それでも時間は過ぎて行く:1
「お疲れアレクト、交代だぞ」
待ちに待った交代の時間がやってきた。
「お疲れ様です!今日10体は散らしましたよ」
「相変わらずの引き寄せ体質だなお前は」
カンテラを携やって来たのは深夜の部の交代要員。アレクトのバイトはこれで終わりだった。
「お疲れ様、また頼むぞアレクト」
門の守衛、の中のバイト担当者がアレクトに日当を渡す、参加者への金額は一律。危険が伴う仕事なのでそれなりの額が貰える。
「お疲れ様です、次があればまたよろしくお願いしますね」
なおバイト代を受け取るのはアレクトだけである。
「アレクト居ると楽だよ、死霊が皆んなそっちの方行くんだから」
バイトの度、アレクトの持ち場には死霊が集まって来る。
「陽の気で溢れてるのよ私は、拝めばいい事あるかもよ?」
『引き寄せる』体質なのだ。彼女が望む望まざるにしろ。
魔法のカンテラとは別の灯りを持ち、アレクトは帰路につく。
「うむ、それで三日は食べれるな」
「ええ、絵を描く準備は万端よ。明日からの私を見てなさい」
深夜、寝る前ということもあってかアレクトはやる気に満ち溢れている。
「明日まで続けば良いが……」
寝る前のやる気は何故か朝になると消えてしまうのだ。
歯車が回り出した。
「ふぁぁ」
歯車の剥き出しになった顔を上げ、ゲール・マイヤーは目を覚ました。
彼の朝は早い。
少なくとも常にアレクトより早く目覚める。
「よく寝たな」
機械の脳と身体にも睡眠は必要なのだ。
ゲールは仮面と手袋を付け、コートを身に纏う。
腕を上げた時に関節が軋み、彼の動きが少し鈍る。
「……アレクトに、診てもらわないとな」
形式上、グレン・マイヤーの別荘として存在しているアレクトの住まいは二階建ての簡素な家だ。
一階は応接間にゲールの部屋、食卓とキッチンを兼ねた区画、二階にはアレクトの部屋と彼女のアトリエがある。
部屋から出たゲールの朝一番の仕事は家の鍵を開け郵便受けを確認するところから始まる。
「何も無し」
そもそもこの家に手紙を出すのはアレクトの父親であるグレンだけ、週一度手紙を受け取ればしばらく何も来ない。
「さて、コーヒーでも淹れるとするか」
庭のベンチで朝の日差しに当たっていたゲールはゆっくり腰を上げる。朝に弱いアレクトの朝食を作るのは彼の仕事だ。
「……ん?」
ゲールに耳……と言える部位はないが、彼の感覚が音を拾う。
普段は鳴らされることのない、門の呼び鈴が鳴っていた。
「来客か?珍しい」
門で待つ人物を見て、驚くゲールの歯車が少し回転を早めた。




