14 勝ちたい理由
(さて、どうするかなぁ)
あと少しで学校が終わる帰りのホームルームで、高山先生の話を話半分に聞きながら今日を振り返る。
簡単に言ってしまえば、一日に二度も退学を勧められ、何故かどちらも勝負することになった。嫌われ者だけあって余計な事に首を突っ込むとすぐこんな話になるな。
一つ目は来週に控えた球技大会。
恩人でもある高山先生にセクハラまがいな事をしてた屯田を黙らせようとしたら、顧問をしてるバレーで勝負する事になった。しかも一年の頃からエースになった猪山のチーム相手に勝たないと退学。
二つ目は再来週に行われる中間テスト。
こちらは退学こそ賭けてないものの、高山先生と俺が男女の関係だとかいうふざけた噂を消す事を条件に、宇佐や高山先生に関わる権利を賭けてる。
こっちに関しては勝負を受けた時点でぶっちゃけ俺の中で勝利条件は満たしてる。
(とにかくバレーの方は頑張れるだけ頑張ってみるか。テストは適当でいいかな)
なんせテスト勝負の相手は学年3位。まともに勉強していた中学までならともかく、今の俺ではかなり厳しい。
「では、これでホームルームを終わります」
なんとなく方向性を決めたところで丁度ホームルームが終わり、教室内の空気が緩む。わいわいと楽しげな会話が聞こえてくる中、俺はさっさと教室から出た。
「……大上くん、少し時間をもらっていいかしら?」
だが、廊下で待っていたであろう高山先生に声を掛けられた。
話の内容はなんとなく想像がつくから行きたくはないけど、恩師を無視して帰るのもどうかと思って頷く。
そして周りからじろじろと見られながら高山先生に着いていき、生徒指導室の椅子に向かい合って腰を下ろした。
「あのー、高山先生。俺ここに来るような悪いことしてないっすよ?」
「…………その追求は今はしないでおいてあげるわ。今回時間をもらったのは別の話よ」
やっぱ素行の注意とかじゃないよなぁ。
それなのに教室から出てきた春人は「懲りないね大上くん」と言ってさっさと帰るし、夏希は「またやらかしたのか?やらかす時は呼べよー」とか変な方向性の文句言ってくるし。
友人からの信用が思ったより少なくてビックリだ。
「では一体何の話で……はっ!ま、まさか密室で2人きりにして……?先生、学校ではさすがにそれはまずいっすよ。せめてどこかで落ち合うとか」
「な、なななんの話かしらっ?!」
軽い冗談。の、つもりだった。なのに思った反応と違う。
顔を赤くして珍しく口調を荒げる高山先生。え、何すかそのめっちゃ良いリアクション。
「えっと、逆に先生はなんの話だと?ねぇ先生、いたいけなボクに教えてくださいよ」
「………怒るわよ?」
「はいすんません」
顔をほんのり赤くして睨みつけてくる。が、いつもの鋭さはどこか欠けてる。というか拗ねてるようにしか見えない。
うわこのリアクション、ガチだ。まさかのそっちのネタに耐性なしかよ。
えーウソぉ、こんなに美人なのになぁ。
まさか男慣れしてないなんてギャップまでお持ちとは……これが広まったら、勝手についたであろうとっつきにくいイメージも薄まって人気出そうだな、主に男子から。
「んで、先生が可愛いのはよく分かりましまけど、何の話ですか?」
「かっ……?!ちょっと大上くん、今日は少しふざけすぎてはないかしら?!」
「いや今のは純度100%の本音っすけど、ほら今は話しないと」
「も、もうっ……」
頬を少し赤らめてそっぽむく美人教師。いやもうマジで可愛いなこの人。今度マジでこのネタ春人に頼んで広めてみよっかな。
「……大上くん。球技大会の賭けの件は、取り下げなさ「嫌っす」……そ、即答はどうなのかしら……」
頭を片手で押さえて溜息をこぼす彼女は、切り替えたようにこちらを真っ直ぐに見据える。
少し吊り気味の大きな瞳を見返す。
