅刻しちゃうぅ!


 それからは猛ダッシュ。教室に着いてチラっと大上くんを見たら、ギリギリ間に合って汗だくのわたしを見て意地悪そうに笑った。

 

「うぅ……」


 ……ヤバい。ヤバいよぅ。


 バカなわたしでも分かる。

 あんな風に、守ってたんだ。


 鬼頭先輩と顔見知りそうだったのも、きっと以前にもこんな感じで会う事があったからなんだろうな。

 もしかしたら一回くらいはケンカとかしちゃってるのかも。

 短い付き合いだけど、大上くんの性格的にこういうの多分今回だけじゃなさそうだし。

 

 はぁ、わたしってばなんでもっと早く気付かなかったかなぁ。

 おかげで冬華に先越されちゃったよぅ。

 いや、それより反省すべき事とやるべき事があるのはもちろん分かってるんだけどさぁ。


 あーもうっ。あんなにかっこいいなんて聞いてないよぉ!色々精算したら覚悟してよね!



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