母さんそこに魔王がいるよ:2
ゲールが死んだ瞬間、辺りは暗闇に包まれる。
ただ、アレクトの前に新たな光が灯った。
青白く光る死霊となったゲールの姿だ。
(もしかして私、人の死後を見てるの?)
何処までも続く記憶の情景にアレクトは恐れを感じていた。
そのうちゲールの死霊はふらふらと移動を始めた。
「あ……待って……」
彼を見失わないようアレクトは追いかける。
死霊と共に進んでいると、アレクトの耳が大きな雑音を捉え始める。
(大きな水音……河のせせらぎ?)
アレクト達が進む先には大河が流れているようだった。
(そういえば、ここに来た時ゲールが河に落ちたって言ってたっけ)
そのまま歩いていると、アレクトの眼前に青白く光る河が見え始めた。暗闇の中、水がぼんやりと光る。
妖しげだが、美しさも感じる色の河だ
(ここはきっと、死後の世界)
アレクトは今まで歩いた風景を思い出す。
誰もが寝静まった死後のライカンズデルの街。ずっと夜のまま、記憶だけが溢れる生家の屋敷。
奇しくもそれは、アレクトがぼんやり思い描いていた死後の世界そのものだった。
(でもこれはなんか怖いなー)
少なくともこの河はアレクトのイメージではない。
河の辺りと思われる場所でアレクトがしゃがみ込むと、ゲールも死霊は流れるように河へと入っていった。
「……行っちゃうの?」
河に指をつけると刺すような痛みと冷たさが襲った。
流石のアレクトもこの先までついて行く気はない。
ただ幾ら過去の情景だとしても、アレクトはゲールが死んで行く様子に寂しさを感じていた。
(でも、ここで死んだのなら)
河へと入ったゲールはゆっくりと流れて行く。
(私の知ってるゲールって、何なんだろ)
少しずつ離れて行くゲールを見ていると、河の様子に変化があった。
流れの先の方から死霊にもよく似た灯りがやって来たのだ。
(何だろうあれ)
真っ暗な景色の中、不釣り合いに明るい薄紫の灯りだ。
(知ってる……気がする……)
薄紫の灯りが、まるで惹かれるようにゲールの死霊へと寄って行く。
そして2つの光が接触し──
(あ、また場面変わるな)
流石に慣れたアレクトは眼を開け次の場所を待った。