相変わらずーー俺みたいな生徒であろうとーー真っ直ぐに人を見れる人だと思わされる。
「いいから、今から屯田先生に謝って取り下げるわよ。勿論私も一緒に謝罪するわ」
「やー、必要ないっすね」
「っ、意固地にならないの!猪山くんと運動部ばかりのチーム相手に勝てる訳がないでしょう!このままでは退学になるのよ?!」
眉尻を跳ねさせて、鋭い視線と声を叩きつける。
それでも、その瞳には怒りどころか、こちらを思ってくれていると分かる優しさしか見えない。
本当、この学校にはーー俺には、勿体ない先生だわ。
余談だが、叱ると怒るを履き違える人は少なくないと思う。
聖職者と呼ばれる教師だって、事実上、学生からそのまま学校に配属される分、会社などで揉まれないからそういった人は多くても仕方ないように思う。
自分の感情を軸とした『怒る』ではなく、相手を思って、相手の指摘すべき点に焦点を絞った指摘をする『叱る』。
目の前の先生はちょっと分かりにくいかも知れないが、叱るのが上手いと俺は思う。
ただまぁ、俺は子供だからな。
おまけに俺個人の変なこだわりみたいなもんもあるし、せっかくのお叱りだけど従う事は出来ない。
「……いや、悪いのは屯田なのに、なんで謝らないといけないんすか」
「世の中、それで割り切れるほど単純ではないの。大上くん、あなたなら分かるのではないかしら?」
「まぁ、なんとなくは。理不尽なんてもん、どこにでもありますしね。でも……その上で今回は必要ないっすから」
「それは……退学しても良いという事かしら……?」
そう言って、跳ねさせていた眉尻を弱々しく垂れさせる。
「高山先生」
「……なにかしら?」
返事まで少し弱々しい。なんか、らしくない。うぅむ、しまったな、そんな表情をさせるつもりはなかった。
こうなるとは思わなかったけど、冷静に考えればそういう先生だったと思い至る。
これは俺の落ち度だな。変に誤魔化すところではなかったか。
「高山先生。怪我で出席日数が足りなくなった俺を、わざわざ学校に言ってまで進級させてくれてありがとうございました」
「……私は教師だもの。それくらい当然だわ。それに、チャンスを掴んだのは大上くんの力だわ。それなのに……こんな事で…」
1年生の終わり頃、出席日数ギリギリを狙っていた俺は、学年末頃に骨折で入院したことで足りなくなっていた。
恐らく学校側は問題児の俺を辞めさせるチャンスと思ったはず。それをテストの点数さえボーダーを超えさせすれば進級出来るように取り計らってくれたのは高山先生だ。
その上テストを俺の病室まで持ってきて、俺がそれを解答するまでその場で監視として居てくれたりもした。平日は忙しいからと、休みであろう日曜に。
問題児やら嫌われ者で通ってる俺に、勤務時間外でそこまで心を砕いてくれたのだ。
「その借り、返せる時に少しは返しときたいんすよ。……前にも言いましたよね」
どうやら怖がっている生徒が多いらしいけど、基本的に高山先生は優しい。なんなら、甘いと言っても良いくらいだ。
その優しさは、中にはそれに付け入ろうとする人がいてもおかしくはない。
それが今回は屯田だったって話だ。
「私こそ前にも言ったけど、借りだなんて生徒が言うことではないわよ。私は教師なのよ、当然のことをしたまでだわ」
教師として正しい言葉なんだろう。頑固とも言えるその姿勢は、しかし生徒からすれば好感が持てるし、信頼出来るのだろう。
ただ、それでも俺には俺の言い分があるわけで。
「そんなセリフを当たり前のように言える先生だから、こっちは困ってるんすよ?」
虚を突けたのか、きょとんとした黙り込む雰囲気を見せる先生。
「生徒としちゃ嬉しいっすけど、一個人として俺は許容出来ないんすよ。たまには……こういう時くらい、大人しく恩返しされてくれないすかね」
