母さんそこに魔王がいるよ:3
再びアレクトが気付いた時、再び彼女は生家の屋敷へと戻っていた。
(ここは確か──)
周りを見るとアレクトにとっては馴染みの場所だった。
(大時計やら、組み立て前の内部機関やらで一杯)
彼女がよく遊び場にしていた物置となっているだった。
(どうしてまたこんな場所へ飛んできたのかしら)
そんなアレクトの背後で、鉄のぶつかる大きな音がした。
「ヒッ──!なに?」
アレクトの真後ろには、彼女のよく知る自動人形がいた。
「ゲール!」
ほっとした彼女はゲールを助け起こそうとするが、幾ら力を込めても動かない彼を相手取り、未だ彼の記憶を見ている事に気付いた。
(それじゃあ今は、ゲールが自動人形として目覚めた瞬間?)
アレクトの前のゲールはずっと項垂れている。時折何かを呟いているが、何を言っているのかは不明だ。
その状態のまま、暫く時間が過ぎた。
(……いつまでこうしてるんだろ)
アレクトが待っても何かが起こる様子はない。
この場にいても仕方ないと考え、アレクトは部屋の外に続くドアの方へと向かう。
(……出られるよね?)
アレクトはドアノブに手を掛けるが、ドアはびくともしない。
彼女は一瞬落胆するが、すぐ後扉が一人でに開いた。
開けたのはマイヤー家の執事だった。
執事は物置の中へと入り、中の様子を伺い始める。
一瞬迷った後、アレクトは物置から出る事にした。
屋敷の中は少し騒がしい。
物置の外には、様子を伺いに来た使用人達が立っており。すぐ近くの部屋にはタオルと桶を持った女中達が動き回っていた。
(そうか、この日は確か)
アレクトが思い至ったのはゲールと自身の誕生日。
(もしかして、私が産まれるのを待ってるのかな?)
女中でごった返す、その部屋のドアは開け放たれていた。
(……この先へ行けば)
母に会えるかも知れない。そう強い期待を抱き、アレクトは進んだ。
まさに扉に入ろうとした時。
「ぶわっ!」
アレクトは背後から強い衝撃を受けて、床に頭をぶつけた。
背後からやって来たのは先程物置を見ていた執事だった。
「後にしてくれないか?今妻が──」
「しかし旦那様、物置であの人形が動いてるのですよ!」
「そんな訳ないだろう……」
部屋から出て来たのはグレンだった。
落ち着きなさげに頭を掻き、執事を連れ立って物置へと行く。
「……若い」
少なくとも現在ほど皺は濃くない。
アレクトが打ちつけた額を摩っていると、辺りが俄かに騒がしくなった。
(赤ん坊の声がする)
それが部屋の中から聞こえてくると、彼女は気付いた。