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その日暮らしと言わないで:1

 ライカンズデルの夕刻、少しずつあたりは暗くなり、町に夜の帳が降り始める。

「そろそろバイトか」

 アレクトの懐中時計を持つゲールが呟いた。

 彼の腕には買い物袋が抱えられている。


 場所は町の商店街、その出入口。

 人通りの多いこの場所で、アレクトは道行く人の似顔絵を描いていた。

「はい、どうぞ」

「うわー!お姉ちゃんありがとうー!」

「どういたしまして、早く家に帰るのよ」

 アレクトが絵を手渡すと、両親らしき二人の元へ少女はかけていく。

 少女が持つ写実的な絵は彼女の顔を正確に写し取っていた。


 満足げなアレクトの元にゲールが近寄る。

「珍しいな、お客がいたのか」

「まあね、これ見なさい!」

 彼女が見せびらかすのは一枚の硬貨。

「うーむ、パン一切れ、いや耳一袋分の値段といったところか。なんにせよおめでとう」

 これはアレクトが、というより町の芸術家たちが日ごろ行っている活動である。

 人が集まるところでオリジナルの工芸品を売ったり、似顔絵を描いたり風景の絵を売ったりする情景はライカンズデルの名物の一つだ。


「ゲール来たってことはバイトね?それ置いたら行きましょうか」

 アレクトは撤収の準備を始めている。他にもいた野良の芸術家たちも変える準備を始めている。

 ライカンズデルで、日没後に外を出歩こうとする物好きはあまりいない。

 夜には死者が動き出す。人を襲い、取り憑き殺す死霊が出る。

 だから人は暗闇を恐れた。


 日が落ちた後、ライカンズデルの門の前に人が集まりだす。

 人数は10人前後、年齢層は主に若者と壮年、中にアレクトとゲールがいる。

 彼らは死者を恐れない物好き、ではなく仕事のためにここに集まった。

「はたらけどーはたらけどー、わが悲願、いまだ成就せず、名声が欲しいー」

「俗な歌だなーアレクト、即興かい?」

 近くを歩く男がアレクトのつぶやきを聞きつけた。

「替え歌よ、けど大筋はゲールに教えてもらったー」

「巻き込まないでくれ、その歌そんなに好きじゃないんだ」


 門に掲げられたガス灯の日の下で、集まった人々は台の上に置かれたカンテラを手に取る。

 持ち上げられた瞬間、めいめいのカンテラから赤、青、緑、と多様な色の光が出る。

「よいしょ、っと」

 アレクトが持つカンテラの色は明るく輝く紫色だ。


「それじゃあみんな持ち場についてくれー」

 全員がカンテラを持ったのを見て、代表者の男が声をかけた。

「弱いのは見逃して、人間サイズのが出れば魔法で対処するんだ。大きいのが出てきたら近くの鈴を鳴らすんだ。わかったな?」

 彼の話が終わると皆門の外に出て行く。誰もがこの空気に慣れた様子ではある。ただ、その表情には若干の緊張が含まれていた。

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