表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

46/48

針を回してみる:1

 アレクトが母に向け伸ばした腕を誰かが掴んだ。

 冷たいが、安心感を感じる感触。

「アレクト!」

「──っ」

 気付けばアレクトは仰向けに倒れ、腕だけを虚空へ伸ばしていた。

「心配したんだぞ」

 アレクトに声をかけていたのはゲールだった。

「私……どうしてた?」

「目を開けたまま動かなかった」

「起きたんだなアレクト」

 ゲールが手に持つ懐中時計がグレンの声を放つ。

「ゲール、そっちはどんな状態だ?」

「変わりませんな、病室のままです」

 一息ついたアレクトも辺りを見渡してみる。

 ただ、ゲールが言ったのとは対照的にアレクトの周りには暗闇が広がっていた。


『ごめんねグレン……一人で……その子を任せて……』

「……母さん」

 ついさっきまで見ていた光景をアレクトは反芻する。

 何度か頭を振り、目を閉じて、そのまま膝を抱えて蹲ってしまった。

「大丈夫かアレクト?」

 ゲールが声をかける。

「……大丈夫なんかじゃないわよ」

 顔も上げず返答する。


「どうした?アレクトが何か──」

 ゲールがアレクトに懐中時計を近づける。

 しかしアレクトはグレンの声を聞くや否や勢いよく身体を上げ、ゲールが手に持つ懐中時計を跳ね飛ばした。


「おいおい!何をするんだ?」

「父さんとなんか話したくない!」

 驚いたゲールに対し、アレクトは叫ぶように言った。

 ゲールはアレクトの表情を見る。

 激しい感情の為か彼女の顔は真っ赤になっていた。

「大丈夫か?」

「………今日はもう……」

 再び疲れたようにへたり込む。

「もうずっと……知らなかった事ばっかりよ……」

 ここに来るまでに見た記憶の事をアレクトは思い返す。

 死霊の動く街、初めて見た母親の姿と声、ゲールの過去、父親の思い。


「……母さんに会いたい」

 複雑な感情が渦巻く中、アレクトが切望したのはそれだけだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