さらに、微かに目を瞠る先生。大きな目で固まる先生はこんな時だというのに可愛く見えてしまう。
「俺だって……生徒だって先生に感謝くらいするんすよ。教師として、それを受け取るのも仕事だと思ってみちゃどうすか?」
……言ってて気付いた。
負けてと退学になって屯田のセクハラ映像を広めれば良いと思ってたけど、それじゃダメだ。恩返しどころか恩を仇で返してる。
高山先生のおかげで進級したんだから、ちゃんと卒業しないとな。
その為にはどうすれば良いか。
簡単だ。勝てば良い。
「……ちゃんと勝ちますから」
春人も居るんだ、勝ち目がない訳じゃない。出来る限りーーいや、勝てるように準備するしかない。
そうと決まれば春人と練習しないとな。とりあえず探しに行くか。
「それにやっぱ綺麗でかわいらしい先生をセクハラから救いたいっすしね。あ、さっきのウブな反応、ごっつぁんです」
「っ!ちょっ、なっ?!」
「では失礼しましたー」
「この流れでっ?!こ、こら大上くん!話はまだ終わってないわよ?!ちょっと?!」
最後の冗談もクリーンヒットしてくれたようで、ボクはとってもご満悦です。
さて、さっさと春人を追うかな。筋トレとかはしてるけど、球技はどうも苦手なんだよなぁ。あいつ教えるの上手いし、しごいてもらうか。あ、作戦も考えないとな。
そんな事を思いつつ、ガタガタと席を立とうとしている様子の生徒指導室を尻目にダッシュで逃げた。もちろん、無事脱出成功です。
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その足で学校のグラウンドの片隅に行き、部活終わりの春人をメールで呼び出した。
夕焼けに照らされるこのイケメンはハードな運動後とは思えない爽やかさで片手を上げて「やぁ」と微笑む。
「どうしたんだい秋斗。学校で話がしたいなんて珍しいね」
「あぁ。急ぎで聞いときたい事があってな」
「ふぅん?てっきり昨日僕を天然ボケと詐称した謝罪かと思ったよ」
「いやそれは詐称じゃない」
まぁ天然ボケというより天然超人だけど。もういいだろ、こいつの自覚なしの超人ぶりはボケの一種で。
「全く、ツンデレに言われたくないよ」
「俺にツンもデレもないだろ」
「いや割と見本みたいなツンデレだよ秋斗は」
春人こいつ、ふざけんなよ?いや、そんな話をしたいんじゃなくてだな。
「……なぁ春人。球技大会のバレーなんだけど、来週まで練習に付き合ってもらえないか?」
「へぇ……本当に珍しいね。ところで中間テストは手伝わなくて良いのかい?」
「あぁ、そっちはいい」
中間テストは最低勝利条件は既にクリアしてるから無視。ただ球技大会は恩師への筋を通す為に勝つ必要がある。
しかし俺は球技が苦手。だから春人に少しでも鍛えてもらいたいのだが、春人は「んー」と言葉を選ぶように黙り込む。
「……ねぇ秋斗。宇佐さんって面白いと思わないかい?」
「なんだいきなり。いや、面白くないわ。なんかペース狂わされるし」
「あははっ、やっぱり面白い」
「俺の話聞いてた?」
こいつ、やっぱり腹黒だわ。
他所向けの綺麗な笑顔とは違い、随分と楽しそうに笑う春人をつい睨んでしまう。俺が宇佐に振り回されてるのがそんなに楽しいか。
「だってなんだかんだで居候まで許してるんだよ?僕や夏希以外にかつて居たかい?」
「成り行きだよ。なんでこうなったかね、面倒くささしかねぇよ」
「本当にそう思ってるなら切り捨てれば良い。秋斗の得意技じゃないか」
出来ないだろう?という副音声が聞こえそうな笑顔で言う春人。その笑顔、歪ませたい。
「ふふっ。秋斗は悪意のない、しかも借りのある相手を切り捨てられないだろう?本能か理性かは分からないけど、それを宇佐さんは理解しているようだしね」
「……かもな。ちなみにあれは本能の方だな、多分考えてやってない。だから余計にタチが悪い」
