母さんそこに魔王がいるよ:5
産まれたばかりで泣き叫ぶ自分自身を、アレクトは何とも言えない気持ちで見ている。
(何とも言えない奇妙な気分だわ)
そもそも彼女にとって赤ん坊のころの自分まずピンとこない。誰もがそうかもしれないが。
「ねえ、グレン」
「なんだ」
「その子はどんな風に育つと思う?」
グレンの腕の中のアレクトを見ながらシオンが問いかける。
「貴方に似たら、手先が器用で……機械いじりばっかりしてる子になっちゃうかもね」
「……顔は君寄りに見えるが」
「そう?でも変な体質まで似ちゃったら困るわー」
青白い手がアレクトの顔を愛おしげに撫でた。
(あれ……?今、何だろう)
アレクトは彼女の青白い腕がぼやけるのを見た。
その瞬間、シオンの腕ががくりと下がった。
「──っおい、大丈夫か?」
アレクトを抱えたまま、グレンが彼女に顔を寄せる。
「……ふふ……疲れちゃったのかな……」
シオンは笑顔を作っているが、その顔は青白く、ほとんど精気がない。
「ねえ……ごめんねグレン……一人で……その子を任せて……」
シオンの声が切れ切れになり始める。
それと同時に、彼女の身体から青白い靄が立ち始めた。
(あれは……死霊の光)
グレンが血相を変えシオンの手を取り、彼女に呼びかける。
いつしか靄は人の姿となってシオンの身体に触れていた。
「待って」
情景を見るアレクトは思わず死霊に話しかけていた
「待ってよ……連れて行かないでよ……!」
それが過去の情景ということも忘れ、アレクトは叫んでいた。
死霊の姿は思ったより小さい。
だが、アレクトはその死霊に見覚えがあった。
この世界に迷い込んでから襲い掛かってきた小さな死霊。
その子が、今まさに自分の母を死者の世界に連れ去ろうとしている。