「秋斗にとってはそうだろうね。でも、僕からすれば貴重な人材だからね」
「はいはい、楽しそうにしやがって」
「ほんっと楽しくて仕方ない」
「てめ」
軽口はともかくーー多分、俺の為なんだろうな。
それでいて俺の意思は無視するあたり、こいつはスパルタというか傲慢というか。
親友だの幼馴染だの言っちゃいるが、そもそも春人はーー夏希もだが、夏希以上にーー俺の意見なんか実はろくに聞いちゃいない。
お互い頼んだり頼まれたりで動く事はあるけど、それはあくまで頼まれた方が興味を持つか貸し借り等があってこそだ。
頼まれたからただ善意や友情のみで動く、なんて事はほとんどない。実際、嫌だからやらない、なんて事も少なくないワケで。
それにしても宇佐か。中間テストをわざわざ言ってくるあたり、それほど興味を持ったという事。万人に差し当たりなく接する春人にしてはかなり珍しい。
「それに、宇佐さん可愛いと思わないかい?学校一の美少女だよ。良かったじゃないか、男として嬉しいだろう?」
「おいおい、今頼んでる事とは関係なくないか?」
「いいからいいから。で、嬉しいものは嬉しいものじゃないかな?」
「んー……いや、別に」
これは強がりでも嘘でもなく。
確かに可愛いし美人とは思うけど、そもそも関わり合いになるような相手じゃない。
今でこそハブられてるようだけど、それもそう長くないはずだ。上手くいけば球技大会後には元に戻るはずだし。
そして悪意の檻から解き放たれた宇佐は、自然と俺と関わる事はなくなるだろう。ちょいと大袈裟な言い回しをするなら『もともと住む世界が違う』ってやつだ。
それなのに嬉しいもくそもあるかって話だ。なにしろ考えるだけ無駄なのだから。
それに顔の話なら夏希も似たレベルだし。性格に一癖あるけど、夏希は長い付き合いで信頼もしている。
結局、人付き合いなんて外見じゃなく中身だしな。
「容姿の話なら夏希も変わらんだろ」
「……それ、本人にも言ってあげなよ?」
「なんでだよ?わざわざ言う必要ないだろ」
「むしろ言葉にする事が大事だと思うけどね……はぁ、まぁ秋斗だしね」
「なんだ今の諦め方は。なんか不本意だぞオイ」
軽く睨むも、春人はアメリカンなジェスチャーで手のひらを肩の横にあげて首を振る。う、うざい!
「ふぅ、ごめんね。まだ秋斗には早い話だったようだ。僕が悪かったよ」
「同い年だろお前。ガキ扱いやめろ。てかなんだよいきなり煽ってくれやがって」
「煽りたくもなるさ、僕じゃなくてもね」
「はぁ?」
たまに春人はーーいや夏希もだし姉さんもだがーーこんな感じの雰囲気で話を濁す時がある。
まぁ明言しないなら本当に言う必要がないって事だろうし、わざわざ掘り返したりはしないけど。
「まぁいいや。バレーの練習だったかな」
「そうそれ」
話が逸れまくった上に煽られたりして忘れてたわ。本題それじゃん、やっとかよ。
「うん、引き受けさせてもらうよ」
「良かった、ちょっと勝ちたくなってな。助かる」
ふぅ、今回はすんなりOKがもらえたか。今回は大丈夫だとは思っていたものの、こいつのーー夏希もーー興味の基準がたまに分からないから少し緊張したわ。
「ふぅん。理由は察しがつくけど、一応確認しておきたいな。高山先生と屯田先生絡みかい?」
「………お前、何で分かんの?盗撮か盗聴でもしてんの?」
「散々決まらなかった種目がバレーになって、猪山くんの絡み方と高山先生の暗い表情を見ればね。屯田先生は高山先生が好きなのは有名なんだから、誰でも分かるさ」
「いや普通分からんから。そこらへんが天然ボケだっつってんの」
どんな脳味噌のつくりしてんだろこいつ。
「まぁいいや、早速今日から頼みたい。どこでやるよ?」
「少し離れるけど、スポーツセンターでも行こうか。あ、チームメイトは誘うかい?」
「いやいい。あいつら、あんまスポーツ好きそうでもなかったろ」
いや好きかも知らないけど、いかにも文系な感じだったし、誘うことで変に圧迫感を与えるのもなぁ。そもそも球技大会に力を入れる生徒自体が結構少ないわけだし。
もし本当に好きなら誘わなくても自分達でやるだろうしな。
「そっか。勝ちたいって言う割には悠長だね」
「それは俺の都合だし、話した事もないやつらを巻き込むのはなぁ」
「退学がかかってるのに呑気だね。僕が秋斗の退学するのを簡単に良しとするとでも?」
あぁ、それも動いてくれた理由なのかも。ありがたいやら気恥ずかしいやら。
「……さぁな。どのみち学校じゃあんま関わらないし、あり得ない事もないんじゃね?」
「バカだね、関係ないさ。秋斗がいないと、競争相手がいなくなるじゃないか」
「出たよ。過大評価だ」
「そうかな?秋斗以外で、僕の退屈を晴らしてくれた人に会った事がないからね」
そう言い、春人は笑う。その笑顔は胡散臭い完璧な笑顔でも、俺によく見せる小憎たらしい揶揄うような笑顔でもない。
獲物を捉えた獰猛な嗤い。空っぽの、途方に暮れたような乾いた笑み。
そんな交わりそうもない二つを無理やり練り合わせたような、少し歪にも見える笑顔。
周りから見れば生まれてこれまで順風満帆の人生を送る春人の、春人だけが分かる苦悩と飢えがもたらす貌に、俺は肩をすくめてみせる。
「……ま、その過大評価が正当な評価に落ちるまでは相手になるけどよ。たまには、だけど」
「それでこそ秋斗だ。ただ、もう少し付き合いを良くしてくれても良いんだけどね」
「たまにはっつってんだろ!お前みたいな超人相手にポンポン付き合ってたら身体がもたねぇんだよ!」
「よく言うよ。身体能力だけなら僕より上だろうに」
はいはい、こいつの買い被りには付き合い切れないわ。
「でも、たまには組むのもアリだよね。正直言って、不適切な言い方かも知らないけど少し楽しみだよ」
「はっ、呑気なもんだな」
「退学が他人事の秋斗が呑気にしてるからね」
「まぁそこはな。退学しても稼げるし」
むしろ1日中仕事に費やせるなら稼ぎを増やす自信がある。動画編集以外にも手を伸ばすのもアリだし。
「でも、千秋さんが悲しむよ?」
「母さんか……うん、そこなんだよなぁ。ま、もしもの時は全力で謝るしかない」
「そうはさせないけどね。まぁ万が一がないよう作戦でも用意しておきなよ」
「一緒に考えてれないのかよ」
「良いけど、ただ勝つ為だけが条件なら、秋斗の方が悪どい事を思いつくだろう?」
「……褒めてないよな、それ」
バレたか、と笑う春人は、ふとグラウンドを見てーー更に笑みを深めてから、こちらを見て言う。
「……よし。球技大会、どうせなら優勝しよっか」
「そこまではしなくていいんだけど……まぁ、必要があるならな」
「ふふっ、きっとそうなるよ。決勝戦で猪山くん達と当たる気がするしね」
「ちょおい!やめろやめろ!お前が言うとマジでそうなりそうだ!」
こいつの予言は当たりそうで怖いんだよ!
「はははっ!ついでに言うなら、優勝して秋斗が目立つところまで見えたかな」
「おいこらマジでやめろ!ただでさえ夏希と宇佐のせいで変に目立ってんのに、これ以上悪目立ちしたら面倒な事になるから!」
「バカだな、もう今更だよ」
「まだ間に合う!はずだ!」
「往生際が悪いね」
そう言いながら、多分俺は笑ってたと思う。なんだかんだで春人とこうやって話すのは楽しいし、長い付き合いだけあって気楽だしな。
そんな事を思いつつ、なんとなしに春人が見ていたようにグラウンドを見るとーーどこかで見たような生徒達4人がバレーボールを追いかけているのが見えた。
「さて、バレーの練習内容は僕との一騎打ち真剣勝負だよ」
「ってお前が楽しみたいだけだろそれ!」




